堆肥をたっぷり施しているのに、銅欠乏症が発生して小麦の不稔率が30%を超え、10a当たりで数万円分の収量が吹き飛ぶことがあります。
銅(Cu)は植物にとって必須の微量元素のひとつです。必要量はごくわずかですが、その働きは光合成・呼吸・病害抵抗性の3つの柱に深く関わっています。
葉緑体の中にはプラストシアニンというたんぱく質が存在しており、その中心金属が銅です。光合成の電子伝達系でアンカー役を担っているため、銅が不足すると光合成の効率がダイレクトに低下します。また、ミトコンドリア内でエネルギー貯蔵物質ATP(アデノシン三リン酸)を生成するチトクロームオキシダーゼという酵素にも銅が必要で、ヘム鉄と同量の銅が使われています。
つまり、銅は植物の「呼吸と光合成の両輪」を動かしている元素です。
さらに、銅はポリフェノールオキシダーゼなどの銅酵素としても機能し、病害虫が植物細胞を傷つけた際にフェノール類を生成して自己防御反応を起こします。農薬のボルドー液が100年以上使われ続けている背景のひとつは、この銅の抗菌・免疫機能を利用していることにあります。
銅酵素が体内酸化・還元反応の触媒として働く、ということも忘れてはなりません。葉のたんぱく質合成にも直接関与しており、銅が不足すると遊離アミノ酸が増えてアブラムシを誘引しやすくなることも報告されています。これが「銅欠乏症は病害虫被害の呼び水になる」と言われる理由の一つです。
銅欠乏症の最も代表的な症状は新葉(上位葉)の黄化です。鉄欠乏と混同されやすいですが、鉄欠乏も新葉から発生するため、見分けが重要になります。
銅欠乏では、葉脈を残して葉脈間が黄白化する「葉脈間クロロシス」が特徴的です。初期段階では上位葉が淡緑色になり、その後黄化・白化が進みます。
意外ですね。
さらに進行すると葉全体が黄化し、新葉が巻き上がったり筒状に丸まる奇形が生じます。北海道農業研究本部の資料によると、トマトでは上位葉が筒状に表側へ湾曲し、中位葉では主脈沿いの隆起と葉縁部の巻き上がりが観察されています(-Cu処理5週目以降)。
鉄欠乏との違いを整理すると以下のとおりです。
| 項目 | 銅欠乏 | 鉄欠乏 |
|---|---|---|
| 発生部位 | 新葉〜上位葉 | 新葉(生長点側) |
| 葉脈の色 | 葉脈を残して黄化 | 葉脈も含め黄化しやすい |
| 葉の形状 | 奇形・巻き上がり・筒状湾曲 | 形状は比較的正常 |
| 進行速度 | 比較的ゆっくり | 急速に黄白化 |
タキイ種苗の資料では、ナス科作物では下葉がしおれたように下垂し、上位葉は葉脈部を残して黄化するという症状が確認されています。生育は抑えられるものの、障害部の枯死にはいたらないケースも報告されています。
葉の形状の異常に注意が必要です。
銅欠乏症の症状は作物によって異なります。圃場で「何かおかしい」と感じたとき、作物ごとの典型的な症状を知っておくことが、素早い診断につながります。
小麦・大麦(コムギ・オオムギ)では、銅欠乏による不稔(ふねん)が最も深刻な問題です。花粉内デンプンの欠如が不稔の直接原因であることが明らかにされており(Graham, 1975)、雄性不稔として現れます。北海道では腐植の多い黒ボク土地帯(十勝・網走周辺など)で発生事例が多く記録されています。茎の下部のBrix糖度が低下するため、間接的な判定法としても活用されます。
キュウリでは、葉脈間の黄化症状と上位葉の奇形が代表的です。まだらに緑を残す不規則な黄化が葉全面に現れ、やがて葉脈間に壊死斑が出現します。北海道農業研究本部(メロン編)によると、上位葉では節間が短縮し、生育が著しく停滞するとされています。
トマトでは、初め下位葉の葉脈間に表皮剥離状の黄化症状が現れ、壊死斑へと変化します。-Cu処理2週目で4葉期に既に症状が確認されており、進行すると上位葉〜中位葉で奇形(筒状湾曲・主脈沿いの隆起)が観察されます(北海道農業研究本部)。
メロンでも同様に、下位葉からのまだら黄化→葉脈間壊死という経過をたどります。上位葉と下位葉で症状が同時進行するのが特徴で、果実品質への影響も大きいです。
オクラでは、新葉が奇形化し、葉の裏面の葉脈が部分的に黒色化することがあります。あるいは上位葉〜新葉がモザイク状に黄化するパターンも確認されています(高知県農業振興部)。
