塩基飽和度100超える土壌が作物収量を左右する理由

塩基飽和度が100%を超えると土壌にどんな問題が起きる?濃度障害や収量低下のリスク、改善策まで農業従事者が知っておくべき知識をわかりやすく解説します。

塩基飽和度が100超えると起こる土壌と作物への影響

石灰をたっぷり入れるほど作物は元気になる、と思っていたら、それで毎年収量が3割も落ちているかもしれません。


塩基飽和度100超えのポイント3つ
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濃度障害リスクが高まる

塩基飽和度が100%を超えると、土壌粒子に吸着されない塩基が増え、EC(電気伝導度)が上昇して根の濃度障害を引き起こしやすくなります。

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CEC値によって判断が変わる

CECが15未満の砂質土では100%超えが望ましい場合もあり、「超えたら即NG」とは言い切れません。

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水管理で収量回復の可能性

塩基飽和度200%の圃場でも、かん水量を適切に増やし窒素を管理すれば増収できたという事例も報告されています。

塩基飽和度100超えとはCECと肥料投入量の関係

塩基飽和度とは、土壌の陽イオン交換容量(CEC)に対して、交換性塩基(石灰・苦土・カリ)がどれだけ占めているかをパーセントで示した指標です。 石灰飽和度・苦土飽和度・カリ飽和度の合計が塩基飽和度となり、これが100%を超えた状態は、土壌粒子が吸着できる量を超えて肥料成分が投入されていることを意味します。daiwa-ism+1
つまり、土の「キャパシティオーバー」です。


100%を超えると、余剰の塩基が土壌溶液に溶け出します。 その結果、EC(電気伝導度)が高まり、浸透圧の問題で根からの水分吸収が妨げられ、濃度障害が起きやすくなります。 一般的に土壌ECが高すぎると、根が「水を吸いたいのに吸えない」状態になり、作物が萎れたり生育不良になったりします。kyonou+1
どれくらいの状態かイメージしてみましょう。


土の状態を人間の健康に例えると、塩基飽和度40%以下は「栄養失調」、60〜80%が「健康(適正)」、80%超えが「肥満」にあたります。 適正範囲は壌土で70〜80%、CECが低い砂質土では100%を保つよう管理することが推奨されています。 一方、施設畑では塩基飽和度が高く蓄積しやすいため、定期的な土壌診断が欠かせません。yanmar+2

塩基飽和度100超えが起きやすい施設栽培の圃場条件

露地栽培と比べて、施設栽培(ハウス)の圃場は塩基飽和度が過剰になりやすい環境です。雨が直接当たらないため、雨水によるカルシウム・マグネシウム・カリウムの自然溶脱が起きません。 長年にわたって石灰や苦土、カリを追加していくと、土壌に塩基が蓄積し続け、気がつけば塩基飽和度が200%を超えていることも珍しくありません。nogyo.tosa.pref.kochi+1
これは痛いですね。


農水省や各都道府県の施肥基準では、施設野菜の塩基飽和度の適正値を60〜90%程度としていますが、実際の調査では適正を大幅に超えた圃場が半数以上を占めることもあります。 高知県の調査では、施設畑で塩基飽和度が高く塩基が蓄積している実態が明らかになっています。japan-soil+1
施設栽培での塩基蓄積を防ぐためには、施肥量の見直しだけでなく、クリーニングクロップ(ソルガムやトウモロコシなど塩基を吸収しやすい作物)の活用も有効です。


参考)https://japan-soil.net/BOOKLET/H22_DS/A4/A4_web.pdf


  • 🌽 クリーニングクロップの例:ソルガム、デントコーン、ひまわりなど
  • 💧 湛水処理:水を張って塩基を溶脱させる方法
  • 🔄 深耕:蓄積した塩基を下層土と混合して希釈する

定期的に土壌診断を行い、塩基飽和度の数値を追跡することが基本です。


塩基飽和度100超えでも砂質土では目標値になるケース

「塩基飽和度100%超え=必ず悪い」と思い込んでいると、逆に作物を弱らせてしまうことがあります。


これは意外ですね。


CECが10me/100g以下の砂質土では、100%以上の塩基飽和度が目標値として推奨されています。 砂質土はもともと保肥力が低く、100%以下では作物が必要とする塩基の絶対量が不足してしまうためです。pref.aomori+1
CECが15未満の圃場では塩基飽和度を100%以上にした方が良いという考え方があります。


参考)https://daiwa-ism.com/%E3%81%8A%E5%95%8F%E3%81%84%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B/%E5%9C%9F%E5%A3%8C%E5%88%86%E6%9E%90/


