防護マスクなしでクロルピクリンを使うと、当日中に眼や気道の化学熱傷リスクがあります。
殺線虫剤とは、農作物の根や土壌に寄生する線虫(センチュウ)を防除するために使用される農薬のことです。 センチュウは体長0.5〜1mm程度と極めて小さく、透明・無色のため肉眼ではほとんど確認できません。 そのため「見た目は何も変わっていないのに、収量だけが落ちていく」というやっかいな被害パターンが多く、気づいたときには土壌への深刻な定着が進んでいることも珍しくありません。kotobank+1
農業上の被害を主に引き起こすのは、根にコブを形成するネコブセンチュウと、根を腐敗させるネグサレセンチュウの2種類です。 この2種が圃場に定着すると、植物は根から水分や無機塩類を十分に吸収できなくなり、生育不良・萎れ・枯死などの症状が現れます。 ネコブセンチュウが一度発生した圃場では、毎作被害が繰り返されるケースが多いのが現実です。u-ryukyu+2
世界規模で見ると、線虫による農業被害は年間数十兆円とも試算されています。 つまり土壌センチュウは、発生させてから対処するより「発生させない」ための事前防除が、コスト・収量の両面で圧倒的に有利です。
事前防除が基本です。
参考)植物感染性線虫の誘引物質の同定に成功—年間数十兆円の農作物被…
なお、農林水産省による農薬の用途別分類には「殺線虫剤」という独立した区分はなく、殺虫剤・殺菌剤などと兼用登録されているものも含まれます。 使用する際は必ずラベルの登録内容を確認し、農薬取締法に基づいた適正使用が求められます。lib.ruralnet+1
殺線虫剤は大きくくん蒸剤・非くん蒸性粒剤・生物農薬の3つに分類されます。 それぞれ作用のしくみが異なり、圃場の状況や対象センチュウの種類によって使い分けることが重要です。
参考)https://jppa.or.jp/archive/pdf/50_11_09.pdf
| 種類 | 代表的な成分・製品 | 特徴 | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|
| くん蒸剤 | クロルピクリン、D-D | 土壌中でガス化し広範囲に拡散。線虫・病原菌・雑草種子に効果 | 定植前の土壌消毒 |
| 非くん蒸性粒剤 | ネマトリンエース、フォスチアゼート | 残効2〜3ヶ月。根域への持続的な保護効果 | 定植時・生育期の根域処理 |
| 生物農薬 | フルオピラム、バーティシリウム | 分解が速く環境負荷が低い。有機農業にも適用可 | 有機農業・高付加価値作物 |
くん蒸剤の代表格であるクロルピクリンは、土壌中でほぼすべての線虫種に効果を発揮し、病原菌や雑草の種子にも作用するオールラウンドな消毒効果を持ちます。 しかし揮発性が非常に高く、ガスが近隣に流れると住民や畜産施設に被害を及ぼす可能性があるため、使用前の近隣への告知と気温・風向きへの配慮が必須です。pomais+1
非くん蒸性の粒剤は、アセチルコリンエステラーゼを阻害するなど神経系に作用して線虫を死に至らしめる接触型が多く、低濃度での接触でも根への侵入・摂食活動を低下させます。 ネマトリンエース粒剤のように、すべての土壌線虫に対し2〜3ヶ月の残効が期待できる製品もあります。
接触型が基本です。
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生物農薬に分類されるフルオピラムは、線虫のミトコンドリア呼吸を阻害して摂食・繁殖を止める作用を持ち、リゾクトニアなど一部の真菌性病害にも同時対応できます。 IPM(総合的病害虫管理)プログラムにも組み込みやすく、近年注目度が高まっています。
参考)効果的な線虫駆除のための適切な殺線虫剤の選び方 - POMA…
参考:農薬取締法に基づく農薬の適正使用・登録制度について
農林水産省 農薬コーナー
「殺線虫剤を使えば季節は関係ない」と思っている農家は少なくありませんが、それは大きな誤解です。クロルピクリンやD-Dなどのくん蒸剤は、冬場に効果が大幅に低下することが研究で明らかになっています。
参考)【打倒線虫】季節によって薬剤を変えてかしこく倒す! - 農業…
ガス型のくん蒸剤は土壌中の温度が低いと揮散・拡散が鈍くなり、線虫の深部への到達率が落ちます。 具体的には、サツマイモネコブセンチュウの卵や2期幼虫に対する殺虫効果が、低温条件では著しく低下するというデータが報告されています。 冬に処理するなら粒剤への切り替えを検討するのが賢明です。
夏から秋(地温が高い時期)はくん蒸剤の効果が最大化します。 一方、真夏の高温期に非くん蒸粒剤を施用すると、薬剤が土壌中で分解されやすく残効期間が短くなることがあります。
また、ネコブセンチュウとネグサレセンチュウでは最適な薬剤が異なります。 選ぶ前に、圃場でどのセンチュウが発生しているかを土壌診断で確認するのが先決です。
土壌診断が条件です。
参考:季節別のくん蒸剤効果に関する研究内容の解説
【打倒線虫】季節によって薬剤を変えてかしこく倒す!
