実は、ミナミキイロアザミウマは冬でも繁殖を止めず、ハウス内では年間20世代以上発生することがあります。
ミナミキイロアザミウマ(学名:Thrips palmi Karny)は、アザミウマ目アザミウマ科に属する微小な害虫です。
体長は成虫でおよそ0.8〜1.0mmほど。
これは裁縫用の針の頭(約1mm)とほぼ同じサイズで、肉眼では非常に見つけにくい大きさです。
体色は名前の通り淡い黄色で、翅には細かい毛(繊毛)が密生しています。この翅の構造が飛散を助け、風に乗って広範囲に広がる一因になっています。雌雄の区別は難しく、雌は単為生殖(無精卵による繁殖)も可能なため、わずか数頭が侵入するだけで急速に増殖します。
卵は葉や花の組織内に産みつけられるため、外からは見えません。これが防除を難しくする大きな要因のひとつです。幼虫は1〜2齢を経て、土中または葉上でさなぎ(前蛹・蛹)になり、成虫になるまでの期間は25℃条件下でおよそ14〜16日。
つまり、約2週間で1世代が完了します。
1世代が短いということですね。
| ステージ | 期間(25℃目安) | 場所 |
|---|---|---|
| 卵 | 約4〜5日 | 葉・花組織内 |
| 1〜2齢幼虫 | 約5〜7日 | 植物体上 |
| 前蛹・蛹 | 約3〜4日 | 土中・葉上 |
| 成虫(寿命) | 約30〜40日 | 植物体上 |
特に注目すべきなのは発育ゼロ点(発育を開始する最低温度)が約12℃と比較的低めであること。露地栽培でも春〜秋にかけて長期間にわたって活動し、施設栽培では通年発生するリスクがあります。
ミナミキイロアザミウマが特に問題になるのは、気温が25〜30℃に上がる6〜9月です。この温度帯では発育速度が最も速く、わずか1ヶ月で3〜4世代が経過することもあります。露地栽培であれば夏季に爆発的な密度増加が起こりやすいです。
施設栽培(ビニールハウス)では話が違います。冬季でも夜間温度を15℃以上に保つ場合、発育が停止しないためです。実際にハウス内では年間15〜20世代以上の発生が確認されたという報告もあり、これは露地の約3〜4倍に相当します。
これは見落としやすいポイントです。
単為生殖の能力も見過ごせません。受精しなくても雌1頭だけで産卵できるため、たった1頭が侵入すれば増殖が始まります。1頭の雌が生涯に産む卵の数は平均50〜100個程度とされており、条件が揃えば圃場全体への蔓延まで時間がかかりません。
また、移動手段も多様です。自力飛翔のほか、風・農業資材・作業着・苗の持ち込みによっても拡散します。近隣圃場やザッソウ(雑草)が発生源になるケースも多く、自分の畑だけ管理しても侵入を完全には防げないのが現状です。
侵入経路が多いのが基本です。
このような繁殖力と侵入経路の多さから、初動の防除が遅れると被害が一気に拡大するリスクがあります。目に見える被害が出た時点ではすでに密度が高くなっていることが多いため、定期的なモニタリングが不可欠です。
ミナミキイロアザミウマの寄主植物は非常に幅広く、100種以上に及ぶとされています。農業上とくに問題になるのはウリ科(キュウリ・スイカ・メロン・カボチャ)、ナス科(ピーマン・トウガラシ・ナス・トマト)、マメ科(インゲン・ダイズ)などの主要野菜です。
被害は主に花や若葉、新芽に集中します。吸汁によって植物細胞が破壊されるため、被害を受けた葉には白色〜銀白色の細かい斑点(かすり状)が現れます。これはアザミウマが葉の表皮細胞の内容物を吸い取った痕で、「銀葉症状」とも呼ばれます。
銀葉症状が出たら要注意です。
花への加害も深刻で、花弁や子房が傷つくことで落花・奇形果の原因になります。果実に被害が及ぶと表面に褐色のかすり傷が残り、商品価値が大幅に低下します。キュウリやピーマンではこうした外観の劣化が出荷規格外品の増加に直結し、農家の収益を直撃します。
さらに重大なのが、ウイルス病の媒介です。ミナミキイロアザミウマは「スイカ黄化えそウイルス(MYSV)」「メロン黄化えそウイルス(MNSV)」など複数の植物ウイルスを媒介することが知られています。ウイルスに感染した株は薬剤では治せず、圃場からの除去(抜き取り廃棄)が必要になるため、経済的損失が一層大きくなります。
