クリーニングクロップ作物でセンチュウ抑制と土壌の塩類対策

クリーニングクロップをご存知ですか?土壌の「掃除屋」として、センチュウ抑制や過剰な塩類除去に役立つこの作物は、導入を誤ると逆に作物の生育を阻害するリスクもあります。正しい選び方とすき込みの技術、意外な注意点まで、あなたの畑は大丈夫ですか?

クリーニングクロップの作物

記事の概要
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土壌の掃除屋

過剰な肥料成分(塩類)を吸収し、土壌バランスを整える効果があります。

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対センチュウ効果

おとり植物としてセンチュウ密度を下げたり、殺菌効果を発揮します。

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導入の注意点

窒素飢餓やアレロパシーなど、すき込み後のリスク管理が重要です。

クリーニングクロップ(清掃作物)は、その名の通り、土壌中の過剰な栄養分や有害なセンチュウを「掃除」するために栽培される作物です。

 

主に施設栽培(ハウス栽培)などで問題となる、多肥による塩類集積(EC値の上昇)の解消や、連作障害の原因となる土壌病害虫の密度低減を目的としています 。

 

参考)緑肥作物を上手に使いましょう

通常の緑肥作物と混同されがちですが、クリーニングクロップは「土壌環境のリセット」に特化した役割を持っています。

 

特に、肥料を吸い上げる力が強いイネ科作物(トウモロコシやソルゴーなど)は、土壌に残った過剰な窒素やカリウムを吸収し、一度植物体として蓄えることで、次の作物が育ちやすい環境を作ります 。

 

参考)301 Moved Permanently

これを畑の外に持ち出すことで塩類を除去する方法と、そのまま土にすき込んで有機物として還元する方法がありますが、目的に応じて使い分ける必要があります。

 

クリーニングクロップ作物のセンチュウ抑制と塩類除去の効果

クリーニングクロップがもたらす最大のメリットは、化学農薬に頼らない「生物的な土壌消毒」と「物理性の改善」です。

 

特にセンチュウ(線虫)対策においては、そのメカニズムを理解することが重要です。

 

まず、センチュウ抑制には大きく分けて3つの作用機序があります 。

 

参考)https://www.takii.co.jp/green/ryokuhi/kouka/index.html

  1. トラップクロップ(おとり植物)効果

    センチュウが好んで根に侵入しますが、その植物の中ではセンチュウが栄養を摂取できず、最終的に餓死したり、メスが成熟できずに卵を産めなくなったりします。これにより、次世代のセンチュウ密度が劇的に低下します。

     

  2. 殺センチュウ物質の放出

    マリーゴールドなどが有名ですが、根からアルファ・ターチエニルなどの殺センチュウ成分を放出し、土壌中のセンチュウを直接減らす効果があります。

     

  3. 生物燻蒸(バイオ・フミゲーション)効果

    カラシナなどのアブラナ科作物をすき込んだ際に発生するイソチオシアネート(辛味成分)ガスが、土壌消毒剤と同様の効果を発揮し、センチュウや病原菌を抑制します 。

     

    参考)https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/use/b0e18870202c47a76247df7bddad3d00.pdf

また、塩類除去の効果も見逃せません。

 

施設栽培では、雨による流亡がないため肥料成分が土壌表面に集積しやすく、これが「濃度障害」を引き起こします。

 

吸肥力の強いクリーニングクロップを作付けの合間に栽培し、これらの余分な成分を吸わせることで、EC値を適正範囲(0.3〜0.8 mS/cm程度など)まで下げることが可能です 。

 

参考)https://www.japan-soil.net/report/h25tebiki_02.pdf

さらに、根が深く伸びるタイプの作物(深根性作物)を選ぶことで、耕盤層(硬盤層)を突き破り、透水性を改善する物理的な効果も期待できます。

 

