日本列島は南北に長く、四季の変化に富んだ気候風土を持っています。それぞれの地域で、その土地の気候や土壌に適応し、長い年月をかけて受け継がれてきたのが「伝統野菜」です。ここでは、北は北海道から南は沖縄まで、各都道府県を代表する伝統野菜を一覧で紹介します。これらは単なる食材ではなく、地域の食文化や歴史そのものを体現する存在です 。
参考)全国の伝統野菜(地域野菜)を知りたい 野菜コラム
特に「京野菜」や「加賀野菜」などは全国的な知名度を誇りますが、それ以外にも地域限定で愛され続けている希少な品種が数多く存在します。農業従事者の方々にとっては、自身の地域にある遺伝資源の再発見や、新たな栽培品目の検討材料としても役立つでしょう。
| 地域 | 都道府県 | 代表的な伝統野菜 |
|---|---|---|
| 北海道・東北 | 北海道 | 札幌大球キャベツ、札幌黄(玉ねぎ)、まさかりかぼちゃ |
| 青森県 | 糖塚きゅうり、阿房宮(食用菊)、大鰐温泉もやし、南部太ねぎ | |
| 秋田県 | ひろっこ(あさつき)、松館しぼり大根、平良かぶ、山内にんじん | |
| 岩手県 | 暮坪かぶ、安家地大根、琴畑かぶ、南部一郎かぼちゃ | |
| 山形県 | 民田なす、だだちゃ豆、温海かぶ、もってのほか(食用菊)、悪戸いも | |
| 宮城県 | 仙台長なす、仙台白菜、仙台雪菜、曲がりねぎ | |
| 福島県 | 会津地葱、雪中あさづき、荒久田茎立、阿久津曲がりねぎ | |
| 関東 | 群馬県 | 下仁田ねぎ、上泉大根、国分にんじん、高山きゅうり |
| 栃木県 | 宮ねぎ、日光とうがらし | |
| 茨城県 | 赤ねぎ、浮島大根、美野里白菜 | |
| 埼玉県 | 埼玉青なす、岩槻ねぎ、くわい、のらぼう菜 | |
| 千葉県 | 大浦ごぼう、はぐらうり、土気からし菜、松戸白宇宙かぼちゃ | |
| 東京都 | 亀戸大根、練馬大根、金町こかぶ、東京独活、滝野川牛蒡 | |
| 神奈川県 | 三浦大根、足柄茶、津久井在来大豆 | |
| 中部・北陸 | 新潟県 | 黒十全(なす)、かきのもと(食用菊)、大崎菜、女池菜、かぐらなんばん |
| 富山県 | 真黒なす、小佐波みょうが、千石豆、大門素麺(原料小麦) | |
| 石川県 | 打木赤皮甘栗かぼちゃ、源助大根、加賀まるいも、金沢青かぶ、加賀太きゅうり | |
| 長野県 | ねずみ大根、親田辛味大根、松本一本ねぎ、ひしの南蛮、ぼたごしょう | |
| 岐阜県 | 飛騨紅かぶ、飛騨一本太ねぎ、あきしまささげ、菊芋 | |
| 山梨県 | 大塚人参、おちあいいも、鳴沢菜、八幡芋 | |
| 静岡県 | 水掛菜、折戸なす、井川とうもろこし | |
| 愛知県 | 八事五寸にんじん、八名丸(里芋)、治郎丸(ほうれん草)、愛知本長なす | |
| 福井県 | 勝山水菜、越前白茎ごぼう、吉川なす、河内赤かぶ | |
| 近畿 | 滋賀県 | 日野菜、万木(ゆるぎ)かぶ、北之庄菜、杉谷なす |
| 三重県 | 伊勢いも、御薗大根、桑名竹の子 | |
| 奈良県 | 大和まな、ひもとうがらし、大和いも、宇陀金ごぼう、結崎ネブカ | |
| 大阪府 | 勝間南瓜、守口大根、泉州水なす、毛馬胡瓜、天王寺かぶ | |
| 京都府 | 聖護院大根、賀茂なす、壬生菜、えびいも、鹿ヶ谷かぼちゃ、堀川ごぼう | |
| 和歌山県 | 青身大根、湯浅なす | |
| 兵庫県 | 岩津ねぎ、武庫一寸蚕豆、尼崎あんかけ | |
| 中国・四国 | 香川県 | マンバ(高菜の一種)、三豊ナス |
| 愛媛県 | 伊予緋かぶ、庄大根、松山長なす | |
| 徳島県 | ごうしゅいも、木頭ゆず | |
| 高知県 | 田村かぶ、潮江菜 | |
| 鳥取県 | 伯州ねぎ、大山ブロッコリー(在来系統) | |
| 岡山県 | 衣川なす、万善かぶ、備前黒皮かぼちゃ | |
