収穫前に地上部を見ても被害に気づけません
サツマイモネコブセンチュウの被害は、収穫してはじめて気づくケースが大半を占めています。栽培期間中は地上部に顕著な異常が現れないためです。
塊根における初期症状は、細根が発生する部分に見られるえくぼ状のへこみから始まります。この段階では直径数ミリ程度の小さなくぼみであり、一見すると軽微な傷のように見えることもあります。しかし表皮の下には、体長1mm前後の球形で乳白色をした雌成虫のネコブセンチュウが寄生しているのです。
つまりへこみが基本です。
症状が進行すると、えくぼ状だったへこみ部分から菱形の割れ目が生じるようになります。この割れ目は塊根の成長とともに拡大していき、最終的には深い裂開へと発展します。被害が激しい場合には、複数の割れ目が融合してケロイド状の表面を呈することもあり、この状態になると商品としての価値はほぼ失われてしまいます。
割れ目の周辺部分は黒色に変色するのが特徴的です。この黒変は、センチュウの寄生による組織の壊死反応によって引き起こされます。表皮をめくって観察すると、割れ目の内部や周辺組織に多数の雌成虫が確認できることがあります。
初期段階で発見できれば損失を最小限に抑えられます。
被害の程度は圃場内でも均一ではなく、土壌条件や線虫密度によって株ごとに大きく異なります。特に火山灰土壌や砂質土壌など水はけの良い土壌では、被害が拡大しやすい傾向にあります。
サツマイモネコブセンチュウの被害において、地上部での症状判断が難しい理由は、ほとんどの品種で明確な異常が観察されないためです。
感受性の高い品種では、生育初期に茎の伸長遅延が確認されることがあります。定植後の活着は正常でも、その後のつる伸びが周囲の株と比べて明らかに遅くなるのです。また葉の淡色化も症状の一つとして挙げられ、健全な株と比較すると黄緑色がかった色調になります。
早期落葉も特徴的な症状です。
栽培が進むにつれて、被害株では葉が本来よりも早い時期から黄変し、落葉が始まります。しかしこれらの症状は、肥料不足や他の病害虫被害とも似通っているため、地上部の観察だけでネコブセンチュウ被害と断定するのは困難です。
実際の栽培現場では、地上部が健全に見える株でも、収穫時に塊根が激しく被害を受けているケースが少なくありません。つる自体は旺盛に繁茂し、葉色も正常で、一見すると何の問題もないように見えるのです。このギャップが被害の早期発見を妨げる大きな要因となっています。
地上部だけでの判断は避けるべきです。
北海道立総合研究機構の調査では、施設栽培において地上部に萎凋症状が観察される事例が報告されています。根部の組織が膨れてこぶ状となることで養水分の吸収が阻害され、地上部への供給が不足して萎れが生じるメカニズムです。ただしこの症状も、他の根部病害や水分ストレスによる萎凋との区別が必要となります。
北海道立総合研究機構の資料には、地上部・根部それぞれの被害状況写真と詳細な説明が掲載されています
収穫したサツマイモに亀裂が入っている場合、ネコブセンチュウによる被害なのか、それとも生理障害である裂開症状なのかを正確に見分けることが重要です。
両者の最も大きな違いは、割れ目周辺の表皮の色と状態にあります。ネコブセンチュウ被害では、割れ目の表皮が黒色に変色しているのが特徴です。一方、裂開症状では割れ目のくぼんだ部分の表皮は正常な色を保っており、黒変を伴うことはありません。
表皮の色が判断の鍵です。
裂開症状は、塊根形成初期の肥大が旺盛な時期に、乾燥状態から急激に吸水することで発生する生理障害です。猛暑による極度の乾燥の後に大雨が降ると、土壌の水分量が急激に変化してこの症状が誘発されます。その後の低温や乾燥条件下では、割れた部分が治癒しにくいため症状が残ります。
もう一つの重要な見分けポイントは、表皮下の観察です。ネコブセンチュウ被害の場合、表皮をめくると直径1mm前後の球形で乳白色をした雌成虫が確認できます。複数の個体が集まって寄生していることも多く、この存在がネコブセンチュウ被害の決定的な証拠となります。
