豚糞堆肥を毎年同じ量まいているだけでは、5年後に畑のリン酸濃度が危険水準を超えて作物が逆に育たなくなることがあります。
豚糞堆肥の最大の特徴は、三大要素のうちとくにリン酸が突出して高い点です。千葉県農林総合研究センターのデータによると、副資材なし(ふん主体)の豚糞堆肥の平均的な成分は、窒素3.0%・リン酸5.3%・加里2.3%となっています。窒素2〜3%という値は牛糞堆肥(1〜1.7%程度)の約2倍に相当し、肥料成分としての密度がかなり高い資材です。
この数字をわかりやすく言い換えると、豚糞堆肥を10aに1トン施用した場合、窒素を30kg・リン酸を53kg・加里を23kg投入していることになります。一般的な野菜の窒素施肥基準が10a当たり15〜25kg前後であることを考えると、堆肥だけで施肥基準の窒素量を超えてしまうケースも珍しくありません。
つまり施肥量の計算が必須です。
ただし、副資材(おがくず・もみ殻)を混合した製品では、成分量はおよそ半分程度(窒素1.4%・リン酸2.8%・加里1.6%)まで低下します。購入時に製品ラベルの成分表示を確認することが基本です。
参考リンク(千葉県・畜種別堆肥の成分の実測値を掲載)。
畜種別堆肥の特徴/千葉県
豚糞堆肥には三大要素だけでなく、銅・亜鉛・マンガン・マグネシウムといった微量要素も含まれています。これらは少量なら作物の酵素活性や光合成を助ける必須の栄養素です。豚糞堆肥のマグネシウム(苦土)含量はふん主体で1.8%ほどあり、葉緑素の生成を支える役割が期待できます。
注目すべきはリン酸と並ぶ問題点として挙げられる銅と亜鉛の含有量です。農水省の調査では、豚糞堆肥の銅含量は400〜1000mg/kg、亜鉛含量も同様に高い傾向があります。これは牛糞堆肥(銅100〜300mg/kg)と比べて明らかに高い水準です。
意外ですね。
なぜ豚糞にこれほど銅・亜鉛が多いかというと、豚の成長促進・疾病予防を目的として飼料中に銅・亜鉛が添加されているからです。豚がそれを吸収しきれず、ふんとして排出される分が堆肥に蓄積されます。微量要素が豊富という点はメリットですが、後述するように過剰施用時のリスクにもなります。
参考リンク(農水省の堆肥成分と肥効に関する解説)。
堆肥の肥料効果について(農林水産省)
動物性堆肥の中で豚糞堆肥がどこに位置するかを整理すると、肥料成分の高さは「鶏糞 > 豚糞 > 牛糞 > 馬糞」の順です。土壌改良効果は逆に「馬糞 > 牛糞 > 豚糞 > 鶏糞」の順に高くなります。
| 堆肥の種類 | 窒素(%) | リン酸(%) | 加里(%) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 豚糞(ふん主体) | 3.0 | 5.3 | 2.3 | 肥料寄り |
| 鶏糞(採卵鶏) | 2.5 | 6.6 | 3.6 | 肥料寄り |
| 牛糞(水分50%未満) | 1.7 | 1.75 | 2.95 | 土壌改良寄り |
| 馬糞 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | 土壌改良寄り |
※千葉県農林総合研究センター公表データより
豚糞堆肥は牛糞堆肥と比べるとC/N比(炭素窒素比)が8.4と非常に低く、土壌中での分解スピードが速い特徴があります。牛糞堆肥のC/N比13〜17に対して約半分以下であるため、施用してから数週間で肥料効果が現れる即効性があります。
これは使えそうです。
一方で、鶏糞堆肥には石灰(カルシウム)が約17%も含まれますが、豚糞堆肥の石灰含量はふん主体で5.4%と控えめです。そのため、豚糞堆肥を使う場合は別途石灰資材による酸度調整が必要になることがあります。
参考リンク(動物性堆肥の種類・成分比較を詳しく解説)。
動物性堆肥(鶏糞・豚糞・牛糞・馬糞)の種類とメリット(BioSoil)