ウイルス媒介こそ最大のリスクです。
ミナミキイロアザミウマの防除で農業従事者が最も頭を悩ませるのが「薬剤抵抗性」の問題です。同じ農薬を繰り返し使い続けると、薬剤に耐性を持つ個体が選択的に生き残り、やがてその農薬が効かない集団(抵抗性系統)が圃場内に広がります。
実際に国内各地で、有機リン系・ピレスロイド系農薬に対する高い抵抗性を持つ系統の存在が確認されています。抵抗性系統に当たってしまうと、規定量を散布しても防除効果が著しく落ちることがあります。これは農薬費のムダ遣いだけでなく、被害拡大にもつながります。
抵抗性対策が条件です。
具体的な対策として、農薬のローテーション散布が推奨されています。作用機構(MOAコード)が異なる系統の農薬を交互に使うことで、特定の系統への抵抗性を発達させにくくします。
以下は代表的な使用系統の例です。
農薬の使用にあたっては、必ず作物・害虫の登録を確認してから使用してください。登録のない農薬を使用すると農薬取締法違反になります。
ラベル確認は必須です。
散布のタイミングも重要で、発生密度が低い初期段階で対処することが防除効率を大幅に上げます。密度が高くなってからでは、散布回数が増え、農薬コストも跳ね上がります。
薬剤防除だけに頼ることにはリスクがあります。抵抗性問題に加え、天敵昆虫への影響・農薬残留リスクなども考慮すると、物理的防除や耕種的防除を組み合わせた「総合的病害虫管理(IPM)」が現代農業では標準的なアプローチです。
物理的防除として最も効果的なのが防虫ネットの設置です。目合い0.4mm以下のネットを開口部(側窓・天窓・出入口)に張ることで、外部からの侵入を大幅に防ぐことができます。
これは侵入防止の基本中の基本です。
また、黄色粘着トラップの設置は発生モニタリングにも使えます。ミナミキイロアザミウマは黄色に誘引される性質があり、1週間ごとにトラップに付着した個体数を数えることで発生密度の変動をつかめます。数が急増する前に防除の意思決定ができるため、早期発見に有効です。
耕種的防除としては以下のポイントが重要です。
天敵利用という選択肢もあります。カブリダニ類(ククメリスカブリダニなど)はアザミウマの卵・幼虫を捕食することが知られており、施設栽培での天敵製剤の利用が拡大しています。農薬との相性(殺ダニ剤との併用は避ける必要あり)を確認した上で導入を検討するといいでしょう。
IPMのポイントは「モニタリング→判断→対策」のサイクルを繰り返すことです。特定の方法に固執せず、状況に応じて柔軟に組み合わせることが長期的な防除効果につながります。
多くの農業従事者が意識しない侵入経路があります。それが「購入苗や農業資材(支柱・ネット・トレイなど)への付着」による持ち込みです。圃場の周囲をどれだけ管理しても、苗自体にすでにアザミウマの卵や幼虫が潜んでいれば、定植と同時に侵入が完了します。
実際、育苗業者からの苗への寄生が発生源となるケースは少なくありません。一部の調査では、購入苗の検査で20〜30%の割合でアザミウマ類が検出されたという事例も報告されています。
これは意外な数字ですね。
対策として、苗の受け入れ時には簡易な確認が有効です。
隔離期間を設けるだけで、本圃への持ち込みリスクを大幅に下げられます。
コストはほぼかかりません。
これは使えそうです。
農業資材(特に再利用品)にも注意が必要です。さなぎは土や資材の隙間に潜むため、前作で使用した支柱やトレイには生存個体が残っている可能性があります。洗浄・天日乾燥・高温処理などを行ってから再利用する習慣をつけることで、持ち込みリスクを下げられます。
農業従事者どうしの情報共有も防除精度を高める手段のひとつです。地域の農業改良普及センターや農協の営農指導員に相談することで、地域特有の発生傾向や効果的な農薬情報を得られることがあります。
自分だけで抱え込まないことが重要です。
大阪府農林技術センター|病害虫発生予察情報(アザミウマ類含む)