ナモグリバエ幼虫の生態と防除

ナモグリバエ幼虫は葉肉内に潜り込み白い筋状の食害痕を残す害虫です。エンドウやレタスなどの作物に被害を与え、果実のがくにも侵入するため商品価値を著しく低下させます。効果的な防除方法と天敵の活用法を知ることで、あなたの収穫を守ることができるのでしょうか?

ナモグリバエ幼虫の生態と被害

葉に白い線を描かれたら収穫が1割減ります


この記事の3つのポイント
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葉内で蛹化する唯一のハモグリバエ

ナモグリバエは他のハモグリバエと異なり、幼虫が葉の中で蛹になる特徴があります。体長3mmの乳白色のウジ状幼虫が葉肉を食べながら蛇行し、白い筋状の食害痕を残します。

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果実がくへの被害で商品価値が低下

幼虫は葉だけでなく果実のがくにも潜り込み、わずかな食害痕でも商品として出荷できなくなります。特にさやえんどうでは被害果率が35%に達することもあります。

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薬剤散布で天敵が死滅しリサージェンス発生

非選択的な殺虫剤を使うと寄生蜂などの天敵が排除され、ナモグリバエだけが爆発的に増加します。天敵にやさしい農薬を選び、発生状況に応じた防除が重要です。


ナモグリバエ幼虫の形態と見分け方

ナモグリバエの幼虫は乳白色の円筒形をしたウジ状で、成長すると体長約3mmになります。他のハモグリバエ類の幼虫と外見は似ていますが、決定的な違いは蛹化する場所です。マメハモグリバエトマトハモグリバエの幼虫が成熟すると葉から脱出して地表近くの土中で蛹になるのに対し、ナモグリバエだけは葉の潜孔内でそのまま蛹化します。


蛹は長さ約2mmで、少し平たい楕円形をしています。初めは乳白色ですが、時間が経つと褐色から黒色に変化していきます。この蛹を葉の中で直接観察できることが、ナモグリバエを他のハモグリバエ類と区別する最も確実な方法です。


成虫は体長約2mmと非常に小さく、胸背が灰色をしています。マメハモグリバエの成虫が黒と黄色のツートンカラーであるのに対し、ナモグリバエの成虫は普通のハエのように地味な色をしているのが特徴です。圃場で飛んでいる成虫を肉眼で識別するのは困難ですが、捕獲して体色を確認すれば種の判別が可能です。


幼虫による食害痕は幅0.5~2mm程度の白い筋として葉に残ります。食害痕は最初、葉縁に近いところに直径1mmほどの白い小さな斑点として現れます。


これは成虫が葉肉内に産卵した痕です。


孵化した幼虫はこの点から縦横に蛇行しながら葉身を食害し、白い筋をつけていきます。普通1枚の葉に数匹の幼虫が寄生しており、多発時には1枚の葉に多数の幼虫が潜ることで葉の表皮が葉肉から剥がれ、葉全体が白く見えることもあります。


これが「絵描き虫」と呼ばれる由来です。


ナモグリバエ幼虫が引き起こす被害の実態

ナモグリバエの被害は大きく分けて幼虫による食害と成虫による吸汁があります。幼虫による被害は葉だけでなく果実のがくにも及ぶため、商品価値に直結する深刻な問題となっています。


葉での被害は光合成能力の低下を招きます。幼虫が葉肉を食べながら潜行するため、食害された部分では葉緑素が失われ、白い筋状の痕が残ります。被害が軽微なうちは生育への影響は限定的ですが、多発すると葉の大部分が食害され、光合成面積が大幅に減少します。エンドウ畑では被害が進行すると畑一面が白く見えるほどになることがあります。


レタスでは結球部にまで被害が及ぶことがあり、外観が著しく損なわれます。結球野菜の場合、内部の葉に食害痕があると商品として出荷できなくなるため、経済的損失は甚大です。


果実のがくへの被害は特に深刻です。さやえんどうの栽培では、幼虫が果実のがくに潜り込んで中を食害すると、がくに白く線状の食痕が残ります。この幼虫痕がわずかでもあると商品価値が大幅に低下し、出荷できなくなるケースが多くなります。北海道の試験では、無防除の場合に被害果率が35.1%に達した事例も報告されており、収穫量の3分の1以上が廃棄される可能性があることを示しています。


