2025年は、農業従事者にとって「廃棄物管理の転換点」となる重要な年です。直接的な「廃棄物処理法」の条文改正だけでなく、密接に関連する新法の施行や省令改正が相次いで実施されるからです。特に注目すべきは、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を加速させるための法的枠組みの強化です。
これまで農業現場では、「野焼きの禁止」や「産業廃棄物の処理委託」といった基本的なルールが中心でしたが、2025年からは「いかに資源として回すか」「処理プロセスを透明化するか」という高度な要求が突きつけられます。具体的には、2024年に成立した「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(再資源化事業等高度化法)」が2025年に施行されるほか、廃棄物処理法施行規則の改正に伴う電子マニフェストシステムの変更がスタートします。
これらの変更は、大規模な農業法人だけでなく、家族経営の農家にも無関係ではありません。なぜなら、廃プラスチック類(ビニールハウスのフィルム、肥料袋など)の処理ルートが変わったり、収集運搬業者からの値上げ要請の根拠となったりするからです。本記事では、2025年に発生する法制度の変化を詳細に解説し、農業者がとるべき具体的な対策を深掘りします。
【環境省】再資源化事業等高度化法の施行期日について(2025年2月一部施行、11月全面施行のスケジュール詳細)
2025年の最も大きなトピックは、「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」(通称:再資源化事業等高度化法)の施行です。この法律は、従来の廃棄物処理法が「廃棄物の適正処理(ゴミを安全に捨てること)」に重きを置いていたのに対し、「廃棄物を資源として高度に利用すること」を目的としています。
農業従事者にとって、この法律は以下の3つの点で大きな影響を与えます。
従来、廃棄物をリサイクルするためには、自治体ごとの許可が必要で、手続きが非常に煩雑でした。しかし、この新法により、国が認定した高度な技術を持つ再資源化事業者であれば、都道府県知事の許可不要で広域的に廃棄物を集めることが可能になります(廃棄物処理法の特例)。これにより、農家にとっては「信頼できるリサイクル業者」の選択肢が増え、適正なリサイクルルートを確保しやすくなるメリットがあります。
「高度なリサイクル」を行うためには、排出段階での「きれいな分別」が不可欠です。再資源化事業者は、質の高い再生材を作るために、土や泥、異物が混入していない廃プラスチックを求めます。そのため、2025年以降、収集運搬業者や処理業者から、これまで以上に厳しい分別基準(例えば、種類ごとの結束、泥の洗浄、金属部品の完全除去など)を要求される可能性が高まります。
大規模な選果場や加工施設を持つ農業法人の場合、自社で廃棄物の分離・選別を行う設備の導入に対して、国の支援や認定が受けやすくなる可能性があります。廃棄物を単に捨てるのではなく、有価物として売却したり、エネルギーとして利用したりする道が開けます。
2025年のスケジュール詳細:
農家としては、この新法施行を見据えて、今のうちから「ごちゃ混ぜ廃棄」を辞め、素材ごとの分別を徹底する習慣をつけることが、将来的な処理コスト削減につながります。質の悪い廃棄物は「リサイクル不可」として高額な焼却埋立処分料を請求されるリスクがあるためです。
【産廃メディア】再資源化事業等高度化法の解説と廃棄物処理法との関係性について
次に重要なのが、電子マニフェスト(JWNET)に関するシステム改修です。これは、2025年4月に公布された「廃棄物処理法施行規則」の改正に基づくもので、実際にシステムが変更されるのは2025年5月からです。
多くの農家は「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」を使用していますが、紙のマニフェストから電子マニフェストへの移行は国策として強く推進されています。今回の改正は、将来的な「記載事項の義務化」に向けた準備段階と位置づけられています。
2025年5月からの主な変更点(JWNET改修内容):