たとえば、CEC(陽イオン交換容量)が5me/100gの砂質土で塩基飽和度80%を目標にすると、交換性石灰は4me程度しか保持されません。実際の適正な石灰含量である6〜8meには全く届かず、欠乏症が出てしまうわけです。つまり「数字の%」だけで判断するのは危険ということです。


CECと塩基飽和度の両方を見て判断するのが基本です。


圃場ごとのCEC値を把握するためには土壌診断が必要です。都道府県の農業改良普及センターや農協(JA)では、有料で土壌分析サービスを提供しています。費用は1検体あたり数百円〜数千円程度で、結果に基づいた施肥指導を受けられます。


まず1度診断してみることをおすすめします。


塩基飽和度200%超えの圃場でも増収できる水管理の実例

施設圃場で塩基飽和度が200%まで上昇してしまった場合、多くの農業従事者は「もう打つ手なし」と諦めるかもしれません。ところが、水管理の方法を変えるだけで収量を回復・増加させた事例が報告されています。


参考)https://www.jacom.or.jp/archive03/series/cat122/2010/cat122100428-9069.html


それだけで大丈夫でしょうか?
JAcomの情報によると、塩基飽和度が200%の圃場でも、通常より水分を多めにしたかん水管理と適正な窒素施用を組み合わせることで、トマトで増収が確認されています。 これはトマト・キュウリの両方で同様の結果が出ており、高塩基蓄積圃場では「水分をケチると収量が落ちる」という点が重要なポイントです。


水管理が条件です。


具体的には、土壌溶液の濃度(EC値)が高い状態でも、かん水量を増やして溶液を希釈することで、根の濃度障害を抑制できます。同時に窒素の過剰施用を控えることで、作物体内の塩類バランスを整えます。これをセットで管理することで、塩基過剰でも作物の生育を維持できるわけです。


かん水量の目安を把握するためには、土壌水分センサーやECメーターを活用するのが現実的です。近年は1〜2万円台で購入できるハンディ型ECメーターも普及しており、水分・EC管理を数値で見える化するのに役立ちます。


塩基バランスの乱れが塩基飽和度100超えより問題になる理由

塩基飽和度の「合計の数字」ばかりに注目していると、もっと深刻な問題を見落とすことがあります。それが「塩基バランス(石灰・苦土・カリの割合)」の崩れです。


参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/80279.pdf


バランスが原則です。


理想的な塩基バランスは、石灰(CaO)飽和度40〜50%、苦土(MgO)飽和度15%前後、カリ(K₂O)飽和度2〜5%程度とされています。 仮に塩基飽和度が80%で「適正範囲内」に見えていても、石灰が70%でカリが1%しかないとすれば、拮抗作用によってカリ欠乏や苦土欠乏が起きます。


参考)http://tuchi.net/common_images/enkitobaransu.pdf


これは見落としがちな落とし穴です。


たとえば石灰を大量施用した圃場では、石灰がカリや苦土の吸収を阻害する「拮抗作用」が働き、土壌診断上の数値では問題なく見えても作物に欠乏症状が出ることがあります。 特に葉物野菜や果菜類では、苦土欠乏による葉脈間黄化が現れ、光合成効率が下がって収量・品質の低下につながります。


塩基成分 理想飽和度の目安 多すぎた場合の影響
🧱 石灰(CaO) 40〜50% カリ・苦土の吸収阻害
🌿 苦土(MgO) 15%前後 石灰・カリとの拮抗
🌾 カリ(K₂O) 2〜5% 苦土欠乏を誘発

塩基飽和度の合計だけでなく、各成分の内訳(石灰飽和度・苦土飽和度・カリ飽和度)を確認する習慣が重要です。 土壌診断結果の数値票を受け取ったら、合計の塩基飽和度だけでなく、各成分の割合が理想バランス内に収まっているかを必ずチェックしてください。


施肥設計を塩基バランスから組み直す際には、都道府県の農業試験場や普及センターが発行している「施肥基準」を参照するのが確実です。


以下は農林水産省が公開している土壌改良目標値の参考資料です。塩基飽和度の地域別・作物別の適正値が記載されています。


土壌改良の目標値(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti5.pdf
ヤンマーアグリによる「CECと塩基飽和度」のわかりやすい解説記事。


塩基飽和度とpHの相関図が参考になります。


https://www.yanmar.com/jp/agri/agri_plus/soil/articles/05.html
土壌診断の用語解説(かく一):各指標の数値が「人間の健康状態」に例えられていてわかりやすいです。


https://www.kaku-ichi.co.jp/media/crop/earth-building/soil-diagnostic-terms
施設土壌における塩基の存在形態と合理的な診断法(福岡県農業総合試験場):施設圃場の塩基蓄積実態と診断手法に関する研究報告です。


https://www.farc.pref.fukuoka.jp/farc/seika/seika15/7seino17.htm