農業から出る温室効果ガスには、主に二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の3つがあり、メタンと一酸化二窒素はCO2より温暖化効果が強いのが特徴です。
世界全体では農業・林業・土地利用由来の温室効果ガスが全体の約22%を占め、日本では農林水産分野が総排出量11.35億トンのうち約4.2%、約4,790万トンを占めると整理されています。
日本国内で見ると、農林水産分野の排出と吸収はほぼ拮抗しており、排出が4,747万トン、吸収が4,590万トンというデータもあり、「出しながらも吸っている」セクターだといえます。
参考)温室効果ガス(GHG)排出の現状 - 農政部食の安全・みどり…
一方で、環境省の温室効果ガス統計では、農業分野は廃棄物などと並び依然として主要な非エネルギー起源排出源であり、特に稲作・家畜からの排出が全体の約8割を占めているとされています。
参考)https://www.env.go.jp/content/000150033.pdf
さらに、日本政府は2030年度の温室効果ガスを2013年度比46%削減、2050年カーボンニュートラルという目標の中で、農林水産分野の貢献も明確に位置づけています。
農業者にとっても、環境対策は「コスト」から「ブランド価値・収益機会」へと評価が変わりつつあり、環境配慮型農産物の認証制度やカーボンクレジット市場に注目が集まっています。
こうした背景をふまえると、ほ場単位の工夫も、地域単位の取組も、今後の補助制度・価格評価の前提となる可能性が高く、「今から何をやるか」が長期的な経営に直結すると考えられます。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/003_03_01.pdf
特に水田、畜産、施肥・土壌管理、エネルギー利用の4分野は、温室効果ガス排出削減の「主戦場」として各種対策が整理されているため、自分の経営に近い部分から優先的にチェックしておくと実務に落とし込みやすくなります。
農業分野の温室効果ガス排出・吸収の全体像と、日本の排出量・吸収量のデータが整理された公的資料です(基礎データの把握に有用です)。
農林水産省「世界全体と日本の農林水産分野の温室効果ガス(GHG)の排出」
農業からの温室効果ガス排出源の中で、水田からのメタン、家畜の消化・排泄由来メタン、窒素肥料からの一酸化二窒素が、技術的対策が比較的はっきりしている「主戦場」とされています。
特に日本の農業は稲作と畜産の比重が大きく、水田における湛水管理や家畜排泄物の処理方法の改善が、排出削減ポテンシャルの高い対策として注目されています。
水田では、中干し期間の延長や間断かんがいなど、水管理を工夫することでメタン発生量を抑制できることが試験研究で確認されており、「水を張りっぱなしにしない」栽培設計が重要です。
ただし過度な乾田化は収量や品質への影響もあり、土壌条件・品種・地域の気候を踏まえたバランス型の水管理が求められるため、試験場や普及センターが提供する地域技術指針を確認しながら導入するのが安全です。
参考)https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-103/900422919.pdf
畜産分野では、反芻動物のげっぷ由来メタンを抑制するため、脂肪酸組成を工夫した飼料や、メタン生成を抑える飼料添加物の研究が進んでいます。
参考)開発途上地域農業の温室効果ガス排出抑制とリスク回避技術の開発…
さらに、家畜ふん尿の堆肥化・バイオガス化により、メタン発生をエネルギー利用に振り向ける取り組みも、温室効果ガス削減と再エネ供給の一石二鳥策として各地で導入が進行中です。
参考)農業のカーボンニュートラルに向けた取り組み〜持続可能な「食」…
施肥と土壌管理では、硝化抑制剤付き肥料の利用や、適正施肥量の徹底、局所施肥・分施などにより、一酸化二窒素の発生を抑える技術が提案されています。
また、緑肥作物の導入や堆肥の適正施用は、土壌中の炭素貯留量を増やすと同時に、肥料由来の窒素損失を減らす方向に働くことが多く、排出「削減」と吸収「増加」を同時にねらえる対策として評価されています。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/pdf/ondanka_taisaku.pdf
農地における温室効果ガス削減技術(水管理・施肥・バイオ炭など)と、その評価方法を紹介する講演資料です(水田・畑作での具体的技術の確認に有用です)。
近年、「カーボンファーミング」と呼ばれる、土壌や植生に炭素を長期的に貯える農業手法が、温室効果ガス排出削減と新たな収入源の両面で注目されつつあります。
その中核技術の一つが、剪定枝やもみ殻などのバイオマスを高温で熱分解してつくる「バイオ炭」を土に入れ、数十年〜数百年スケールで炭素を固定する取り組みです。
バイオ炭は単なる炭ではなく、多孔質で比表面積が大きいため、土壌の保水性や肥料保持力の改善に寄与し、作物の生育を安定させる効果も報告されています。
その結果、同じ収量を維持しながら化学肥料を減らせる場合もあり、「排出削減」「吸収源増」「肥料コスト削減」を同時に狙える、意外とポテンシャルの高い技術として世界的に実証が進んでいます。
参考)農業における脱炭素化:企業の取組みやTerrascopeの成…
