スワルスキーカブリダニはヒラズハナアザミウマを捕食しません。
ヒラズハナアザミウマは日本在来の害虫で、イチゴ、トマト、ピーマン、ナスなど広範な作物に被害を及ぼします。体長は雌成虫で約1.3~1.7mmと非常に小さく、褐色から黒褐色の体色をしています。
この害虫の厄介な点は増殖スピードの速さです。25℃の環境では卵期間が3日、ふ化から羽化まで約7日で、1世代に要する期間はわずか約10日という短さです。成虫の生存期間は50日前後と長く、この間に大量の卵を産み続けます。
つまり10日で次世代が誕生するということですね。
農薬抵抗性の問題は深刻です。岡山県農林水産総合センターの2022年の調査によると、イチゴの主要産地すべてでファインセーブとモベントの殺虫率が69%未満と低い結果となりました。カスケードとマッチについては、高い効果を示す圃場と効果が低い圃場が混在している状況です。モスピランもほとんどの圃場で高い殺虫率を維持していますが、一部の圃場では効果が低下しています。
薬剤抵抗性が発達しやすい理由は、世代交代が極めて速いことにあります。短期間で何世代も繰り返すため、同じ系統の農薬を使い続けると耐性を持つ個体が急速に選抜され、集団全体が抵抗性を獲得してしまうのです。
これは損失につながります。
アザミウマ類は化学農薬の淘汰圧により、従来効果が高いとされていた薬剤に対しても抵抗性を発達させる能力を持っています。産地によって使用薬剤の履歴が異なるため、同じ農薬でも効果に地域差が生じる原因となっているのです。
岡山県農林水産総合センター:イチゴのヒラズハナアザミウマに対する薬剤感受性調査結果
2022年の岡山県の試験研究によると、いずれの産地でも安定して高い効果を示した農薬は3剤です。スピノエース顆粒水和剤(5,000倍)、ディアナSC(2,500倍)、グレーシア乳剤(2,000倍)は、すべての調査圃場で補正死虫率90%以上を記録しました。
結論は明確です。
スピノエース顆粒水和剤はスピノサド系の殺虫剤で、速効性と残効性を兼ね備えています。散布翌日から高い効果が認められ、アザミウマ類のほか、ハモグリバエ類やハイマダラノメイガにも効果を発揮します。IRACコード(殺虫剤の作用機構分類)は5番に分類されます。
ディアナSCはスピノエース顆粒水和剤の有効成分スピノサドを人工的に製造したスピネトラムを含む薬剤です。同じスピノシン系に属しますが、より安定した効果が期待できる製剤設計となっています。
こちらもIRACコード5番です。
グレーシア乳剤はフルキサメタミドを有効成分とする比較的新しい殺虫剤で、IRACコード30番に分類されます。既存の薬剤と作用機構が異なるため、他の薬剤に抵抗性を示す個体群に対しても高い効果を発揮する可能性があります。
農薬選定で最も重要なのは、IRACコードを確認して異なる系統の薬剤をローテーションすることです。
同一系統の連用を避けることが基本です。
例えばスピノエース(IRAC5)を使用した後は、グレーシア(IRAC30)やアーデント、トクチオンなど異なるコードの薬剤に切り替えます。
高知県の調査では、アーデント水和剤が半数以上の個体群で補正死虫率98%以上の高い殺虫効果を示しました。ただし、一部の地域では補正死虫率29%と極端に低い結果も出ており、地域ごとの薬剤使用履歴による感受性の違いが明確です。
大分県の試験では、全ての地域で有効な薬剤としてバリアード顆粒水和剤、有機リン系薬剤、アーデント水溶剤、トレボン乳剤、アグリメック乳剤、スピノシン系、ベンゾイル尿素系、コテツフロアブルが挙げられています。
薬剤の選択肢は複数あります。
農薬選定の際は、自分の産地での使用実績と効果を記録しておくことが重要です。効果が低下してきた農薬は、しばらく使用を控えて感受性が回復するのを待つという戦略も有効です。
薬剤抵抗性の発達を防ぐには、IRACコードに基づいたローテーション散布が不可欠です。作用機構が異なる薬剤を順番に使用することで、特定の系統に対する淘汰圧を分散させ、抵抗性の発達を遅らせることができます。
具体的なローテーション例を紹介します。第1回散布でスピノエース(IRAC5)を使用したら、第2回はグレーシア(IRAC30)、第3回はアーデントやマラソン、トクチオンなどの有機リン系(IRAC1B)、第4回は再びスピノエース系に戻すという流れです。
つまり最低3系統を使い回すのが原則です。
同一系統の農薬を連続で使用すると、その作用機構に対して耐性を持つ個体だけが生き残り、次世代ではその個体群が優勢になります。これを繰り返すことで、わずか数世代で集団全体が抵抗性を獲得してしまうのです。
痛いですね。
農薬散布のタイミングも重要です。ヒラズハナアザミウマは花に集まる習性があるため、開花期に特に注意が必要です。成虫は花の中の子房に産卵するため、花が咲き始めたら定期的な防除を開始します。