豚糞堆肥を毎年継続投入している農家が陥りやすいトラブルの筆頭が、リン酸の土壌蓄積による過剰障害です。豚糞(ふん主体)のリン酸含量は5.3%と非常に高く、1作ごとに正確な施肥計算を行わないとリン酸は蓄積し続けます。
土壌にリン酸が過剰に蓄積されると、何が起こるのでしょうか?作物に必要な亜鉛・マンガン・鉄などの微量元素が根から吸収されにくくなる「拮抗障害」が発生します。農研機構のマニュアルには「家畜糞堆肥に多く含まれているリン酸が蓄積すると、野菜にとって必須の微量要素である亜鉛や銅、マンガンなどが欠乏することがある」と明記されています。
リン酸過剰の状態は外見からは判断しにくいため、気づかないうちに収量が落ちているケースが多いのが現実です。農水省の指針では「豚糞・鶏糞堆肥の連用過剰施用によりリン酸とカリが蓄積するため、化学肥料のリン酸・カリを1/3程度に減量する」よう推奨されています。
リン酸過剰に注意が必要です。
この問題を未然に防ぐ有効な方法が定期的な土壌診断です。都道府県の農業試験場や農業改良普及センターでは土壌分析を受け付けており、可給態リン酸の数値を把握したうえで施用量を調整することが、長期的な土壌の健全維持につながります。
銅と亜鉛の蓄積リスクは、豚糞堆肥特有の課題です。農水省が公表した調査データでは、豚糞堆肥を年2回・10aあたり2t程度施用し続けた野菜農家の圃場で、8〜14回の施用後に土壌中の銅・亜鉛濃度が管理基準値に近づいた事例が報告されています。
銅・亜鉛は一度土壌に蓄積されると、自然には抜けにくい性質があります。
これが条件です。
農業用地の土壌では、亜鉛の管理基準(農用地における土壌中の重金属等の蓄積防止に係る管理基準)が設けられており、この値を超えると作物への生育障害が出る可能性が高まります。
対策として実践できることは主に2つです。第一に、豚糞堆肥の施用頻度と施用量を土壌分析結果に基づいて調整すること。第二に、豚糞堆肥と牛糞堆肥・バーク堆肥を組み合わせてローテーションさせることで、銅・亜鉛の年間投入量を抑える方法があります。
肥料法(旧肥料取締法)の改正により、豚糞堆肥などの特殊肥料には銅・亜鉛の含有量を表示ラベルに記載することが義務づけられています。袋のラベルを確認するだけで投入量の管理ができるため、購入時に必ずチェックしてください。
参考リンク(野菜畑への豚糞施用に伴う銅・亜鉛の土壌蓄積を研究した農研機構の成果)。
野菜畑への豚ぷん施用に伴う銅・亜鉛の土壌蓄積と施用量(農研機構)
豚糞堆肥の成分が正しく機能するかどうかは、腐熟度(発酵の完成度) によって大きく左右されます。
腐熟が重要です。
未熟な豚糞堆肥を施用した場合、土壌中でアンモニアガスが急発生し、根焼け・発芽障害・生育停滞といった作物障害を引き起こします。
腐熟度の簡易判断法として農業現場でよく使われる手順があります。
- においチェック:完熟品は土のような落ち着いたにおいがします。アンモニア臭や酸っぱい臭いが強い場合は未熟の可能性があります。
- 水分チェック:堆肥を手で強く握り、指の間から水が滴る場合は水分過多で腐熟が不十分なことが多いです。
- EC値チェック:EC差(電気伝導度の差)が0.1以下を完熟の目安とする方法が、愛知県の試験場で確立されています。豚糞堆肥はもとのアンモニア含量が多いため、EC差による腐熟判定が特に有効とされています。
未熟堆肥に含まれる窒素は有機態窒素として土壌に入り込み、急速な分解とともに大量のアンモニアを発生させます。これにより種子の発芽率が著しく低下するほか、根の生長点が傷んで収量が大幅に落ちるリスクがあります。市販の完熟豚糞堆肥を選ぶか、自家製堆肥の場合は最低でも3〜6か月以上の発酵期間を確保することが原則です。
適正な施用量を計算せずに「例年と同じ量」で投入し続けるのは、積み重なった成分過剰のリスクがあります。正しい計算手順を一度理解しておくと、毎作の施肥判断がずっとシンプルになります。
宮城県の施肥基準を例に取ると、豚糞堆肥の窒素肥効率は50%、リン酸肥効率は90%、加里肥効率は90%です。たとえば窒素2.5%・リン酸4%の豚糞堆肥を10aに400kg施用した場合の有効成分量は次のように計算されます。