これが作物別に症状が違う理由、ということですね。
銅欠乏の怖いところは、葉の黄化だけでなく「実が入らない」という収量への直撃ダメージにあります。
これは知らないと損するポイントです。
銅は花粉形成に不可欠な元素であり、不足すると雄性不稔(花粉が正常に形成されない状態)が発生します。サンビオティックの専門記事によると、「生殖生理にも問題が発生し、不稔が発生しやすくなる(主に雄性不稔、花粉不足となる)」とされています。
小麦では銅欠乏による不稔が顕著で、「0.1N塩酸可溶銅が0.2ppm以下が危険水準」と青森県産業技術センターの資料で示されています。この水準を下回ると収量への深刻な影響が出やすくなります。
また、銅欠乏が進んだ圃場では遊離アミノ酸が増加し、アブラムシを誘引しやすくなります。これは単なる栄養障害にとどまらず、害虫被害が複合して発生するリスクを意味します。葉の黄化・奇形→光合成低下→株全体の弱体化→病害虫被害という悪循環に入ると、被害は何倍にも広がります。
不稔が出たら収量回復は難しい、ということが原則です。
銅欠乏が疑われる圃場では、穂が出揃った時期に「穂の中がスカスカになっていないか(不稔穂)」を確認することも有効な現場診断の手がかりになります。穂を一つ折って中の籾を触ってみると、正常な充実した籾と空洞の不稔籾の違いが手で感じられます。
銅欠乏は「どんな圃場でも起きる」わけではありません。発生しやすい土壌条件を知っておくことで、リスクの高い圃場を事前に絞り込めます。
最もリスクが高いのは黒ボク土(腐植質火山灰土壌)です。北海道・東北(岩手・青森など)に広く分布するこの土壌は、腐植が銅と強く結合してしまうため、土壌中に銅が存在していても作物が吸収できない「潜在的欠乏」が起きやすい特徴があります。北海道農業研究本部の資料では「腐植に富む砂壌土地帯および酸性腐植質の黒ボク土(火山性土)地帯では発生することがある」と明記されています。
次に注意が必要なのが土壌pHの上昇(アルカリ化)です。pH 7.0以上になると銅が不溶性になり、作物が吸収できなくなります。石灰・苦土石灰の過施用で起きやすく、柑橘類(みかんなど)では「石灰や苦土石灰の過施用で若木に2〜3年で銅欠乏が発生する」(農業害虫・病害情報基地)という記録があります。
| 発生しやすい土壌条件 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 黒ボク土(火山灰土) | 北海道十勝・網走周辺、岩手・東北北部など |
| 高pH土壌(アルカリ) | pH 7.0以上、石灰多投入圃場 |
| 腐植・有機物の多用 | 堆肥多投入、泥炭土、多腐植黒ボク土 |
| リン酸・鉄・亜鉛の過剰 | 施肥バランスが偏った圃場 |
| 砂質土壌 | もともと銅含量が低い場合 |
リン酸・鉄・亜鉛の過剰も銅欠乏の引き金になります。これらの元素は銅と拮抗関係にあるため、どれかが過剰になると銅の吸収が妨げられます。
これが基本です。
「土づくりのために堆肥をたくさん入れているのに、なぜ銅欠乏が起きるのか?」という疑問を持つ農家さんは多いです。
これは意外ですね。
実は、堆肥など有機物を大量に施用することで土壌中の腐植量が増加し、銅が腐植物質に強く吸着されて「不溶化」してしまいます。銅は存在しているのに、植物が吸収できる形態でなくなるのです。サンビオティックの専門記事でも「多量の有機物(堆肥や腐植)は、銅を固定(不溶化)する」と明記されています。
さらに注意が必要なのが豚糞堆肥の多用です。豚の飼料には増体重促進のため銅・亜鉛が多く添加されており、それが糞として排泄されます。一般に流通する豚糞堆肥を分析すると、銅は100〜500ppm(平均約200ppm)、亜鉛は200〜1,000ppm(平均約500ppm)が含まれているというデータがあります。
これを逆算すると、堆肥1tで銅が約200g・亜鉛が約500g含まれています。野菜1玉が200〜300gほどと考えると、堆肥1袋(20kg)で銅が約4gも投入されることになります。長期連用すると銅過剰症に転じるリスクもあり、「欠乏したから入れよう」という単純な対応が逆効果になることがあります。