くん蒸剤を使う場合、手順を1つでも省くと周辺への健康被害リスクが一気に高まります。
それが原則です。
クロルピクリンは気化しやすく催涙性の強いガスを発生させます。 作業時には土壌くん蒸用の防護マスク(活性炭入り吸収缶付き)と保護メガネ(ゴーグル)の着用が必須であり、通常の農業用防じんマスクでは代用できません。
保護具の種類に注意が必要です。
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施用後はただちに0.03mm以上のポリエチレンシートで土壌を被覆します。 被覆を怠るとガスが大気中に拡散し、近隣住民・畜舎・鶏舎への被害リスクが生じます。 シート被覆は防除効果を高めるだけでなく、近隣トラブルや農薬事故を防ぐためにも不可欠なステップです。chloropicrin+1
施用手順の概要。
直射日光下に放置したクロルピクリンは内圧が上昇し、開栓時に噴き出す事故が発生するケースがあります。 必ず冷暗所に保管したものを使用してください。
保管場所が条件です。
参考)クロルピクリンの安全で適正な取扱い:クロルピクリン工業会
参考:クロルピクリンの安全な使用手順の詳細
クロルピクリンの安全で適正な取扱い|クロルピクリン工業会
殺線虫剤は強力ですが「使えば解決」ではありません。 使い続けると土壌中の全微生物が影響を受け、土壌環境が悪化するリスクがあります。 そのため、農薬防除と非農薬防除を組み合わせたIPMアプローチが現場では有効です。agri.mynavi+1
代表的な非農薬防除として知られるのがマリーゴールドの作付けです。マリーゴールドの根からは「α-ターチニエール」という成分が分泌され、ネコブセンチュウ・ネグサレセンチュウに対し高い毒性を示すことが1930年代から研究されています。 とくにフレンチ種・アフリカン種(アフリカントール等)の栽培後は、3作にわたって線虫密度の回復が見られないという報告もあります。
これは使えそうです。
参考)マリーゴールドの効果!土の中の線虫の密度を下げる!オススメの…
ただし、ソルガムはネグサレセンチュウを増殖させることがあり、クロタラリアはネコブセンチュウには有効でもネグサレセンチュウには効かないケースがあります。 緑肥の選択を誤ると「むしろ悪化する」可能性があるため、対象センチュウを特定してから使う植物を選ぶ必要があります。
対象センチュウの特定が先です。
参考)線虫(センチュウ)駆除に土壌消毒とマリーゴールド?防除と対策…
また米ぬか施用も有効な手段の一つです。実験では米ぬか施用区のネコブ発生率が26.3%だったのに対し、無施用区は50.0%と約2倍の差が出ています。 化学農薬との組み合わせで相乗効果を発揮しやすく、土壌の有機物補給にもなります。
参考)気になるネコブセンチュウ対策について。米ぬか、石灰窒素、マリ…
近年、ネコブセンチュウが発生した圃場では年2回の土壌消毒が必要になるケースも報告されており、その農薬代・労働力が農業経営を圧迫しているのが実態です。 化学農薬だけに依存するサイクルに入ると、コストが増加し続けます。 早めに組み合わせ防除に切り替えるのが長期的には得策です。
参考)ネコブセンチュウ被害を劇的に抑えるカギは、土壌消毒の効果を高…
参考:緑肥作物によるセンチュウ抑制効果のデータ
農作物におけるセンチュウ被害と緑肥による抑制効果|タキイ種苗