根部病害の原因と症状から対策・防除

根部病害は農作物に甚大な被害をもたらす土壌伝染性の病害です。発生原因から効果的な防除方法、抵抗性品種の活用まで、農業従事者が知っておくべき根部病害対策の全てを解説します。あなたの圃場は大丈夫ですか?

根部病害の原因と対策

休眠胞子は土壌中で10年以上生き残ります。


この記事の3つのポイント
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根部病害の恐ろしさ

病原菌は土壌中で10年以上生存し、養液栽培でも発生する深刻な病害です

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被害の大きさ

ハクサイ根こぶ病では全滅時に10aあたり最大16万円の損失が発生します

🛡️
効果的な防除法

土壌pHの管理、抵抗性品種の選択、おとり作物の活用で被害を最小限に抑えられます


根部病害とは何か


根部病害は、土壌に生存する病原体が植物の根や地下茎、茎など土壌と接する部分から侵入して増殖する病気のことです。カビ(糸状菌)や細菌が主な原因となり、作物の連作障害の主要な要因として産地崩壊をもたらすこともある深刻な問題となっています。


土壌病害とも呼ばれるこの病気は、一度発生すると病原体が圃場の土壌中に蓄積されます。病原体は長期にわたり残存し、宿主となる作物が作付けされると土壌を介して伝染するという特徴があります。根の病気であるため発病に気づきにくく、一度発病すると防除が極めて難しい病害です。


代表的な根部病害には、アブラナ科野菜の根こぶ病、トマトキュウリの根腐病、萎凋病、青枯病などがあります。これらの病害は地上部の症状として、日中に萎れて夜間に回復する状態を繰り返し、やがて黄化、褐変枯死に至るという共通した経過をたどります。


根部病害が特に厄介なのは、根という見えない部分で進行するため、地上部に症状が現れた時にはすでに手遅れになっていることが多い点です。病気に気づいてから対処するのではなく、事前の予防対策が何より重要になります。


根部病害の症状と被害規模

根部病害の初期症状は、晴天の日中に茎葉がしおれ、夜間は回復する状態を繰り返すことから始まります。症状が進行すると黄化、褐変が起こり、最終的には枯死に至ります。根を観察すると、褐変、腐敗、黒変といった明確な異常が確認できます。


具体的な被害規模を数字で見ると、その深刻さがわかります。ハクサイ根こぶ病では、全滅した場合に10aあたり最大16万円の被害が発生します。これは一般的なハクサイ栽培の収益を大きく上回る損失額です。


にんじんさといも、たまねぎなどでは平均減収率30%と報告されており、農薬を使用しない場合の病害虫による被害として大きな割合を占めています。根部病害は収穫量だけでなく、品質低下も引き起こすため、実質的な経済損失はさらに大きくなる可能性があります。


養液栽培においても根部病害は深刻な問題です。循環型養液栽培の根部病害の90%がPythium属菌とPhytophthora属菌によるものとされています。水中を泳いで移動する遊走子により伝染するため、一度病原菌が培養液中に侵入すると急速に広がってしまいます。培養液を介した感染は土壌栽培以上に速いスピードで進行するという特徴があります。


病原菌の生存期間の長さも大きな問題です。根こぶ病菌の休眠胞子は土壌中で10年以上、場合によっては20年も生き残ると報告されています。水田のような嫌気条件下でも容易に死滅しないため、一度汚染された圃場の回復には非常に長い年月を要することになります。


根部病害が発生しやすい環境条件

根部病害の発生には特定の環境条件が大きく影響します。最も重要な要因の一つが土壌のpH(酸性度)です。根こぶ病の場合、pH4.5~6.5の酸性土壌で多発し、pH7.4以上のアルカリ性土壌では発生が激減します。


温度条件も発病に深く関わっています。根こぶ病が発生する温度は9~30℃の範囲で、最適温度は20~25℃です。春から初秋にかけての時期が最も発生しやすい季節となります。


土壌水分も重要な要因です。地下水位の高い圃場、排水の悪い圃場や冠水するような畑では発病が多くなります。過湿状態が続くと、酸素不足を好む根腐れ促進菌が増殖し、病害の発生を助長するためです。


