ルーメンアシドーシスの原因を一言でまとめるなら、「発酵しやすい炭水化物が短時間に多く入ることで、ルーメン内に酸が急増し、pHが下がり続けること」です。濃厚飼料(穀類など)はルーメンで発酵しやすく、これを多く食べると乳酸産生菌が増え、乳酸が増加してpHが低下する、という基本構造が示されています。特に“量そのもの”だけでなく、“短期的に大量摂取”が問題になりやすく、固め食い・選び食いがあると発生リスクが跳ね上がります。
現場では「濃厚飼料を増やした=即アウト」ではありません。危ないのは、増給スピードが速い、給与回数が少ない、分離給与で濃厚飼料だけ先に食べる、TMRが不均一で選び食いが起きる、といった“摂取パターン”がpHの乱高下を作るケースです。濃厚飼料が入る設計でも、粗飼料側の設計(物理的有効繊維)と、食べ方の管理がセットなら、同じ総量でもリスクは下げられます。
もう一段深掘りすると、pHが下がると微生物叢が変化し、繊維分解系が弱って「反芻→唾液→緩衝」という牛自身の防波堤が働きにくくなります。つまり、濃厚飼料が原因の入り口でも、途中からは“ルーメンが酸に弱い状態へ自走”しやすいのが厄介な点です。ここを理解しておくと、対策が「濃厚飼料を減らす」一択にならず、現実の乳量・増体と両立した落としどころを探れます。
参考:ルーメンpH低下の仕組み、微生物の偏り、固め食い・粗飼料飽食・反芻と唾液の重要性など(原因と対策の全体像)
飼養管理を再考~ルーメンアシドーシスを見つける~(釧路総合振興局)
ルーメンアシドーシスの原因を“飼料の成分”から“ルーメンの中の勢力図”に置き換えると、理解が一気に現場向きになります。ルーメンには繊維・デンプン・糖をそれぞれ得意に分解する微生物がいて、デンプン・糖を分解する菌ばかりが増えると、発酵産物として酸がたまり、pHが低下します。この「微生物の片寄り」が、症状が見えにくい潜在性(亜急性)でもじわじわ進行し得る点がポイントです。
ここで見落とされがちなのが、「微生物の変化は、給餌の設計ミスだけでなく、牛の行動や環境でも起こる」ということです。例えば、牛床が滑る・硬い・混みすぎるなどで横臥や反芻が減ると、唾液による緩衝が落ち、同じ飼料でもpHが下がりやすくなります。つまり“胃袋の病気”に見えて、実は“牛舎管理の病気”として現れている場面があるわけです。
さらに意外性のある話として、微生物が大量に死滅する局面では、毒素(エンドトキシンなど)に関連した説明が現場向け資料でも語られています。pH低下→微生物死滅→毒素放出→末梢の炎症(蹄など)という見立ては、蹄トラブルを「削蹄の問題」だけで片付けない視点になります。蹄の異常が“最後に見える結果”で、原因はずっと前にルーメンで始まっている、という因果をチーム内で共有できると、対策が前倒しになります。
ルーメンアシドーシスは「pHを測って確定診断したい」と思っても、日常の現場で毎回測定するのは現実的ではありません。そこで重要になるのが、牛が外に出すサインを複数組み合わせて、早い段階で“疑い”を上げることです。行政の技術情報でも、蹄、乳成分、糞、反芻がサインとして整理されています。
まず蹄です。pH低下でルーメン内の微生物が死滅し、毒素放出が関与して末梢で炎症が起こり、蹄冠の腫れや歩様の異常につながる、という説明があります。蹄葉炎や跛行が増えた時に「床が悪い」「削蹄が遅れた」だけで終わらせず、同時期の飼料設計・固め食い・反芻時間まで遡るのが、再発防止の近道です。
次に乳成分です。ルーメンpHが低下すると乳脂率が低下することが報告されている、と現場向け情報で触れられています。乳検の値は“群のルーメンの通知表”として使えるので、乳脂率の急落が見えたら、濃厚飼料増給やTMRの混ざり、暑熱による採食パターンの崩れなど、原因候補をリストアップできます。