散布間隔は7~10日が目安です。1世代が約10日なので、次世代が成虫になる前に防除することで、密度を低く抑えられます。
どういうことでしょうか。
成虫だけでなく、幼虫に対する効果も考慮する必要があります。岡山県の調査では、雌成虫と2齢幼虫で薬剤感受性が異なる場合がありました。例えばカスケードやマッチは、成虫に対する効果が不安定でも、幼虫には比較的高い効果を示す場合があります。
ただし、ヒラズハナアザミウマは蛹化期を土中で過ごします。前蛹と蛹の段階では土の中にいるため、農薬散布をしても効果がありません。この時期を考慮して、成虫と幼虫の段階で効果的に防除する必要があります。
天敵製剤を導入している圃場では、天敵に影響の少ない薬剤を選択することも重要です。一般的にネオニコチノイド系薬剤は天敵カメムシ類に影響が大きいため、避けるべきです。スピノシン系やIGR剤は比較的天敵への影響が小さいとされています。
化学農薬だけに依存しない防除体系として、天敵製剤の活用が注目されています。ヒラズハナアザミウマに対して利用できる主な天敵は、タイリクヒメハナカメムシとリモニカスカブリダニです。
タイリクヒメハナカメムシは飛翔能力が高く、一度圃場に定着すると長期にわたりアザミウマ類を捕食する効果が期待できます。成虫も幼虫も捕食しますが、特に若齢幼虫に対する捕食効果が高いとされています。関東以西に分布する在来種で、ナス、キュウリ、カボチャなどの野菜類や雑草に自然に生息しています。
リモニカスカブリダニは、スワルスキーカブリダニと異なり、ヒラズハナアザミウマを捕食することが確認されています。
これは重要です。
ここで注意が必要なのが、広く使用されているスワルスキーカブリダニです。この天敵は当初からヒラズハナアザミウマは捕食しないという知見があり、主にミナミキイロアザミウマやミカンキイロアザミウマ、タバココナジラミに対して効果を発揮します。ヒラズハナアザミウマ対策でスワルスキーを導入しても期待した効果が得られないということですね。
イチゴ栽培では温度が低すぎてスワルスキーカブリダニは生育に適さないため、低温条件に強いリモニカスカブリダニやククメリスカブリダニの利用が推奨されています。リモニカやククメリスは、アザミウマが発生する前に放飼して定着させることで、害虫を待ち伏せする体制を作ります。
天敵製剤の放飼タイミングは、害虫の発生初期または発生前が理想的です。既に害虫密度が高くなってからでは天敵だけでは抑えきれないため、早めの導入が成功の鍵となります。
天敵を利用する場合の化学農薬の選択も慎重に行う必要があります。天敵放飼後に化学薬剤を散布する場合は、天敵に影響の少ない薬剤と微生物殺虫剤(ボタニガードESなど)の混用が推奨されます。有機リン系やネオニコチノイド系は天敵への影響が大きいため避けるべきです。
促成イチゴでは、開花前からリモニカやククメリスを放飼し、開花後にタイリクヒメハナカメムシを追加導入する複合的な天敵利用体系が効果的とされています。この方法では化学農薬の使用回数を大幅に削減できます。
天敵製剤の導入コストは化学農薬よりも高くなる傾向がありますが、薬剤抵抗性の問題を回避でき、長期的には安定した防除効果が期待できます。また、環境負荷の低減や残留農薬の軽減という付加価値も得られます。
アリスタライフサイエンス:リモニカのヒラズハナアザミウマ捕食効果
薬剤と天敵だけでなく、物理的・耕種的な防除手段を組み合わせることで、より効果的な総合防除体系を構築できます。
防虫ネットの展張は、施設への侵入を防ぐ第一の防壁となります。アザミウマ類は体長が非常に小さいため、一般的な防虫ネットでは侵入を許してしまいます。0.4mm目合い以下の細かいネットが必要です。最近では、アザミウマが赤色を嫌う性質を利用した赤色防虫ネットが開発されており、通常のネットよりも高い防除効果が報告されています。
厳しいところですね。
シルバーマルチの敷設は、アザミウマ類の飛来防止に高い効果を発揮します。反射光によってアザミウマの視覚を撹乱し、作物への着地を妨げます。
同時に、蛹化を防止する効果もあります。
ヒラズハナアザミウマは地表に移動して土中で蛹化するため、地表をマルチで覆うことで蛹化場所を奪うことができるのです。
近紫外線除去フィルムの使用も効果的な対策です。アザミウマ類は近紫外線を感知して植物を認識しているため、この波長をカットすることで施設内への侵入を抑制できます。施設全体を近紫外線除去フィルムで被覆することで、侵入防止と作物への定位阻害の両方の効果が得られます。
粘着板の設置は、モニタリングと捕殺の両方の目的で有効です。アザミウマ類の捕殺には青色粘着トラップが最も効果的とされています。施設内に100枚/10a程度設置することで、侵入した成虫を捕獲できます。粘着板を定期的に観察することで、発生状況や飛来時期を把握し、適切な防除タイミングを判断する材料にもなります。
