建築基準法 改正 2025:農家と農業用倉庫への影響と費用

2025年4月の法改正は農家の倉庫建設にも直撃します。4号特例の縮小や省エネ基準の義務化で、建て替えやリフォームの費用はどう変わるのか?意外な規制の抜け道はあるのか?農業経営者が知るべき対策は?

建築基準法 改正 2025 の 影響

農家が押さえるべき2025年法改正のポイント
🏚️
4号特例の縮小

木造倉庫も2階建てや200㎡超は審査が厳格化。構造計算が必要に。

📉
省エネ基準の義務化

原則全ての建物が対象だが、常温の農業用倉庫には「例外」が存在する。

💰
建築コストの上昇

申請書類の増加と審査期間の長期化で、設計料や工事費の負担が増える。

建築基準法 の 4号特例 縮小 で 農家 の 木造 倉庫 は どうなる

 

2025年(令和7年)4月の改正で最も農業経営者に影響を与えるのが「4号特例の縮小」です。これまで農村部でよく見られた「木造・2階建て以下・延べ面積500㎡以下」の建物は、建築確認の際に構造関係の審査を省略できる「4号建築物」として扱われ、比較的簡易な手続きで建築が可能でした。しかし、改正後はこの区分が廃止・再編され、審査のハードルが一気に上がります。

 

・新2号建築物:木造2階建て以上、または延べ面積200㎡超
・新3号建築物:木造平屋かつ延べ面積200㎡以下
これまで「4号」として特例の恩恵を受けていた建物のうち、2階建てのものや、平屋でも200㎡(約60坪)を超える大きな農業用倉庫は「新2号建築物」に分類されることになります。新2号建築物になると、これまで提出が不要だった「構造計算書」や「省エネ関連図書」の提出が求められるようになり、実質的に審査が厳格化されます。

 

一方で、小規模な農機具小屋や資材置き場(平屋かつ200㎡以下)は「新3号建築物」として、引き続き審査の特例(仕様規定への適合確認のみで構造計算等の詳細審査は省略)が維持される見込みです。これから倉庫を建てる農家にとっては、「平屋で200㎡以下に収める」か、それとも「コストをかけて200㎡超のしっかりした倉庫を建てるか」の判断が非常に重要になります。

 

国土交通省:2025年4月(予定)から4号特例が変わります(パンフレット) - 4号特例の変更点と新2号・新3号の区分について図解で詳しく解説されています。

2025年 から の 省エネ 基準 義務化 と 農業用倉庫 の 例外

もう一つの大きな柱が「省エネ基準適合の義務化」です。改正前は、小規模な建物であれば省エネ基準への適合は努力義務にとどまっていましたが、2025年4月以降は、原則として「全ての新築建物」に省エネ基準への適合が義務付けられます。これにより、壁や屋根の断熱材の厚さを増やしたり、高性能な窓サッシを採用したりする必要が出てきます。

 

しかし、農業用倉庫に関しては重要な「例外措置」が設けられています。法律上、以下のような条件を満たす建物は、省エネ基準の適合義務の対象外となる可能性が高いのです。

 

・常温で使用する建物(空調設備を設けない場合)
・開放的な建物(外気に対して常時開放されている場合)
具体的には、空調を入れずに農機具や資材、常温保存の作物を保管するだけの倉庫や、壁のない堆肥舎などは、この「例外」に該当するケースがほとんどです。一方で、倉庫内にエアコン完備の「選果場」や「休憩室」を併設する場合や、温度管理が必要な保冷庫として建築する場合は、建物全体が省エネ基準の対象となる可能性があります。

 

設計段階で「ここは空調を使わない」と明確に定義することで、高額な断熱工事を回避できる場合があります。建築士と相談する際は、「農業用倉庫としての用途」と「空調の有無」を明確に伝えることがコストダウンの鍵となります。

 

国土交通省:建築物省エネ法のページ - 省エネ基準の概要や、適合義務化の対象・例外についての公的な詳細情報が掲載されています。

建築 確認 申請 の 審査 期間 と 費用 の 増加

法改正に伴い、建築確認申請の手続きにかかる「期間」と「費用」の増加は避けられません。これまでは書類審査が省略されていた部分もチェック対象となるため、審査機関の作業量が増え、許可が下りるまでの期間が長くなることが予想されます。

