飼料は一般に、牧草のように繊維含量が高く“かさ”の大きいものを粗飼料、配合飼料など高エネルギー・高タンパクのものを濃厚飼料として大別します。
農研機構の解説でも、粗飼料は乾草など繊維質を多く含む飼料で、濃厚飼料は穀類・ふすま・かす類など粗飼料に比べ繊維が少なく炭水化物などが多い飼料と整理されています。
粗飼料の代表は、乾草(干し草)、サイレージ(乳酸発酵で保存性を高めたもの)、稲わらなどで、いずれも“繊維を供給し、反芻家畜の消化生理を支える”のが中心的な役割です。
参考)粗飼料と濃厚飼料の種類・役割について。 - 有限会社矢野畜産
現場感としては「粗飼料=主食」と捉えると設計しやすく、濃厚飼料が同じ量でも粗飼料の組み合わせでTDN摂取がかなり変わる、という研究報告もあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/chikusan1924/48/8/48_8_468/_pdf
また意外に見落とされやすいのが、粗飼料は“栄養の器”でもある点です。
参考)飼料の種類 - 酪農ジャーナル電子版【酪農PLUS+】
咀嚼・反芻を促し唾液の緩衝作用を働かせる前提が崩れると、濃厚飼料の設計がどれだけ綺麗でも胃内環境が不安定になりやすい、という整理が実務では重要になります。
参考)飼養管理を再考~ルーメンアシドーシスを見つける~ - 釧路総…
粗飼料と濃厚飼料の主な違いは、繊維(センイ質)の多さと、炭水化物・タンパク質の密度にあります。
濃厚飼料は穀類を中心に、単位重量あたりの養分(可消化養分)が多い一方、粗飼料は繊維が多く、同じ重量でも“胃を動かす”方向に働きやすい、という理解が基本です。
飼料設計で使われる指標としてTDN(可消化養分総量)やDCP(可消化粗タンパク)がありますが、濃厚飼料の多給区でTDN/DCP摂取が要求量を上回り、少給区では不足しうる、といった差が試験でも示されています。
さらに「同じ濃厚飼料量でも、粗飼料の給与構成でTDN摂取がかなり異なる」点は、配合設計だけでなく粗飼料品質(収穫期・発酵・水分)に投資する意味を裏付けます。
実務上は、成分表の数字だけでなく“採食のされ方”も栄養に直結します。
濃厚飼料が短期に大量摂取される(固め食い・選び食い)とデンプン・糖分解菌の増殖が過剰になりやすい、という指摘があり、これは配合より先に「食べ方の設計」が必要になる典型例です。
濃厚飼料を多給するとルーメン内で発酵産物が急増し、pHが低下しやすいことが資料で説明されています。
加えて、粗飼料が不足すると唾液の分泌量が減って緩衝作用が弱まり、同じくpH低下に寄与する、という点が“粗飼料を削って濃厚飼料で埋める”設計の危険性です。
対策としては、濃厚飼料を短期に大量摂取させない(固め食いを防ぐ)、分離給与なら粗飼料を飽食給与して繊維分解菌を維持する、といった方向性が公的機関の解説で示されています。
つまり、給与設計は「濃厚飼料の量」より「粗飼料で胃を作れているか」「採食行動が荒れていないか」を先に点検する方が事故を減らせます。
参考)http://www.nissangosei.co.jp/nissan/m085.pdf
また、飼料用イネのように“同じイネでも用途で粗飼料/濃厚飼料が分かれる”のは、現場で混乱しがちなポイントです。
参考)東北農業研究センター:家畜のエサにする飼料用イネ
農研機構の整理では、茎葉ごと使ってサイレージ化する稲発酵粗飼料(WCS)は粗飼料、子実のみ使う飼料用米は濃厚飼料として利用されます。
日本の畜産は輸入飼料への依存が大きく、原油価格上昇や国際情勢などで穀物価格・流通が影響を受け、国産飼料増産や飼料自給率向上が重要課題になっている、と農研機構が説明しています。
この文脈で、飼料用イネ(稲発酵粗飼料・飼料用米)は水田の転作作物として注目されている、と同ページで述べられています。
ここが“意外に効く”実務視点で、粗飼料と濃厚飼料の違いは、栄養学だけでなく経営リスク(為替・輸送・調達)への強さに直結します。
特に濃厚飼料は穀類比率が高くなりやすく、国際相場の影響を受けやすい一方、稲WCSなどの粗飼料は地域内でサプライチェーンを組める余地があります。
参考)https://jaccnet.zennoh.or.jp/global-data/sales/other/20220607134424901.pdf
ただし「国産=常に安い」ではなく、収穫・調製・保管(発酵品質)の失敗が、そのまま摂取量低下や設計崩れにつながる点は冷静に評価が必要です。
濃厚飼料を増やして埋める前に、粗飼料側の品質とロス(カビ、二次発酵、採食性)を点検するほうが、結果的に“買う濃厚飼料”が減るケースは現場で多いです。
検索上位は「定義・種類・役割」で止まりがちですが、実務で差が出るのは“牛がどう食べたか”を観察して調整できるかです。
公的機関の解説でも、濃厚飼料を短期的に大量摂取するとデンプン・糖分解菌の増殖が過剰になり得るので、固め食いを防ぐことが対策になる、と明記されています。
そこで、粗飼料と濃厚飼料の違いを「成分」ではなく「食べ方の事故ポイント」で整理すると、改善案が出しやすくなります。
具体的には次のチェックが有効です。
“見える化”のコツは、給与量そのものより「残飼の形」と「食べる速度」を日々の点検項目に入れることです。
濃厚飼料の多給が必要な局面(泌乳初期・高増体設計)でも、粗飼料を軸にして採食行動を整えられると、結果的に濃厚飼料の効き方が安定しやすい、という方向性が示唆されます。
必要に応じて、研究の一次情報として濃厚飼料給与量と摂取量・要求量の関係を扱う論文PDFも確認できます。
単に「粗飼料=繊維、濃厚飼料=栄養密度」で終わらせず、「粗飼料で胃と行動を作り、濃厚飼料で狙いの生産性に寄せる」という順序にすると、事故と無駄が減ります。
(粗飼料/濃厚飼料の定義と国産飼料の背景・飼料用イネの区分が分かる)
東北農業研究センター:家畜のエサにする飼料用イネ
(濃厚飼料の固め食い対策・ルーメンアシドーシスの実務的な見つけ方)
飼養管理を再考~ルーメンアシドーシスを見つける~ - 釧路総…