| 島根県 | 津田かぶ、出雲おろち大根 | |
| 広島県 | 広島菜、観音ねぎ、青大きゅうり、笹木三月子 | |
| 山口県 | とっくり大根、岩国赤大根、萩ごぼう | |
| 九州・沖縄 | 福岡県 | 三池高菜、かつお菜、博多長なす |
| 大分県 | 宗麟かぼちゃ、久住高菜 | |
| 宮崎県 | 佐土原なす、日向黒皮かぼちゃ、糸巻き大根 | |
| 熊本県 | 阿蘇高菜、熊本京菜、水前寺もやし、ひご野菜 | |
| 佐賀県 | 女山大根、唐津赤水菜 | |
| 長崎県 | 長崎はくさい、長崎赤かぶ、辻田白菜 | |
| 鹿児島県 | 桜島大根、隼人うり | |
| 沖縄県 | 島にんじん、島らっきょう、モーウイ、田いも、ハンダマ |
全国の伝統野菜のリストと詳細はこちらが参考になります。
伝統野菜には、法律による厳密な統一基準はありませんが、一般的に「その土地で古くから(概ね明治時代以前、あるいは昭和20年代以前から)栽培され、種採り(自家採種)によって系統が維持されてきた野菜」と定義されることが多いです 。これに対し、スーパーマーケットで一般的に流通している野菜の多くは「F1種(一代交配種)」と呼ばれ、異なる親を掛け合わせて特定の形質(揃いの良さ、耐病性など)を一代限りで発現させたものです。
参考)【伝統野菜について】伝統野菜の定義と日本の野菜の変遷 – 【…
伝統野菜の最大の特徴は「固定種(在来種)」であることです。何代にもわたって種を採り続けることで、その土地の気候や風土に適応した遺伝形質が固定されています。そのため、以下のような際立った特徴を持っています。
【伝統野菜について】伝統野菜の定義と日本の野菜の変遷
※伝統野菜の定義や歴史的背景について詳しく解説されています。
伝統野菜は、その希少価値やブランド性が注目される一方で、生産現場では多くの課題を抱えています。農業従事者の方なら実感されることかと思いますが、F1種に比べて栽培には高度な技術と多くの手間が必要です 。
参考)伝統野菜をどう支えるか?「シビック・アグリカルチャー」の視点…
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a0ec7e670f10aba0400734399b26ee0d2aedf905
伝統野菜をどう支えるか?「シビック・アグリカルチャー」の視点
※伝統野菜の持続可能性や経済的な課題について、社会学的な視点から深く分析されています。
近年、こうした課題を克服し、地域活性化の起爆剤として伝統野菜を「復活」させ、ブランド化に成功する事例が増えています。その先駆けとなったのが京都の「京野菜」であり、石川県の「加賀野菜」や東京都の「江戸東京野菜」などが続きました 。
参考)伝統野菜はおもしろい
ブランド化の成功には、単に野菜を売るだけでなく、その背景にある「物語(ストーリー)」と「食文化」をセットで提案することが不可欠です。
復活プロジェクトの多くは、行政、JA、農家、そして地元の大学や市民団体が連携する「産官学民」の体制で進められており、単なる農業振興の枠を超えた地域づくりの様相を呈しています 。
最後に、農業従事者として最も注目すべき視点は、伝統野菜が持つ「遺伝資源」としての価値と「自家採種」の重要性です。
現代の農業は、種苗会社から毎年F1種の種を購入するスタイルが主流ですが、伝統野菜は農家自身が優れた株を選抜し、種を採って翌年に繋ぐ「自家採種」が基本です。これは単に種代の節約という意味ではありません。
伝統野菜の栽培は手間がかかり、経済的なハードルも高いですが、それは単なる懐古趣味ではありません。未来の農業が直面するであろう気候変動や食料危機に対して、私たちの先祖が残してくれた「生存のための切り札」を守り育てるという、極めて先進的で意義深い取り組みなのです。