そして糞と反芻です。アシドーシスの牛の糞は泡立ち、未消化の穀類や繊維が見え、黄色がかり、粘膜が見えることもある、とされています。また反芻時間が短くなるという変化もサインになります。ただし「短くなった」と気づくには、平常時の反芻を日頃から見ておく必要があるため、牛群観察のルーチン化が効果的です。現場でできる工夫として、搾乳後・給餌後など時間を決めて、一定頭数の反芻割合を目視で記録するだけでも、“いつから崩れたか”の特定に役立ちます。
原因が「酸が増えすぎる」または「酸を処理できない」だとすると、対策もこの2方向で組み立てるのが合理的です。現場向けの技術情報では、デンプン・糖分解菌の過剰増殖を抑えること、そしてルーメン内pHを安定させることがポイントとして示されています。言い換えると、「固め食いを起こさない設計」と「反芻(唾液)を増やす環境」を同時に整えることです。
固め食い対策は、飼料設計だけでなく“給与の運用”が効きます。濃厚飼料を短期的に大量摂取するとデンプン・糖分解菌が過剰となるため、選び食い・固め食いを防ぐことが重要、とされています。分離給与の場合は粗飼料を飽食給与し、繊維分解菌をルーメン内で増やすことも重要、とされているため、粗飼料の「いつでも食べられる状態」を徹底し、飼槽管理(押し寄せ、残飼の扱い)まで含めて“切らさない”のが基本になります。
pH安定には唾液が鍵です。唾液の分泌には反芻が重要で、牛床を快適に整え、牛をなるべく寝させて反芻を促す、という実務的な提案がされています。ここは意外と盲点で、「飼料だけ直したのに治らない」ケースでは、過密・寝床不快・暑熱ストレスなどで横臥と反芻が落ちていることがあります。反芻は“栄養”ではなく“行動”なので、牛舎の小さな不具合がpHの大きな変動を生む、という視点が現場力になります。
補助的に、重曹のバッファー効果も挙げられています。採食量が低下しやすい暑熱時など、短期的に給与すると経済的、という考え方が示されているので、「年中漫然と」より「リスクの高い時期に狙って」使う発想がコスト面でも現実的です。ただし、重曹は“根本原因(固め食い・反芻不足・粗飼料不足)を消す魔法”ではなく、pH安定の補助輪と位置づけると失敗が減ります。
検索上位の解説は「濃厚飼料が原因」「粗飼料を増やす」「反芻が大事」で止まりがちですが、現場で再発を防ぐには“原因の特定精度”を上げる必要があります。そこで独自視点として提案したいのが、牛群の「原因」を1回で当てにいくのではなく、記録で絞り込む運用です。pHを毎日測れない前提なら、代わりに「乳検(乳脂率の変動)」「蹄の異常の初発日」「糞の性状」「反芻割合(目視)」を、同じフォーマットで積み上げるだけで、原因の候補が驚くほど減ります。
たとえば、乳脂率が落ちた週と、濃厚飼料のロット変更・粉砕度の変更・給餌回数の変更・TMR水分の変化・暑熱の始まりが重なっていないかを“並べて見る”だけで、怪しい点が浮かびます。さらに、蹄冠の腫れや歩様の異常が出たタイミングが遅れて出るなら、「最初の引き金は数日前〜数週間前のpH乱高下」だった可能性も考えられます(結果と原因が時間差で現れるため)。こうした時間差の読み違いは、対策を外す最大の理由になりやすいので、時系列の意識は武器になります。
具体的な“記録の型”を、最小限で回る形に落とします。紙でもスマホのメモでも構いません。
・🗓️日付:増給・変更(濃厚飼料量、回数、TMR配合、粗飼料切替、乾草ロール切替など)
・🥛乳成分:乳脂率(前回比で急落がないか)
・💩糞:泡、未消化粒、黄色み、粘膜の有無
・🐄行動:反芻している牛の割合(例:給餌後2時間に10頭見て何頭反芻しているか)
・🦶蹄:歩様の乱れ、蹄冠の腫れ、削蹄予定の遅れ
この“型”の良さは、専門用語を増やさずに、家族経営でも従業員がいても共有できる点です。そして、原因の追跡ができると、対策も「とりあえず粗飼料を増やす」ではなく、「固め食いを潰す」「牛床で横臥を増やす」「暑熱期だけ重曹を入れる」のように、狙い撃ちに変わります。狙い撃ちはコストも労力も下げられるので、長期的に続きやすい対策になります。