参考リンク:緑肥の効果について(殺センチュウ物質のメカニズムなど詳細解説)
参考リンク:塩類集積土壌におけるクリーニングクロップの効果と導入事例

クリーニングクロップ作物の種類とソルゴーやマリーゴールド

クリーニングクロップとして選定される作物は多岐にわたりますが、ターゲットとするセンチュウの種類や、栽培期間、地域の気候に合わせて最適な品種を選ぶ必要があります。

 

間違った品種を選ぶと、逆にセンチュウを増やしてしまうこともあるため注意が必要です 。

 

参考)https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/eafcde7f97e9ca9f0906b198941c8df1.pdf

主なクリーニングクロップと、その特長を以下の表にまとめます。

 

作物名 科名 主な対象センチュウ・効果 特徴と注意点
ソルゴー (ソルガム) イネ科 キタネグサレセンチュウサツマイモネコブセンチュウ

吸肥力が非常に強く、塩類除去に最適。初期生育が旺盛で雑草抑制効果も高い。茎が太くなるため、細断が必要。
参考)https://www.takii.co.jp/green/ryokuhi/sorugamu/index.html

ギニアグラス イネ科 ネコブセンチュウ類キタネグサレセンチュウ ハウス栽培でのクリーニングクロップとして人気。耐暑性が強く、夏場の短期間で大量のバイオマスを確保できる。 ​
エンバク (オーツ麦) イネ科 キタネグサレセンチュウ 比較的冷涼な時期でも栽培可能。「ヘイオーツ」などの野生種はセンチュウ抑制効果が高い。深根性で排水対策にも。
クロタラリア マメ科 サツマイモネコブセンチュウミナミネグサレセンチュウ 「ネマコロリ」などが有名。センチュウを根に誘引し、体内で餓死させるトラップ効果が高い。茎が硬くなりやすいため、早めのすき込みが必須。 ​
マリーゴールド キク科 キタネグサレセンチュウサツマイモネコブセンチュウ 根からの分泌液による殺センチュウ効果が高い。「アフリカン種」と「フレンチ種」で対象センチュウが異なるため品種選びが重要。 ​
カラシナ アブラナ科 土壌病害全般 すき込み時に発生するガスによる燻蒸効果。開花前にすき込む必要がある。 ​

特に注目すべきは品種ごとの特異性です。

 

例えばマリーゴールドの場合、「アフリカントール」などのアフリカン種はサツマイモネコブセンチュウには効果が高いですが、キタネグサレセンチュウへの効果はフレンチ種の方が優れている場合があります。

 

また、ソルゴーなどのイネ科作物は、キスジノミハムシなどの害虫の密度を下げる効果は期待できないばかりか、アブラワムシ類の住処になる可能性もあります。

 

「なんとなく緑肥を植える」のではなく、「どのセンチュウを減らしたいのか」「どの肥料成分を抜きたいのか」を明確にして種を選定しましょう。

 

参考リンク:雪印種苗 緑肥作物特性表(対抗害虫の詳細リスト)

クリーニングクロップ作物のすき込み時期と腐熟期間の目安

クリーニングクロップの効果を最大化し、後作への悪影響を防ぐためには、「すき込みのタイミング」と「腐熟(分解)期間」の管理が栽培技術の要となります 。

ここを失敗すると、未分解の有機物が原因で種バエが発生したり、ガスの発生で苗が枯れたりする事故が起きます。

 

1. 播種からすき込みまでのプロセス

  • 播種(はしゅ):

    地域の適期に合わせて播種します。一般的に暖地では5月〜8月が播種シーズンです。厚播きすることで競合させ、茎が太くなりすぎるのを防ぎ、分解しやすい柔らかい組織を作らせるのがコツです。

     

  • 細断(さいだん):

    すき込みの直前に、フレールモアやハンマーナイフモアを使って植物体を細かく粉砕します。

     

    特にソルゴーやクロタラリアは、生育が進むと茎が木質化(リグニンが増加)し、分解に時間がかかるようになります。草丈が高くなりすぎたり、花が咲き終わって種ができる前(出穂前や開花初期)に細断するのが鉄則です 。

