開花後にすき込むと、次の作物が育ちにくくなることがあります。
クリムソンクローバー(学名 *Trifolium incarnatum*)はマメ科シャジクソウ属に分類される1年草で、和名を「ベニバナツメクサ」といいます。原産地は地中海沿岸から南ヨーロッパにかけての地域で、日本には明治時代に牧草として導入されました。現在では緑肥・景観作物・コンパニオンプランツとして農業現場で幅広く活用されています。
種子を選ぶ際に押さえておきたい主要品種は、タキイ種苗の「ディクシー」、雪印種苗の「くれない」、カネコ種苗の「シストル」の3種類です。いずれも国内の農業現場での実績が豊富で、種苗メーカー各社が播種量・時期データを公開しています。どれを選ぶかは栽培目的によって変わりますが、ダイズシストセンチュウ対策を主目的とする場合は「くれない」の対抗性が高いとされており、緑肥・景観兼用なら「ディクシー」が広く使われています。
種子は非常に小さく、1粒の大きさは1×2mm程度(大人の小指の爪の先端ほど)です。この小ささが覆土の深さに大きく影響します。覆土が2cmを超えると発芽率が著しく低下するため、1〜2cm程度の浅い覆土が基本です。種を購入する際は、発芽率の表示期限(種苗法上、発芽検査から1年が目安)を確認しましょう。
種子の保存状態が発芽率に直結します。湿気の多い場所や高温下での保管は発芽率を大きく落とすため、冷暗所での密閉保存が原則です。古い種子を使う場合は試し播きを行い、発芽状況を確認してから本播きに臨むのが安全です。
農研機構 中日本農業研究センター:クリムソンクローバの特徴・播種量・留意点の公式情報
播種時期は、地域によって大きく異なります。地域別に整理すると以下の通りです。
| 地域 | 春播き | 秋播き | 夏播き |
|---|---|---|---|
| 暖地(四国・九州) | 2月下旬〜3月下旬 | 9月下旬〜10月下旬 | なし |
| 中間地(関東〜関西) | 3月上旬〜4月上旬 | 9月中旬〜10月中旬 | 8月下旬〜9月中旬(南東北・北関東のみ) |
| 冷涼地(東北・北陸) | 4月下旬〜6月中旬 | 9月〜10月上旬 | 7月下旬〜8月上旬 |
| 北海道 | 4月下旬〜6月中旬 | 不適 | 7月下旬〜8月上旬 |
秋播きが基本です。関東平坦地では10月上旬〜下旬が播種適期とされており、11月以降の播種では初期生育が緩慢になり、春の被覆力が劣ります。北海道では積雪期間が100日を超えることが多く、雪の下で枯死するリスクがあるため秋播きは行いません。
発芽適温は15〜25℃です。30℃を超えると発芽が阻害されるため、真夏の高温期に播種する場合は涼しい夕方や早朝に作業し、かん水で地温を下げる工夫が必要です。秋播きで播種適期を1か月遅らせると、春の草丈が目に見えて低くなり、緑肥効果も落ちてしまいます。播種のタイミングは収量にも直結すると覚えておいてください。
播種量は10aあたり2〜3kg(春播きは3〜4kg)が標準です。2〜3kgとは、500mLのペットボトル4〜6本分の重さに相当します。播種後は必ずローラーで鎮圧することが大切で、覆土が難しい圃場でも鎮圧だけで発芽率が大きく改善します。
BSI生物科学研究所:クリムソンクローバの生育ステージ・栽培暦・すき込みの詳細解説PDF
クリムソンクローバーを緑肥として使う最大のメリットは、マメ科植物特有の根粒菌による窒素固定です。根粒菌は根に共生して空気中の窒素を有機態窒素に変換し、開花期には10aあたり5〜7kgの窒素が茎葉に集積されます。これは化学肥料の窒素成分に換算すると、一般的な基肥施用量(9kg/10a)のおよそ6〜7割に相当する水準です。
ただし、すき込むタイミングを間違えると逆効果になります。これが大切なポイントです。