成虫による被害も無視できません。成虫が葉や果実のがくを吸汁すると、葉緑素が抜けた点状の食痕が残ります。この食痕は直径1mm程度の小さな点として現れますが、多数の成虫が活動すると葉全体に無数の点が散在し、商品性を損ないます。注目すべきは、成虫食痕の約1割が産卵痕であり、そこから幼虫が孵化して新たな被害を引き起こすという点です。


さやえんどうでの調査によると、上位1~3位葉に多数の成虫食痕(15~20個以上)が見られる茎が主茎20茎当たり1茎以上ある場合、果実のがくでの幼虫被害が出る可能性が高いことが明らかになっています。つまり成虫食痕は幼虫被害の予兆となるため、早期発見の指標として活用できます。


北海道立総合研究機構による「さやえんどうのナモグリバエに対する発生対応による防除技術」の詳細資料では、果実がくでの被害実態と防除タイミングについて写真付きで解説されています。


ナモグリバエ幼虫の発生時期と生活環

ナモグリバエの発生時期は春と秋に集中し、特に3~5月と9~11月に多発します。温暖地では年間5~6世代、施設栽培では環境によっては10世代以上を繰り返すことがあります。卵から成虫までの発育期間は温度に大きく左右され、20℃では約20日、25℃では約16~17日と短縮されます。


道南地域での調査によると、春期の成虫の大量飛来は見られず、4月下旬~5月中旬頃は発生が少なく、6月下旬頃~7月中旬に多くなり、8月以降に減少するという消長が観察されています。興味深いことに、道南地域では積雪下で越年した前年秋の被害葉から少数のナモグリバエ成虫の羽化が確認されており、これが春の発生源の一つとなっています。


成虫は葉肉内に産卵します。1雌の産卵数は200~300個程度とされ、寿命は約2週間です。産卵は葉の表裏両面で行われますが、葉裏での産卵が多い傾向があります。


卵期間は20℃で3~4日程度です。


孵化した幼虫は3齢を経過しながら葉肉内を潜行し、組織を食害します。


幼虫期間は20℃で7~10日程度です。


他のハモグリバエと最も大きく異なるのは、ナモグリバエの幼虫が成熟しても葉から脱出せず、葉の潜孔内でそのまま蛹化する点です。この生態的特徴により、蛹も葉に残り続けるため、被害葉を圃場から除去することが防除上重要になります。


蛹期間は20℃で約7~10日です。蛹化場所が葉の中であるため、土壌消毒では蛹を死滅させることができません。


これが防除を難しくしている要因の一つです。


発生適温は15~25℃程度とされており、夏期の高温期には活動が抑制されることがあります。北方系の害虫であるナモグリバエは、真夏の高温時には世代数がやや少なくなる傾向があります。一方、春と秋の冷涼な気候では活発に活動し、世代を重ねて個体数を急増させます。


越冬は蛹で行われます。施設内では幼虫が発育を続けて世代を繰り返すこともあります。露地栽培では、圃場周辺の除草や被害残渣の除去が越冬個体数を減らす有効な手段となります。


ナモグリバエ幼虫に有効な天敵と生物的防除

ナモグリバエには多くの土着天敵寄生蜂が存在し、自然状態では寄生蜂による生物的防除が有効に機能しています。北海道では3科24種の寄生蜂がナモグリバエに寄生していることが確認されており、本州以南からも多くの種が記録されています。


代表的な天敵はハモグリコマユバチ、チビコバチ類、ヒメコバチ類などです。これらの寄生蜂はナモグリバエの卵や幼虫に産卵し、寄生蜂の幼虫がナモグリバエの幼虫を内部から食べることで駆除します。寄生率は環境や時期により変動しますが、良好な条件下では30~50%に達することもあります。


寄生蜂の活動には季節性があります。神奈川県の調査では、天敵寄生蜂の発生は12月上旬~1月中旬にピークが見られ、冬季でも寄生蜂が活動していることが確認されています。この時期に寄生蜂を温存することが、春以降の害虫密度抑制につながります。


