猛暑日が「何度からか」という疑問に対して、気象庁は最高気温が35度以上の日を猛暑日として明確に定義しています。
この区分は25度以上の「夏日」、30度以上の「真夏日」と段階的に分かれており、農作業の負担や作物のストレスが急に跳ね上がる境目として、現場でも指標として活用しやすいのが特徴です。
とくに最高気温が35度を超える猛暑日は、単に「暑い日」というレベルではなく、熱中症リスクや作物の高温障害が現実的な危険域に入る温度帯として扱われています。
農業にとって重要なのは「日中の最高気温だけでなく、夜間の温度」も合わせて見ることです。
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最低気温が25度以上となる熱帯夜が続くと、作物が夜間に呼吸を抑えて休むことができず、昼に受けたダメージを回復できないまま蓄積していきます。
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このため、同じ35度の猛暑日でも、夜間が涼しい地域と熱帯夜が続く地域では、作物への負担や必要な対策レベルが大きく変わってくる点に注意が必要です。
また、猛暑日の「回数」も無視できない指標です。
参考)第6回 2023年夏の猛暑を乗り越えた野菜たち - 自然農法…
日本ではここ数十年で猛暑日の年間発生日数が大都市部を中心に約3倍になったとされ、例えば東京都心では2023年に猛暑日が16日を記録するなど、以前よりも「例年通り」の感覚が通用しにくくなっています。
農業では、1~2日の猛暑なら耐えきれても、これが10日、20日と続くことで、光合成の低下や花粉不良、品質劣化が一気に表面化してしまうことが多いのが現場の実感です。
参考)2024年 猛暑の夏 ~野菜の適応力について考える~ – 【…
気温についての正式な用語と基準は、気象庁の解説ページで一覧表として確認できます。
参考)気温について
ここでは夏日・真夏日・猛暑日のほか、冬日・真冬日・熱帯夜といった用語も整理されており、年間を通じて作付け計画や作業カレンダーを組む際の参考指標として役立ちます。
気象庁 気温についての解説(定義や用語の整理に便利)
猛暑日の35度以上が続くと、多くの作物で光合成がうまく働かなくなり、栄養の送り出しが滞ることで生育が急に鈍ったり、葉が焼けるような症状が出ます。
植物は高温下で蒸散が増え、水を吸い上げて葉を冷やそうとしますが、土壌水分が不足していると追いつかず、萎れや葉焼けが一気に進行します。
理屈の上では50度前後で急激なダメージが出るとされるものの、実際の圃場では35度を超える「夏日」が長く続くこと自体が収量と品質にじわじわと悪影響を与える要因になっています。
米づくりでは、稲の開花後20日間の平均気温が26~27度を超えると、白く未熟な米粒が増えて品質が低下しやすくなることが指摘されています。
参考)気温上昇が農業に大打撃:米も果物も品質下がり収量減
さらに、開花期に35度以上の猛暑が続くと受粉がうまくいかず、稲穂に実が入らない「高温不稔」が発生し、九州などでは実際に広範囲で問題となっています。
参考)猛暑日の増加による農業生産の影響は…クリスマスケーキに欠かせ…
この現象は見た目には分かりにくく、収穫期になって玄米を確認して初めて被害の大きさを実感することも多いため、出穂期の気温と水管理の記録が重要なヒントになります。
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野菜では、トマトやピーマン、キュウリなどの果菜類で、着果不良や奇形果の増加、日焼け果が増える傾向があります。
参考)高温障害 対策完全ガイド|農作物を猛暑から守る効果的な方法
特にハウス栽培では、外気が35度を超える猛暑日に換気が追いつかないと、ハウス内は40度に迫ることもあり、花が落ちる、果実が焼ける、根が弱って根腐れに似た症状が出るなど、多様な障害が重なります。
参考)夏の農業に欠かせない暑さ対策資材を紹介!