これまで曖昧だった中間処理後の「具体的な処分方法(例:破砕、焼却、中和など)」をコードで入力する欄が追加されます。
実際に処分した廃棄物の重量などを入力する機能が強化されます。
処理の結果、どのようなリサイクル製品(再生プラスチック原料、堆肥、路盤材など)がどれだけ生まれたかを記録する項目が追加されます。
農家(排出事業者)への影響:
「2025年にいきなり義務化されて罰則があるわけではない」という点は安心材料ですが、注意が必要です。
つまり、2025年の段階で、委託している処理業者が「新しいシステムに対応できているか」を確認しておく必要があります。もし、処理業者がこれらの詳細なデータを提供できない場合、将来的にはその業者に委託し続けることが法的にリスクとなる可能性があります。
特に、産廃処理を委託している農家は、以下のチェックリストを使って現状を確認してください。
2025年は、2027年の完全義務化に向けた「助走期間」です。今のうちに電子化への移行を検討するか、少なくとも信頼できる業者を選定し直す良いタイミングと言えます。
【JWNET】公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(2025年5月のシステム改修詳細)
廃棄物処理法では、排出事業者(農家)が処理業者に委託する際に「書面による契約」を義務付けています(法第12条)。この産業廃棄物処理委託契約書の内容についても、2025年の規則改正で新たな記載事項が追加されることが決まりました。
これは見落とされがちですが、コンプライアンス(法令遵守)の観点からは極めて重要です。古い雛形のまま契約を更新し続けると、将来的に「法定記載事項の不備」として契約書自体が違法となる恐れがあります。
契約書に追加される主な事項(2025年公布、2027年義務化):
| 項目 | 内容と目的 |
|---|---|
| 処分を行った事業場の名称・所在地 | 実際にゴミが運ばれて処理される場所をピンポイントで特定する。無許可業者への横流し防止。 |
| 処分方法ごとの処分量 | 「破砕:○トン」「焼却:○トン」のように、処理方法別の内訳を明確にする。 |
| 再生された物の種類 | 「RPF(固形燃料)」「再生ペレット」など、何に生まれ変わるかを契約段階で明記する。 |
2025年に農家がすべきこと:
現時点での契約書(多くは自動更新されているはずです)を取り出し、確認してみてください。「甲(農家)は乙(業者)に委託し~」という定型文の中に、上記のような具体的な処理内容が含まれているでしょうか?
多くの場合、従来の契約書は「○○の処理を委託する」といった大まかな内容にとどまっています。2025年の段階では、以下の行動を推奨します。
「法改正があったと聞きましたが、契約書の巻き直し(再締結)は必要ですか?」と聞いてみてください。優秀な業者であれば、すでに新しい雛形を用意して2027年に向けた準備を進めています。
契約書全体を作り直すのが大変な場合、改正内容に対応した「覚書」を追加で締結する方法もあります。
契約書に添付されている業者の「許可証」の有効期限が切れていないかも、この機会に合わせて確認しましょう。許可切れの業者に委託することは、直ちに法律違反(無許可業者への委託)となり、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金という非常に重い刑罰の対象となります。
農業経営において「契約書」は軽視されがちですが、廃棄物処理法において契約書は「自分を守る盾」です。2025年の法改正の動きをきっかけに、契約内容の棚卸しを行うことを強くお勧めします。
【クラウドサイン】廃棄物処理法施行規則改正のポイントと契約書実務への影響
2025年の法改正や新法の背景にあるのは、一貫して「排出事業者責任」の強化です。農業従事者は、野菜や果物を作る「生産者」であると同時に、その過程で出るゴミの「排出事業者」であることを忘れてはいけません。
廃棄物処理法において、最も重い責任を負うのは、処理業者ではなく「ゴミを出した人(排出事業者)」です。たとえ処理業者にお金を払って委託したとしても、その業者が不法投棄をした場合、排出事業者である農家も責任を問われることがあります(措置命令の対象となる)。
