裏作と農業で収益を向上させる作物の種類と選び方

農業における裏作の重要性をご存知ですか?収益アップや土壌改善など多くのメリットがある一方、作物の選び方にはコツがいります。本記事では裏作の成功事例や意外な効果について解説しますが、あなたの畑は眠っていませんか?

裏作と農業

裏作と農業

裏作で農業経営を変えるポイント
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土地利用率の向上

農閑期をなくし年間を通じて農地を有効活用

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経営の安定化

複数作物の導入で収入源を分散しリスクを軽減

🌱
土壌環境の改善

輪作体系による地力回復と病害虫サイクルの遮断

裏作と農業の基礎知識とメリット

 

農業において「裏作(うらさく)」とは、主たる作物(表作)を収穫した後、次の作付けまでの期間を利用して別の作物を栽培することを指します。日本の水田農業においては、一般的に夏に栽培する「水稲」が表作であり、稲刈り後の秋から春にかけて栽培する「麦」や「野菜」が裏作にあたります。このサイクルを確立することは、単なる収入源の増加だけでなく、持続可能な農業経営において極めて重要な役割を果たします。

 

裏作を導入する最大のメリットは、土地利用率の向上と年間を通じた収益の確保です。通常、一毛作(年1回の栽培)では冬の間、農地は遊休地となり収益を生み出しません。しかし、裏作を行うことで、同じ面積の農地から2回分の収穫を得ることが可能になります。これを「二毛作」と呼びますが、裏作はその二毛作を成立させるための後半部分の栽培体系を指します。

 

また、栽培面でのメリットとして、雑草抑制効果と病害虫サイクルの遮断が挙げられます。冬期に農地を裸の状態で放置すると、春先に雑草が繁茂し、次期作の準備に多大な労力を要することになります。しかし、裏作として麦などを栽培することで、地表が被覆され、雑草の発生を物理的に抑制することができます。さらに、水稲(イネ科)の後にマメ科アブラナ科などの異なる科の作物を栽培することで、特定の病害虫の密度を下げ、連作障害のリスクを軽減する「輪作効果」も期待できます。

 

これに加え、経営上のリスク分散も大きな利点です。農業は天候に左右されやすい産業ですが、収穫時期の異なる複数の作物を持つことで、仮に表作が不作であっても、裏作の収入で経営全体をカバーできる可能性があります。特に、近年の異常気象においては、単一作物への依存度を下げることは経営の安定化に直結します。

 

以下のリンクでは、農林水産省が公開している水田活用の直接支払交付金についての情報が確認できます。裏作を行う上で活用できる補助金制度について詳しく解説されています。

 

農林水産省:水田活用の直接支払交付金について(戦略作物助成など)
さらに、裏作には農業機械の稼働率を上げる効果もあります。トラクターや管理機などの高額な農業機械を、春と秋の特定の時期だけ使用するのではなく、年間を通じて稼働させることで、機械の減価償却費に対する生産効率を高めることができます。このように、裏作は単に「空いている土地を使う」というだけでなく、経営資源(土地、機械、労働力)の最適化を図るための戦略的な手段といえます。

 

裏作と農業に適した作物の種類と選び方

裏作として選択すべき作物は、地域の気候条件、土壌の排水性、そして労働力配分を考慮して慎重に選ぶ必要があります。特に水田の裏作(田畑輪換)の場合、最大の課題は「排水対策」です。水稲栽培に適した保水性の高い土壌は、逆に言えば畑作物にとっては過湿になりやすい環境です。そのため、湿害に強い作物を選ぶか、徹底した排水対策を行うかが成功の鍵となります。

 

ここでは、裏作に適した代表的な作物の種類と、それぞれの選び方のポイントを解説します。

 

作物の種類 特徴と選び方のポイント 難易度 収益性
麦類(小麦・大麦) 最も一般的な裏作作物。排水対策は必須だが、機械化体系が確立しており、大規模経営に向く。国の助成金対象になりやすい。
タマネギ 秋植えで翌春~初夏収穫。貯蔵性が高く、相場変動の影響を受けにくい。機械化が進んでおり、高収益が期待できるが、苗作りや定植に技術が必要。
ブロッコリー 近年需要が急増中。湿害には弱いため高畝が必要だが、収穫期間の調整がしやすく、契約栽培もしやすい。
ニンニク 高単価作物として人気。冬の寒さに強く、雪の下でも越冬可能。乾燥・調製作業に手間がかかるが、利益率は非常に高い。 極高
大豆・枝豆 転作作物としてポピュラー。地力増進効果があるが、播種時期が梅雨と重なる場合があり、発芽不良のリスク管理が必要。