葉物野菜では、生理障害として葉先の枯れ、芯止まり、生育スピードの極端な低下が見られ、播種時期や品種選定を見直さないと、夏場の作型維持自体が難しくなっていくこともあります。
参考)野菜における夏季の高温対策:農林水産省
果樹では、果実の日焼けや着色不良、軟化が代表的な問題です。
リンゴやブドウなどでは、直射日光を受け続けた部分の果皮が茶色く変色し、商品価値が下がる「日焼け果」が増えるほか、高温による呼吸量増大で糖度が乗りきらないケースも報告されています。
また、猛暑日に加えて干ばつが重なると、枝枯れや翌年以降の花芽形成不良など、1年では終わらないダメージとして尾を引くことがあるため、収量だけでなく樹体の健康をどう守るかが重要になります。
参考)夏場の高温化を乗り越えるために!農家のための不作対策ガイド …
猛暑と農業被害の関係については、農林水産省や各種メディアが気候変動への適応という観点からも整理しています。
これらの資料では、気温上昇だけでなく、大雨・干ばつ・台風の強大化など複合的な要因が農業に影響していることが解説されており、猛暑日対策を単独ではなく「気候変動への総合対策」として考える視点が得られます。
農林水産省 野菜における夏季の高温対策(野菜の高温障害と対策が整理されている)
猛暑日を前提とした農業では、「設備による物理的な温度低下」と「栽培管理による作物の負担軽減」を組み合わせることが重要です。
ハウスでは遮光ネット(遮光率30~50%)の設置や、細霧冷房・ミスト散布、換気扇や循環扇による通風強化、遮熱塗料や反射マルチの利用などで、体感温度を数度下げる工夫が実際に行われています。
露地栽培でも、反射シートや寒冷紗を使った日射のコントロール、かん水による地温低下、水田ではかけ流し灌漑と遮光ネットの併用などが、高温障害の軽減に一定の効果を上げています。
栽培管理の面では、高温耐性品種の導入や播種・定植時期の調整が、猛暑日が増えた環境に適応するための中長期的な柱になります。
参考)高温障害から野菜を守る!効果的な対策法とは? - 農業屋
同じ作物でも、高温下で着果しやすい系統や、葉焼けに強い系統が育成されており、地域の普及センターや種苗会社の情報を取り入れながら、作型を組み直していく動きが広がっています。
あわせて、適正な水管理・土壌管理、摘果や摘葉による負荷軽減、有機物投入や土壌改良など、作物のストレス耐性を底上げする取り組みも、猛暑日が多い年ほど効果を実感しやすいとされています。
生物学的な対策としては、植物活力剤やアミノ酸・糖類の葉面散布、ケイ酸やカルシウムなどの補給、微生物資材による土壌改善なども、近年注目されています。
これらは即効性と根本的な体質改善の両立をねらうアプローチで、特に猛暑前の予防期(6~7月)から定期的に施用することで、真夏の高温期(7~9月)に急激な生育低下を防ぎやすくなります。
緊急時には、散水やミストによる即座の冷却、遮光の強化、活力剤の濃度を一時的に上げた集中散布、水分ストレスを避けるための十分な灌水など、症状の悪化を防ぐ「応急処置」も重要です。
作物別の具体的な例として、水稲では高温期に深水管理(10~15cm)を行い、かけ流し灌漑や夜間通水で水温と地温を下げる工夫が効果的とされています。
トマトでは、遮光率を一時的に50%程度に高め、細霧冷房を連続運転しながら摘果で負荷を減らし、カルシウム資材を追加して尻腐れや裂果のリスクを抑える方法が紹介されています。
果樹では、果実への直接散水や反射マルチの追加設置、摘果による樹勢回復、土壌への十分な灌水などで、高温期の品質低下と翌年の花芽不良を同時に防ぐことを目指します。
高温障害対策資材については、メーカー各社が遮光ネットやミスト装置、反射マルチなどの具体的な使い方や事例を公開しています。
導入コストは決して軽くはありませんが、猛暑日が常態化する中で、収量や品質、作業者の安全を守るための「保険」として検討する価値は高まっています。
参考)農業の危機となるか否か、夏日が続くことによる農業への影響 -…
高温障害 対策完全ガイド(遮光・ミスト・活力剤など多様な対策事例)
猛暑日の農業では、作物だけでなく「人の体」も限界に近づきます。
最高気温が35度を超える日には、屋外作業者の熱中症リスクが格段に高まり、鹿児島などの生産現場からは「もう耐えられない」という声がメディアを通じて伝えられています。