虫体の確認が最終判断です。
割れ目の形状にも違いがあります。ネコブセンチュウ被害では、最初にえくぼ状のへこみが形成され、そこから菱形の割れが広がっていく進行パターンを示します。被害が激しくなると複数の割れが融合してケロイド状を呈します。対して裂開症状は、塊根の縦方向に深い亀裂が走る形で現れることが多いです。
土壌条件も判断材料の一つになります。ネコブセンチュウ被害は火山灰土壌や砂質土壌など水はけの良い土壌で多発する傾向があります。一方、裂開症状は土壌タイプに関わらず、水分変動が激しい環境で発生しやすい特徴があります。
水はけと水分変動を見極めましょう。
判断に迷う場合は、農業試験場や普及センターに相談して土壌診断や線虫検査を依頼するのが確実です。正確な原因特定ができれば、次作に向けた適切な対策を立てることができます。
サツマイモネコブセンチュウによる被害は、目に見える形状不良だけでなく、収量の減少と品質の大幅な低下をもたらします。
北海道における施設栽培の調査では、トマトやキュウリ栽培施設での発生面積率が約50%、被害面積率が約33%に達することが報告されています。サツマイモ栽培においても、被害圃場では商品として出荷できる塊根の割合が大幅に低下します。
33%の圃場で被害が出ています。
形状不良による選別ロスが最も深刻な問題です。えくぼ状のへこみや菱形の割れ、裂開、ケロイド状の表面変化などが生じた塊根は、青果用としての商品価値を失います。軽度の被害であればカット加工用として利用できる場合もありますが、買取価格は大幅に下がります。重度の被害塊根は、規格外品として廃棄せざるを得ないケースも少なくありません。
収量への直接的な影響も無視できません。線虫密度が高い圃場では、塊根の肥大が阻害され、個々のイモのサイズが小さくなる傾向があります。養水分の吸収が妨げられるため、本来の生育ポテンシャルを発揮できないのです。
形だけでなく大きさも減少します。
貯蔵性の低下も重要な問題点です。割れ目や傷がある塊根は、貯蔵中に腐敗が進行しやすくなります。特に割れ目から二次的な病原菌が侵入すると、貯蔵庫内で急速に腐敗が広がり、周囲の健全な塊根にまで被害が及ぶリスクがあります。このため被害塊根は早期に選別して除去する必要があり、選別作業の労力とコストが増加します。
経営面での損失を計算すると、被害の深刻さが実感できます。例えば10a当たりの平均収量が2,240kgの圃場で、ネコブセンチュウ被害により30%の塊根が規格外となった場合、約670kgの減収となります。青果用の単価を1kg当たり150円とすると、10万円以上の損失です。
損失が10万円を超えることもあります。
連作を続けている圃場では、土壌中の線虫密度が年々増加し、被害も拡大していく傾向にあります。初年度は軽微な被害でも、対策を講じずに同じ圃場でサツマイモを栽培し続けると、数年後には壊滅的な被害に至る可能性があります。
サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑える最も効果的な方法は、適切な輪作体系の確立と対抗植物の活用です。
連作を避けることが予防の基本原則です。サツマイモを同じ圃場で連続して栽培すると、土壌中の線虫密度が指数関数的に増加します。3年以上の間隔を空けて輪作することで、線虫密度を低く保つことができます。
3年以上空けるのが理想的です。
輪作に組み込む作物の選択も重要なポイントです。ナス科やウリ科、アブラナ科の作物はネコブセンチュウの増殖に好適な環境を提供してしまうため、これらの後作にサツマイモを植えることは避けるべきです。トマトやナス、キュウリ、メロン、ハクサイなどを栽培した圃場では、線虫密度が高まっている可能性があります。
