「肥料をしっかり与えるほど、トマトは実がつかなくなります。」
トマトの着果には、花粉が正常に機能するための温度帯が必要です。具体的には、日中15〜30℃・夜間10〜15℃が生育適温とされており、この範囲から外れると花粉の稔性(受精能力)が急激に低下します。
低温側(約15℃以下)では花粉が十分に成熟せず、訪花昆虫の活動も鈍るため受粉そのものが成立しにくくなります。高温側(約30℃以上)では花粉が放出されにくくなるだけでなく、放出されても活性が低く着果に至りません。さらに研究では、開花の10日前ごろに日平均気温が約25℃以上の高温に遭遇すると着果率が減少することが確認されています(農研機構・野菜花き研究部門の報告より)。これは着果不良の問題が「開花した当日」だけではなく、もっと早い段階の温度管理にも起因することを意味します。意外ですね。
施設栽培では気温36℃以上になると花粉機能が急速に低下し、40℃以上では植物の生育そのものが停止するとされています。夏場のビニールハウス内は外気温より10〜20℃ほど高くなることもあり、特に梅雨明け後の昇温には注意が必要です。
対策として最も基本的なのはハウスの換気です。天窓・妻面の開口や換気扇の導入によって常時換気を行い、ハウス内気温を適温範囲内に保つことが重要です。それだけでは温度管理が難しい場合、遮光ネット(開閉式で遮光率50%程度)の活用や、細霧冷房(ドライミスト)の導入も有効な手段になります。農研機構の実証データでは、細霧冷房によりハウス内気温を2℃以上低く抑えることができ、可販果収量の増加が確認されています。温度管理が条件です。
また、低温期・高温期ともに自然着果が難しい場合は、植物成長調整剤「トマトトーン」によるホルモン処理も対策の一つになります。ただし高温時のホルモン処理は、気温25℃以下の朝の涼しい時間帯に行うことが推奨されており、高温下でのホルモン処理はかえって空洞果などの障害を引き起こすリスクがあります。
施設内の温度モニタリングには、IoTセンサーや温度・湿度ロガーの導入が役立ちます。JAや農政局では光度計の貸し出しサービスを行っているケースもあるため、一度問い合わせてみることをおすすめします。
農畜産業振興機構「施設栽培トマトの高温障害軽減に向けた対策技術とその効果」|高温時の着果不良・果実障害のメカニズムと対策技術を農研機構の研究員が詳細に解説しています。
肥料をたっぷり与えるほど、トマトはよく育つと思っている農家の方は少なくありません。しかし実際には、窒素肥料が過剰になると「栄養生長」に偏ってしまい、葉や茎ばかりが育って花が着果しにくくなります。これが着果不良の隠れた原因になっているケースは非常に多いです。
植物の生育ステージは「栄養生長(根・茎・葉の成長)」と「生殖生長(花・実の形成)」の二つがあります。窒素が過剰になると、植物は実をつけることよりも体を大きくすることを優先します。つまり栄養生長と生殖生長のバランスが崩れた状態です。
目に見えるサインとしては、茎が異常に太くなる(直径が鉛筆ほど以上になると要注意)、葉が内側に巻く、花落ちが多い、節間が長くなるといった症状が現れます。
窒素過多による着果不良を防ぐポイントは次の通りです。
窒素肥料は「多いほど良い」ではありません。施肥は適量が原則です。追肥のタイミングを第1果房の着果確認後に行うなど、生殖生長が始まってから施肥量を増やす管理が推奨されます。
土壌分析によって事前に土壌中の窒素量を把握しておくことも有効な手段です。各都道府県の農業試験場や農業改良普及センターでは土壌分析サービスを提供しているケースも多いため、一度確認してみると精度の高い施肥設計に役立ちます。
トマトトーン(石原バイオサイエンス製)は、合成オーキシン(植物ホルモン)を外部から供給することで、自然受粉が困難な条件下でも着果・肥大を促進する植物成長調整剤です。低温期や日照不足、ハウス内で風が当たらない環境など、着果不良になりやすい条件でも効果を発揮します。これは使えそうです。
使用方法の基本は次の通りです。
| 条件 | 希釈倍数 | 使用タイミング | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 高温時(20℃以上) | 100倍 | 開花前3日〜開花後3日(1花房で3〜5花咲いた時期) | 1花房につき1回 |
| 低温時(20℃以下) | 50倍 | 同上 | 同上 |
散布時には「生長点に液がかからないこと」が最重要の注意点です。生長点に薬液がかかると、葉が巻く・わき芽が異常に増える・生育が停止する・奇形果が発生するといった深刻な障害が起こります。花や花房だけに慎重に散布することが求められます。
