「バイオマス」という言葉は、生物(Bio)と量(Mass)を組み合わせた言葉で、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」と定義されています。私たちが普段スーパーやコンビニで見かける「バイオマスレジ袋」とは、この生物由来の資源を原料の一部、あるいは全部に使用して作られたプラスチック製の袋のことです。
従来のレジ袋は、石油から作られるポリエチレンが主原料でした。石油は数億年かけて作られた限りある地下資源であり、燃やせば地下に固定されていた炭素が大気中に放出され、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を増やしてしまいます。一方、バイオマスレジ袋の主役となるのは植物です。
現在、日本国内で流通しているバイオマスレジ袋の多くは、サトウキビを原料としています。サトウキビから砂糖を精製する過程で、副産物として「廃糖蜜(モラセス)」という黒褐色のドロドロした液体が残ります。この廃糖蜜を発酵させてバイオエタノールを作り、そこからエチレンを取り出して重合させることで、植物由来のポリエチレン(バイオポリエチレン)が完成します。
サトウキビからプラスチックができるまでの詳細な製造工程の解説(日本サニパック)
ここで重要になるのが「カーボンニュートラル」という考え方です。バイオマスプラスチックも燃やせば通常のプラスチックと同様にCO2を出します。「燃やしてCO2が出るなら意味がないのでは?」と思われるかもしれませんが、原料となる植物は、成長過程で光合成を行い、大気中のCO2を吸収しています。つまり、
これが、バイオマスレジ袋が環境に優しいとされる最大の理由です。石油由来のプラスチックを植物由来に置き換えることは、地中の炭素を大気中に放出する一方通行の流れを断ち切り、地上の炭素循環の中で資源をまわすことを意味します。
農業に従事される皆さんにとっては、「植物の光合成機能が工業製品の環境価値を生み出している」という点は非常に親和性の高い概念ではないでしょうか。作物を育てるプロセスそのものが、実は環境負荷低減素材の生産プロセスの一部を担っているとも言えるのです。
2020年7月1日から、全国でプラスチック製買物袋(レジ袋)の有料化が義務付けられました。これは「容器包装リサイクル法」に基づく制度改正によるもので、過剰なプラスチック使用を抑制し、消費者のライフスタイル変革を促すことが目的です。しかし、すべてのプラスチック袋が有料化の対象になったわけではありません。環境性能が認められた特定の袋は、有料化の対象外となり、お店の判断で無料配布を継続することが認められています。
その代表的な例外規定が、「バイオマス素材の配合率が25%以上のもの」です。
なぜ「25%」という数字なのでしょうか?
制度開始当初、技術的・コスト的な観点から、100%植物由来のプラスチック袋を安価に大量供給することは困難でした。しかし、少なくとも原料の4分の1(25%)を植物由来に置き換えれば、石油資源の節約とCO2削減に一定の効果が見込めるとして、この基準が設定されました。
具体的に、有料化の対象外(無料で配れる袋)となる条件は以下の3つのいずれかです。
経済産業省によるプラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン(PDF)
農業直売所や道の駅などで農産物を販売する際、レジ袋をお客様に提供する機会は多いと思います。もし、有料化の手続きや会計時のやり取り(「袋は入りますか?」「3円です」など)を省略し、サービスとして袋を無料提供したい場合は、必ずこの「配合率25%以上」の基準を満たした袋を選ぶ必要があります。
注意が必要なのは、単に「バイオマス配合」と書かれていれば良いわけではない点です。例えば「バイオマス10%配合」の袋は、環境には多少配慮されていますが、有料化の対象外基準(25%)は満たしていないため、法律上は有料で提供しなければなりません。仕入れの際は、パッケージやカタログに記載されている配合率の数字を必ず確認しましょう。
また、対象外の袋を無料配布する場合、その袋自体に「バイオマス配合率25%以上であること」や「第三者機関による認定マーク」などが印刷表示されている必要があります。無地の透明袋などで、外見からバイオマス配合かどうかが分からないものは、証明が難しくなるため避けたほうが無難です。
バイオマスレジ袋を選ぶ際、目印となるのが「バイオマスマーク」です。これは一般社団法人日本有機資源協会(JORA)が運用している認定マークで、クローバーの形をモチーフにしています。
このマークには、実は重要な情報が隠されています。マークの左上にある数字に注目してください。この数字は「バイオマス度」、つまり製品に含まれるバイオマス原料の乾燥重量割合(%)の下限値を表しています。
このように、5%刻み(一部10%刻み)で数字が表示されています。先述した通り、レジ袋を無料で配布したい場合は、この数字が「25」以上になっているマークがついた袋を選ばなければなりません。