- 窒素:400kg × 2.5% × 50% = 5kgN/10a
- リン酸:400kg × 4% × 90% = 14.4kgP₂O₅/10a
- 加里:400kg × 3% × 90% = 10.8kgK₂O/10a
この値が作物の施肥基準を超えていないかを照合し、超える成分については化学肥料を減量または省略します。
化学肥料との組み合わせが基本です。
実際には堆肥の成分は製品ごとにバラつくため、成分分析表(製品ラベルや出荷票)の数値を使って計算するのが精度の高い方法です。
参考リンク(千葉県の堆肥施用量計算フロー・肥効率の参考値が確認できます)。
堆肥施用量の算出法/千葉県
豚糞堆肥のリン酸・窒素が豊富という特性を活かすには、リン酸要求量が高い作物や元肥として早めに施用する場面に適しています。具体的な相性のよい作物としては、じゃがいも・たまねぎ・きゅうり・レタス・ほうれん草・インゲン豆などが挙げられます。これらの作物ではリン酸が根の発達と果実肥大を後押しする効果が期待できます。
施用のタイミングは、植え付け・播種の1〜2週間前に元肥として土に鋤き込むのが基本です。直前施用だと即効性が高い豚糞堆肥の場合、分解熱やアンモニアの影響で根が傷むことがあります。また、ハウス栽培では換気が不十分な状態で施用するとガス害が出やすいため、施用後は数日間のハウス開放が推奨されます。
一方、豚糞堆肥が不向きなシーンもあります。酸性土壌を好むブルーベリー・イチゴなどはpH8.5前後のアルカリ側に傾きやすい豚糞堆肥との相性が悪く、施用量に注意が必要です。トマト・ナスのような窒素過剰に敏感な作物では、着果前に豚糞堆肥を多用すると茎葉ばかりが茂って着果が乱れるいわゆる「過繁茂」につながる場合があります。
豚糞堆肥を継続利用している農家にとって、土壌診断は投資以上のリターンをもたらすツールです。土壌診断で得られる情報には、可給態リン酸・交換性カリウム・銅・亜鉛濃度・pH・ECなどが含まれており、これらを年1〜2回把握することで「投入してよい成分量」が明確になります。
土壌診断の受け方は主に2つのルートがあります。
- 都道府県の農業改良普及センター・農業試験場:比較的低コストで、地域の施肥基準に即したアドバイスが受けられます。
- 民間の土壌診断サービス:「みどりの食料システム戦略」普及を背景に、スマート農業関連のサービスが増えており、スマートフォンから申し込み・結果確認ができるサービスも登場しています。
土壌診断の結果をもとに施肥設計を見直した農家では、化学肥料の投入量を30〜40%削減しながら収量を維持できた事例も報告されています。
これは大きなコスト削減です。
豚糞堆肥の成分をフルに活かすためには、「とりあえずまく」から「数字に基づいてまく」への発想転換が現場の収益改善に直結します。
参考リンク(農林水産省・家畜ふん堆肥の正しい知識。成分・土壌診断・施肥設計についてわかりやすくまとめられています)。
家畜ふん堆肥の正しい知識(農林水産省)
近年、豚糞堆肥を乾燥・圧縮してペレット状に加工した「ペレット豚糞堆肥」が農業資材市場に増えています。
これは意外な進化といえます。
静岡県の農業試験場が行った試験によると、ペレット加工前後で窒素・リン酸・加里などの肥料成分含量に大きな差は認められず、堆肥の肥料成分はしっかり保持されていることが確認されています。
ペレット化のメリットは主に3点あります。①散布機(ブロードキャスター)での均一散布がしやすくなり、作業効率が向上します。②水分が低く扱いやすいため、袋詰め・保管・輸送コストが下がります。③臭いが抑えられるため、住宅近接農地や観光農園での使用にも向いています。
ただし、ペレット化された豚糞堆肥の窒素分解率は施用3か月時点でバラ堆肥より若干高い(25.3%対21.4%)というデータもあり、速効性が増す傾向があります。施用直後の濃度障害に注意が必要なことは変わりません。また、市販のペレット製品は成分のばらつきが比較的少ない分、正確な施肥計算に活用しやすいというメリットもあります。
