土壌診断で交換性カリウムが「適正範囲」でも、カリ肥料を半分に減らして同じ収量が得られることが、農研機構の大規模試験で明らかになっています。つまり、あなたが毎年しっかり施用しているカリ肥料の一部は、ムダになっている可能性があります。
土壌の中にカリウムは均一に存在しているわけではありません。大きく分けて「交換性カリウム」「固定カリウム」「一次鉱物中のカリウム」の3つの形態で存在しており、それぞれ植物への供給速度がまったく異なります。
交換性カリウムとは、土壌の粘土粒子表面にあるCEC(陽イオン交換容量)サイトに吸着しているカリウムイオン(K⁺)のことです。これは水に瞬時〜数時間で溶け出すため、植物が直接吸収できる形態として重要視されます。土壌診断で「交換性カリ」と呼ばれる数値は、酢酸アンモニウム溶液で抽出されたこのカリウム量を示しています。
固定カリウムは粘土の結晶層間にK⁺が取り込まれた状態で、数時間〜数週間かけてゆっくりと溶け出します。一方、一次鉱物中のカリウムは長石や雲母の結晶格子内に強固に結合しており、年単位の地質的な風化でしか溶け出しません。
これが基本です。
つまり施肥設計で注目すべきは主に「交換性カリウム」ですが、作物の種類によっては固定カリや一次鉱物のカリも利用できるため、交換性カリの数値だけでは土壌全体のカリ供給力を過少評価するケースがあります(詳しくは後述)。
ヤンマー農業技術アドバイザー・阿江教治氏による土壌中カリウム3形態の詳細解説はこちらが参考になります。
土壌中のカリウムを上手に使う|深掘!土づくり考 - YANMAR
土壌診断の結果表に記載される交換性カリウムの数値をどう読むかは、施肥設計の精度に直結します。適切な数字の見方を知っておくことが重要です。
農研機構が2021年に公表した「水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針」によると、水田における交換態カリの適正域は下限が15〜20 mg K₂O/100g、上限が30〜40 mg K₂O/100gとされています。上限を超えた場合は減肥の対象として検討が必要です。
畑作物や野菜では作物・地域によって基準が異なります。農林水産省が示す改良目標値では、交換性カリウムの目標最低値を15 mg/100gとしており、ホウレンソウの栽培試験(東京都農業技術センター)では交換性カリが約20 mg/100g以下または150〜200 mg/100g超えの両端で収量が低下することが確認されています。
| 作物・土壌タイプ | 交換性カリ適正域の目安 | 出典・根拠 |
|---|---|---|
| 水田(低地土) | 15〜20 mg/100g 以上、上限30〜40 mg/100g | 農研機構(2021) |
| 畑・野菜(一般) | 20〜50 mg/100g 程度(作物・土性による) | 農林水産省 診断基準 |
| ホウレンソウ(黒ボク土) | 約20〜150 mg/100gが適正帯(両端で収量低下) | 東京都農業技術センター |
土壌診断の数値は単独で判断するだけでは不十分です。CEC(陽イオン交換容量)とのバランスも確認が必要で、これを「塩基飽和度」と呼びます。カリウム飽和度が高くなると、カルシウムやマグネシウムの吸収が拮抗によって阻害されるリスクが高まります。
交換性カリウムの測定は、一般的に「1mol/L 酢酸アンモニウム(pH7.0)抽出法」が公定法として用いられています。風乾・篩いにかけた土壌5gを100mLの酢酸アンモニウム溶液に加え、1時間振とうしてろ過した抽出液を、原子吸光法(AA)やICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析法)で測定します。
精度は高いですが、専用機器が必要です。
これに対して、圃場レベルで手軽に確認したい場合は、HORIBAのLAQUAtwin K⁺計(コンパクトカリウムイオンメーター)を使った簡易測定法が農研機構で開発されています。風乾土5gに抽出液50mLを加え(土:抽出液=1:10)、30分間振とう後に懸濁液を測定するだけです。
これは使えそうです。
圃場ごとの変動を把握するには、数年に1度の土壌診断を定期的に受けることが推奨されています。土壌採取の際は圃場内を「W字型」に歩きながら15〜20点採取し、混合したものを分析機関に送るのが基本です。
宮城県農業・園芸総合研究所によるコンパクトイオンメーターを用いた水田土壌の交換性カリ簡易分析の技術情報はこちら。
コンパクトカリウムイオンメーターを用いた水稲栽培における土壌交換性カリ含量の簡易分析法 - 宮城県
カリ肥料を多く施せば多いほど良い、と考えている方は注意が必要です。
土壌中のカリウム(K⁺)・カルシウム(Ca²⁺)・マグネシウム(Mg²⁺)は、植物の根が同じチャネルから吸収しようとするため、一方が過剰になると他方の吸収が抑制される「拮抗関係」が生じます。特にカリ過剰による苦土(マグネシウム)欠乏は、施設野菜や果樹で頻繁に確認される問題です。
農林水産省の調査によると、全国の農耕地においてカルシウムとカリウムが過剰傾向にあり、マグネシウムが不足傾向にあるなど、塩基バランスの乱れが広く確認されています。適正な塩基バランスは「石灰(Ca):苦土(Mg):加里(K)=7:2:1」が目安とされています。
ホウレンソウで行われた試験(東京都農業技術センター)では、交換性カリが150〜200 mg/100gを超えると乾物収量が明確に低下し始めることが確認されています。有機質肥料(鶏ふんなど)を多用している圃場では、非交換性カリも蓄積しやすく、気づかないうちにカリ過剰に陥るケースがあります。
厳しいところですね。有機栽培で鶏ふんを積極的に使っている農家ほど、カリ過剰のリスクに気をつける必要があります。
過剰の反対に、交換性カリウムが低すぎるとどうなるでしょうか?
