サツマイモ基腐病原因と発生生態防除

サツマイモ基腐病は糸状菌が原因で、苗や土壌から感染が広がります。見た目は健全でも保菌している場合があり、畑に病原菌を持ち込むリスクがあります。具体的な原因と効果的な防除対策、知っておくべきポイントとは?

サツマイモ基腐病の原因と発生経路

健全に見える苗でも基腐病菌を保菌している場合があります。


📋 この記事の3つのポイント
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病原菌の正体

ディアポルテ・デストルエンスという糸状菌が原因で、種イモや苗から畑に侵入します

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水による感染拡大

雨や畑の停滞水で胞子が移動し、周辺の健全株に広がります

🛡️
3つの対策原則

「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の徹底が防除の基本です


サツマイモ基腐病の病原菌と特性


サツマイモ基腐病の原因は、Diaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌です。この病原菌はカビの一種で、2018年に鹿児島県と宮崎県で国内初めて確認されました。それ以降、全国36都道府県に拡大しています。


病原菌は植物にのみ影響を及ぼす特性があります。


つまり人体には無害です。


とはいえ、農業生産には深刻な被害をもたらします。鹿児島県では令和3年度に、作付面積の約75%で基腐病の症状が確認されました。焼酎用サツマイモの生産量約15万トンのうち、約47%が失われたという報告もあります。


この病原菌はヒルガオ科の植物、特にサツマイモにのみ感染します。他の作物には感染しないため、輪作による対策が有効です。病原菌の生育適温は25〜28℃で、高温多湿の環境を好みます。雨時期から夏にかけての長雨や台風の時期に被害が拡大しやすい傾向があります。


病原菌は土壌中の残渣の中で長期間生き残る能力を持っています。枯死した罹病残渣でも6ヶ月以上感染力を維持することが確認されています。つまり、一度発生した畑では翌年も発生リスクが高いということです。


サツマイモ基腐病の主な感染経路

基腐病の感染経路は大きく分けて4つあります。それぞれの経路を理解することが、効果的な防除につながります。


最も重要な感染経路は、病原菌に感染した苗や種イモからの持ち込みです。見た目には健康そうな苗やイモでも、病原菌を保菌している場合があります。株元が変色していない萌芽苗でも基腐病菌を保菌している可能性があるため、苗の選別だけでは完全に防げません。


これが最も厄介な点です。


定植後1ヶ月程度で発生が認められ、2ヶ月以内にほとんどの感染苗が発病します。つまり、感染苗を植えてしまうと短期間で被害が広がるということですね。


土壌伝染による発病は、種苗伝染よりもゆるやかに始まります。過去に基腐病が発生した圃場では、収穫後に病気に罹った株の残渣中で病原菌が生き残り、土壌を汚染することで次作の伝染源となります。土壌伝染では徐々に発病株が増加していく特徴があります。


水を介した胞子の移動も重要な感染経路です。発病株には大量の胞子が形成され、降雨や圃場の停滞水などにより周辺の健全株に広がります。雨が降った後、畑に水が残っていると、その水に乗って胞子が移動し感染を拡大させます。


排水対策が重要な理由がここにあります。


接触伝染も見逃せません。茎が伸長して畝間の汚染土壌や周辺株の病変部に接触すると、そこから感染が起こります。また、農作業や暴風雨などで生じたツルの傷口からも病原菌が侵入します。農機具や作業者の靴に付着した土を介して感染が広がることもあるため、圃場間の移動時には注意が必要です。


農研機構「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策」PDF
サツマイモ基腐病の詳細な発生生態と科学的根拠に基づいた防除対策について、農研機構が公開している技術者向けマニュアルです。


