里山 とは 農業 生物多様性価値と課題

里山 とは 農業 生物多様性がどのように結びつき、現場の営農や地域づくりにどんなメリットとリスクをもたらすのでしょうか?

里山 とは 農業 生物多様性

里山 とは 農業 生物多様性の要点
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里地里山と生物多様性

農地・ため池・二次林などがモザイク状に配置された里山は、多様な生物の生息場所を支える二次的自然として位置づけられています。

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農業と生態系サービス

里山の農業は、食料生産に加えて水源涵養・土壌保全・景観形成などの生態系サービスを提供する場でもあります。

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保全と営農の両立

過疎化や利用低下で里山の生物多様性は劣化が懸念されますが、環境保全型農業や地域ぐるみの保全活動によって再生が試みられています。

里山 とは 農業 生物多様性の基本構造

 

里山と呼ばれる地域は、集落を取り巻く農地、ため池、二次林や人工林、草原などが組み合わさったモザイク状の土地利用で構成されます。
このモザイク構造により、水辺・草地・林縁・畑など環境条件の異なる小さな空間が密集し、多様な生物にとって「すき間だらけの住処」が形成されます。
農業者の視点で見ると、田んぼ・畑・ため池・屋敷林などふだんの仕事場そのものが、里山の生物多様性を支える基盤です。

 

参考)環境省_里地里山と生物多様性

例えば、水田はコメの生産の場であると同時に、トンボ類やカエル、レンゲやクサネムなどの水田雑草、多くの微生物の生息環境でもあります。

 

参考)https://www.bdcchiba.jp/date/publication/rcbc4-11ch3-02.pdf

里山の生物多様性は「原生自然」ではなく、人間の営みによって維持されてきた二次的自然である点が大きな特徴です。

 

参考)https://www.biodic.go.jp/biodiversity/shiraberu/policy/pes/satotisatoyama/index.html

薪炭林の伐採、下草刈り、落ち葉かき、放牧、草地の刈り取りといった作業が、光環境や土壌条件を定期的にリセットし、草原性植物や昆虫などの生息を長期間支えてきました。

 

参考)https://www.bdcchiba.jp/date/publication/rcbc4-12ch3-03.pdf

環境省の整理では、こうした里地里山が国土の約4割を占め、希少種の集中分布域の半数以上が里地里山にあたるとされています。

 

参考)キコリに聞く! ~里山の話と生物多様性~

つまり、「里山の農地をどう使うか」は、地域レベルの生物多様性保全の成否に直結する営農判断と言えます。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/attach/pdf/index-102.pdf

里山 とは 農業 生物多様性と生態系サービス

里山で行われる農業は、単に農産物を生産するだけでなく、多様な「生態系サービス」を提供しています。
生態系サービスとは、自然環境から人間が受け取る恩恵を指し、里山では供給・調整・文化など複数のサービスが重なり合っています。
供給サービスとしては、米・野菜・果樹・茶・キノコ・薪炭材・粗飼料などの生産が挙げられます。

 

参考)TURNS(ターンズ)|移住・地方創生・地域活性化 里山とは…

これに加え、山菜やシイタケの原木、竹材など、里山特有の副産物も重要な収入源や自給資源になってきました。

 

参考)https://www.env.go.jp/nature/satoyama/pdf/satoyama2022j.pdf

調整サービスでは、里山の森林や草地が雨水を時間をかけて地下に浸透させ、洪水リスクの低減や水源涵養に貢献します。

樹木や草本の根系が土壌流出を防ぐことで、田んぼの土砂流入抑制や山脚部の地すべり防止にもつながり、結果的に農地を守る働きをしています。

 

参考)林業の魅力シリーズ第63弾: 里山の役割と持続可能な森林管理…

文化サービスとしては、里山景観が地域の原風景として観光や教育、暮らしの誇りの源泉となってきました。

 

参考)環境省_生物多様性保全上重要な里地里山(「重要里地里山」)」

農業体験や生き物観察などの環境教育、都市住民のグリーンツーリズムや二地域居住の受け皿としても、里山の農地は重要な舞台になりつつあります。

意外な点として、里山の生物多様性は病害虫の天敵や受粉昆虫など「農業生産を支える生物的サービス」の供給源でもあります。

 

参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/s_yosan/pdf/4_hozentaisaku.pdf

生物多様性が豊かな水田帯では、クモやカエル、寄生蜂などが害虫密度を抑えることで、農薬依存を下げられる事例が報告されており、IPM(総合的病害虫管理)の基盤としても注目されています。

里山 とは 農業 生物多様性と環境保全型農業

農林水産分野では、生物多様性を意識した環境保全型農業が、里山の再生と営農継続を両立する手段として位置づけられています。
環境保全型農業とは、農薬・化学肥料の低減や有機物施用、冬期湛水、水田のビオトープ化など、生き物に配慮した農法を包括する考え方です。
例えば、水田での冬期湛水や中干し短縮、浅水管理は、トンボや水生昆虫、渡来鳥の採餌環境を改善しつつ、雑草の発芽抑制や土壌の物理性改善にもつながるとされています。

地域によっては、発電で利用した稲わらや木質バイオマスの残さを肥料として田んぼに戻し、エネルギー利用と土づくり、生き物に配慮した米作りを組み合わせる取り組みも進んでいます。

 