カリウム欠乏が生じると、まず下位葉(古い葉)の縁から黄化や葉先枯れが現れます。水稲では葉先が茶褐色に変色し、穂の充実不足から収量・品質が低下します。カリウムは糖の転流(葉で作った光合成産物を実や根に運ぶ働き)にも深く関わっており、不足すると実の肥大や糖度に直接影響が出ます。
農研機構の水稲減肥栽培試験では、山形県の圃場において交換態カリが13 mg/100gと低い区でカリを半量に減肥した場合、収量が標準施肥区の78〜84%まで低下したことが報告されています。これに対し、交換態カリが21 mg/100gの圃場では同じ減肥をしても収量はほぼ変わりませんでした。
つまり13 mg/100gなら減肥は危険です。20 mg/100gが減肥判断の基準線です。カリ不足と判断された場合は、速効性の塩化カリや硫酸カリを施用してカリを補給してから、次の作付けで再診断を行うのが望ましい対応です。
ここが最も意外な事実かもしれません。
愛知県で1926年から続けられている四要素長期連用試験(80年以上!)では、窒素・リン酸・カリ・石灰の四要素すべてを施用した区と、カリだけを一切施用しなかった「無カリ区」の水稲玄米収量がほぼ同じという結果が出ています。これはカリを与えなくても、稲が自然環境(灌漑水や土壌鉱物)から必要量を吸収できることを示しています。
仕組みはこうです。愛知県の試験では、灌漑水(明治用水)からのカリ供給が年間で稲の吸収量の約40%を賄っており、残り60%は土壌が供給しています。さらに稲の根は一次鉱物(長石・雲母)に直接働きかけ、鉱物からカリウムを引き出す能力を持っています。面白いことに、無カリ区ではケイ素の吸収量も最大になっており、根が鉱物を溶かしながらカリとケイ素を同時に吸収していたことがわかっています。
作物別のカリ自給能力には大きな差があります。水稲は93%、小麦は72%、大豆は69%のカリを土壌由来で賄えますが、ジャガイモは26%程度にとどまります(千葉県・農業環境技術研究所データより)。
ジャガイモには別の対応が必要です。
一次鉱物からのカリ供給という視点を含めた施肥設計の考え方は、以下が詳しいです。
土壌中のカリウムを上手に使う(水稲のカリ天然供給源)|YANMAR 深掘!土づくり考
これまでの試験結果を踏まえ、農研機構は2021年に「水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針」を公表しました。これは低地土の水田に広く適用できる実践的な指針です。
指針の核心は以下のフローチャートで要約されます。
この指針を適用してカリを3 kg/10a減らした場合の施肥コスト削減効果は、10aあたり年1,056円(34%削減)と試算されています(2018年肥料価格ベース。高度化成14-14-14を半減し、尿素で窒素を補った場合)。肥料価格が高騰している現在では、節減額はさらに大きくなります。
低地土の水田の半数近くが、この指針の対象(交換態カリ20 mg/100g以上)に該当すると推定されています。国内の水田約240万haの7割が低地土とすると、約85万haで応用できる計算です。これは国土面積でいえば東京ドーム約18万個分に相当します。
規模の大きな話ですね。
農研機構によるカリ減肥指針の公式マニュアル(水田向け)はこちら。
水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針(農研機構 2021年)
交換性カリウムの数値は単体で見るだけでは意味がありません。CECや他の交換性塩基とのバランスで総合的に判断することが重要です。
CEC(陽イオン交換容量)は土壌の保肥力を示す指標で、単位はme/100gまたはcmol(+)/kg。砂質土では5〜10程度、腐植の豊富な黒ボク土では30以上になることもあります。カリウム飽和度(交換性カリウム÷CEC×100)は通常2〜5%が目安とされ、4%以上あれば水稲のカリ無施用栽培も可能という岡山県農業試験場のデータもあります。