豚糞堆肥の連用は、銅過剰と銅欠乏の両方を引き起こしうる、という点が条件です。
銅の過剰・欠乏どちらも問題になりうるため、堆肥の種類と投入量を把握したうえで、数年に1度の土壌分析を行うことが最も効率的なリスク管理です。
圃場でよく見られる「葉の黄化」には、銅欠乏以外にも多くの原因があります。誤診したまま対策を打っても改善しないどころか、他の障害を悪化させる恐れがあります。
特に混同しやすいのは鉄欠乏・マンガン欠乏・亜鉛欠乏の3つです。
| 欠乏要素 | 発生部位 | 特徴 |
|---|---|---|
| 銅欠乏 | 新葉〜上位葉 | 葉脈残して黄化・葉の奇形・不稔・巻き上がり |
| 鉄欠乏 | 新葉(生長点側) | 葉脈を残して黄白化・形状は正常なことが多い |
| マンガン欠乏 | 中上位葉 | 葉脈間が淡緑〜黄色に・しま状が明瞭 |
| 亜鉛欠乏 | 新葉〜中葉 | 節間が詰まりロゼット状に・葉脈間黄化 |
農林水産省の施肥基準資料によると、亜鉛欠乏は「生長が停止し、節間がつまり葉がロゼット状になる」という形状の変化が特徴です。一方、銅欠乏では節間の詰まりよりも葉の奇形(筒状湾曲・巻き上がり)が目立ちます。
また、銅欠乏と病害虫被害の症状が類似することもあります。柑橘類では夏秋梢が黒点病の濃厚感染のように褐色になり、表皮が数ミリ盛り上がって内部にヤニがたまるゴムポケットを生じます(農業害虫・病害情報基地)。これを病害と見誤って殺菌剤を散布しても改善しないケースがあります。
タキイ種苗の資料にも「症状が生理障害に類似した病虫害もあり、区別が難しい場合がある」と記載されています。
厳しいところですね。
診断に迷ったときは、農協や公的な農業試験場・農業改良普及センターに相談するのが最も確実です。
農林水産省 施肥基準関連資料(養分欠乏・過剰症状の解説)。
農林水産省 – 主な養分の欠乏と過剰(PDF)
銅欠乏は「土壌中に銅がない」場合だけでなく、「銅はあるのに植物が吸えない」状態でも起きます。この違いを理解することが、対策の精度を高めるポイントです。
植物が根から吸収できる銅は「可給態銅」と呼ばれ、土壌溶液に溶け出している状態のものに限られます。土壌の全銅含量が多くても、pH・有機物・拮抗イオンの状態次第で可給態銅の量は大きく変わります。
土壌pHが上昇するほど銅は不溶化しやすくなります。pH 7.0を超えるアルカリ域では銅の大部分が水酸化銅などの難溶性形態になり、植物は吸えなくなります。逆に、pH 5.0〜6.5程度の弱酸性〜やや酸性域が銅の可給性が最も高い範囲です。
岩手県農業試験場の調査(「銅欠乏土壌に関する調査研究 第1報」)では、岩手県下の火山灰土壌において銅欠乏症状が麦類を中心に確認されており、土壌の0.1N塩酸可溶銅量が低い圃場での発生が報告されています。土壌中の全銅量では判断できない点が、診断を複雑にしています。
銅欠乏の可給態銅の欠乏限界値については諸説ありますが、小麦では「0.1N塩酸可溶銅(1:5抽出)が0.2ppm以下を危険水準」とする報告(青森県産業技術センター)や、岩手県の土壌肥料研究では可給態銅の欠乏限界値について従来の1ppmから見直した報告もあります。
数字だけ覚えておけばOKです。
土壌診断を依頼する際は、全銅だけでなく「可給態銅(0.1N塩酸可溶銅など)」の項目が含まれているか確認することをおすすめします。
銅欠乏が確認された、または強く疑われる場合、最も基本的な対策は硫酸銅(りゅうさんどう)の土壌施用です。
タキイ種苗の資料によると、土壌施用の目安量は以下のとおりです。
10aは東京ドームの約1/44の面積です。この広さに対して2〜4kgの硫酸銅が目安となります。
ただし、硫酸銅は劇物指定の資材です。取り扱いには注意が必要で、素手での作業を避け、保護手袋・ゴーグルの着用が推奨されます。北海道農産協会(良質小麦生産のための施肥・土壌管理資料)でも「硫酸銅は劇物なので取扱に注意する」と明記されています。
また、銅は土壌中に蓄積しやすい元素です。過剰施用は銅過剰症を引き起こし、根の伸長阻害・鉄欠乏の誘発という新たな問題が生じます。「欠乏したから念のため多め」という考え方はダメです。