ナモグリバエが葉内で蛹化する特性は、寄生蜂にとっては好都合です。蛹寄生蜂は葉に残った蛹を見つけて産卵しやすく、土中で蛹化する他のハモグリバエと比べて寄生の機会が多くなります。


問題は薬剤散布が天敵に与える影響です。非選択的な殺虫剤を散布すると、ナモグリバエよりも天敵の方が大きなダメージを受けることが多くあります。ナモグリバエの幼虫は葉の内部に潜っているため薬剤の影響を受けにくい一方、葉の表面を歩き回る寄生蜂は薬剤に直接曝露されて死滅しやすいのです。


天敵が排除されると、ナモグリバエは天敵からの捕食圧から解放され、爆発的に増加します。


これを「リサージェンス」と呼びます。


エンドウでマラソン乳剤を2回散布した試験では、ナモグリバエと寄生蜂の個体数バランスが崩壊し、害虫だけが多発する結果となりました。


天敵を温存しながら防除するには、天敵にやさしい選択性の高い農薬を使用することが重要です。FMC社のベリマークSC、ベネビアOD、プレバソンフロアブル5などは、チョウ目害虫やハモグリバエ類に高い効果を示しながら、寄生蜂への影響が少ない薬剤として推奨されています。北海道の試験でも、これらの薬剤は寄生蜂類に壊滅的な影響を与えないことが確認されています。


生物農薬として、ハモグリミドリヒメコバチを含む天敵製剤「マイネックス」も市販されています。この製剤には2種の寄生蜂が混合されており、ハモグリバエ類の密度抑制に効果を発揮します。施設栽培では天敵製剤と化学農薬を組み合わせたIPM(総合的病害虫管理)体系の構築が進められています。


圃場管理も天敵温存に重要です。圃場周辺の雑草や畦畔の植生は寄生蜂の代替寄主や餌資源となるため、過度な除草は避け、天敵が生息できる環境を維持することが望ましい場合もあります。


FMC Japan公式サイトの害虫Wiki「ナモグリバエの特徴と防除方法・効果的な農薬」では、天敵にやさしい農薬の詳しい効果試験データと使用方法が紹介されています。


ナモグリバエ幼虫の効果的な防除対策

ナモグリバエの防除は早期発見と適切なタイミングでの対策が鍵となります。発生状況に応じた防除を行うことで、薬剤散布回数を減らしながら被害を抑制できます。


まず物理的防除として、防虫ネットの設置が有効です。北海道の試験では、0.8mm目以下の防虫ネットで成虫の侵入阻止効果が高いことが確認されています。被覆方法としては、さやえんどうの支柱の両側から被覆する方法や網ハウスでの栽培が効果的です。


ハウス側窓への適用も考えられます。


防虫ネットは耐久性が高く、コスト面から複数回使用することが現実的です。ただし、栽培管理や収穫の作業性との兼ね合いを考慮する必要があります。


化学的防除では、発生対応型の防除体系が推奨されます。この方法は圃場内の発生状況を定期的に確認し、成虫や幼虫の密度が一定レベルを超えた時にのみ防除を実施するものです。


具体的には、圃場内の3か所程度で各々10mの範囲の株の主茎を調査し、上位3葉に成虫食痕15~20個以上ある茎が20茎に1茎以上ある場合に防除を行います。この目安を使うことで、不必要な薬剤散布を避けることができます。


有効な茎葉散布剤としては、トルフェンピラド水和剤やカルタップ水溶剤が高い効果を示します。これらの薬剤は葉の内部にいる幼虫に対してもある程度効果がありますが、完全ではありません。幼虫は葉肉内に潜っているため、薬剤が到達しにくいからです。効果を高めるためには、白い筋がつき始める初期段階、つまり幼虫が若齢のうちに散布することが重要です。


予防的防除として、生育初期の株元処理も効果的です。ジノテフラン粒剤を出芽期または定植後に株元散布すると、効果は2~3週間持続し、収穫初期までの防除に有効です。ただし降雨などの気象条件により効果にふれがでることがあります。