一方、対抗植物を輪作に取り入れることで、線虫密度を積極的に低減させることができます。落花生は代表的な対抗植物で、サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制する効果が確認されています。落花生を1作挟むだけでも、土壌中の線虫数を大幅に減少させることが可能です。
落花生が効果的な対抗植物です。
農研機構の研究によると、矮性のクロタラリアは落花生と同程度にサツマイモネコブセンチュウとミナミネグサレセンチュウの密度を低減できることが示されています。クロタラリアは緑肥作物として栽培でき、すき込むことで土壌改良効果も得られるため、一石二鳥の対策となります。
農研機構のプレスリリースには、矮性クロタラリアの具体的な効果データと利用方法が詳しく掲載されています
イネ科のギニアグラス「ナツカゼ」も高い抑制効果を持つ緑肥です。夏期に栽培してすき込むことで、サツマイモネコブセンチュウをはじめとする各種有害センチュウの密度を抑制します。生育が旺盛で雑草抑制効果もあるため、休閑期の緑肥として適しています。
休閑期の緑肥活用が鍵です。
キク科のマリーゴールドも線虫対抗植物として知られていますが、サツマイモネコブセンチュウに対する効果は品種によって差があります。特定の品種では高い抑制効果が確認されているため、導入する際は対センチュウ効果が実証されている品種を選ぶことが大切です。
輪作体系を組み立てる際は、経営全体のバランスも考慮する必要があります。対抗植物だけでなく、収益性の高い作物も組み込んだ複合的な作付け計画を立てることで、線虫対策と経営の安定化を両立させることができます。
品種選択は、サツマイモネコブセンチュウ被害を軽減する重要な手段の一つです。近年の育種研究により、線虫抵抗性を持つ品種が開発されています。
「べにはるか」は、つる割病に強く、立枯病およびネコブセンチュウに対してやや強い抵抗性を示す複合抵抗性品種です。青果用として食味が優れており、貯蔵性も良好なため、線虫が問題となる圃場での栽培に適しています。ただし完全な免疫性ではないため、高密度に線虫が発生している圃場では被害を受ける可能性があります。
べにはるかがやや強い抵抗性です。
「ジェイレッド」や「あまはづき」といった品種も、サツマイモネコブセンチュウに対する抵抗性を持つことが研究により確認されています。これらの品種では、線虫が根に侵入しても増殖が抑制されたり、根の組織反応によって線虫の発育が阻害されたりするメカニズムが働きます。
一方、従来から広く栽培されている「ベニアズマ」は線虫抵抗性が弱いため、線虫密度の高い圃場での栽培は避けるべきです。高密度発生圃場で感受性品種を栽培すると、収穫物のほとんどが被害を受けて商品価値を失うケースもあります。
感受性品種は避けましょう。
抵抗性品種を導入する際は、地域の気候条件や市場ニーズとの適合性も考慮する必要があります。抵抗性があっても、その地域での栽培適性が低かったり、市場での需要がなかったりすれば、経営的なメリットは得られません。地域の普及センターや農業試験場に相談して、その地域に適した抵抗性品種を選ぶことが重要です。
栽培管理面での工夫も被害軽減に寄与します。
健全な苗を用いることは基本中の基本です。
線虫に感染した苗を定植すると、圃場全体に線虫を拡散させてしまいます。苗の生産圃場を線虫の発生が確認されていない清浄な場所に設定し、定期的に検査を行うことが必要です。
農機具の洗浄も見落としがちな対策ポイントです。トラクターやロータリー、収穫機などに付着した土壌に線虫が混入している場合、他の圃場へ持ち込んでしまうリスクがあります。特に線虫発生圃場で使用した機械は、使用後に十分に洗浄してから他の圃場に持ち込むようにします。
機械洗浄で拡散を防げます。
堆肥など有機物の施用も、間接的に線虫被害を軽減する効果があります。有機物が豊富な土壌では、線虫の天敵となる微生物や昆虫が増殖し、生態系のバランスが改善されるためです。ただし未熟堆肥や汚染された堆肥は逆効果となる可能性があるため、十分に発酵させた良質な堆肥を使用することが前提となります。