散布後3回以上の連用で耐性菌が出現します。
トリフルミゾールは、日本曹達株式会社が開発したイミダゾール系の殺菌剤です。本剤の作用機構は、病原菌である糸状菌の細胞膜を構成する重要な成分、エルゴステロールの生合成を阻害することにあります。細胞膜が正常に機能しなくなった病原菌は、膜構造が破壊されて生育できなくなります。
つまり菌の生存に必須な部分を攻撃するということですね。
この作用機構により、トリフルミゾールは予防効果と治療効果の両方を併せ持っています。病原菌が植物に侵入する前に散布すれば感染を防ぎ、侵入後であっても病斑の拡大や胞子形成を阻止する力があります。本邦での初回登録は1986年で、長年にわたり農業現場で使用されてきた実績があります。
製剤としては水和剤、乳剤、くん煙剤が存在します。水和剤は散布用として、乳剤は種子消毒用として、くん煙剤は施設栽培での使用に適しています。それぞれの剤型が異なる使用場面に対応しているため、栽培方法や防除対象に応じて選択できます。
作物への汚れが少ないのも特徴です。
浸達性に優れているため、散布後に降雨があっても効果がほとんど影響を受けません。この特性は、天候が不安定な時期の防除において非常に有利です。ただし、散布した葉以外への浸透移行性は限定的なので、散布ムラを作らないよう葉の表裏にしっかりと薬液を付着させることが重要です。
適用農作物は非常に幅広く、稲、麦類、雑穀、果樹、野菜、いも、花き類、樹木類、芝など多岐にわたります。これほど多様な作物に使える殺菌剤は限られており、汎用性の高さが際立っています。
果樹では、りんごの斑点落葉病、黒星病、うどんこ病、赤星病、なしの黒星病、黒斑病、赤星病、うどんこ病などに登録があります。特に黒星病や赤星病といった重要病害に対して高い防除効果を示します。ぶどうのうどんこ病、さび病、かきの落葉病、うどんこ病、いちじくの株枯病など、果樹の主要病害をカバーしています。
野菜類では、トマトやきゅうり、メロンなどのうどんこ病、つる枯病、葉かび病、すすかび病など、施設栽培で問題となる病害に効果があります。イチゴのうどんこ病防除にも広く使われており、特に施設栽培での重要な防除剤として位置づけられています。
稲では種子消毒での使用が中心です。
水稲のばか苗病、ごま葉枯病、苗立枯病(トリコデルマ菌)に対して種子浸漬や種子粉衣、吹き付け処理で使用します。特にばか苗病に対しては、200倍液に24〜48時間種子浸漬、または30倍液に10分間浸漬する方法が一般的です。浸種前に処理を行い、風乾後は水洗いせずに浸種することで効果を発揮します。
花き類では、きくの白さび病、チューリップの褐色斑点病、球根腐敗病などに使用されます。球根への粉衣処理も可能で、植え付け前の病害予防に役立ちます。芝ではブラウンパッチ、ヘルミントスポリウム葉枯病などの芝生病害に対応しています。
トリフルミゾールはDMI剤(脱メチル化阻害剤)に分類され、FRAC(殺菌剤耐性対策委員会)コードは3に該当します。DMI剤は作用点が単一であるため、連続使用により耐性菌が発生しやすい特性があります。
これは最も注意すべき点です。
イチゴうどんこ病では実際に耐性菌が確認されています。
宮城県では2014年にトリフルミゾール剤耐性菌の発生が確認されており、全国各地で同様の報告があります。奈良県の調査では、イチゴうどんこ病菌のトリフルミゾールに対する感受性がRf値30〜566という広い範囲にあり、一部の菌株では明らかに感受性が低下していることが判明しています。トマト葉かび病菌でも、供試50菌株のうち5菌株が実用濃度で生育が認められ、耐性菌の存在が示されています。
耐性菌発生を防ぐためには、異なる作用機構の薬剤とのローテーション散布が必須です。同じDMI剤を連続して使用せず、保護殺菌剤や別系統の浸透性殺菌剤を組み合わせることで、耐性菌の出現リスクを大幅に低減できます。例えば、マンゼブ水和剤やTPN水和剤といった保護殺菌剤を基幹防除として組み込み、その間にトリフルミゾールを挟むような体系が推奨されます。
発病初期からの使用が効果的です。
病害が蔓延してから使用すると、既に耐性を持った菌が優占している可能性があり、効果が十分に発揮されません。予防的な使用を中心に、発病初期の段階で治療効果を狙う使い方が理想的です。使用回数も作物ごとに定められた総使用回数を厳守し、過度な連用を避けることが長期的な効果維持につながります。
耐性菌が発生した圃場では、トリフルミゾールを含むDMI剤全般の使用を控えるべきです。同じ系統内では交差耐性を示すことが多く、別のDMI剤に切り替えても効果が得られない場合があります。このような状況では、全く異なる作用機構を持つ薬剤への切り替えが必要になります。地域の病害虫防除所や農業改良普及センターに相談し、耐性菌検定を受けることも有効な対策です。
水和剤の使用では、作物や病害によって希釈倍率が異なります。りんごの斑点落葉病や黒星病には2000〜3000倍、収穫前日まで使用可能で総使用回数は3回以内です。なしの黒星病には2000〜3000倍、収穫14日前まで、3回以内の制限があります。
野菜類では濃度がやや高めに設定されています。