    クロタラリアの場合、開花から結実まで進むと茎が非常に硬くなり、トラクターの刃を傷める原因にもなるため、開花初めを目安にします。

     

  • すき込み:

    細断後、すぐに土にすき込みます。このとき、土壌水分が適度にあることが重要です。水分が少なすぎると微生物の活動が鈍り、分解が進みません。逆に水分過多だと嫌気発酵し、腐敗臭や有害ガスの原因になります。

     

    深く耕しすぎず、酸素が供給される深さ(15cm〜20cm程度)に混ぜ込むのが分解を早めるポイントです。

     

2. 腐熟期間の目安
すき込んでから次の作物を植えるまでには、必ず「待機期間」が必要です。

 

一般的には 3週間〜1ヶ月 程度が目安とされています 。

 

参考)https://www.hokuren.or.jp/common/dat/agrpdf/2014_0317/13950398851174701624.pdf

  • 夏場: 気温が高く微生物の活動が活発なため、3週間程度で分解が進みます。
  • 春・秋: 気温が低い場合は分解が遅れるため、1ヶ月以上の期間を見込む必要があります。

未熟な有機物が残っている状態で定植すると、有機酸やアンモニアガスが発生し、根を傷める「植え傷み」が発生します。

 

土を手で掘ってみて、植物の繊維がボロボロと崩れ、原形をとどめていない状態になっているかを確認してから作付けを行いましょう。

 

参考リンク:ソルガムの栽培とすき込みのポイント(タキイ種苗)

クリーニングクロップ作物の窒素飢餓リスクとアレロパシー

クリーニングクロップの導入で最も恐ろしい失敗例が、「窒素飢餓(ちっそきが)」と「アレロパシー(他感作用)」による後作の生育不良です。

 

これらは意外と知られていない、あるいは軽視されがちな落とし穴ですが、プロの農家でも時折見舞われるトラブルです 。

 

参考)緑肥のデメリットとは?失敗しない種類選びとやり方を解説

窒素飢餓のメカニズムと対策
「窒素飢餓」とは、土にすき込まれた大量の植物体(炭素源)を微生物が分解する際、そのエネルギー源として土壌中の窒素を急激に消費してしまう現象です。

 

特に、ソルゴーやエンバクなどのイネ科作物は、C/N比(炭素率)が高く、分解に多くの窒素を必要とします。

 

この時、土壌中の窒素が微生物に奪われてしまい、本来作物が吸収するはずだった窒素が不足し、葉色が薄くなったり生育が止まったりします。

 

  • 対策:

    すき込み時に、腐熟促進用として石灰窒素や硫安などの窒素肥料を少量(10aあたり30〜40kg程度)散布してから耕耘することで、微生物に必要な窒素を供給し、分解をスムーズにさせることができます。

     

アレロパシー(他感作用)のリスク
「アレロパシー」とは、植物が放出する化学物質が、他の植物の生育を阻害(または促進)する作用のことです 。

 

参考)農業用語集

雑草抑制には有効なこの機能ですが、実は後作の野菜にも牙を剥くことがあります。

 

  • レタス等のキク科野菜:

    ヘアリーベッチや特定のムギ類をすき込んだ直後にレタスなどを播種すると、発芽率が極端に下がることが報告されています 。

  • アブラナ科野菜:

    一部の緑肥はアブラナ科野菜の初期生育を抑制することがあります。

     

これらのリスクを回避するためには、前述の「腐熟期間」をしっかりとることが最良の対策です。

 

アレロパシー物質は、植物体が分解される過程で徐々に消失していきます。

 

「クリーニングクロップを入れたからすぐに土が良くなる」と過信せず、微生物が分解を終えて土が落ち着くまでのタイムラグを農業カレンダーに組み込むことが、成功への絶対条件です。

 

参考リンク:緑肥のデメリットと失敗事例(アレロパシーと窒素飢餓の解説)