地球温暖化の影響で、お米の品質低下が全国的な問題となっています。特に登熟期の高温は、玄米が白く濁る「白未熟粒」などを引き起こし、お米の等級を下げてしまいます 。この課題に対応するため、農研機構や各都道府県の農業試験場では、高温に強いお米の品種開発が積極的に進められています 。これらの「高温耐性品種」は、暑い夏でも品質や収量を維持しやすいのが大きな特徴です 。
以下に、現在注目されている主な高温耐性品種とその特徴をまとめました。品種ごとに耐性の強さや栽培のしやすさ、食味などが異なるため、ご自身の地域や経営方針に合った品種を選ぶ際の参考にしてください。
| 品種名 | 主な栽培地域 | 特徴 | 食味 |
|---|---|---|---|
| にじのきらめき | 関東・東海以西 | 倒伏に強く、コシヒカリ比で15%以上の多収性を持つ 。縞葉枯病への抵抗性もあるため栽培しやすい 。 | 粒が大きく、粘りが強く甘みがある。コシヒカリと同等の極良食味と評価されている 。 |
| つきあかり | 東北・北陸 | コシヒカリより早く収穫できる早生種。倒伏に強く、収量性も高い。カレーや丼ものなど、様々な料理に合う。 | あっさりとした味わいながら、うま味も感じられる。炊き上がりのつやが美しい。 |
| なつほのか | 九州地方 | 高温登熟性が「極強」と評価されており、猛暑でも品質が安定している。ヒノヒカリに代わる品種として期待されている 。 | 粘りと硬さのバランスが良く、しっかりとした粒感を楽しめる。 |
| きぬむすめ | 西日本 | 草丈が短く倒れにくいため栽培しやすい。品質・収量ともに安定している。作付面積も広い人気品種 。 | つややかで白く美しい炊き上がり。粘りが強く、食味も良好。 |
| 新之助 | 新潟県 | 新潟県が開発したブランド米。成熟期がコシヒカリより遅く、高温でも高品質を維持できる 。 | 大粒でコクと甘みが豊か。冷めても硬くなりにくく、お弁当やおにぎりにも向いている。 |
この他にも、「つや姫」「雪若丸」「元気つくし」「にこまる」など、多くの優れた高温耐性品種が開発されています 。
参考)稲の高温耐性品種の導入を検討してみませんか/つくば市公式ウェ…
参考情報として、農林水産省が公開している高温耐性品種に関する資料が役立ちます。品種の育種目標や普及状況について詳しく解説されています。
高温耐性品種の導入は、温暖化時代を乗り切るための有効な手段ですが、メリットだけでなくデメリットも理解した上で検討することが重要です。
✅ メリット
❌ デメリット
高温耐性品種の能力を最大限に引き出すためには、品種の特性に合わせた栽培管理が不可欠です。ただ植えるだけでは、期待した効果が得られないこともあります。
💧 水管理の徹底
登熟期の高温対策として、水管理は非常に重要です。稲は根から水分を吸収し、葉から蒸散することで体温を調節しています。田んぼの水が不足するとこの機能が弱まり、高温障害を受けやすくなります。
🌱 土づくりと肥料設計
健康な稲を育て、根をしっかりと張らせることも高温耐性を高める上で重要です。
地域の気候や土壌の条件は様々です。栽培を始める前には、最寄りの農林事務所や普及センター、JAに相談し、地域に合った栽培暦や技術指導を受けることを強くお勧めします 。
参考)暑さに負けない米づくり対策 – 茨城県農業再生協…
「高温に強いお米は、味が落ちるのではないか?」という懸念を持つ方もいるかもしれません。確かに、高温障害はデンプンの蓄積を妨げ、お米の食味を低下させる一因となります 。しかし、近年の品種開発では、高温耐性だけでなく「食味」も極めて重視されています。
驚くべきことに、多くの高温耐性品種が、食味の最高ランクである「特A」評価を獲得しています 。例えば、「にじのきらめき」は、その開発段階から「コシヒカリ」と同等レベルの極良食味であることが確認されています 。また、山形県の「つや姫」や佐賀県の「さがびより」なども、高温耐性と優れた食味を両立させたブランド米として高い評価を得ています 。
参考)高温耐性品種が存在感を示した今年の米の食味ランキング
食味は単一の指標ではなく、「粘り」「硬さ」「甘み」「香り」など様々な要素で構成されます。高温耐性品種の中には、「つきあかり」のように、粘りが控えめでカレーや炒飯、丼ものなどに合う特性を持つ品種もあります。これは、従来のコシヒカリ一辺倒だった市場に、新たな選択肢を提供するものと言えるでしょう。消費者のライフスタイルや食の好みが多様化する中で、料理に合わせてお米を選ぶ楽しみを提案できるのも、新しい品種の魅力の一つです。
意外と知られていませんが、お米の最終的な食味は、品種のポテンシャルだけでなく、収穫後の乾燥や調製の仕方によっても大きく左右されます。どんなに優れた品種でも、急激な乾燥は胴割れ米の原因となり、食感を損ないます。高温耐性品種の美味しさを最大限に引き出すためには、品種のポテンシャルを信じ、収穫から消費者の口に届くまでの全ての工程で丁寧な作業を心がけることが、何よりも重要なのかもしれません。
高温耐性品種は、その特性から特定の地域で普及が進む傾向にあります。ここでは、地域ごとにおすすめの品種と、今後の開発動向についてご紹介します。
地域別の主な普及品種
今後の開発動向:ゲノム編集技術への期待
将来的には、さらに革新的な技術が米の品種改良を加速させると期待されています。その一つが「ゲノム編集技術」です。この技術を使えば、従来の方法よりも遥かに速く、狙った特性だけを改良することが可能になります。例えば、病気に強く、高温にも耐え、かつ収量も多いといった、複数の優れた特性を併せ持つ「スーパーライス」の開発も夢ではありません。
気候変動は今後さらに深刻化すると予測されています。私たち農業従事者は、こうした最新の科学技術の動向にも目を向け、変化に対応していく柔軟な姿勢が求められています。常に情報をアップデートし、持続可能な米作りを目指していくことが、未来の食料安全保障に繋がるのです。