また、二度がけや高濃度処理を行うと空洞果が多発するリスクがあります。空洞果とは、果実内のゼリー状の部分が充実せず、ピーマンのように中が空洞になった果実のことです。見た目は問題なくても切ると空っぽ、という状態では出荷品質に直結します。痛いですね。
空洞果リスクを減らすには、トマトトーンとジベレリン(10ppm)を組み合わせる方法が有効とされています。また、マルハナバチを活用した受粉では種子が正常に形成されるため、ゼリー部が充実しやすく空洞果の発生が減るという報告もあります。
トマトトーンの効果は散布後2〜3日で果梗が太くなり、幼果のつやが増してくることで確認できます。効果が出ない場合は、処理時期のずれ・高温ストレス・極端な窒素過多のいずれかが原因である可能性が高いです。
石原バイオサイエンス「収穫量増加が期待できる『トマトトーン』のご紹介」|トマトトーンの作用メカニズム・希釈倍数・散布方法・空洞果対策まで詳しく解説されています。
ハウス栽培のトマトは、露地と違って風や虫が少ないため、自然に花粉がこぼれにくい環境です。花が咲いても受粉に必要な振動刺激が不足し、着果不良につながるケースは少なくありません。この状況への対応として、振動受粉とマルハナバチの活用が実用的な手段として広まっています。
振動受粉とは、電動バイブレーターや電動ハンディブロア(送風機)を花房に当てて振動させ、花粉を強制的にこぼさせる方法です。福島県農業総合センターの試験では、送風受粉により着果率が約40%から約70%に向上(約1.75倍)し、1段あたりの着果数が約2個から約3.5個に増加したという結果が得られています。バイブレーター処理と比較しても同等以上の効果が確認されており、コストパフォーマンスも高い方法です。
農研機構では、害虫防除と受粉促進を同時に実現する「植物体振動装置」の研究も進められています。周波数30Hzの振動を1日2回・60秒ずつトマト植物体に与えることで、コナジラミ類の発生抑制と受粉促進が同時に達成できることが確認されています。農薬に頼らないスマート農業との親和性も高く、今後の普及が期待される技術です。
マルハナバチはトマトの振動受粉に最も適した昆虫で、胸の筋肉を振動させて花粉を落とす「バズポリネーション」という特有の受粉行動を持ちます。マルハナバチによる受粉を取り入れたハウスでは、着果が安定するだけでなく空洞果の発生が減少し、果実重量の増加にもつながるという報告があります。
振動受粉を手作業で行う場合は、気温が20〜30℃の受粉適温帯(午前10時〜午後2時頃)に花房を軽く揺らすか、電動ハンディブロアで花房に向けて送風します。受粉適温以外の時間帯に作業しても効果が薄いため、時間帯の選択が重要です。受粉の適時管理が条件です。
農林水産省農業・食品産業技術総合研究機構「コナジラミ類の発生抑制・トマトの授粉促進による安定生産へ」|振動による害虫防除と受粉促進技術の研究成果を解説したPDFです。
着果不良の根本的な原因として、「草勢(樹勢)のバランス」が崩れていることを見落とす農家は多いです。結論は「草勢が強すぎても弱すぎても着果は落ちる」です。
草勢が過剰(強草勢)な状態では、植物が葉や茎の成長に全エネルギーを注いでしまい、花や実への養分転流が後回しになります。逆に草勢が弱すぎる場合は、花自体が貧弱になり落花しやすくなります。どちらも着果不良の直接原因となるため、適正な草勢の維持が、全ての対策の前提となります。
草勢の判断基準として現場で使いやすいのが「茎の太さ」と「節間の長さ」です。一般に大玉トマトでは茎の直径が1〜1.3cm程度、節間(葉の付け根間の距離)が15〜20cmほどが適正とされています。節間が30cmを超えてきたら強草勢のサインで、過繁茂・着果不良・空洞果のリスクが高まります。節間が7〜8cm以下なら弱草勢で、日照不足・根域障害・肥料不足を疑います。
ここで独自視点からの着目点を一つ紹介します。「摘果の遅れ」が草勢の乱れを加速させているケースが増えています。摘果が遅れると1果房あたりの着果数が多い状態が続き、植物はその果実群に養分を集中させるため著しく草勢が落ちます。次の花房への養分転流が減って着果不良が連鎖します。適期の摘果を徹底して1果房あたりの着果数を品種に応じた適正数(大玉:4〜5個程度)に揃えることが、次の花房の着果安定に直結します。これは使えそうです。
草勢管理に役立つ追加のポイントを整理するとこうなります。
着果不良の対策は一つの要因だけを見ていても解決しない場合がほとんどです。温度管理・施肥管理・受粉管理・草勢管理という四つの視点を組み合わせて、圃場全体の状態を把握することが安定生産への近道になります。
JA全農長野「トマトの実つきが悪いときには」|日照不足・低温・肥料過多など、着果不良の主な原因と現場向けの対処法がわかりやすくまとめられています。