同じ「豚糞堆肥」でも、副資材の種類と混合比率によって成分が大きく変わることはあまり知られていません。
これが落とし穴になることがあります。
副資材が多くなるほど窒素・リン酸・加里の濃度は薄まりますが、有機物量(炭素量)が増え、土壌の物理性改善効果が高まります。
おがくず混合の場合:炭素率(C/N比)が高くなり、土壌中での分解が遅くなります。即効性は弱まりますが、団粒構造の形成を促す効果が期待できます。ただし、おがくずが未分解のまま大量に入ると、土壌中で分解される際に窒素を消費する「窒素飢餓」が起きることがあります。
もみ殻混合の場合:おがくずよりも分解速度が遅く、土壌の通気性・排水性改善効果に優れています。もみ殻はケイ素を含むため、茎の硬化にも少し寄与します。
ただし成分は薄めになります。
購入する際は「ふん主体か副資材入りか」を製品ラベルで確認し、目的に応じて使い分けることが収量・品質の安定につながります。
副資材の比率を確認するのが条件です。
肥料価格が国際的に不安定な現状において、豚糞堆肥の肥料成分を正確に把握して化学肥料の投入量を削減することは、農業経営の直接的なコスト改善につながります。
これは知っていると得する情報です。
農水省のデータによると、家畜ふん堆肥に含まれる有効態窒素は化学肥料内需に対して窒素で約1/4、リン酸で1/3、加里では2/3に相当する量が全国で使われています。つまり堆肥を上手に使えば、化学肥料の代替として相当量の窒素・リン酸・加里コストが削減可能です。
具体的な取り組みとして、農家webや各県の施肥基準書に掲載されている「堆肥成分を考慮した施肥設計シート」を活用する方法があります。堆肥の成分分析値を入力するだけで、不足する化学肥料量を自動計算できるシートが無償公開されている県もあります。
肥料コスト削減の出発点は、「豚糞堆肥にどれだけの窒素・リン酸・加里が含まれているか」を把握することです。成分表示ラベルを一度しっかり読むだけで、その作付けから施肥コストの見直しをスタートできます。
参考リンク(農研機構・減化学肥料栽培のための土壌管理マニュアル。堆肥成分の施肥設計への活用方法が体系的に掲載されています)。
減化学肥料栽培・有機栽培のための土壌管理マニュアル(農研機構)
豚糞堆肥の成分を語るうえで、見落とされがちな重要な視点があります。それは豚に与えられる飼料配合が、その年のふんの化学組成を直接変えるという事実です。
業界ではほとんど議論されていません。
豚の飼料には成長ステージ(哺乳期・離乳期・肥育期)によって異なる配合の飼料が使われ、銅や亜鉛の添加量も段階によって大きく異なります。子豚用飼料は成長促進のために銅・亜鉛が多量に添加されており、離乳後の豚を多く管理する農場から出る堆肥は銅・亜鉛濃度が高くなります。農研機構の報告書には「豚ぷん中の銅・亜鉛含有率は飼料への添加量の違いにより差があり、特に子豚飼料で高い」と明記されています。
さらに、飼料の配合内容は輸入穀物の価格や市場の動向で毎年変わることもあります。一般的にトウモロコシや大豆粕が多い飼料ではたんぱく質・窒素が高くなり、麦類が多い年は窒素がやや低下する傾向が見られます。
つまり成分は毎年変わるということです。
実践的な対応策としては、同じ農場から購入し続けていても「年に1回は堆肥の成分分析を取り直す」ことが理想です。JA・農業改良普及センターへの問い合わせや、市販のスマート農業向け土壌・堆肥分析サービスを活用すると、1検体3,000〜5,000円程度で成分分析が受けられます。この習慣が積み重なれば、「毎年同じ量まいているのに去年より収量が落ちた」という漠然とした悩みの原因を、数字で特定できるようになります。

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