育苗期から定植時の処理も重要です。ベリマークSCは育苗期後半~定植当日の灌注処理で素早く根から吸収され、レタスや非結球レタスのハモグリバエ類から生育初期の作物を守ります。プリロッソ粒剤オメガは育苗期後半~定植時の株元散布で、薬剤のかかりにくい葉裏に潜む幼虫にも高い効果を発揮します。


生育期の散布処理には、ベネビアODやプレバソンフロアブル5が有効です。これらは高い浸透性と移行性を持ち、作物のすみずみまで成分が行きわたります。食害を防ぐためには予防的散布が推奨されます。


北海道での実証試験では、生育期のジノテフラン粒剤株元処理と収穫期間の発生対応による茎葉散布を組み合わせた防除体系により、場内試験では茎葉散布が0~2回に抑えられ、現地調査でも慣行より茎葉散布を1~6回減らすことができました。定期防除では年間5~11回の散布が必要だったのに対し、発生対応型では3~6回で同等以上の効果が得られています。


耕種的防除も重要です。収穫後は被害葉を圃場から持ち出して処分します。ナモグリバエは葉内で蛹化するため、被害葉を放置すると次世代の発生源となります。圃場周辺の除草を徹底し、中耕培土で枯葉を除去するなど清耕栽培に努めることで、蛹を死滅させ発生源を減らすことができます。


薬剤抵抗性の発達を防ぐため、同一系統の薬剤の連用は避けるべきです。作用機構の異なる薬剤をローテーション使用することで、抵抗性の発達を遅らせることができます。


輪作も有効な手段です。ナモグリバエはマメ科アブラナ科キク科など広範囲の作物を加害しますが、寄主範囲外の作物との輪作により、圃場での個体数を減らすことが期待できます。


実践者が語るナモグリバエ防除の工夫

実際の農業現場では、多くの生産者がナモグリバエとの戦いに独自の工夫を凝らしています。


群馬県のレタス生産者である綿貫さんは、プレバソンフロアブル5を「うちの畑の4番バッター」と呼び、オオタバコガとナモグリバエ防除の両方に活用しています。箱買いするほど信頼を置いているこの薬剤は、大型チョウ目害虫とナモグリバエを同時防除できる点が評価されています。


長野県のレタス産地でも同様で、中嶋さんは管内で長年にわたりプレバソンフロアブル5が愛用されていると語ります。レタス栽培では複数の害虫が同時に発生するため、幅広い害虫に効果がある薬剤が重宝されるのです。


同じく長野県の荻原さんは、高級ブランド「伍賀レタス」の品質維持にベリマークSCを活用しています。オオタバコガを2~3週間しっかり抑え、ナモグリバエやアブラムシ類も同時防除できる点が、ブランド野菜の安定生産に欠かせないと評価しています。


これらの事例に共通するのは、複数の害虫を同時に防除できる薬剤を選び、効率的な防除体系を構築している点です。単一害虫だけを対象とした防除では、他の害虫が問題化することがあるため、総合的な視点が重要になります。


また、育苗期からの予防的防除を重視している生産者も増えています。定植後に害虫が侵入してから対処するのではなく、健全な苗を育成段階から守ることで、その後の栽培管理が楽になるという考え方です。


発生状況の観察も工夫されています。


効率的です。


毎日の見回りで成虫食痕の数をチェックし、一定の閾値を超えたら防除を実施するというルールを決めている生産者もいます。経験に基づいた観察眼が、適切な防除タイミングの判断につながっています。


天敵の活用に積極的な生産者は、圃場周辺の環境整備にも配慮しています。過度な除草を避け、寄生蜂が生息できる場所を残すことで、自然の防除力を高める工夫です。化学農薬だけに頼らず、生態系全体のバランスを考えた持続可能な農業を目指す動きが広がっています。


これらの実践例から学べるのは、マニュアル通りの防除ではなく、自分の圃場の状況を観察し、経験を積み重ねながら最適な方法を見つけていく姿勢の重要性です。ナモグリバエ防除に決定打はありませんが、複数の手段を組み合わせ、状況に応じて柔軟に対応することが成功の鍵となります。