土壌施用の前には必ず土壌分析を行い、現在の可給態銅量を把握してから施用量を決めることが鉄則です。数年に1度の定期的な土壌分析が、銅の過不足を防ぐ最も確実な手段です。
硫酸銅以外の選択肢として、銅入り微量要素肥料(キレート銅含有の複合液肥など)の活用も有効です。こちらは一般的に使い勝手がよく、土壌施用・葉面散布どちらにも対応できる製品が市販されています。
銅欠乏症が進行中の圃場では、土壌施用よりも即効性のある葉面散布が有効です。土壌からの吸収を待たずに、葉から直接銅を補給できるため、症状の悪化を早期に食い止められます。
農研機構(北海道農業研究センター)の資料によると、秋まきコムギに対する銅の葉面施用で明らかな増収(指数110%以上)が認められた地点は30%に達したという結果が出ています。この「110%以上の増収」というのは、葉面散布だけで収量が1割以上変わることを意味します。
これは使えそうです。
葉面散布の具体的な方法は以下の通りです。
注意が必要なのは、高濃度の硫酸銅を散布すると薬害が発生する点です。岩手県農業試験場の第2報では「葉面散布によって薬害の徴候を発生したことに起因するものと考えられる」という収量低下事例が報告されています。
濃度は必ず守ることが条件です。
なお、コムギの銅欠乏研究(農研機構・農業知識ベース引用)では、「銅欠乏であれば葉面散布から1週間も経過すれば効果は現れる」とされており、判断のスピードが改善につながります。葉面散布後1週間様子を見て、新葉の色が戻ってくるかどうかが確認ポイントです。
ボルドー液・無機銅水和剤を病害防除の目的で定期散布している圃場では、この作業と同時進行で銅補給もできるため、一石二鳥の効果が期待できます。
農研機構 北海道農業研究センター:秋まきコムギに対する微量要素(銅・マンガン)の施用指針
農研機構 – 秋まきコムギ微量要素施用指針(PDF)
銅欠乏症は、発症してから対処するよりも、土壌分析で事前にリスクを把握する方がはるかに効率的です。症状が出た時点ですでに収量へのダメージは始まっているためです。
土壌分析では、以下の項目を重点的に確認します。
土壌分析は農協や農業改良普及センター、あるいは民間の土壌分析サービスに依頼できます。費用は項目数によりますが、基本セットで1圃場あたり3,000〜8,000円程度が目安です。数年に1回の分析コストは、銅欠乏による収量ロス(数万円〜数十万円)と比べると非常に小さいです。
定期的な土壌分析が基本です。
分析結果で可給態銅が低い場合でも、すぐ施用するのではなく「なぜ低いのか」の原因を確認することが重要です。pH過多なら石灰施用を控えてpH調整が先決で、有機物による固定なら施用量を見直す必要があります。
原因に合わせた対策が条件です。
タキイ種苗の銅欠乏診断資料(診断法と対策)。
タキイ種苗 – 銅欠乏(生理障害情報)
銅は欠乏症だけでなく、過剰症も深刻な障害を引き起こします。特に豚糞堆肥を長年使い続けてきた圃場では、知らない間に銅が蓄積してしまうリスクがあります。
銅過剰症の主な症状は、根の伸長が妨げられ、側根の発達が抑制されることです。養液栽培では鉄欠乏を誘発し、上位葉の葉脈間の緑が薄くなることがあります(島根県農業技術センター資料)。地上部の異常は土耕よりも養液栽培で出やすいという特徴があります。
前述のように、豚糞堆肥には銅100〜500ppm(平均200ppm)が含まれており、堆肥1tあたり銅200gが投入される計算です。これを年間2〜3t/10a使い続けると、10年間で2〜3kgの銅が圃場に蓄積します。農用地土壌の銅汚染基準は125mg/kg(農用地土壌汚染防止法)であり、長年の多用で基準に近づくリスクがゼロではありません。
ただし、農薬として使うボルドー液・無機銅水和剤の定期散布も積み重なれば銅蓄積につながります。熊本県農業研究成果情報でも「土壌への硫酸銅の施用は、回数が多いと土壌中の銅過剰となるおそれがあるので注意する」と明記されています。
痛いですね。
欠乏と過剰の両方に注意が必要、というのが銅管理の難しさです。「とりあえず入れておけば安心」という考えは禁物で、土壌分析で現状を把握してから判断するのが正解です。