サツマイモ基腐病による被害の実態

基腐病の被害は地上部と地下部の両方に現れます。症状を早期に発見することが、被害拡大を防ぐ鍵となります。


地上部の症状として、最初は生育不良や葉の黄変、赤変が見られます。株の地際部分が暗褐色から黒色に変色するのが特徴的な症状です。


病徴が進むと、葉や茎が枯死していきます。


生育旺盛期には茎葉が繁茂しているため、株の異常に気付きにくく、発生が密かに拡大します。


収穫期が近づき茎葉の生育が衰える秋頃になって、一気に枯れ上がったように見えることが多いです。


「急に枯れた」と感じるのはこのためですね。


実際には水面下で病気が進行していたということです。


地下部では、株の地際が感染すると、地下部の茎、藷梗(しょこう:茎と塊根をつなぐ部分)、塊根へと病徴が進展します。塊根はなり首側から褐色~暗褐色に腐敗することが多く、収穫時には健全に見えた塊根でも、貯蔵中に腐敗が進行する場合があります。


被害の程度は地域や年によって大きく異なります。鹿児島県では平成30年に初確認後、発生面積が急速に増加し、令和3年には全圃場の75%まで拡大しました。令和4年度は約35%となり、各種対策を徹底した結果、発生圃場の面積が半減しています。つまり、適切な対策を行えば被害を減らせるということです。


多発圃場では収量が大幅に減少します。壊滅的な被害を受けた圃場では、ほとんど収穫できないケースもあります。経済的損失も甚大で、焼酎メーカーの売上高約650億円のうち約47%が失われたという報告があります。


サツマイモ基腐病の発生しやすい条件

基腐病の発生には、環境条件が大きく関わっています。どのような条件で発生しやすいかを知ることで、予防対策が立てやすくなります。


降雨と湿度が最も重要な要因です。病原菌の胞子は水によって移動するため、梅雨時期の長雨や台風による大雨で被害が急拡大します。圃場に水が停滞すると、胞子が広範囲に移動し、感染機会が増えます。水はけの悪い圃場では発生リスクが高まります。


圃場の排水状態を確認することが基本です。雨が降った後に畑を見回り、水たまりができている場所がないかチェックしましょう。水が溜まっている箇所があれば、排水路まで溝を切って水を流す必要があります。


温度条件も影響します。病原菌の生育適温は25〜28℃で、6月から9月にかけての高温期に活動が活発になります。ただし、10℃以下や35℃以上では生育が抑制されるため、極端な低温や高温期には発生しにくい傾向があります。


土壌のpHにも関係があります。病原菌は弱酸性から中性の土壌を好み、pH5〜7の範囲で良好に生育します。極端な酸性やアルカリ性の土壌では生育が抑制されますが、通常の畑の土壌はこの範囲内に入ることが多いです。


連作や前作の残渣が多い圃場では発生リスクが高まります。土壌中の病原菌密度が高くなると、健全な苗を植えても土壌伝染により発病します。罹病残渣が原因の土壌伝染による発病は長期間続き、薬剤散布での防除は難しくなります。


サツマイモ基腐病の見分け方と診断

基腐病を正確に診断することは、適切な対策を取る第一歩です。他の病害と見分けるポイントを押さえましょう。


圃場での目視診断では、株の地際部分の変色が重要な手がかりです。地際のあたりが暗褐色~黒色になっていて、生育不良や萎れ、葉の黄変や赤変が見られたら基腐病を疑います。水に濡れると病変部から大量の胞子が漏出するのも特徴的です。


塊根の症状では、なり首側から褐色~暗褐色に腐敗することが多いです。切断面を見ると、維管束部分が褐変している場合があります。貯蔵中に発病すると、塊根全体が腐敗して悪臭を放つこともあります。


形態観察による診断方法もあります。病変部を顕微鏡で観察すると、微小な黒粒(柄子殻または分生子殻)が多数形成されているのが見えます。これらの構造物から胞子が漏出している様子を確認できれば、基腐病の可能性が高まります。


より確実な診断にはPCR法が有効です。病原菌のDNAを検出する方法で、感染初期の無症状の段階でも診断できます。農業試験場や病害虫防除所に依頼すれば、PCR検査を受けられる場合があります。確実な診断が必要な場面では活用を検討しましょう。


類似病害との区別も重要です。サツマイモには他にも「つる割病」「立枯病」「黒斑病」などがあります。基腐病の特徴は、株元の黒変と水による胞子の拡散、そして急速な被害拡大です。複数の株で同時に症状が出て、雨の後に被害が広がる場合は基腐病の可能性が高いです。