塩基飽和度の適正バランス(石灰:苦土:加里=7:2:1)を維持することが、各養分の吸収効率を最大化するポイントです。この比率が崩れた場合に特に問題になるのが、カリ過剰による苦土欠乏です。土壌診断票を見るとき、交換性カリウムだけでなくCa/K比やMg/K比(苦土加里比)も確認するようにしてください。苦土加里比の目安は概ね2以上が望ましいとされます。
| 確認項目 | 目安・適正値 | 過剰時のリスク |
|---|---|---|
| 交換性カリウム(水田) | 15〜40 mg/100g | 苦土・石灰の吸収阻害 |
| カリウム飽和度 | 2〜5%(岡山基準:4%以上で無施用可能) | 塩基バランス崩壊 |
| 苦土加里比(Mg/K) | 2以上 | 比が低いと苦土欠乏リスク上昇 |
| CEC | 12 me/100g以上(減肥対象の条件) | 低すぎると保肥力不足 |
有機農業や堆肥施用を積極的に取り組んでいる農家ほど、カリウムの蓄積問題を見落としがちです。
東京都農業技術センターの試験では、同量のカリを施用した場合でも、硫酸カリ(化学肥料)と鶏ふん(有機質肥料)では土壌へのカリ蓄積パターンが異なることが明らかになっています。硫酸カリでは水溶性カリが増加するのに対し、鶏ふん施用では水溶性以外の交換性カリと非交換性カリが施肥量に比例して増加しやすい傾向があります。
つまり有機質肥料は長期的にカリを土壌に蓄積させる力が強く、年々積み上がるリスクがあります。同センターの試験では、現行の施肥基準に対してカリ施肥量を約20%減らすことで、土壌へのカリ蓄積を防止できると推算されています。
牛ふん堆肥1 t/10aには平均で約10 kg/10a以上のカリが含まれます(農研機構データ)。この堆肥を毎年施用している水田では、カリ肥料を別途追加しなくても十分なカリが供給されていることになります。
意外ですね。
有機物を積極的に使っている圃場こそ、定期的な土壌診断でカリの蓄積状況を確認することが大切です。
ここまでの知識を実際の圃場管理に落とし込む方法を整理します。
まず土壌サンプリングを正確に行うことが大前提です。圃場内をW字型に歩き、表層15〜20cmから15〜20ヶ所採取して混合したものを分析機関へ送ります。JA等に依頼する場合、組合員価格で1検体800〜4,000円程度で交換性カリを含む基本的な土壌診断が受けられます。
診断結果が届いたら、以下の順番で確認します。
これが基本の流れです。特に水田農家の場合、稲わら還元と堆肥施用の管理記録があると、毎年の診断結果と照らし合わせる際に非常に役立ちます。スマートフォンで撮影しておくだけでも管理の精度が上がります。
農研機構によるカリ減肥指針のプレスリリース(実際の削減効果と適用面積の根拠)はこちら。
水田のカリ肥料を半分〜ゼロに減らすための指針(農研機構プレスリリース 2021年)
砂質の圃場は、ここだけは例外です。
CEC(陽イオン交換容量)が低い砂土(S)・壌質砂土(LS)・砂壌土(SL)では、施用したカリが土壌粒子に吸着されず、降雨・灌水によって地下に溶脱しやすいという特徴があります。山形県の実証試験では、CEC が10 me/100g以下の砂質圃場でカリを基肥4 kg/10aのみに減肥した結果、収量が慣行区の90%まで低下したことが報告されています。
この理由から、農研機構の汎用指針では「土性が砂土・壌質砂土・砂壌土で、かつCECが12 me/100g未満の土壌」は減肥の対象外として明記されています。砂質圃場で無理に減肥すると、交換態カリが急速に低下して収量減に直結するリスクがあります。
砂質土壌ではカリを少量ずつ分施(基肥少なめ+追肥複数回)することで、溶脱を防ぎながら適正な供給を続ける方法が推奨されます。また腐植や有機物を継続的に施用してCECを引き上げることも、根本的な土づくりとして有効です。腐植が多い土はCECが高く、20〜30以上になることもあります。