とくにビニールハウス内は外気温よりもさらに高温になりやすく、日中のピークタイムに長時間作業を続けることは、現実的に危険なレベルといえます。
対策としては、作業時間を早朝と夕方・夜間に集中させ、日中の高温時間帯にはできるだけ重労働を避けるスケジュールへの切り替えが基本です。
水分と塩分のこまめな補給、空調服や冷却タオルなどの着用、休憩場所に扇風機やスポットクーラーを設置するなど、作物の対策と同じかそれ以上に、人への投資が重要になります。
参考)「もう耐えられない」きょう1日も暑い!35度以上の猛暑日で農…
農作業の外注や、共同利用機械の活用によって「暑さのピーク時に人手を増やさない」という発想も、今後の猛暑下の農業経営では現実的な選択肢になりつつあります。
意外と見落とされがちなのが、「記録を残すこと」です。
いつ・どのくらいの気温だった日に、どの作業をどれだけ行ったか、またそのとき体調や作業効率がどうだったかをメモしておくと、翌年以降の作業シフトや人員配置を検討する際の具体的な判断材料になります。
同様に、熱中症の前兆(めまい・頭痛・手足のしびれなど)を感じたときの状況も記録しておくと、無理をしやすい性格の人ほど、自分の「危険パターン」を客観的に把握しやすくなります。
また、猛暑日における「地域ぐるみの体制づくり」も、これからの農村にとって重要なテーマです。
参考)猛暑が変える日本の農業 気候危機と向き合う食の現場|フードラ…
隣の農家と情報を共有し、危険な暑さの日は互いに声を掛け合ったり、共同で休憩所を設ける、小規模な共同購入で対策資材コストを下げるなど、単独では難しい対策も工夫次第で現実味を帯びてきます。
気候変動で猛暑日が増えていく中、「体を壊してまで農業を続けるのか」という問いに向き合いながら、作付けや経営の規模・形を見直すことも、広い意味での安全管理と言えるでしょう。
日本の年間平均気温はこの100年で約1.2度以上上昇しており、真夏日や猛暑日の回数も確実に増えています。
2024年の年間平均気温は1991~2020年の30年平均より約1.48度高く、観測開始以来の最高記録を更新したと報じられており、今後「猛暑日はたまに訪れる異常な日」ではなく、「毎年必ず来る前提」で農業を考える必要が出てきました。
こうした気候の変化は、日本国内だけでなく世界的な農業にも影響しており、干ばつや豪雨と合わせて収量の不安定化を招いています。
中長期的な適応策としては、まず「作物と作型の見直し」が挙げられます。
従来の品種や作付け時期のままでは安定して収量が取れなくなっている地域では、高温に強い品種への切り替えや、夏場を避けた作型(早播き・遅播き、加工用への転換など)を検討する動きが進んでいます。
また、水資源の確保や灌漑設備の整備、排水対策の強化など、インフラレベルの投資も、猛暑日と豪雨が同時に増える中で避けて通れない課題になっています。
技術的には、センシングとデータ活用も重要度を増しています。
気温や地温、土壌水分、日射量などを簡易センサーで可視化し、猛暑日が予測されるタイミングで自動的にかん水や細霧を行うシステムは、労力削減と被害の軽減に直結します。
小規模農家にとっても、まずは安価な温湿度ロガーや土壌水分計から導入し、経験とデータを組み合わせた「勘ピュータ」を磨いていくことが、猛暑時代の強みになる可能性があります。
経営の観点では、猛暑リスクを前提とした収支計画や、保険の活用も視野に入ってきます。
猛暑による不作リスクをある程度織り込んだ作付け計画や、複数品目の組み合わせによるリスク分散、異常高温による収量減をカバーする保険制度の活用など、数字の面からも「猛暑日対策」を考える必要があります。
そのうえで、地域・行政・研究機関との連携を通じて、試験的な作物導入や新技術の実証に参加することが、個々の農家にとっても中長期的な生き残り戦略につながっていくでしょう。
気候変動と農業の関係については、各種メディアが現場の声とともに詳しく取り上げています。
こうした記事では、猛暑日が増えることでクリスマスケーキ用のイチゴなど特定の作物にどんな影響が出ているかや、農家がどのように工夫して乗り越えているかが紹介されており、自分の現場に引き寄せて考えるヒントが得られます。
農家は気候変動に“適応”すべき?(気温上昇と農業の適応策を整理した記事)