作物の選び方の基準として、まず考慮すべきは「表作との作業競合」です。例えば、水稲の収穫時期が遅れる品種(晩生種)を作付けしている場合、裏作の播種適期を逃してしまうリスクがあります。逆に、裏作の収穫が遅れれば、翌年の水稲の田植え準備に支障が出ます。そのため、表作の収穫終了から裏作の播種までに十分な期間(「作間(さくかん)」)を確保できる組み合わせを選ぶことが鉄則です。
次に重要なのが「地域の気候への適応性」です。特に寒冷地では、冬期の積雪や凍結に耐えられる作物でなければなりません。例えば、寒さに強い「秋まき小麦」や、雪の下で糖度を増す「雪下キャベツ」などは、寒冷地の裏作として理にかなっています。一方、温暖な地域では、春の訪れが早いため、早期に収穫できる「極早生タマネギ」や「春レタス」などが、高値で取引される端境期を狙えるため有利です。

 

また、販売経路の確保も選び方の重要な要素です。JAなどの共選出荷を利用するのか、直売所や契約栽培で販売するのかによって、求められる作物の種類や品質、量が異なります。例えば、加工業務用として需要の高いブロッコリーやタマネギは、形が多少不揃いでも全量買い取りの契約が結べる場合があり、経営の安定につながります。

 

以下のリンクは、野菜の裏作導入に関する技術的な指針や、具体的な栽培カレンダーの例が掲載されています。

 

農研機構:水田における高収益野菜導入のための技術マニュアル
最後に、土壌条件との相性です。粘土質の強い水田では、根菜類(ダイコンやニンジン)はまた根になりやすく、掘り取りも困難になるため避けたほうが無難です。逆に、葉物野菜や地上部を利用する作物は比較的適応しやすい傾向があります。自分の農地の土壌タイプを把握し、無理のない作物を選ぶことが、長期的な裏作継続の秘訣です。

 

裏作と農業で収益を向上させる経営戦略

裏作を単なる「おまけの栽培」と捉えず、独立した収益の柱とするためには、緻密な経営戦略が必要です。収益向上のためには、「コスト削減」と「単価向上」、そして「補助金の最大活用」の3つの視点を組み合わせる必要があります。

 

まず、コスト削減の要となるのが、機械装備の共用化と効率化です。水稲作で使用しているトラクターや防除機を裏作でも流用することは基本ですが、さらに一歩進んで、裏作専用のアタッチメントを導入することで作業効率を劇的に向上させることができます。例えば、水稲の育苗ハウスは春先以外は空いていることが多いため、ここでタマネギやブロッコリーの苗を生産したり、野菜の乾燥・調整場所として利用したりすることで、施設費をかけずに裏作のインフラを整えることができます。

 

次に、単価向上を目指すための「端境期(はざかいき)」狙いです。市場価格は供給量が減る時期に高騰します。一般的な露地栽培の出荷ピークをあえてずらす品種選定や、トンネル栽培などの簡易的な被覆資材を活用することで、収穫時期を2週間~1ヶ月早めたり遅らせたりすることが可能です。このわずかな時期のズレが、単価の数割アップにつながり、結果として大きな収益差を生みます。特に裏作野菜は、春先の品薄時期に出荷できる可能性があるため、市場動向をリサーチし、戦略的に出荷時期をコントロールすることが重要です。

 

そして、見逃せないのが国の支援制度(交付金)の活用です。日本の農業政策では、主食用米の需要減少に伴い、水田を畑として活用する動きを強く支援しています。「水田活用の直接支払交付金」の中には、麦や大豆、飼料作物、そして高収益作物(野菜など)を作付けした場合の助成メニューが豊富に用意されています。

 

具体的には、以下のような支援策があります。

  • 戦略作物助成: 麦・大豆などの本作化を支援
  • 産地交付金: 地域で設定された作物(野菜など)への支援
  • 高収益作物導入支援: 野菜や果樹への転換に伴う機械・施設導入への補助