参考)https://www.env.go.jp/nature/satoyama/pamph/J_ActionPlan_summary_ver.pdf

また、圃場整備時に用水路を全面コンクリートにするのではなく、部分的に土水路を残したり、魚道・逃げ場となるワンドを設けたりする事例も増えています。

これにより、ドジョウやフナ、メダカなど里山の淡水魚類の生息場所を確保しつつ、農業用水としての機能も維持しやすくなります。

 

参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030911240.pdf

農産物のブランディングの観点からも、生物多様性保全に配慮した農業は重要性を増しています。

環境保全型米や生き物認証などのラベルは、消費者に対して「里山の生き物を守る農業」であることを分かりやすく伝え、価格プレミアムや販路拡大の可能性を生みます。

さらに、農薬使用量や生き物調査結果を記録し、地域ぐるみでデータを蓄積することで、IPM技術の磨き上げや行政支援の根拠資料として活用することも可能です。

こうした取組は、生物多様性保全と収量・品質の両立を目指すうえで、里山農業にとって大きな強みとなり得ます。

里山 とは 農業 生物多様性と政策・制度の活用

国レベルでは、「生物多様性保全上重要な里地里山(重要里地里山)」として全国約500か所が選定され、政策的に重点的な保全が図られています。
重要里地里山は、希少種の生息地であるだけでなく、地域の暮らしや農林業と深く結びついた「生きた里山」を残すことを目的に位置づけられています。
農林水産分野では、生物多様性保全・利用対策として、里地里山や森林の整備・保全、環境保全型農業の推進、指標生物を用いた評価手法の開発などが進められています。

特に、天敵や指標種を活用した防除体系の確立、農地の生態系サービスの定量評価は、営農と保全を同時に考えるうえで有力なツールになりつつあります。

一部の地域では、生態系サービスへの支払い(PES)という仕組みを活用し、「里山の生物多様性を守る農林業の実践」に対して金銭的なインセンティブを与える試みが行われています。

これは、下流域の水利用者や都市住民が、上流・中山間の里山管理の恩恵を受けることに対して、費用を分担する仕組みとして設計されています。

地方自治体レベルでは、「里山の保全に関する条例」などを制定し、土地所有者や地域団体の協働による里山管理を支援する動きも広がっています。

 

参考)里山の保全に関する条例

条例によって、「放置」による荒廃を防ぐための指針が示され、間伐や草刈り、里山林の利活用に対する補助制度が整えられている事例もあります。

農業者にとって意外なチャンスとなるのが、「里山イニシアティブ」など国際的な枠組みとの連携です。

 

参考)http://www.jiid.or.jp/ardec/ardec43/ard43-satoyama.html

里山の持続可能な利用と生物多様性保全は世界的にも注目されており、エコツーリズムや国際交流を通じて、新たな販路や体験型ビジネスを開く可能性も出てきています。

里山 とは 農業 生物多様性とこれからの営農戦略(独自視点)

これからの里山農業では、生物多様性を「保全コスト」ではなく「経営資源」として捉え直す視点が重要になってきます。
例えば、生き物豊かな水田を活かした体験プログラムや、在来種伝統野菜と結びつけたブランド化など、生物多様性を「見せる・語る」ことで価値に変える取り組みが考えられます。
現場レベルでは、次のような小さな工夫が積み重なることで、里山の生物多様性と収益性を両立しやすくなります。

  • 畦草をすべて短く刈り上げず、季節や場所をずらして刈ることで、花を咲かせるスペースと害虫の発生源のバランスを取る
  • 防風林や屋敷林の一部を広葉樹中心に更新し、鳥類や益虫のすみかと木質資源の供給源を兼ねる
  • ため池や農業用水路の一角に浅場を残し、小魚や水生昆虫の避難場所を確保する
  • 作付け体系にレンゲやマメ科緑肥を組み込み、土づくりと花資源の提供を同時に行う

また、人口減少が進む中では、「管理の手が足りないから放置する」のではなく、「管理の手をかける場所を絞り込む」戦略も重要になります。

 

参考)人口減少時代の里山の管理のあり方とは|環境儀 No.82|国…

国立環境研究所の研究では、利用が途切れた里山は植生遷移が進み、生物多様性が単調化する一方、管理を集中したエリアでは草原性種や希少種が維持されやすいことが指摘されています。

農業者が担い手として中心にいる地域では、営農計画と連動させた「重点管理区」の設定が有効です。

集落で話し合い、どの斜面林や草地を「放牧に使う」「薪炭材を取る」「景観保全のために残す」といった役割分担を決めることで、生物多様性と労力配分のバランスを取りやすくなります。

さらに、ドローンやGPS、リモートセンシングなどの技術を導入し、里山の植生変化や農地利用の履歴を見える化することも、近年の研究現場で進みつつあります。

中長期的には、こうしたデータと農業収支を紐づけることで、「生物多様性に配慮した営農の方がトータルのリスクが低く、持続的である」ということを定量的に示せる可能性があります。

今後、里山 とは 農業 生物多様性がどのように結びつくかは、現場の一つひとつの営農判断と地域ぐるみの合意形成にかかっています。

生き物と共生する農業を「負担」ではなく「強み」として活かす視点を、どこまで持てるかが問われていると言えるでしょう。

里地里山と生物多様性の基礎情報と政策的な位置づけの整理に役立つ公式資料です(里山の定義と重要里地里山の説明部分の参考リンク)。

 

環境省 自然環境局 里地里山の保全・活用
農林水産分野における生物多様性保全・利用対策や環境保全型農業の位置づけを確認する際に有用です(環境保全型農業とIPMの説明部分の参考リンク)。

 

農林水産分野における生物多様性保全・利用対策

 

 


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