
日本各地には地域固有の在来種野菜が数多く残されており、現在47都道府県で309品種以上の在来品種が確認されています。代表的な在来種野菜として、関東では練馬大根や谷中生姜、東京独活、滝野川牛蒡、小松菜などが知られています。中部地方では長野県の信州伝統野菜として志げ子なす、ぼたごしょう、上平大根などが栽培されており、山形県では村山地域、最上地域、置賜地域、庄内地域それぞれに特色ある伝統野菜が受け継がれています。
参考)農業生物資源ジーンバンク - 在来品種データベース
在来品種データベース - 農業生物資源ジーンバンク(47都道府県309品種の特性や伝統的利用法を掲載)
関西では京都の京野菜、加賀地方の加賀野菜が著名で、それぞれの地域で古くから栽培されてきた品種改良されていない伝統野菜として位置づけられています。これらの在来種は特定の地域で長年にわたって栽培されることで、その土地の気候風土に適応した独自の特徴を獲得してきました。主要野菜の在来品種として、大根では久留米大長、大阪本長、博多長、長崎長、仙台長など地域名を冠した品種が多数存在します。
参考)http://www.geo-tech.ecnet.jp/gardening/pdf/Native_varieties_of_major_vege.pdf
在来種や固定種の栽培には複数の利点があり、まず長年の地域適応によって病害虫への抵抗力と環境ストレスへの耐性が高まっています。遺伝的多様性が豊富であるため、作物全体の健全性が保たれやすく、F1品種と異なり自家採種が可能なことが大きな特徴です。自家採種を実践すれば、健康な作物から種子を取り出して乾燥・保存することで翌年以降も同じ品種を栽培でき、1粒の種が1シーズンで10粒、100粒と増える経済的メリットもあります。
参考)固定種・在来種の魅力と栽培ガイド - 持続可能な農業と多様性…
固定種・在来種の魅力と栽培ガイド - 持続可能な農業と多様性(適応性、味、自家採種の詳細解説)
在来種は農薬や肥料を必要としない強さを持ち、土地に適応する進化の可能性と味や香りの個性、種をつなぐ循環性といった特徴があります。特に自然栽培においては、在来種の遺伝的多様性が環境変化への適応力を高め、農業の原点と未来をつなぐ重要な役割を果たしています。インドの事例では在来種の綿花が雨が降ればすぐに発芽する適応力を示すなど、自家採種の種は水やりの手間が少ないという実用的なメリットも報告されています。
参考)自然栽培で輝く「固定種・在来種」の魅力|味・文化・種を守る育…
在来種の種子保存において最も重要なのは徹底的な乾燥で、手で触ってカサカサと音がするまで乾燥させることが基本です。保存場所は冷蔵庫の野菜室(5〜10℃)が適しており、この条件下では種子を5年間保存できます。具体的な保存方法として、よく乾燥させた種子と乾燥剤をチャック付きビニール袋や密閉容器に入れて冷蔵庫で保管し、光を避けることが推奨されています。
参考)自家採種のコツ。自家採種する株の見極め方や役立つ道具、保存方…
自家採種の際は健全な親植物から種を選び、種袋の切り口を2回折ってクリップで留めた状態でファスナー付き保存袋に入れ、さらにフタ付きの缶に入れると湿気防止効果が高まります。お茶やのりの筒状空き缶を利用する方法も手軽で効果的です。種子の保存期間は植物の種類によって異なりますが、一般的に1〜3年が目安とされ、保存期間中は定期的に状態をチェックして発芽率を確認することが重要です。
在来種とは昔から日本の自然の中で生きてきた生物を指し、外来種は元々外国で生きていたものが人間の手によって国内にもたらされた生物を意味します。北海道開発局のリストでは、在来種の草花としてアキカラマツ、アキタブキ、エゾスカシユリ、エゾタンポポなど多数が記載されており、外来種としてアカツメクサ、セイヨウタンポポ、オオハンゴンソウなどが区別されています。在来種の木本類として、アオハダ(モチノキ科)、アセビ(ツツジ科)、イロハモミジ(ムクロジ科)、カツラ(カツラ科)などが推奨種としてリストアップされています。
| 分類 | 科名 | 代表種 |
|---|---|---|
| 草本在来種 | キク科 | エゾタンポポ、ヒヨドリバナ |
| 草本外来種 | キク科 | セイヨウタンポポ、オオハンゴンソウ |
| 木本在来種 | モチノキ科 | アオハダ、イヌツゲ |
| 水生在来種 | ガマ科 | ガマ、コガマ |
| 草本在来種 | アヤメ科 | アヤメ、カキツバタ、ハナショウブ |
日本の在来植物には北海道に自生するヒシやミズバショウ、エゾカンゾウ、本州各地に分布するシャガ、カタクリ、ヤマユリなど、地域ごとに特徴的な種が存在します。外来種が過剰に適応すると在来種を追い払う形になることがあるため、在来種による緑化は地域本来の生きものの生息・生育空間の拡大につながり、地域生態系の回復に貢献します。
在来作物の現地保存には重要な意義があり、収量が少ない、形質が揃わない、病害虫に弱い、日持ちが悪く流通が困難といった生産・流通効率の課題があるものの、文化的・生物学的価値は計り知れません。在来品種は古くから農家が種をとったり、挿し木や芋で増やしたりして栽培してきた伝統作物で、近代的な育種の対象とならず遺伝的多様性を保持してきました。2024年には農研機構が10年かけて調査した280品種以上の伝統野菜の在来品種データベースが公開され、品種特性や伝統的利用法、栽培・保存・継承の現状が紹介されています。
参考)伝統野菜の「在来品種データベース」公開 10年かけ調査した2…
地域で採れた種を地域で育て地域で食べる循環は、輸送エネルギーの削減や地域経済の活性化といったメリットを生み、種の保存活動を通じて若者が農業や食に関心を持つきっかけにもなります。在来種は地域の文化や風土とともに歩んできた「食の文化財」であり、単なる品種選択ではなく農業の原点と未来をつなぐかけ橋と位置づけられています。京都では推奨在来種リストが作成され、木本類からシダ植物まで体系的に整理された緑化資材として活用されており、各地域で在来種を活用した持続可能な地域づくりが進められています。
伝統野菜の在来品種データベース公開 - JST Science Portal(280品種の調査結果を掲載)
穀物・雑穀の在来種として岩手県の白ヒエ、岩手キビなどが種苗店で扱われており、これらは救荒作物として重要な役割を果たしてきました。各地の固定種・在来種の種は化学農薬・化学肥料なし、化学種子消毒なしで生産され、家庭菜園でも旬の美味しい伝統野菜を安全に育てられるよう流通されています。
参考)https://shop.gfp-japan.com/?mode=grpamp;gid=2001862