これらの交付金は、裏作の低い利益率を補填するだけでなく、黒字化への大きな後押しとなります。ただし、交付金の要件は年々変化しており、「過去5年間に一度も水張り(湛水)を行っていない農地は交付対象外になる」といった「5年ルール」などの重要な変更点もあります。常に最新の情報を収集し、自分の経営計画が要件に合致しているかを確認する必要があります。

 

また、労働力の平準化も収益性に寄与します。年間雇用している従業員がいる場合、冬期に仕事がない状態は人件費の無駄になります。裏作を導入することで、通年で安定した仕事を提供でき、優秀な人材の定着率を高めることができます。熟練したスタッフが定着すれば、作業スピードと品質が向上し、結果的に単位面積あたりの収益性が高まるという好循環が生まれます。

 

以下のリンクでは、高収益作物の導入事例や経営モデルについて、具体的な数値と共に紹介されています。

 

農林水産省 関東農政局:高収益作物の導入促進について(導入事例集)
最後に、販売戦略としての「契約栽培」の活用です。加工業者や外食産業と事前に価格と量を決めて栽培する契約栽培は、豊作貧乏(豊作による価格暴落)のリスクを回避する有効な手段です。裏作作物は、麦や大豆、加工用野菜など、契約取引になじみやすい品目が多くあります。安定した販路を確保した上で作付けを行うことで、経営の見通しが立ちやすくなり、計画的な投資が可能になります。

 

裏作と農業における緑肥の意外な効果

裏作において、「現金収入を得る作物」ではなく、あえて「土を豊かにする作物」である緑肥(りょくひ)を選択するという戦略があります。これは一見、収益を生まないため遠回りに見えますが、実は農業経営全体で見ると、肥料代の削減や次期作の収量アップという形で、現金作物以上の「見えない収益」をもたらすケースが少なくありません。これが裏作の意外な効果であり、プロの農家が注目する技術です。

 

緑肥作物の代表格である「ヘアリーベッチ」や「レンゲ」などのマメ科植物は、根に共生する根粒菌の働きによって、空気中の窒素を固定し、土壌に天然の窒素肥料を蓄積させる能力があります。これを春に土にすき込むことで、次期作(例えば水稲やトウモロコシ)の化学肥料(窒素分)を大幅に減らす、あるいは無施肥で栽培することが可能になります。近年の肥料価格高騰を考慮すると、このコスト削減効果は計り知れません。

 

さらに、アレロパシー(他感作用)による雑草抑制効果も見逃せません。例えば、ムギ類(特にライ麦やエンバク)やヘアリーベッチは、他の植物の成長を阻害する物質を放出するアレロパシー作用を持っています。これらを裏作として栽培することで、春先の厄介な雑草の発生を抑え、除草剤の使用回数や除草作業の手間を劇的に減らすことができます。これは「除草コストの削減」という形で直接的な利益となります。

 

また、緑肥の根は土壌の物理性を劇的に改善します。イネ科の緑肥(ライ麦やソルゴー)は、深く強力な根を張り巡らせるため、トラクターなどの重みで硬くなった耕盤層(こうばんそう)を破壊し、水はけと通気性を良くする「生物的耕運」の効果をもたらします。排水性が向上すれば、次期作の根張りが良くなり、湿害や干ばつへの耐性が高まり、結果として収量が安定・向上します。

 

以下のリンクは、緑肥作物の選定や利用方法について、効果別に詳しく解説されているタキイ種苗のページです。

 

タキイ種苗:緑肥作物の効果と選び方・使い方
このように、緑肥による裏作は、直接的な売上こそゼロですが、以下のような経済効果を生み出します。

  1. 減肥効果: 化学肥料代の削減(10aあたり数千円~1万円程度の削減効果)
  2. 農薬・省力化: 除草剤や防除回数の削減、除草労働の軽減
  3. 増収効果: 土壌環境改善による主作物の収量・品質向上(5~10%の増収も珍しくない)