興味深いことに、日長条件も発病に影響を与えます。根こぶ病は長日条件下で発生しやすく、1カ月間の平均日長が11.5時間を超えると病原菌の活動が活発になります。逆に日長が11.5時間以下になると発生は激減します。


養液栽培においては、培養液中の環境が発病を左右します。養液中は微生物数が少ないため、病原菌は水中生活が基本となります。Ca2+イオンなどが遊走子の形成に適しているため、特定の肥料成分のバランスが発病を促進することもあります。培養液中の病原菌密度が100個/L以上になると発病リスクが高まるとされています。


連作も根部病害の発生を著しく増加させる要因です。同じアブラナ科作物を続けて栽培すると、土壌中の病原菌密度が年々高まり、薬剤のみでは防除が困難な状況に陥ります。


根部病害の効果的な防除対策

根部病害の防除は予防を基本とした総合的なアプローチが必要です。まず最も重要なのは、病原菌を圃場に持ち込まないことです。根こぶ病が発生したほ場で使用した農機具を未発生ほ場で使用すると、汚染土壌が移動して汚染拡大の原因となります。


農機具や長靴の洗浄は基本中の基本です。発生ほ場からの土壌や残渣の持ち込みを防ぐため、使用後は必ず洗浄し、次亜塩素酸カルシウム剤などによる消毒が推奨されます。これは手間がかかる作業ですが、新たな圃場への病原菌の侵入を防ぐ最も確実な方法です。


育苗段階での対策も極めて重要です。汚染した床土で育苗した苗は最大の伝染経路となるため、健全な苗を育苗し、苗での持ち込みを防ぐことが不可欠です。セル成型苗の場合、専用培土を使用し、根域を清潔に保つことで発病リスクを大幅に低減できます。


土壌pHの管理は化学的防除の基本となります。根こぶ病菌は酸性の環境を好むため、石灰資材を使用して土壌のpHを6.5以上、理想的には7.2以上に矯正します。石灰や苦土石灰、転炉スラグなどを施用することで、病原菌の活動を抑制できます。10㎡あたり100g以下を目安として施用するのが適切です。


排水性の改善も不可欠な対策です。根こぶ病菌の遊走子は水を媒介して移動するため、水はけの悪い圃場では発病リスクが高まります。高畝にする、暗渠排水を設置するなどして、圃場の排水性を高めることが重要です。


おとり作物の活用は生物的防除の有効な手段です。エンバクや葉ダイコンホウレンソウなどのおとり植物は、根こぶ病に感染してもこぶを作らず、病原菌を減らす効果があります。これらを前作として栽培することで、土壌中の菌密度を低減できます。エンバクは播種30日後におとり植物を取り除いた土壌を混和することで、次作の発病を抑えられます。


抵抗性品種の導入も現実的な選択肢です。根こぶ病に対しては複数の抵抗性遺伝子を集積したF1品種が開発されており、4つのグループの根こぶ病菌すべてに抵抗性を持つ品種も存在します。薬剤処理なしでも栽培可能な特性を持つため、防除コストの削減につながります。


薬剤防除も適切に組み合わせることで効果を発揮します。オラクル粉剤やネビジン粉剤など、根こぶ病用殺菌剤を使用することで発病を抑制できます。ただし、土壌中の菌密度が極めて高い場合は薬剤のみでは十分な効果が得られないため、他の対策と併用することが重要です。


根こぶ病コンサルティングサービスを利用するのも一つの方法です。遺伝子診断技術(LAMP法)により土壌中の休眠胞子の菌密度を測定し、発病ポテンシャルを推測することで適切な防除方法を選択できます。検査結果に基づいた対処により、過剰な農薬使用を減らし、コスト低減を実現できる可能性があります。


千葉県の養液栽培における根部病害防除の詳細な技術資料


根部病害の意外な事実とリスク管理

根部病害について多くの農業従事者が見落としている意外な事実があります。まず、養液栽培なら土壌病害は発生しないという思い込みは危険です。実際には養液栽培でも根部病害は発生し、むしろ培養液を介して急速に広がるリスクがあります。


