トマトトーンを丁寧にかけるほど、空洞果が増えてしまうことがあります。
トマトの果実を赤道部に沿って横に切ったとき、子室と呼ばれる区画の中にゼラチン状の組織が詰まっていれば正常です。しかし空洞果では、収穫期になってもこのゼリー部が十分に発達せず、果肉との間に隙間が残ったままになります。まるでピーマンの断面のように、外皮だけが膨らんで中が空っぽになっているイメージです。
では、なぜゼリー部が充実しないのでしょうか? 根本的な原因は、果実が肥大するスピードに対して、株が供給できる同化養分(光合成によってつくられる糖などの有機物)が追いつかないことにあります。光合成産物は葉でつくられ、果実へ転流されて初めてゼリー部や種子を育てます。この転流量が不足すると、外皮だけが先に大きくなり、内部が空洞のまま収穫期を迎えてしまうのです。
また、ホルモン処理(トマトトーン)で着果させた果実は、稔性のある種子が形成されません。ゼリー部はもともと種子を保護・充実させるための組織なので、種子が不完全なままだとゼリー部の発達も弱まります。つまり空洞果が起きやすいのです。
高知県農業ネットの病害虫・生理障害台帳にも、「果実の肥大に見合う同化養分の移行が不十分な場合に発生する」と明記されています。
高知県農業ネット|トマト空洞果の症状・発生条件・対策(行政機関による解説)
空洞果の発生条件は、大きく分けると「光合成量の低下」と「果実肥大の過剰な促進」の2方向から整理できます。
光合成量が低下するケースとしては、以下のような状況が代表的です。
- 長雨・曇天が続いて日射量が減少した場合
- ビニールハウスのフィルムが汚れて透光性が落ちた場合
- 葉が密生しすぎる「過繁茂」の状態になった場合
- 若苗を定植して初期生育が旺盛になりすぎた場合
果実肥大が過剰に促進されるケースは、管理面の問題が多いです。
- ホルモン剤(トマトトーン)を二度がけした場合
- 気温30℃以上の高温時に散布して薬剤効果が過剰になった場合
- 規定濃度を超えた高濃度でホルモン処理した場合
- 未熟な花蕾(つぼみの段階)に処理した場合
見落としがちな落とし穴は、4段目以降の高段位です。低段の果実の着果・肥大負担によって株全体の草勢が落ちた状態のまま上段の果実が肥大するため、特に4〜5段目では空洞果の発生率が高くなりやすい傾向があります。北海道立農業試験場の研究によれば、管理を適切に行っても空洞果は多い年で収穫果の約30%にのぼることがあり、出荷できずに廃棄されるケースもあったと報告されています。これは痛いですね。
心室数(子室の数)が多い品種では空洞果が発生しにくい特性があります。品種選択の段階でこの点を考慮することも、長期的なロス削減につながる選択肢の一つです。
北海道立農業試験場|ハウストマトの空洞果発生防止対策(試験データ・発生率30%の根拠)
空洞果の対策でもっとも根本的かつ効果的なのが、草勢(株の勢い)を安定させることです。草勢が安定していれば、光合成産物が果実へ均等に回りやすくなり、空洞果の発生リスクが自然と下がります。草勢管理が原則です。
具体的な実践手順は次のとおりです。
まず摘果による着果数の調整から始めます。低段(1〜2段目)の果実は3〜4果程度に制限し、上段へ向かって養分が安定して流れる流れをつくることが重要です。低段に果実を多くつけすぎると、5〜6段目の肥大期に養分が不足して空洞果につながりやすくなります。一つの段に着果しすぎないよう、鬼花(発育不良の小さな花)や変形花は早めに除去するのが基本です。
次に摘葉管理と過繁茂の防止です。葉が繁りすぎると養分が茎葉に取られやすく、日光も果実に当たりにくくなります。農林水産省の栽培指針にも「草勢が強く空洞果の多い圃場では、果房近くの葉もある程度取り除く」と記されています。幼果に直接日光が当たると果実温度が上がり、同化産物の転流が促進されます。これは使えそうです。
