赤星病薬剤の効果的な対策と防除時期におすすめの種類

梨の赤星病に効く薬剤はどれ?治療効果のある殺菌剤や予防のタイミング、ビャクシン対策を徹底解説。おすすめの農薬や展着剤の選び方、耐性菌を防ぐローテーションとは?

赤星病の薬剤

赤星病薬剤の防除ポイント
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散布のタイミング

4月の降雨前後が最重要。感染から病斑が出るまでの初期防除がカギ。

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治療剤と予防剤

EBI剤(治療)と保護殺菌剤(予防)を使い分け、耐性菌を防ぐ。

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中間宿主対策

ビャクシン類からの胞子飛散を防ぐことが根本的な解決策。

赤星病薬剤の散布時期と雨の日の感染リスク

 

赤星病(あかぼしびょう)の防除において、最も重要な要素は「雨」と「ビャクシン」との関係性を理解した上での散布時期の決定です。この病気の病原菌である Gymnosporangium asiaticum は、ナシなどのバラ科果樹と、カイヅカイブキなどのビャクシン類の間を行き来する「異種寄生」という特殊な生態を持っています。

 

特に注意が必要なのは、ナシの開花期から落花期にあたる4月から5月です。この時期に降雨があると、中間宿主であるビャクシン類に形成された冬胞子堆(とうほうしたい)が水分を吸収して膨張し、オレンジ色のゼリー状(天狗の麦飯とも呼ばれます)になります。ここから形成された小生子(担子胞子)が風に乗り、1.5km〜2km以上離れたナシ園まで飛散して感染を引き起こします。

 

  • 感染の条件:気温が15℃〜20℃前後で、葉が一定時間以上濡れていること。
  • 散布のタイミング:天気予報を確認し、降雨の直前に予防剤を散布するのがベストです。もし雨の前に間に合わなかった場合は、降雨後できるだけ早く(感染成立から24時間〜48時間以内)に治療効果のある薬剤(EBI剤など)を散布することで、菌糸の伸長を食い止めることができます。

多くの農家が失敗するケースとして、「オレンジ色の斑点が目立ってから」慌てて薬剤を散布するパターンがあります。しかし、赤星病の病斑(精子器)が葉の表面に形成された時点では、すでに菌は葉の内部で活動を広げています。目に見える症状が出る前の「感染好適日(雨の日)」を狙い撃ちすることが、最小限の薬剤で最大の効果を得るコツです。

 

赤星病の生態・まめ知識・有効薬剤(住友化学園芸)
住友化学園芸による赤星病の発生メカニズムと、家庭園芸およびプロ農家向けの基本的な防除カレンダーの考え方が詳しく解説されています。

 

赤星病薬剤で梨の治療効果が高いおすすめの種類

赤星病の薬剤は、大きく分けて「予防剤(保護殺菌剤)」と「治療剤(EBI剤など)」の2種類があります。ナシ栽培において、それぞれの特性を理解し、状況に応じて使い分けることが重要です。

 

1. 予防効果が高い薬剤(保護殺菌剤)
これらは葉の表面に殺菌成分の膜を作り、飛来した胞子が発芽・侵入するのを防ぎます。耐性菌が発生しにくいため、基本の防除として使用します。

 

  • オーソサイド(キャプタン剤):汎用性が高く、黒星病など他の病害との同時防除も可能です。雨に比較的強いですが、展着剤の併用が推奨されます。
  • ジマンダイセン(マンゼブ剤):広範囲の病害に効果があり、安価で使いやすい基本薬剤です。ただし、果実への汚れ(汚れ果)に注意が必要です。

2. 治療効果が高い薬剤(EBI剤 / DMI剤)
これらは植物体内に浸透移行し、侵入した菌の細胞膜成分(エルゴステロール)の生合成を阻害して死滅させます。「治療」といっても、枯れた葉が元に戻るわけではありませんが、病斑の拡大や、葉裏へのさび胞子の形成(二次感染源の放出)を阻止する効果があります。

 