開花後半の茎葉は、一部が木質化してC/N比(炭素と窒素の比率)が20を超えます。C/N比20を超えた有機物を土にすき込むと、微生物が分解する際に土壌中の窒素を逆に消費してしまい、次の作物が「窒素飢餓」に陥るリスクがあります。大阪府の研究(2016年)では、C/N比が高いほど利用可能な窒素量が減少し、窒素飢餓防止の観点から開花前にすき込む方が望ましいと報告されています。
最適なすき込みのタイミングは、花枝が伸び始めた開花前〜開花初期です。この時期の茎葉は非常に柔らかく分解が早く、すき込みから2〜3週間で次作の播種・定植が可能です。一方、開花後にすき込んだ場合は3〜4週間の間隔が必要です。
すき込み後の手順をまとめます。
- すき込み作業:ロータリーまたはプラウで直接土にすき込む(草丈が低いため細断不要)
- 分解促進したい場合:フレールモアやハンマナイフモアで細断してからすき込む
- 次作までの待機期間:開花前すき込みなら2〜3週間、開花後すき込みなら3〜4週間
なお、果樹園などでリビングマルチとして利用する場合は、すき込まずにそのまま放置すれば7〜8月に自然枯死します。この場合、成熟した種子が地面に落下し、9〜10月に自然発芽するため毎年播種する手間が省けます。これは使えそうです。
大阪府立環農水研究所:クリムゾンクローバーの窒素供給量推定・C/N比のデータ(学術報告)
クリムソンクローバーを単に緑肥として使うだけでなく、タマネギのコンパニオンプランツとして活用すると、農薬を使わずに害虫を抑制しながら収量も上げられます。農学博士の木嶋利男先生が提唱し、実践農家にも広く取り入れられている方法です。
タマネギはアブラムシやスリップス(アザミウマ)などの害虫が発生しやすい作物です。そこにクリムソンクローバーを一緒に育てると、クローバーの花に害虫が集まり、その天敵であるテントウムシやヒメハナカメムシが圃場内に呼び込まれます。このバンカープランツ効果によって、タマネギに付着した害虫が自然に捕食されるわけです。
栽培の具体的なポイントは以下の通りです。
- タイミング:タマネギ苗の植え付けと同時期(一般地では11月頃)に、畝の条間にクリムソンクローバーの種をすじ播きまたはばら播きする
- 配置:畝幅50cmの場合、タマネギを10cm間隔で植え、その条間に種をまく
- 施肥管理:クリムソンクローバー自身が窒素を固定するため、根粒菌の活性を維持するために窒素肥料の過剰施用は避ける
- 収穫後の処理:タマネギ収穫後、クリムソンクローバーを細かくカットして畝にすき込むと緑肥効果が得られる
タマネギ収穫期(5〜6月)を過ぎると、クリムソンクローバーは自然に枯死します。枯死した茎葉をそのまますき込むことで土壌有機物が補給され、次作の土づくりにもつながります。一石二鳥の活用法ですね。
タマネギ以外にも、ニンニクのコンパニオンプランツとして近接栽培すると球が太りやすくなるとも言われています。ただし距離の目安として30cm以上は離すことが推奨されています。
農学博士・木嶋利男先生監修のコンパニオンプランツ栽培法:タマネギとクリムソンクローバーの実践的な組み合わせ方
農業現場でクリムソンクローバーの種を使う場面として見落とされがちなのが、ダイズシストセンチュウの対抗植物としての活用です。農薬や殺線虫剤では対処しきれなかったダイズ畑の連作障害を、クリムソンクローバーを使った輪作で解決できる可能性があります。
ダイズシストセンチュウは「シスト」と呼ばれる硬い殻の中に卵を持ち、殺線虫剤でも完全に死滅させることが難しい難防除の害虫です。農研機構北海道農業研究センターの研究(2003年)では、コムギの前作または後作にクリムソンクローバーを栽培してすき込むことで、2年間でシスト内卵の密度を初期値の3〜7%まで低減できたことが報告されています。非寄主作物による輪作での同期間の低減率(約21%)と比べると、その効果は歴然です。