「葉が少し黄化しているだけ」と思って放置してしまうケースは現場では少なくありません。しかし、銅欠乏を放置することで、収量・品質に対する影響は広範囲に及びます。
まず光合成効率の低下です。葉緑体の電子伝達系に必須のプラストシアニン(銅含有たんぱく質)が不足すると、光合成でつくり出せるATP量が減ります。ATPはすべての植物代謝のエネルギー源ですから、生育・肥大・糖度・色づき・貯蔵性など農産物の品質全体に波及します。
次に、不稔の発生による直接的な収量ロスです。特に麦類では雄性不稔が深刻で、充実した籾が入らない不稔穂が発生します。北海道農業研究本部の調査では、小麦の銅欠乏は土壌の0.1N塩酸可溶銅が0.2ppm以下の圃場で多く発生しており、不稔による収量ロスは無視できないレベルになります。
また、銅欠乏による遊離アミノ酸の増加はアブラムシ誘引を促し、これがウイルス病(モザイク病・萎縮病など)の媒介につながる二次被害のリスクも高まります。アブラムシ→ウイルス→全株被害という連鎖は、場合によっては圃場全体の廃棄につながります。
つまり、銅欠乏の放置は収量・品質・病害虫被害の3方向にダメージが積み重なるということです。早期発見・早期対処が最大の収量保全になります。
収量への影響が大きい点に注意が必要です。
「銅が足りていると農薬コストが下がる」という視点は、銅欠乏の記事ではほとんど語られていません。しかし、これは現場にとって非常に実践的な知識です。
銅酵素(ポリフェノールオキシダーゼ・ラッカーゼなど)は植物の免疫応答に直接関わっており、病原菌が侵入した際にフェノール系の殺菌物質を生成します。銅が十分にある株は「自分で菌と戦う力」を持っており、その分、外部からの農薬散布に頼る度合いが低くなります。
農業でよく使われるボルドー液・無機銅水和剤は、植物の外部から銅を補給しつつ、病害予防も同時に行うという一石二鳥の資材です。ボルドー液は100年以上前から使われている歴史ある農薬ですが、その効果の根底には「銅の抗菌作用と植物への銅補給」の2つが同時に働いているという仕組みがあります。
銅欠乏が続いていると、免疫力が低下した株が病害虫に狙われやすくなります。結果として殺菌剤・殺虫剤の散布回数が増え、農薬コストがじわじわ上がっていきます。これが「銅欠乏は農薬代に跳ね返る」メカニズムです。
逆に言えば、銅の可給性を適切なレベルに保つことは、農薬コストを下げる間接的な投資でもあります。
これは使えそうです。
圃場の銅管理状態を見直すだけで、年間の農薬散布コストに変化が出るケースもあります。圃場ごとに土壌分析を行い、銅の可給性を確認することが最初のアクションです。
サンビオティック公式ブログ – 植物と銅(銅欠乏の要因・症状・対策を詳しく解説)。
サンビオティック – ミネラル第10回 植物と銅
銅欠乏症を早期に発見するためには、「どこを・いつ・どう見るか」の観察ルーティンを持つことが重要です。
チェックする場所のポイントとして、まず新葉(上位の若い葉)を見ることが基本です。銅欠乏は移動性が低い元素のため、既存の葉より新しく伸びてくる葉から異常が出やすい特徴があります。下位葉から始まる症状(例:マグネシウム欠乏や窒素欠乏)と区別するうえで重要な着眼点です。
チェックするタイミングは、作物の生育が活発な時期(茎葉が旺盛に伸びている時期)が最も発見しやすいです。開花期前後は特に注意が必要で、この時期に不稔につながる銅欠乏が潜んでいると、後から対処しても手遅れになりやすいです。
現場での簡易チェックとして、以下のサインを定期的に確認します。
これらのサインが複数重なっている場合は、銅欠乏の可能性が高まります。疑わしければ速やかに土壌分析または植物体分析を依頼し、原因を特定することが大切です。
診断の精度が収量を守る、ということが原則です。
農業改良普及センターや農協の栽培相談窓口は、こうした症状の写真を持参すれば具体的なアドバイスをもらえることが多いです。圃場に変化を感じたら、一人で抱え込まずに相談する行動が最も早い解決につながります。
北海道農業研究本部 – 銅欠乏(トマト・メロンの微量要素欠乏症情報)。
北海道農業研究本部 – 銅欠乏症状の特徴と発生条件