きゅうりのうどんこ病には3000倍、収穫前日まで使用でき、総使用回数は3回以内です。トマトの葉かび病には2000〜3000倍、収穫前日まで、総使用回数5回以内となっています。イチゴのうどんこ病には2000〜3000倍、収穫前日まで、総使用回数3回以内です。施設栽培では、くん煙剤を使用することもできます。
乳剤は主に種子消毒で使用されます。稲のばか苗病に対しては、200倍液に24〜48時間種子浸漬する方法が基本です。または15倍に希釈して乾燥籾重量の3%を吹き付け処理する方法もあります。種子消毒は必ず浸種前に行い、処理後の種籾は水洗いせずに浸種することで、薬剤が流れ落ちるのを防ぎます。
散布液量は作物や散布方法によって調整します。
果樹では200〜700リットル/10aが標準的で、樹の大きさや栽培方式に応じて変更します。野菜類では100〜300リットル/10aが一般的ですが、施設栽培では散布ムラを避けるため、やや多めの液量で葉裏までしっかり濡れるように散布します。散布間隔は通常7〜14日間隔が推奨されますが、病害の発生程度や天候によって調整が必要です。
無人航空機による散布も一部の作物で可能です。その場合は、散布機種の散布基準に従い、適合した散布装置を使用します。薬液の飛散や漏れがないよう、機体の点検を十分に行い、散布区域内の諸物件への影響にも注意が必要です。散布終了後は散布装置を十分に洗浄し、洗浄廃液は安全な場所で処理します。
農薬取締法に基づき、各作物には本剤の使用回数とトリフルミゾールを含む農薬の総使用回数が定められています。この制限は、収穫物への残留を回避するための重要な規制です。総使用回数には、トリフルミゾールを有効成分として含む全ての農薬製剤が含まれます。
りんごでは本剤の使用回数3回以内、トリフルミゾールを含む農薬の総使用回数も3回以内です。
なしも同様に3回以内ですが、収穫14日前までという制限があります。ぶどうは収穫7日前までで総使用回数3回以内、かきは収穫30日前までで3回以内と、作物によって収穫前使用日数が異なります。これは作物の特性や残留性の違いを反映したものです。
野菜類では比較的収穫直前まで使用できるものが多くなっています。トマト、きゅうり、なす、イチゴなどは収穫前日まで使用可能で、総使用回数はトマトが5回以内、きゅうりとイチゴが3回以内です。施設栽培では病害の発生が長期間続くため、使用回数が多めに設定されている傾向があります。
いちじくの株枯病に灌注処理する場合は、散布とは別に回数が設定されています。総使用回数7回以内(散布は3回以内、灌注は4回以内)となっており、処理方法ごとに回数を管理する必要があります。灌注処理は1ヶ月間隔での使用が推奨され、根域に対する処理量が多すぎると生育抑制などの薬害が生じる恐れがあります。
総使用回数を超過すると法律違反です。
他の製剤との組み合わせにも注意が必要で、例えば「パンチョTF顆粒水和剤」のようにトリフルミゾールとシフルフェナミドの混合剤を使用した場合、それぞれの有効成分について総使用回数にカウントされます。防除暦を作成し、使用した農薬と回数を記録しておくことで、総使用回数の超過を防げます。地域のJAや防除所が提供する防除暦を参考にすることも有効です。
なしの品種「幸水」に使用する場合、樹勢が弱いと高濃度で葉に軽度な黄斑を生じる場合があります。この品種は薬剤感受性が高いため、所定範囲内の低濃度(2000倍程度)で使用することが安全です。薬害が心配な場合は、まず少量で試験散布を行い、数日後の葉の状態を確認してから本格的な散布を実施するとよいでしょう。
MEP剤との混用は厳禁です。
なしに使用する際、MEP剤(スミチオン乳剤など有機リン系殺虫剤)と混用すると薬害を生じる恐れがあります。これは化学的な相互作用により植物に悪影響を及ぼすためで、同時期に両方を使用する必要がある場合は、数日間隔を空けて別々に散布します。このような混用禁忌情報はラベルに明記されているので、使用前に必ず確認しましょう。
ウリ科作物の幼苗期には使用できません。濃緑化症状や生育抑制が生じることがあるため、本葉が5〜6枚展開した以降に使用を開始します。幼苗期の植物は薬剤に対する耐性が低く、成分が濃縮されやすいため、このような制限が設けられています。播種直後や育苗中の散布は避け、定植後の活着を確認してから防除を始めることが基本です。
スイトピーでは開花期以降の使用を避けます。
花弁に薬害が生じる恐れがあり、商品価値を損なう可能性があるためです。開花前までの使用に限定し、蕾が見え始めたら別の薬剤に切り替えるか、物理的防除に移行します。花き類では外観が重要なので、薬害リスクのある時期の使用は特に慎重に判断する必要があります。
カラーや花はすに使用する場合、湛水状態では使用しません。また使用後14日間は入水を避ける必要があります。これは水中での薬剤濃度が高まることで根に障害を与える可能性があるためです。水管理が必要な作物では、散布のタイミングと灌水のスケジュールを調整し、薬剤が適切に乾燥・定着してから水やりを再開します。栽培記録に散布日を記入しておくと、14日間の管理がしやすくなります。