健全な苗を購入すれば安心という考えも要注意です。育苗施設が汚染されている場合、一見健全に見える苗でも病原菌を保有している可能性があります。大型育苗施設から広域に供給される苗は、一度汚染されると産地全体に被害が拡大する懸念があります。


石灰を施用すれば根こぶ病を完全に防げるわけではありません。確かにpHを7.2以上に上げることで発生を抑制できますが、極端なアルカリ化はマグネシウムや鉄などのミネラル吸収を妨げ、別の生育障害を引き起こします。


バランスの取れた土壌管理が求められます。


根部病害の診断において、根のこぶだけで判断すると誤診の可能性があります。ネコブセンチュウによる寄生も根にコブを作りますが、根こぶ病はアブラナ科だけに発生し地際に大きなコブを作ることで区別できます。


正確な診断が適切な対策につながります。


病原菌密度と発病の関係も理解しておく必要があります。土壌1gあたりの休眠胞子数が一定以下であれば、適切な管理により発病を抑えられる可能性があります。逆に菌密度が極めて高い圃場では、どんな対策を講じても完全な防除は困難です。


コスト面での判断も重要です。根こぶ病用殺菌剤の土壌混和処理は10aあたり数万円のコストがかかります。一方、菌密度測定サービスを利用して適切な防除方法を選択すれば、薬剤費を大幅に削減できる場合があります。千葉県の事例では、診断に基づく防除により費用削減と効果向上の両立が実現されています。


長期的視点での圃場管理も欠かせません。病原菌は10年以上生存するため、短期的な対症療法では根本的な解決になりません。輪作体系の見直し、土壌改良の継続、抵抗性品種への切り替えなど、複数年にわたる計画的な取り組みが必要です。


根こぶ病菌密度測定サービスによる科学的診断と防除コンサルティング


根部病害防除における独自の管理手法

根部病害の防除において、従来の方法に加えて独自の視点から管理手法を組み立てることで、より効果的な対策が可能になります。特に注目したいのが、圃場の履歴管理とデータに基づく予測的防除です。


圃場ごとの発病履歴を詳細に記録することが第一歩となります。どの作物でいつ発病したか、どの程度の被害だったか、どんな対策を実施したかを記録しておくことで、次作での発病リスクを予測できます。過去3~5年分のデータがあれば、発病パターンの傾向が見えてきます。


気象データとの関連付けも有効な手法です。根部病害の発生は温度と湿度に大きく影響されるため、気象観測データと発病記録を照合することで、リスクの高い時期を事前に把握できます。例えば、雨明け後の高温多湿期には根腐病のリスクが高まるため、予防的な対策を強化するタイミングとなります。


圃場の微地形を考慮した栽培計画も重要です。同じ圃場内でも、わずかな高低差により排水性が異なり、発病リスクに差が生じます。過去に発病が多かった低地部分には抵抗性品種を優先的に配置し、排水の良い高地部分で一般品種を栽培するという戦略的な作付けが効果的です。


育苗土の管理では、使用前の熱処理や太陽熱消毒を徹底します。セル成型育苗の培土は専用品を購入するのが基本ですが、自家製の場合は必ず消毒処理を行います。培土を黒いビニール袋に入れて真夏の直射日光下に2週間程度置くことで、土壌温度が上昇し病原菌を死滅させられます。


作業動線の見直しも感染拡大防止に貢献します。発病圃場と健全圃場の作業順序を決め、必ず健全圃場から作業を始めるルールを徹底します。作業者が無意識のうちに病原菌を運んでしまうリスクを最小限に抑えることができます。


雨水管理も見落とされがちな重要ポイントです。圃場に流入する雨水の経路を確認し、発病圃場からの表面流水が健全圃場に流れ込まないよう、排水溝や畦の配置を工夫します。豪雨時の土壌流出も病原菌拡散の原因となるため、畦畔の補強も有効な対策です。


これらの管理手法を組み合わせることで、根部病害による被害を最小限に抑え、安定した収穫を実現できます。一つ一つは小さな工夫ですが、継続的に実践することで大きな効果につながります。


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