赤色LED防虫灯の利用は、新しい物理的防除技術として注目されています。日中に赤色LED光をハウス内に点灯すると、アザミウマの活動が抑制されます。波長630nm前後の赤色光に対してアザミウマは走光性を示さず、活動が鈍くなることが確認されています。
圃場周辺の雑草管理も重要です。ヒラズハナアザミウマは雑草の花で発生が多く、増殖源となります。施設周辺の除草を徹底することで、外部からの侵入源を減らすことができます。特に開花している雑草は優先的に除去すべきです。
栽培終了後の蒸し込み処理も効果的です。施設を密閉して高温にすることで、残存している害虫を死滅させることができます。次作への持ち越しを防ぐために重要な管理作業です。
作物残渣の適切な処理も忘れてはいけません。収穫終了後の株には多数の害虫が残存している可能性があります。圃場内に放置せず、速やかに圃場外へ搬出して適切に処分することで、次世代の発生源を断つことができます。
これらの物理的・耕種的防除を化学的防除や生物的防除と組み合わせることで、IPM(総合的病害虫管理)体系が完成します。単一の防除手段に頼らず、複数の手段を組み合わせることが、薬剤抵抗性の発達を抑えながら安定した防除効果を維持する鍵なのです。
各産地では、地域の気候条件や栽培体系に合わせた独自の防除戦略を構築することが成功への近道です。薬剤の使用履歴によって感受性が異なるため、他産地で効果があった方法がそのまま通用するとは限りません。
産地独自の薬剤感受性検定を定期的に実施することが推奨されます。岡山県では簡易な検定方法として、インゲンの葉を用いた葉片浸漬法で各薬剤の死虫率を評価しています。自分の圃場で採集したヒラズハナアザミウマを使って検定することで、その産地に適した薬剤を選定できます。
地域の防除暦を作成する際は、IRACコードを明記して系統の異なる薬剤を組み込むことが重要です。産地全体で同じローテーション体系を共有することで、地域レベルでの薬剤抵抗性の発達を遅らせることができます。
栽培品目による戦略の違いも考慮すべきです。イチゴでは低温期から栽培が始まるため、低温に強い天敵リモニカやククメリスの早期導入が効果的です。一方、トマトやピーマンでは、スワルスキーカブリダニはヒラズハナアザミウマには効かないため、タイリクヒメハナカメムシやリモニカの利用を検討します。
有機栽培や特別栽培を目指す産地では、化学農薬の使用回数制限がある中で効果的な防除を行う必要があります。この場合、天敵製剤と物理的防除を組み合わせた体系が中心となります。微生物農薬のボタニガードES(ボーベリア・バシアーナ菌)は、天敵と併用可能で、アザミウマ類に対して効果を発揮します。
データに基づく防除判断も重要です。粘着トラップでの捕獲数を記録し、発生消長を把握することで、散布タイミングを最適化できます。被害許容水準を設定し、その水準を超えた時に防除を開始するという判断基準を持つことで、不要な散布を減らせます。
若手農家やベテラン農家が協力して、産地全体での情報共有体制を構築することも効果的です。どの圃場でどの薬剤が効いたか、効かなかったかという情報を共有することで、産地全体の防除レベルが向上します。JAや普及センターが中心となって、定期的な防除検討会を開催することも有効な取り組みです。
気候変動に対応した防除計画も必要になってきています。温暖化によってヒラズハナアザミウマの世代数が増加し、被害期間が長期化する傾向があります。従来の防除暦をそのまま使うのではなく、毎年の気温推移を見ながら柔軟に対応することが求められます。
記録の重要性は強調してもしすぎることはありません。農薬の使用日、散布濃度、効果の評価、天候条件などを詳細に記録することで、翌年以降の防除計画に活かせます。デジタルツールを活用した記録管理も普及しており、スマートフォンアプリで簡単に記録できるシステムも登場しています。
最終的には、経済性と持続可能性のバランスを取ることが重要です。防除コストを抑えながら、長期的に安定した防除効果を維持できる体系を目指します。短期的な効果だけを追求して同一農薬を連用すると、やがて抵抗性が発達して防除コストが跳ね上がります。初期投資は多少高くても、天敵や物理的防除資材を導入することで、長期的にはコストを抑えられる可能性があります。
産地ブランドの維持という観点からも、適切な防除戦略は不可欠です。農薬残留や環境負荷の問題は消費者の関心が高く、IPM体系を採用していることは産地の付加価値となります。持続可能な農業実践は、産地の競争力強化にもつながるのです。
Please continue.
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