建設リサイクル法(正式名称:建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)は、建物や工作物の解体・新築工事を行う際に、特定の資材を分別し、再資源化(リサイクル)することを義務付けた法律です。農業従事者の皆様にとっても、古くなった納屋の取り壊しや大規模なビニールハウスの建て替えなどで、この法律が深く関わってきます。特に重要なのは、「どのくらいの規模から対象になるのか」という点です。知らずに工事を進めてしまうと、発注者である皆様自身が法的な責任を問われることになります。
ここでは、リサイクル法の対象となる工事の具体的な規模基準と、判断のポイントについて詳しく解説します。
建設リサイクル法で最も頻繁に関係するのが「建築物の解体工事」です。法律では、床面積の合計が80平方メートル以上の建築物を解体する場合、リサイクル法の対象となると定められています。
80平方メートル(約24坪)という数字は、一般的な木造住宅と比較すると少し小さめに感じるかもしれませんが、農業用倉庫や作業場としては決して珍しい大きさではありません。例えば、間口4間(約7.2m)×奥行き6間(約10.9m)の倉庫であれば、すでに約78平方メートルとなり、もう少し奥行きがあれば対象となります。
対象建設工事の規模基準を以下の表にまとめました。解体だけでなく、新築や修繕も対象になる点に注意が必要です。
| 工事の種類 | 規模の基準(要件) | 具体的なイメージ |
|---|---|---|
| 建築物の解体工事 | 床面積の合計 80平方メートル以上 | 古い納屋、倉庫、母屋の取り壊し |
| 建築物の新築・増築工事 | 床面積の合計 500平方メートル以上 | 大規模な選果場、大型倉庫の建設 |
| 建築物の修繕・模様替え | 請負代金の額 1億円以上 | 大規模施設のリフォーム、改修工事 |
| その他の工作物に関する工事 | 請負代金の額 500万円以上 | コンクリート敷の駐車場整備、擁壁の撤去など(土木工事扱い) |
ここで重要なポイントは、「請負代金」ではなく「床面積」で判断される工事があるということです。解体工事の場合、たとえ知人の業者に安く頼んで数十万円で済んだとしても、床面積が80平方メートルを超えていれば届出の義務が発生します。「安く済むから小さい工事だ」という認識は、法的な判断基準とは異なりますので注意が必要です。
また、「建築物」の定義も重要です。建築基準法における建築物とは、「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱もしくは壁を有するもの」を指します。したがって、単なる資材置き場の囲いなどは対象外となることが多いですが、屋根があるしっかりとした構造物は対象となります。
建設リサイクル法の概要や対象建設工事について解説しています(国土交通省)。
農業従事者の皆様からよく寄せられる疑問の一つに、「ビニールハウス(パイプハウス)はリサイクル法の対象になるのか?」というものがあります。結論から申し上げますと、「構造と定着性によって判断が分かれる」というのが正解です。
建設リサイクル法の対象となる「建築物」であるかどうかが判断の分かれ目となります。
ただし、この判断は自治体の建築指導課や土木事務所によって見解が異なる場合があります。「ウチのハウスは簡易だから大丈夫だろう」と自己判断せず、解体予定のハウスが80平方メートルを超える場合は、事前に管轄の自治体窓口へ相談することをお勧めします。特に、コンクリート基礎の撤去を伴う場合は、「その他の工作物に関する工事(土木工事)」として扱われ、請負代金が500万円以上であれば対象になるケースも考えられます(ハウス解体単体で500万円を超えることは稀ですが、セットで発注する場合などは注意が必要です)。
また、古い木造の畜舎や堆肥舎なども、屋根と柱があれば立派な「建築物」です。これらは長年の使用で老朽化していても、面積要件さえ満たせば対象となります。
ここが意外と知られていない、しかし非常に重要なポイントです。
「業者に頼まず、自分で重機を借りて解体するから、法律の手続きなんて関係ないだろう」
そう思っていませんか?実は、自主施工(DIY)であっても、リサイクル法の届出義務は発生します。
建設リサイクル法第10条には、届出の義務者について以下のように記されています。
「対象建設工事の発注者又は対象建設工事を自主施工する者は、(中略)都道府県知事に届け出なければならない。」
つまり、工事を請負契約に出さず、自分自身で解体を行う場合でも、その工事規模が「床面積80平方メートル以上の建築物解体」などの要件を満たしていれば、あなた自身が届出を行う義務があるのです。
自主施工の場合の注意点をまとめました。
農業機械の扱いに慣れている農家の方は、納屋程度の解体なら自分で行う技術をお持ちの方も多いでしょう。しかし、「技術があること」と「法的手続きが不要であること」は全く別の問題です。後になって「届出をしていない」と指摘された場合、悪質な違反として罰則の対象になるリスクがあります。
届出書の様式や記入例、自主施工の場合の手続きについて詳しく解説されています(東京都都市整備局)。
建設リサイクル法が対象としているのは、すべての建築資材ではありません。再資源化(リサイクル)が特に必要とされる「特定建設資材」を用いた構造物が対象となります。
特定建設資材として指定されているのは、以下の4品目です。
対象建設工事(例:80㎡以上の解体)を行う場合、これらの資材を工事現場で分別(分別解体)し、再資源化施設へ持ち込んでリサイクルすることが義務付けられています。
農業現場での分別のポイント:
農業用ハウスや倉庫の解体では、これらの特定建設資材以外にも、様々な廃棄物が発生します。特に注意が必要なのが「混合廃棄物」を出さないことです。
「たかが届出、忘れても大丈夫だろう」と考えるのは非常に危険です。建設リサイクル法では、法律の実効性を担保するために厳しい罰則規定が設けられています。そして恐ろしいことに、罰則の対象は業者だけでなく、発注者(施主であるあなた)にも及びます。
主な罰則は以下の通りです。
また、無登録や無許可の業者に解体工事を依頼した場合、その業者が「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」(建設リサイクル法、建設業法)の対象となるだけでなく、発注者としても社会的信用を失うことになりかねません。
届出の流れ(発注者が行うこと):
「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。特に農業法人の場合、コンプライアンス(法令遵守)違反は補助金の申請や融資審査にも悪影響を及ぼす可能性があります。80平方メートル以上の解体や大規模な新築・増築を行う際は、「リサイクル法の届出が必要ではないか?」と必ず確認する癖をつけましょう。
建設リサイクル法Q&Aとして、届出の要否や手続きに関する詳細がまとめられています(愛知県)。