減圧下でのトルエン取り扱い中、引火点5℃を超えて発火した事例があります。
トルエンは無色透明の芳香族炭化水素で、常圧(101.3 kPa)における沸点は110.6℃です。 融点は-95℃で、密度は0.866〜0.868 g/mL(20℃)という特性を持ちます。 農業分野では、農薬や化学資材の残留成分を分析する際の溶媒として、また農薬の有効成分をマイクロカプセル化するプロセスの溶媒として使われています。miyazaki-u.repo.nii+2
農薬の残留分析では、アセトンやヘキサンなどとともにトルエンが抽出溶媒に用いられることがあります。 溶剤としての優れた溶解力が評価される一方、引火点がわずか4〜5℃と非常に低く、気温の低い農閑期の屋外作業でも引火のリスクが消えません。
これが基本です。
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農業現場でトルエン系溶剤を使う場合、「加熱するから危ない」という意識を持つ方が多いです。しかし実際は、加熱しなくても蒸気が発生し、爆発性混合気を形成する点が深刻なリスクです。 蒸気密度は空気の約3.18倍で、低い場所に滞留しやすい特徴があります。anzeninfo.mhlw+1
爆発範囲は下限1.1 vol%〜上限7.1 vol%です。 これは容積比でわずか1.1%を超えただけで爆発性混合気になるということです。
参考)https://www.idemitsu.com/jp/sds/chem/Toluene_JP.pdf
厚生労働省 職場のあんぜんサイト:トルエンの詳細な物性・危険有害性情報(引火点・爆発範囲・健康影響)
減圧によってトルエンの沸点が劇的に変化する理由は、蒸気圧と外部圧力の関係に基づいています。 液体の沸点は「蒸気圧 = 外部圧力」が成立する温度であり、外部圧力を下げれば下げるほど沸点も低下します。 この関係を定量的に表したのがアントワーヌの式で、トルエンのパラメーターも国際的なデータベース(NIST)に収録されています。khem2025.stars.ne+1
実測値として、トルエンは約14.56 mmHg(≒19 hPa)まで減圧すると沸点が約14.5℃になります。 これは夏場の農作業小屋の室温に近い温度です。
意外ですね。
参考)108-88-3・トルエン・Toluene・204-0186…
つまり、農薬分析用のエバポレーター(減圧濃縮装置)を稼働させた瞬間、装置の密閉が不十分であればトルエン蒸気が室温で噴き出す可能性があるということです。 「加熱してもいないし、沸騰もしていないから大丈夫」という判断は通用しません。ocw.kyoto-u+1
アントワーヌ式 log10(P/bar)=A−(T/K)+CB を使うと、任意の圧力でのトルエン沸点を計算できます。 トルエンのパラメーターは A=4.07827、B=1343.943、C=−53.773(K単位)です。
参考)種々のデータ:種々の液体の蒸気圧
吉村洋介のホームページ:アントワーヌ式の詳細パラメーター一覧と減圧下での沸点推算ノモグラフの解説
茶葉など農産物中の残留農薬を分析する場面では、トルエンを含む有機溶媒の減圧留去が標準操作に含まれます。 このときに深刻な問題となるのが「突沸」です。 突沸とは、液体が沸点を超えても沸騰せずにいた状態から、突然爆発的に気化する現象で、装置の蓋が破損したり、試料が吹き飛んだりする事故につながります。pref+2
奈良県農業研究開発センターの報告では、減圧留去中の突沸を防ぐ手法として、沸騰石の使用や液体窒素トラップの導入が検討されています。 突沸を防がなければ分析精度が下がるだけでなく、試料が装置内に付着して汚染(コンタミネーション)を起こし、検査結果が無効になります。 試験が一からやり直しになると、日数・費用ともに大きなロスです。mhlw+1
減圧留去での突沸リスクは、溶媒の種類によっても異なります。 アセトンは突沸しやすい溶媒として知られており、トルエンよりも留意が必要ですが、トルエン自体も混合溶媒の中では沸点差による二相分離が起きやすく、操作が複雑になります。
沸騰石は必須です。
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奈良県農業研究開発センター:茶の残留農薬分析における減圧留去中の突沸防止手法の報告書
農業資材の製造・再利用の現場では、使用済みのトルエンやキシレンを蒸留によって回収・再利用するケースがあります。 トルエンとキシレンは沸点が比較的高く(トルエン110.6℃、キシレン138〜144℃)、揮発性が高い特徴を持つため、効率的に回収するには減圧蒸留方式が適しています。
参考)トルエン・キシレンを効率回収する溶剤回収装置の活用法と選定ポ…
減圧蒸留で溶剤を回収する場合、蒸留温度を60〜150℃の範囲内に設定することが実用上の目安です。 高温すぎると装置(特に真空ポンプのオイル)が劣化し、低温すぎると目的物の損失が生じます。
これが条件です。
参考)初めての減圧蒸留
ポイントとなるのは、トルエンの引火点がわずか5℃という点と、減圧環境下では沸点が大幅に低下するという2つの性質が重なることです。 減圧蒸留装置に少しでも気密性の問題があると、低温でもトルエン蒸気が漏れ出します。 蒸気は空気より重く(蒸気密度:空気比3.18)、床面に滞留して着火源に向かって広がるため、装置からやや離れた場所での引火事故も起きています。nies+2
溶剤回収の現場では、定期的な気密検査(リークチェック)と、爆発下限界(LFL)の1/4以下の濃度を維持するための局所排気装置の設置が、労働安全衛生法令の観点からも求められます。 爆発範囲の下限1.1 vol%の4分の1、つまり0.275 vol%を管理基準の目安にするとよいでしょう。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0045.html
溶剤回収装置.com:トルエン・キシレンの溶剤回収に減圧蒸留が適している理由と装置選定の解説
農薬の製剤化において、生分解性マイクロカプセルの内包技術にトルエンの沸点特性が深く関わっています。 カプセル製剤化のプロセスでは、高沸点の貧溶媒であるトルエンを意図的に使い、低沸点の良溶媒を先に蒸発させることでカプセル壁を形成します。 この操作中の圧力(減圧度)がわずかにずれると、トルエンが先に蒸発してしまい、農薬有効成分の偏在が生じます。
参考)https://miyazaki-u.repo.nii.ac.jp/record/1090/files/1440shiomori.pdf
これは使用する農業従事者には直接見えない問題です。 しかし、製剤の品質が変わると圃場での効果持続時間が変化し、防除タイミングを誤るリスクにつながります。 同じ製品名の農薬でも、製造ロットによって有効成分の徐放プロファイルに差が生じている可能性があります。
これは意外ですね。
農薬カプセル製剤を選ぶ際には、製品のSDS(安全データシート)に記載された製剤溶媒の種類を確認しておくと、製剤の安定性や輸送・保管時の注意点(温度・圧力管理)を正確に把握できます。 特に高温の農業倉庫での長期保管では、容器内部の圧力変化によってカプセル製剤の品質に影響が出ることがあります。
保管温度と保管場所の管理が条件です。
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宮崎大学学術リポジトリ:生分解性マイクロカプセルへの農薬内包とトルエンを使った徐放制御の研究報告