日本でも、農林水産省の脱炭素戦略の中で、農地土壌吸収源対策としてバイオ炭や堆肥・緑肥等の有機物施用が掲げられており、2030年度で約3,800万トンCO2の吸収を目標とする計画の一部に位置づけられています。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_2050/pdf/004_04_00.pdf
地域によっては、剪定枝や竹林などの未利用バイオマスを炭化し、農地に戻すことで、里山管理・ごみ減量・温室効果ガス排出削減をつなげるプロジェクトも動き出しており、「地域ぐるみの土づくり」として発展する可能性があります。
さらに、カバークロップ(被覆作物)を導入して地上部・根のバイオマスを増やし、土壌中の炭素を増加させる手法も、農業由来の温室効果ガス削減メニューの一つとして整理されています。
カバークロップは、雑草抑制や土壌流亡防止、病害虫抑制などの効果もあり、「見えない炭素貯金」をしながら、土の健康と収量安定につなげられるのが魅力です。
農地土壌の炭素貯留やバイオ炭・カバークロップの活用など、カーボンファーミングの考え方を整理した解説記事です(土壌を活かした排出削減のヒントになります)。
Terrascope「農業における脱炭素化:企業の取組みや最新技術」
農業機械やハウス暖房、貯蔵・選果施設などで消費されるエネルギーは、主にCO2排出の形で温室効果ガスに反映されるため、省エネと再生可能エネルギーの導入が重要な対策となっています。
日本の「農林水産省地球温暖化対策計画」では、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標の中で、農業機械の電化・水素化、化石燃料に依存しない園芸施設の導入などが示されています。
具体的には、優れた断熱資材を用いたハウス構造の採用や、環境制御システムによる細やかな温度・湿度管理などが、省エネと収量安定の両立に有効とされています。
また、高効率ボイラーやヒートポンプ、排熱回収装置などの設備導入に対しては、国や自治体の補助制度が設けられていることも多く、設備更新のタイミングで温室効果ガス排出削減も一緒に検討する価値があります。
再生可能エネルギーでは、バイオマス発電やバイオガス、太陽光発電を農業と組み合わせる取組みが広がっています。
なかでも、農地の上部で太陽光発電を行いながら下で作物を栽培する「ソーラーシェアリング」は、発電収入を得つつ温室効果ガス排出削減に貢献する手法として、各地のモデル事例が蓄積されつつあります。
さらに、畜産分野では家畜ふん尿をメタン発酵させ、得られたバイオガスで発電・熱利用する取り組みが増えており、従来は放出されていたメタンをエネルギーに変える「攻めの排出削減」と位置づけられています。
こうした再エネ設備や省エネ機器の導入は、初期投資が課題となる一方で、燃料費削減や長期的な経営安定に寄与するため、ライフサイクルコストと温室効果ガス削減量をセットで試算することがポイントです。
農業分野における省エネ型施設・再生可能エネルギー導入事例や、脱炭素化の全体像を整理した解説です(設備投資の検討に役立ちます)。
ゼロ炭素ポート「農業でも地球温暖化対策が必要?脱炭素化への取り組み、対策を解説」
温室効果ガス排出削減の取組を「見える化」し、第三者から評価してもらう仕組みは、日本でも徐々に整備が進んでおり、環境省や農林中央金庫などが中心となって農業の脱炭素を支援する動きが出ています。
例えば、環境配慮型農法を実践する生産者の温室効果ガス排出量を可視化し、削減目標(SPT)を設定することで、金融機関からの優遇融資やサステナブル金融商品と結びつける事例が紹介されています。
農業からの温室効果ガス排出削減量を「カーボンクレジット」として認証・販売する仕組みも、J-クレジットなどを通じて試行が進められており、今後、バイオ炭施用や水田メタン削減、再エネ導入などがクレジット対象になれば、現場のインセンティブはさらに高まると期待されています。
実際に、海外では農業由来のカーボンクレジットが企業の脱炭素戦略の一部として活用されつつあり、日本でも同様の方向性で制度設計が進められています。
「見える化」が重要なのは、単に証明書を得るためではなく、自分の経営の温室効果ガス排出構造を理解し、コストをかけずに削減できる「おいしい部分」を見つけるためでもあります。
参考)農業からの温室効果ガスを削減する取組を「見える化」しています…
排出量の内訳を把握すれば、例えば「燃料を5%節約するだけで、肥料を10%減らすのと同等のCO2削減になる」といった具体的な判断材料が得られ、投資優先順位の検討にも役立ちます。
今後は、温室効果ガス排出削減や土壌炭素の増加を、単なる「義務」ではなく、「付加価値」や「新たな収入源」として位置づける経営が、農業の世界でも広がっていくと考えられます。
水田・畜産・土壌・エネルギーといった分野ごとの技術メニューを押さえたうえで、地域の見える化制度やクレジット制度の情報を早めにキャッチしておくことが、これからの農業経営者にとって大きなアドバンテージになるのではないでしょうか。
農業からの温室効果ガス削減の「見える化」に関する取組や、評価方法の概要がまとめられたページです(排出量把握と制度活用の入口として有用です)。
農林水産省「農業からの温室効果ガスを削減する取組を『見える化』しています」