 

費用の面では、以下の2つのコスト増が考えられます。

 

・設計・申請手数料の増加:構造計算書や省エネ計算書の作成には専門的な知識が必要であり、設計事務所に支払う報酬がアップする可能性があります。一般的な木造倉庫でも、数十万円単位のコスト増になるケースも想定されます。

 

・建築工事費の増加:構造計算の結果、これまでよりも太い柱や多くの耐力壁が必要だと判定されれば、材料費や施工費が上がります。また、省エネ基準に適合させるための断熱材や建具のグレードアップ費用も加算されます。

 

特に注意が必要なのはスケジューリングです。「補助金の申請期限に間に合わせたい」と考えていても、建築確認がなかなか下りずに着工できないというトラブルが起きやすくなります。2025年4月以降に工事を予定している場合は、従来よりも1~2ヶ月程度余裕を持った計画を立てる必要があります。

 

日本建築行政会議:2025年改正建築基準法に関するQ&A - 実務的な審査の流れや、申請時に必要となる図書の種類について詳しくまとめられています。

既存 不適格 建物 の 増改築 と リフォーム の 規制

農家にとって意外な落とし穴となるのが、今ある古い倉庫や納屋の「増改築(リフォーム)」です。昔の基準で建てられた建物は、現在の法律には適合していない「既存不適格建築物」である場合がほとんどです。これらを増築したり大規模に改修したりする場合、現行の厳しい法基準(2025年改正後の基準)への適合を求められることがあります。

 

改正により、以下のようなケースで注意が必要です。

 

・大規模な修繕・模様替え:壁や柱などの主要構造部を半分以上やり直すような工事では、現行法への適合が求められます。

 

・増築:既存の倉庫に下屋を継ぎ足すような場合、建物全体が現行法に適合しているかチェックされる可能性があります。

 

特に、改正後は「構造計算のルート」が明確化されるため、古い木造倉庫に安易に増築を行うと、既存部分も含めた耐震診断や補強工事が必要となり、建て替え並みの費用がかかることもあり得ます。「少し広げたいだけ」という軽い気持ちでの増築が、法的な迷路に入り込む原因になりかねません。増改築を検討する際は、必ず改正法に詳しい建築士に「既存不適格の扱い」について相談してください。

 

小規模 な 農業用倉庫 を 自分で 建てる 場合 の 注意点

検索上位の記事ではあまり触れられませんが、農家の「セルフビルド(自力建設)」にも2025年改正は影響します。これまで、都市計画区域外や防火地域以外であれば、小規模な建物(10㎡以下など)は確認申請が不要なケースが多く、農家が単管パイプなどで独自の小屋を建てることが黙認されている現状がありました。

 

しかし、法改正の背景には「安全性の確保」があります。確認申請が不要な地域や規模であっても、建物自体は「建築基準法に適合させる義務」があります。2025年以降、違反建築物に対する監視の目は厳しくなる傾向にあります。

 

特に注意したいのが、「新3号建築物(木造平屋200㎡以下)」の枠組みです。

 

もし自分で建てる小屋がこの範囲内であれば、従来通り「仕様規定(壁量計算など)」を守ればよく、高度な構造計算は不要です。しかし、これを少しでも超える(例:ロフトを作って2階建て扱いになる、200㎡を超える)と、一気にプロでも難しい構造計算が必要になります。

 

・DIYで建てるなら「平屋かつ200㎡以下」を死守する
・基礎と柱の緊結など、仕様規定は必ず守る(地震で倒壊した場合、所有者責任が問われます)
「農地の片隅だからバレないだろう」という考えはリスクが高まっています。行政のドローン調査や衛星写真での確認技術も向上しているため、未申請の違反建築は将来的に撤去命令のリスクを負います。小規模な特例を正しく理解し、合法的に安く建てる戦略が必要です。

 

 


プロのための建築法規ハンドブック 六訂版