農業を営む上で、剪定枝や枯れ草の処理は日常的な課題ですが、これらを有効活用して「草木灰(そうもくばい)」を自作することは、コスト削減と土壌改良の一石二鳥につながります。ホームセンターで購入すると意外と高価な草木灰ですが、身近な材料と道具を使えば、誰でも簡単に高品質な灰を作ることが可能です。
ただし、ただ燃やせば良いというわけではありません。質の高い「白い灰」を作るための燃焼テクニックや、法律を遵守した安全な焼却方法を理解しておく必要があります。ここでは、農家だからこそ知っておきたい、効率的かつ合法的な草木灰の作り方と、その驚くべき活用法について深掘りしていきます。
まず最初に押さえておかなければならないのが、「野焼き」に関する法律の規制です。原則として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)により、野外での焼却行為は禁止されています。これに違反すると、厳しい罰則(5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)が科される可能性があります。
しかし、農業従事者には重要な「例外」が認められています。
具体的には、稲わら、もみ殻、あぜ道の枯れ草、剪定枝などを焼却し、その灰を肥料として利用する場合などがこれに該当します。つまり、農家が自分の田畑で出た残渣を肥料(草木灰)にする目的で焼くことは、法的に認められた行為なのです。
環境省:廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)の概要について(野焼きの禁止規定を確認できます)
ただし、「例外だから何をしても良い」わけではありません。近隣住民からの通報トラブルを避けるために、以下の対策を徹底する必要があります。
これらを守ることで、堂々と安全に草木灰作りを行うことができます。
地面に穴を掘って燃やす方法もありますが、より安全で、かつ良質な白い灰を作るには「ペール缶」や「一斗缶」を使った焼却炉の自作がおすすめです。金属製の容器を使うことで、風による火の粉の飛散を防ぎ、高温で効率よく燃焼させることができます。
簡易焼却炉の作り方と手順
燃焼のコツ:白灰を作るには?
草木灰には「黒い灰」と「白い灰」がありますが、肥料成分が凝縮されているのは完全に燃え尽きた「白い灰」です。
農林水産省:都道府県施肥基準等(作目ごとの施肥量や有機質肥料の活用について記述があります)
自作した草木灰は、単なる燃えカスではなく、即効性のある優秀な有機肥料です。主な成分は以下の通りです。
| 成分 | 特徴 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| カリウム (K) | 水溶性で即効性が高い | 根の発育促進、光合成の活性化、耐寒性・耐病性の向上。「根肥(ねごえ)」とも呼ばれます。 |
| 石灰 (Ca) | アルカリ分が強い | 酸性土壌の中和、細胞壁の強化、トマトの尻腐れ病などの予防。 |
| リン酸 (P) | 含有量は少なめ | 花つきや実つきを良くする。 |
特にカリウムの含有量が多いため、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモなどの「根菜類」や、トマトやナスなどの「実もの野菜」の追肥として最適です。市販の化成肥料(硫酸カリなど)と違い、天然由来の成分であるため、有機栽培を目指す農家にとっては貴重なカリウム供給源となります。
また、草木灰に含まれるケイ酸などの微量要素は、野菜の食味を向上させるとも言われています。昔の農家が「灰を撒くと野菜が甘くなる」と言っていたのは、このミネラル分の効果によるものです。
万能に見える草木灰ですが、強力なアルカリ資材であるため、使い方を誤ると作物に深刻なダメージを与えるデメリットがあります。
1. アルカリ性が強すぎる
草木灰は石灰分を多く含むため、土壌のpHを急激に上昇させます。ブルーベリーやサツマイモなど、酸性土壌を好む作物に大量に与えると、生育不良(マンガン欠乏など)を引き起こす可能性があります。
2. ジャガイモの「そうか病」リスク
ジャガイモはカリウムを好むため草木灰と相性が良いとされがちですが、注意が必要です。土壌がアルカリ性に傾きすぎると、ジャガイモの肌がカサブタ状になる「そうか病」が発生しやすくなります。ジャガイモに使用する場合は、植え付けの溝に直接大量に入れるのは避け、土壌pHを測りながら慎重に散布するか、植え付け前の土作り段階で混ぜ込むのが無難です。
3. 窒素成分はゼロ
燃焼によって窒素(N)はガスとなって飛んでしまうため、草木灰には窒素が含まれていません。これ単体では肥料として不十分なため、油かすや堆肥、硫安などの窒素肥料と組み合わせて使う必要があります。ただし、アンモニア系肥料(硫安など)と草木灰を同時に混ぜると、化学反応でアンモニアガスが発生し、窒素が逃げてしまうので、施肥のタイミングをずらすのが賢明な注意点です。
最後に、あまり知られていない独自の活用法と、品質を落とさない保存テクニックを紹介します。
ウリハムシやアブラムシへの忌避効果
草木灰は肥料としてだけでなく、物理的な「防虫資材」としても使えます。
ウリ科の野菜(キュウリ、カボチャ、スイカなど)につきやすい「ウリハムシ」や、新芽に群がる「アブラムシ」は、灰の粉っぽさと焦げた臭いを嫌います。
湿気は大敵!長期保存の裏技
草木灰に含まれる炭酸カリウムは吸湿性が高く、湿気を吸うとベトベトに固まったり、成分が溶け出してしまったりします。
千葉県:有機農業実践の手引き(病害虫防除における物理的防除法として灰の利用に触れる記述など)
自作の草木灰は、手間はかかりますが、作物の成長を見ればその価値がわかります。法律を守り、安全に配慮しながら、ぜひペール缶や一斗缶での作成にチャレンジしてみてください。