育苗床でも発症の見分け方を知っておくと有効です。育苗床で罹病株を的確に見分けて除去することで、感染苗の本圃への持ち込みを防げます。苗の基部が褐変していたり、萎れている苗は使用しないようにします。


農畜産業振興機構「サツマイモ基腐病の発生と防除の取り組み」
基腐病の診断方法や防除技術について、現場での実践例を交えて詳しく解説している記事です。


サツマイモ基腐病の効果的な防除対策

基腐病の防除は「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の3つの原則が基本です。それぞれの段階で適切な対策を組み合わせることが重要です。


「持ち込まない」対策では、健全な種イモと苗の使用が最優先です。病気の発生していない種イモ専用圃場から採取した種イモを使うのが原則です。種イモは温湯処理(47〜48℃で40分間浸漬)または蒸熱処理で消毒します。苗は採苗と同時にベンレート水和剤500倍またはベンレートT水和剤20の200倍で消毒しましょう。


温湯処理には注意点があります。48℃・15分の温湯処理で基腐病の発生を低減できるという試験結果がありますが、苗質がしっかりした苗を使うことが前提です。細くて軟弱な苗は温湯処理による植え痛みが出やすいため、苗を1〜5日取り置いてから温湯消毒を行うと、苗の生育異常や植え痛みが減少します。


「増やさない」対策では、圃場の排水対策と薬剤防除が中心です。深さ・幅を50cm以上の溝を畝間に設けて、雨水を速やかに排水します。表面排水だけでなく、地下排水の対策も効果的です。弾丸暗渠やカットドレーン暗渠などの施工を検討しましょう。


薬剤防除では体系的な散布が効果的です。土壌処理剤(フリントフロアブル25)と植付3〜4週目と5〜6週目の2回に分けてフロンサイドSCを散布する体系は予防防除効果が高いです。アミスター20フロアブルも定植後5週目ごろの予防散布が推奨されています。


降雨前の散布がポイントですね。


発病株を見つけたら速やかに除去します。周辺株への伝染防止のため、異常株の除去後に銅剤(予防剤)散布→治療剤散布→銅剤散布の交互散布による防除体系が重要です。除去した株は圃場から離れた場所で適切に処分しましょう。


「残さない」対策では、収穫後の残渣処理が鍵です。残渣を圃場に放置すると乾燥し固くなり分解が遅れます。残渣処理は収穫直後に行い、可能な限り圃場外に持ち出します。持ち出せない残渣は、収穫後速やかに細断、耕うんを行ってすき込み、分解を促進します。


残渣分解のためには地温が20℃以上必要です。地温が高い時期(10月上旬まで)に数回耕転を行い、堆肥や腐熟促進資材を投入すると効果的です。低温期に埋設した罹病残渣は、約6ヶ月経過しても感染力を維持しているため、タイミングが重要ということです。


土壌消毒も有効な手段です。バスアミド微粒剤やキルパーなどのくん蒸剤を用いた土壌消毒は、適切な条件下で実施すれば高い防除効果があります。薬剤処理後は直ちにビニールなどで被覆することで、消毒効果を高められます。


抵抗性品種の利用も検討しましょう。「こないしん」などの抵抗性がある品種を作付けすることで、発生程度を軽減できた事例があります。多発生地域では品種の組み合わせや夏作の休耕も有効な対策です。


輪作や休耕も効果的です。前作で基腐病が多発し、塊根被害が目立った圃場では、サツマイモ以外の植物を2年程度輪作または休耕することが望ましいとされています。病原菌の密度を下げるための時間が必要ということですね。


複数の対策を組み合わせて総合的に取り組むことで、被害を最小限に抑えることができます。一つの対策だけでは不十分なため、各段階での対策を確実に実行しましょう。


農林水産省「サツマイモ基腐病の総合的な防除対策」PDF
「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の3つの対策を総合的に解説した、農林水産省のマニュアルです。




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