これは検索上位の記事にはあまり取り上げられていない視点ですが、実際の農業現場では重要な問題です。
同じ圃場内でも、排水口付近や畦畔近くでは水の流れの影響でカリが溶脱しやすく、圃場中央部よりも交換性カリウムが低い傾向があることが観察されています。また傾斜地の圃場では、上部(水が流れ込む側)と下部で土壌成分が異なるケースも少なくありません。こうした圃場内の空間的不均一性(ばらつき)を無視して一律に施肥していると、場所によっては過剰・不足が混在することになります。
近年、精密農業(精密農法)の考え方が広がり、GPSと土壌センサーを組み合わせた「可変施肥(Variable Rate Application)」の技術が一部で実用化されています。土壌の交換性カリウムや電気伝導度(EC)を圃場内で複数点測定し、場所ごとに施肥量を変える手法です。国内では大規模農家や農業法人を中心に導入事例が増えています。
すぐに導入が難しい場合でも、圃場内の数ヶ所でサンプリングして個別に分析するだけで、不均一の把握に役立ちます。採取場所を記録しておき、毎回同じ場所で採取することで経年変化も追いやすくなります。
これも活用できる知識です。
土壌診断を「コストがかかるもの」として後回しにしていると、実は大きな損をします。
カリ過剰の土壌で毎年カリ肥料を継続施用した場合、施肥コストが無駄になるだけでなく、マグネシウムや石灰の欠乏による収量・品質低下、さらには欠乏症の治療(苦土石灰の追加散布)コストまで発生します。「肥料を足す」「問題が出てから対処する」の繰り返しは、中長期的に農業経営の収益を圧迫します。
農研機構の試算では、条件を満たす水田でカリを半量にした場合の削減額は10aあたり年1,056円です。10haを管理する農家であれば年間約105,600円の節減になります。肥料価格が2021年以降に急騰した状況ではこの効果はさらに大きく、節減幅が1.5〜2倍になるケースもあります。
土壌診断は数年に1度で構いません。
費用はJAで数百円〜4,000円程度です。
その投資で年間10万円超の節減ポテンシャルがあると考えれば、投資回収は明らかです。
定期的な診断が条件です。
土壌診断を活用した施肥コスト削減に取り組む際は、各都道府県の農業試験場や農業普及センターへ相談するのが確実な第一歩です。
農林水産省による施肥コスト低減技術の概要(各種診断基準・試算例)はこちら。
Q. 毎年土壌診断を受ける必要がありますか?
農研機構の指針では、減肥を行う場合でも「数年に一度」の土壌診断で交換態カリの確認を行うことを推奨しています。特に稲わら還元の有無や堆肥施用量が変化する年は、収支が大きく変わるため診断を挟むのが安全です。
毎年でなくて大丈夫です。
Q. 交換性カリが低い圃場ではどんな肥料を使えばいいですか?
速効性の塩化カリ(K₂O 60%)や硫酸カリ(K₂O 50%)が一般的です。塩分(塩化物イオン)に弱い作物(タバコ・ジャガイモ・果樹など)には硫酸カリが向きます。草木灰は自然由来で即効性がありますが含有量にばらつきがある点に注意が必要です。
Q. 交換性カリが高すぎる場合の対処法は?
カリ肥料の施用を一時停止または大幅に削減し、窒素・リン酸のみの肥料設計に切り替えます。作物によるカリ吸収で土壌濃度が自然に低下するのを待つのが基本です。東京都農業技術センターの試験では、施肥量の約20%削減でカリ蓄積の防止効果が確認されています。
Q. 土壌の種類(黒ボク土・沖積土など)で適正値が変わりますか?
はい、変わります。黒ボク土は腐植が多くCECが高いため保肥力が大きく、同じ施肥量でも交換性カリが蓄積しやすい傾向があります。砂丘未熟土では交換性カリの判断基準を通常の約1/5で考える必要があるとの指摘もあります(山形県農業試験場)。土壌タイプを把握した上で診断値を解釈することが大切です。
土壌診断の基本的な仕組みと施肥改善の考え方を分かりやすくまとめた農林水産省のガイドブック(PDF)はこちら。
土壌診断によるバランスのとれた土づくり(農林水産省・日本土壌協会)