また、曇天・雨天が続く時期は特に意識的に摘葉を行い、果実への日当たりを確保することが有効です。過繁茂の防止は定植直後からの管理が重要で、問題が顕在化してからでは間に合いません。
農林水産省(宮城県版)|トマト栽培指針(摘葉・草勢管理の具体的手順)
低温期や高温期など、自然着果が難しい条件ではホルモン処理に頼らざるを得ない場面が多くあります。しかし前述の通り、トマトトーン単用では空洞果が発生しやすくなります。そこで有効な選択肢が、ジベレリンの混用(または複用)です。
ジベレリンはもともとブドウの無種子化や果粒肥大などに使われる植物成長調節剤ですが、トマトでは空洞果防止に効果があります。北海道道南農業試験場の試験では、ジベレリンをトマトトーン単用と比べて混用した場合、空洞果の発生が約1/3に減少したと報告されています。これは大きな差です。
処理の方法と濃度について整理します。
- 開花時(1花房につき2〜3花が開花した段階)に処理するのが適期です
- 3段目以降の花房にトマトトーンと10ppmジベレリンを混用して散布します
- ジベレリン10ppmとは、住友ジベレリン液剤(2%製剤)を水1Lに対して2ml溶かした濃度です
- 気温が30℃を超える時間帯の散布は避け、午前中の涼しい時間帯に行います
- 1花房につき処理は1回限りとし、二度がけは厳禁です
タキイ種苗の栽培ガイドラインでも「3段目以降ではトマトトーンにジベレリンを5〜10ppm混ぜて処理すると空洞果の抑制につながる」と明記されています。ジベレリン混用は対策として信頼性が高いといえます。
なお、ジベレリン剤には粉末タイプと液体タイプがあります。少量処理ならば液体タイプのほうが計量しやすく、作業効率が上がります。購入前に処理液量の目安を計算してから選ぶことをおすすめします。
タキイ種苗|トマト栽培のホルモン処理とジベレリン混用の実践的ガイド
石原バイオサイエンス|トマトトーンとジベレリン混用による空洞果防止の解説
多くの農業者が空洞果対策を「発生してから」考えがちですが、実は収穫後の振り返りこそが次作の収量を守る鍵です。つまり「出てから対処する」ではなく「出る前に仕込む」発想の転換が重要です。
空洞果が発生した際は、どの段位でどれだけ出たかを記録しておきます。発生が集中している段位があれば、その前後の管理に問題があった可能性が高いといえます。たとえば、4〜5段目に集中していれば低段の着果負担が過大だったと推測でき、次作では低段の摘果を早めに徹底する対策につながります。
ホルモン処理の記録も見直しポイントになります。処理日時・気温・希釈濃度・二度がけの有無などをメモしておくと、空洞果発生のパターンと照合できます。特に夏場の高温期(気温30℃以上)に処理を行った花房で空洞果が多発しているなら、翌作では処理時間を朝の涼しい時間帯に限定するか、マルハナバチ等による自然授粉への切り替えを検討する判断材料になります。
一方で、出荷規格外になった空洞果をただ廃棄するだけでなく、活用する視点も現代の農業経営では求められます。空洞果は食味面では問題がない場合が多く(著しく空洞が大きい場合は食感が落ちますが)、加工用トマトとしてケチャップやトマトソース原料に回す、または直売所で「訳あり品」として安価に販売するなどの選択肢があります。廃棄ゼロに向けた取り組みとして、産地によっては加工業者との契約出荷を確立している事例もあります。
また、次作の品種選定の際には、心室数が多く空洞果が発生しにくいとされる品種を検討することも一つの方法です。品種ごとの特性については、種苗会社の担当者や最寄りの農業改良普及センターに相談すると、地域の気候条件に合ったアドバイスが得られます。空洞果対策は栽培管理の改善が第一ですが、品種特性を加味した総合的なアプローチが安定した収量と品質につながります。
BASF minorasu|トマトの高温障害と空洞果・収量管理の総合解説