2025年以降、特に注意すべき農業廃棄物のリスク:
ハウス用ビニール、マルチ、肥料袋、苗箱、育苗ポットなど。これらは「産業廃棄物」です。家庭ごみの集積所に出すことは「不法投棄」となります。また、野焼き(野外焼却)も、一部の例外(農業を営むためにやむを得ないもの)を除き、原則として禁止されており、廃プラの焼却は例外規定にも該当せず、厳しく処罰されます。ダイオキシン対策の観点からも、監視の目は年々厳しくなっています。
農地の造成や、古い納屋・ビニールハウスの解体に伴って出るコンクリート片や木くず、土砂の扱いも厳格化されています。特に「盛土規制法」の運用強化と相まって、農地への不適切な土砂搬入や、廃棄物混じりの土の放置は、警察による摘発対象となりやすくなっています。
農薬の空き容器は、中身を使い切り、洗浄した上で産業廃棄物(廃プラスチック類、ガラス陶磁器くず、金属くず)として処理する必要があります。中身が残っている場合は「特別管理産業廃棄物(引火性廃油や特定有害産業廃棄物など)」に該当する可能性があり、通常の産廃業者では扱えないケースがあります。
行政による立ち入り検査のトレンド:
近年、都道府県の環境担当部局は、処理業者だけでなく排出事業者(工場や大規模農家)への立ち入り検査を強化しています。チェックされるポイントは、「マニフェストが正しく保存されているか(5年間)」「契約書があるか」「委託先の許可証を確認しているか」の3点です。
2025年は、デジタル化(電子マニフェスト)が進むことで、行政側も「データの不整合」を見つけやすくなります。例えば、「作付面積から想定される廃プラの量」と「実際にマニフェストで報告された処分量」に大きな乖離があれば、「残りはどうした?(野焼きか不法投棄か?)」と疑われるきっかけになります。
「知らなかった」では済まされないのが廃棄物処理法です。以下の3原則を徹底してください。
【CBA】排出事業者の責務とは?2025年改正内容も含めた解説
最後に、法律の条文そのものではありませんが、2025年の廃棄物処理を取り巻く環境として避けて通れない独自視点のトピック、「物流の2024年問題」が2025年の廃棄物処理コストに与える影響について解説します。
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働規制が適用されましたが、その影響は2025年にかけて深刻化しています。これは、農作物の出荷だけでなく、「産業廃棄物の収集運搬」にも直撃しています。
なぜ農家の廃棄物処理コストが上がるのか?
ドライバー不足により、産廃業者は「効率の悪いルート」を切り捨てざるを得なくなっています。農家は点在しており、かつ一回に出すゴミの量が工場に比べて少ない傾向があります。そのため、「少量の回収には行けない」「回収頻度を減らす」「回収料金を大幅に値上げする」といった対応を迫られるケースが2025年は激増すると予想されます。
収集運搬業者は、現場での滞留時間を極限まで減らそうとします。農家側で「積み込みの準備ができていない」「分別が不十分で積み込みに時間がかかる」といった状況があると、回収を拒否されたり、追加料金を請求されたりする可能性があります。
対策:
この「物流コスト増」に対抗するためには、廃棄物処理法の枠組みを活用した「共同処理」が有効です。
個々の農家が業者を呼ぶのではなく、指定された日時に集荷場所(ストックヤード)に持ち込み、大型トラックで一括して回収してもらう方式です。これにより、収集運搬コストを頭割りでき、業者にとっても大口案件となるため交渉しやすくなります。再資源化新法の「広域認定制度」も、こうした共同回収を後押しする仕組みです。
廃プラスチックや剪定枝を現場で細かく砕いたり、圧縮(プレス)したりして、容積を減らすことです。トラック1台に積める量が増えれば、輸送効率が上がり、結果として処理単価を抑えることができます。
2025年の廃棄物対策は、単に法律を守るだけでなく、「物流危機」という経済的なリスクへの対抗策でもあります。「適正処理」と「コスト削減」を両立させるためには、地域全体で協力して廃棄物をまとめて出す仕組み作りが、これまで以上に求められるでしょう。
【岩淵グループ】産業廃棄物の正しい処理と収集運搬の効率化について