  • スコア(ジフェノコナゾール剤):赤星病に対して非常に高い活性を持ちます。浸透移行性に優れ、降雨後の「事後散布」でも高い効果を発揮します。
  • ラリー(ミクロブタニル剤):速効性があり、病斑進展阻止能力が高い薬剤です。黒星病との同時防除にも適しています。
  • サプロール(トリホリン剤):治療効果が高く、家庭園芸からプロまで幅広く使われますが、乳剤のため高温時の薬害には注意が必要です。
  • オンリーワン(テブコナゾール剤):広範囲の病害に効き、残効性が長いのが特徴です。

薬剤選びの基準表

状況 推奨薬剤タイプ 具体的な製品例 特徴
雨の前(予報) 予防剤(保護) オーソサイド、ジマンダイセン 葉の表面でブロック。耐性菌リスク低。
雨の後(感染疑い) 治療剤(EBI) スコア、ラリー、オンリーワン 侵入した菌を叩く。キックバック効果。
発生初期 混合剤 予防剤+治療剤 治療しつつ、次回の感染も防ぐ。

梨(なし)の赤星病:発病状況や防除のポイント(アリスタ ライフサイエンス)
農薬メーカーによる技術資料で、ナシ赤星病に特化した薬剤の選び方や、散布時の薬液付着の重要性について具体的な製品名を挙げて解説されています。

 

赤星病薬剤のローテーション散布と耐性菌の対策

赤星病防除において、特定の優れた薬剤(特にEBI剤やストロビルリン系薬剤)を連用することは極めて危険です。病原菌がその薬剤に対する抵抗力(耐性)を持ってしまい、いざという時に薬が効かなくなる「耐性菌」の問題が発生するからです。これを防ぐためには、作用機作の異なる薬剤を順番に使う「ローテーション散布」が必須です。

 

RACコード(作用機構分類)の意識
農薬にはFRACコードという番号が振られています。同じ番号の薬剤は、商品名が違っても作用点が同じであるため、連続で使用してはいけません。

 

  • EBI剤(DMI剤) FRACコード: 3
    • スコア、ラリー、オンリーワン、インダーなど。
    • リスク: 耐性菌が発生しやすい。
    • 対策: ナシの防除暦では、黒星病対策も含めて年間3〜4回程度に抑えるのが一般的です。連続散布は避け、間にキャプタン剤などの保護殺菌剤を挟みます。
  • ストロビルリン系(QoI剤) FRACコード: 11
    • アミスター、フリントなど。
    • リスク: 非常に耐性菌が出やすい(単一作用点)。
    • 対策: 年間1〜2回に制限する自治体が多いです。「ここぞ」というタイミング(例えば黒星病と同時多発している時など)まで温存する戦略も有効です。
  • SDHI剤 FRACコード: 7
    • ケンジャ、アフェットなど。
    • リスク: 中程度〜高い。
    • 対策: 新しい系統の薬剤ですが、これも連用は避けます。

    効果的なローテーションの組み方例

    1. 4月上旬(開花前): 予防 オーソサイド(保護剤)
    2. 4月中旬(落花期・雨後): 治療 スコア(EBI剤) ※ここが最重要
    3. 4月下旬: 予防+治療 別のEBI剤 または ストロビルリン系(回数制限内なら)
    4. 5月上旬: 予防 ジマンダイセン(保護剤)

    特に、地域ですでに「DMI剤耐性の黒星病菌」が確認されている場合は、赤星病対策でDMI剤を使う際も効果が落ちている可能性があるため、地元の病害虫防除所の指導(防除暦)に従うことが重要です。

     

    DMI剤耐性ナシ黒星病菌の発生リスクを軽減させる新たな防除体系(千葉県)
    薬剤耐性菌の問題について、実際の圃場試験データに基づいた防除体系の見直し案が提示されています。DMI剤の使用回数制限の根拠となる重要な資料です。

     

    赤星病薬剤とビャクシン類の防除対策の重要性

    「薬剤を撒いているのに赤星病が止まらない」という場合、原因の多くは薬剤の選択ミスではなく、園地の周囲にあるビャクシン類(カイヅカイブキ、タマイブキなど)の存在にあります。

     