バイオマスマークの数字の意味と詳しい見方の解説(日本サニパック)
他にも似たようなマークに「バイオマスプラマーク」(日本バイオプラスチック協会)があります。こちらは「BPマーク」とも呼ばれ、同様にバイオマスプラスチックを使用した製品に付けられます。こちらも基準を満たしていれば、有料化対象外の証明として有効です。
農業資材やパッケージを選ぶ際、これらのマークは単なる「環境配慮アピール」以上の意味を持ちます。特に直売所では、環境意識の高い消費者が増えています。「このお店は環境に配慮した袋を使っている」というメッセージは、取り扱っている農産物の安全性やこだわりといったブランドイメージと直結しやすいのです。
マークの取得には厳格な審査が必要です。原料が本当に植物由来か、C14(放射性炭素)法という年代測定のような分析を行って証明することもあります。化石燃料由来の炭素は太古のものであるためC14が含まれていませんが、植物由来の炭素には現在の環境中のC14が含まれています。科学的な分析によって「植物由来」であることが証明されている、信頼性の高いマークなのです。
ここで、多くの人が誤解している非常に重要なポイントについて解説します。
「バイオマスレジ袋は、捨てても土に還る(分解される)と思っていませんか?」
実は、現在普及しているサトウキビ由来などのバイオマスレジ袋(バイオポリエチレンなど)のほとんどは、「生分解性」を持っていません。
この2つは全く別の概念です。サトウキビから作ったポリエチレンは、石油から作ったポリエチレンと化学構造(分子のつながり方)が全く同じです。そのため、自然界に放置しても分解されるまでには数百年かかると言われています。つまり、ポイ捨てされれば、通常のプラスチックと同様に海洋プラスチックごみ問題の原因になります。
「バイオマスだから環境に良い」=「ポイ捨てしても大丈夫」というのは大きな間違いです。バイオマスレジ袋の環境価値は、あくまで「作る過程で石油を使わず、燃やした時のCO2収支をゼロにする(カーボンニュートラル)」という点にあります。
バイオマスと生分解性の違いによる消費者の誤解について(三和商工)
農業現場では、生分解性マルチフィルムなどの資材も普及しているため、「バイオ=分解する」というイメージが強いかもしれません。しかし、レジ袋に関しては、「植物からできているけれど、プラスチックとしての性質(強くて分解しにくい)は変わらない」と理解しておく必要があります。
この事実を知らないお客様が「これは環境に優しい袋だから」と安易に捨ててしまうリスクもゼロではありません。バイオマスレジ袋を使用する際は、「原料は植物ですが、必ずゴミ箱に捨ててください」「リサイクルにご協力ください」といったコミュニケーションも同時に行うことが、真のエコ活動につながります。
なお、一部には「生分解性」かつ「バイオマス」の両方の性質を持つ素材(ポリ乳酸など)もありますが、強度や耐熱性、コストの面でレジ袋としての普及率はまだ高くありません。現在「有料化対象外」として安価に流通しているものの9割以上は、分解しない「非生分解性バイオマスプラスチック」であることを認識しておきましょう。
最後に、農業従事者の皆様にぜひ知っていただきたい、独自視点のトピックを紹介します。それが、「お米」を原料にしたバイオマスプラスチックの活用です。
一般的なバイオマスレジ袋は輸入サトウキビを原料としていますが、近年、日本国内で廃棄されるお米(古米、破砕米、食用に適さない米など)をアップサイクルした「ライスレジン」などの国産バイオマス素材が注目を集めています。
お米由来の国産プラスチック「ライスレジン」の詳細と特徴(三井物産プラスチック)
これは農業界にとって、単なる「袋の原料」以上の大きなメリットがあります。
実際に、コープさっぽろ等の大手流通チェーンや、JAの直売所などで、このお米由来のレジ袋の導入が進んでいます。お米を最大70%まで配合できる技術もあり、石油資源の使用量を大幅にカットできます。もちろん、配合率などの条件を満たせば有料化の対象外として無料配布も可能です。
価格面では、従来の輸入ポリエチレン袋より若干割高になる傾向がありますが、最近では製造技術の向上により差は縮まりつつあります。何より、「環境配慮」+「国内農業支援」というダブルの付加価値は、数円のコスト差以上の宣伝効果をもたらす可能性があります。
農業を営む皆様が自ら生産した農産物を、農業由来の素材で包んで手渡す。これこそが、本当の意味での「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の実践と言えるのではないでしょうか。次の資材発注の際は、ぜひ「サトウキビ」だけでなく「お米由来」のレジ袋も検討リストに入れてみてください。

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