なぜクリムソンクローバーが効くのかというと、根から分泌される物質がシスト内の卵の孵化を促す作用があるからです。孵化した線虫幼虫はダイズの根を求めて移動しますが、クリムソンクローバーの根は線虫の寄生に適さないため、幼虫は餓死または死滅します。つまり「おびき寄せて無駄に孵化させる」仕組みで密度を下げるわけです。
輪作に組み込む際の目安として、クローバーの栽培期間が長いほど線虫密度の低減効果が高くなります。可能であれば1作分の期間(約6〜10か月)をクリムソンクローバーの栽培に充てると、感受性のあるダイズ品種でも栽培が可能な密度(乾土1gあたり10卵未満)まで低減できるというデータも出ています。
線虫問題に悩む農家の方が化学農薬に頼らない防除体系を組みたい場合、まずはクリムソンクローバーを2〜3kg/10aで散播するところから始めてみる価値があります。防除コストの削減につながるだけでなく、同時に土壌改良・緑肥効果も得られる点が大きなメリットです。
農研機構北海道農業研究センター:クローバーを活用したダイズシストセンチュウ密度低減効果の研究成果
クリムソンクローバーの種をまいても、思うように育たないケースがあります。その多くは土づくりと排水管理の失敗によるものです。注意すべき点を正確に押さえておきましょう。
最も重要な注意点は排水対策です。湿害に非常に弱く、滞水する圃場では発芽・生育が著しく劣ります。水稲の後作として水田に播種する場合は、地下水位が40cm以下に下がった完全な畑状態になってから播種します。水田の周囲に幅30cm・深さ25〜30cmの明渠(額縁排水溝)を掘ることが必須で、播種後も定期的な溝さらいが必要です。
土壌pHの許容範囲は5.0〜8.0と広く、緑肥目的であれば基本的にpH調整は不要です。ただしpH5.0以下の強酸性土壌では生育が著しく悪化します。強酸性圃場では耕起前に石灰質肥料を全面散布してpH矯正を行いましょう。
施肥については、前作の残肥が十分ある圃場では無施肥でも問題ありません。ただし、やせた圃場では窒素2kg/10aを目安に元肥を施用します。過剰な窒素施用は根粒菌の活性を抑え、窒素固定量を逆に減少させるため逆効果です。つまり「窒素を足しすぎると自分で窒素を作る力が落ちる」ということです。
初期生育が遅い点も覚えておくべき特徴です。発芽後しばらくは雑草に負けやすいため、雑草の多い圃場では十分な雑草対策が必要です。特にダイズシストセンチュウ防除目的で春播きする場合、初期から植生が薄いと線虫密度低減効果も落ちてしまいます。播種前の耕起・整地をしっかり行い、雑草種子をできるだけ減らした状態で播種するのが基本です。
覆土後の鎮圧は必須です。ローラーで圧着することで土と種子の接触が高まり、発芽が大きく安定します。覆土できなかった場合でも鎮圧だけで発芽が良好になるというデータがあります。鎮圧が条件です。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 発芽しない・発芽がまばら | 覆土が深すぎる(2cm超)、鎮圧不足、古い種子 | 覆土1〜2cm、ローラー鎮圧、播種前に発芽テスト |
| 生育が悪い・枯れる | 湿害(排水不良)、強酸性土壌 | 明渠設置・排水溝整備、石灰でpH矯正 |
| すき込み後の次作が育たない | 開花後すき込みによるC/N比上昇→窒素飢餓 | 開花前すき込み、または3〜4週間の腐熟待機 |
| 雑草に負けて被覆力が出ない | 初期生育の遅さ | 播種前に十分な耕起・整地で雑草種子を減らす |
雪印種苗「くれない」:地域別の播種期・使用時期・栽培特性の詳細情報