    赤星病菌は、春にナシの葉で増殖した後、秋には再びビャクシン類へと戻り、そこで越冬します。つまり、ビャクシン類がある限り、翌年の感染源(冬胞子)は供給され続けます。薬剤防除はあくまで「対症療法」であり、根本治療はビャクシン類の除去、またはビャクシン類への薬剤散布です。

     

    • 条例による規制: 多くのナシ産地では、条例によってナシ園から一定距離(250m〜1kmなど)以内のビャクシン類の植栽を禁止、または除去を義務付けています。
    • ビャクシンへの薬剤散布: 自分の敷地内に観賞用としてビャクシンがある場合、あるいは除去できない隣接木がある場合、秋季(9月〜10月)から早春(2月〜3月)にかけて、ビャクシン側に薬剤散布を行うことが有効です。
      • 目的: ナシから飛来した胞子の定着を防ぐ、または形成された冬胞子を死滅させる。
      • 使用薬剤例: 石灰硫黄合剤、特定の殺菌剤(登録状況を確認が必要)。特に石灰硫黄合剤の冬期散布は、ビャクシン上の越冬菌密度を下げる効果があります。

      農家だけでなく、近隣住民の庭木として植えられているケースも多いため、地域全体での協力体制や啓発活動も「広義の防除対策」として必要不可欠です。物理的に胞子を遮断することは難しいため、発生源の密度を下げることが、ナシ園での薬剤散布回数を減らすことにも繋がります。

       

      赤星病薬剤の効果を高める展着剤と散布のポイント

      最後に、意外と見落とされがちなのが「展着剤(てんちゃくざい)」の役割です。特にナシの葉は、表面がワックス層(クチクラ層)で覆われており、水を弾きやすい性質を持っています。高価な治療剤(EBI剤)を使用しても、薬液が葉の表面ではじかれて水玉になり、地面に落ちてしまっては効果が半減します。

       

      展着剤の役割と選び方
      単に「くっつける」だけでなく、最近の展着剤には様々な機能があります。赤星病対策では以下の機能が重要です。

       

      • 湿展性(濡れ広がり): ワックス層の表面張力を下げ、薬液をベタッと均一に広げます。これにより、葉の隙間や凹凸にも薬剤が行き渡り、予防剤の膜を隙間なく作ることができます。
        • : 一般的な機能性展着剤(シリコーン系など)。
      • 浸透性(染み込み): スコアやラリーなどの「浸透移行性」のある薬剤の効果をアシストします。ワックス層を透過しやすくし、有効成分をスムーズに葉の内部へ送り込みます。
        • 注意点: 浸透性が強すぎる展着剤は、高温時や幼果期に薬害(シミなど)を引き起こすリスクがあります。特に、「アプローチBI」などは効果が強力ですが、一部の薬剤(SDHI剤の一部など)との混用で薬害事例が報告されているため、農薬ラベルの混用注意事項を必ず確認してください。
      • 固着性(耐雨性): 散布後に乾いた薬剤が、雨で流れ落ちにくくします。梅雨時期や長雨が予想される4月〜5月の防除では、この機能を持つ展着剤(パラフィン系など)を加用することで、残効期間を延ばすことが期待できます。

      散布時のテクニック

      • 葉裏への付着: 赤星病の冬胞子は風に乗って飛来し、葉の表面だけでなく裏面にも付着します。また、病気が進行すると葉裏に「毛状体(さび胞子堆)」を形成し、そこから胞子を飛ばします。ブームスプレイヤーやスピードスプレイヤーの風量を調整し、葉が裏返るように撹乱しながら、葉裏まで十分に薬液がかかるように散布しなければなりません。
      • 散布水量: 規定の希釈倍率を守りつつ、十分な水量(10aあたり300〜400リットルなど、樹齢による)を撒くことが、接触不良による防除失敗を防ぐ基本です。

      薬剤そのものの選択と同じくらい、「いかにナシの葉に留まらせるか」という物理的な工夫が、防除の成否を分けます。

       

      果樹における展着剤の活用(日本植物防疫協会)
      果樹栽培における展着剤の種類と特性、それぞれの薬剤との相性や防除効果の向上について、科学的なデータに基づいて詳細に記述されています。

       

       


      住友化学 殺菌剤 ダコニール1000 250ml