特に、長年の連作で地力が低下している水田や、排水不良で野菜の栽培が難しい圃場においては、無理に野菜を作るよりも、一度緑肥を挟むことで土壌をリセットする方が、長期的には高い収益性をもたらす「急がば回れ」の賢い選択となる場合があります。自分の圃場の健康状態を見極め、戦略的に緑肥を裏作に組み込むことは、高度な農業経営の証と言えるでしょう。

 

裏作と農業の連作障害と失敗しない対策

裏作を導入して農地の利用率を高めることは重要ですが、そこで最も警戒しなければならないのが連作障害(れんさくしょうがい)です。連作障害とは、同じ科の作物を同じ場所で繰り返し栽培することによって、特定の病原菌が増殖したり、土壌中の微量要素が欠乏したりして、作物の生育が悪くなる現象を指します。裏作を取り入れた多毛作体系では、作付け回数が増える分、このリスク管理がより重要になります。

 

裏作における連作障害の典型的な失敗例として、「アブラナ科の偏重」が挙げられます。例えば、夏にキャベツを作り、冬の裏作でブロッコリーや小松菜を作る、といったパターンです。これらは全てアブラナ科であり、根こぶ病などの深刻な土壌病害を招く原因となります。また、ナス科トマト、ナス、ジャガイモ、ピーマン)も連作障害が出やすい代表的なグループです。

 

このような失敗を防ぐための最大の対策は、「輪作体系(ローテーション)」の確立です。異なる「科」の作物を順番に回していくことで、土壌環境のバランスを保ちます。

 

効果的なローテーションの考え方は以下の通りです。

  • イネ科(水稲・麦・トウモロコシ):土壌病害のリセット効果が高い「クリーニングクロップ」として活用。
  • マメ科(大豆・枝豆・緑肥):空気中の窒素を固定し、地力を回復させる。
  • 他科野菜:アブラナ科、ナス科、ユリ科などを、イネ科やマメ科の間に挟む。

具体的には、「水稲(イネ科)→ 大麦(イネ科)→ 大豆(マメ科)→ タマネギ(ユリ科)」といったように、水稲を軸にしつつ、間に異なる科の作物を挟む2年~3年のサイクルを組むのが理想的です。特に水田農業においては、夏に水を張って水稲を栽培する「湛水(たんすい)」期間が、畑地性の土壌病害虫を死滅させる強力な消毒効果を持つため、田畑輪換(水田と畑を数年ごとに切り替えること)は最強の連作障害対策となります。

 

以下のリンクでは、連作障害のメカニズムと、土壌分析に基づいた具体的な対策方法が解説されています。

 

ヤンマー:連作障害の原因と対策、土づくりについて
また、物理的な排水対策の徹底も、裏作の失敗を防ぐためには不可欠です。水田からの転作作物の生育不良の多くは、連作障害と混同されがちですが、実は「湿害」が原因であることが多々あります。水田は水を溜める構造になっているため、そのままでは畑作物の根が酸欠を起こし、根腐れを誘発します。

 

これを防ぐためには。

  1. 明渠(めいきょ)施工: 畑の周囲や内部に溝を掘り、表面水を速やかに排水する。
  2. 暗渠(あんきょ)整備: 地中に排水パイプや疎水材を埋設し、地下水位を下げる。
  3. 高畝(たかうね)栽培: 畝を高く盛り上げることで、根圏(こんけん)を過湿から守る。

特に、タマネギやニンニクなどの越冬作物は、春先の雪解け水や長雨で湿害を受けやすいため、播種・定植前の排水対策が収量を決定づけます。

 

さらに、土壌診断を定期的に行い、土壌のpH(酸度)やEC(電気伝導度:肥料成分の残量)を把握することも重要です。裏作作物は多肥栽培になりがちで、土壌に塩類が集積し、生育阻害を引き起こすことがあります。前の作物の肥料が残っている場合は、減肥をするなどの調整が必要です。

 

裏作は、一度失敗して土壌病害が蔓延すると、その回復には数年単位の時間を要します。「なんとなく空いているから」といって安易に作付けするのではなく、数年先を見据えた作付計画(ブロックローテーション)を立て、土づくりと排水対策という基本を徹底することが、長く安定して収益を上げ続けるための絶対条件です。

 

 


zaa-392最新薬剤除草法〈〔第1〕〉水田及び水田裏作篇 (1957年) (農研叢書) 竹松 哲夫(著) 博友社