カバークロップの種類を整理するうえで、まず押さえておきたいのが「マメ科」「イネ科」「アブラナ科(十字花科)」を中心とした科別の分類です。 マメ科はレンゲやヘアリーベッチなどが代表で、根粒菌による窒素固定により、追肥を抑えながら地力を高めたい圃場で重宝されます。 イネ科はライムギ、エンバク、ソルガム、スーダングラスなどで、地上部・地下部ともにバイオマスが大きく、土壌有機物の蓄積と侵食防止に強い種類です。
アブラナ科では菜の花、アブラナ、ダイコンなどが使われ、太い根を深く差し込むことで硬盤層を物理的に割る「バイオドリル」として期待されています。 とくにダイコンや特定のアブラナ科カバークロップは、線虫密度を抑制する効果が報告されており、キタネグサレセンチュウなどに悩む畑で導入を検討する価値があります。 また、キク科のヒマワリやマリーゴールド、シソ科の地被植物なども、景観性と病害虫抑制を兼ねたカバークロップとして利用されるようになってきました。
参考)緑肥作物・カバークロップの利用技術
具体的な品目名を挙げると、中日本農研センターの一覧ではエンバク、ライムギ・ライコムギ、クリムソンクローバ、クロタラリア、ヘアリーベッチ、マリーゴールドなど、多様な種類が整理されています。 それぞれに「一年生か多年生か」「越冬性の有無」「播種時期」が異なるため、地域の気候と主作物の作期に合わせて選ぶことが重要です。 同じ「ライムギ」でも品種によって草丈や越冬性、倒伏しやすさが違うため、カタログのデータを細かく確認して選ぶと失敗が減ります。
カバークロップの種類選びで現場の関心が高いのが、雑草抑制と線虫防除の効果です。 被覆力が高い品種を選ぶことで、土壌表面の光を遮り、スズメノカタビラやメヒシバなどの一年生雑草の発生を大きく減らすことができます。 たとえば、マメ科のセスバニアは草丈が高く広く畑を覆うため、耕作放棄地の雑草管理用カバークロップとしても有効とされています。
線虫防除では、イネ科のアウェナ・ストリゴサ(エンバクの一種)が、根菜類の大敵キタネグサレセンチュウの密度を抑制する例が紹介されています。 また、アブラナ科カバークロップの中には、分解時に放出される成分により線虫・土壌病害を抑える生物くん蒸効果がある種類もあり、化学農薬に頼りたくない圃場で注目されています。 雑草・線虫どちらの対策も、一度の導入で劇的に改善するというより、数年単位での輪作の中に位置づけることで持続的な効果を発揮するというのが実感しやすいポイントです。
参考)カバークロップの重要性|Monkey Gardener/世界…
一方で、雑草抑制に優れたカバークロップは、導入方法を誤ると「自分が雑草」になってしまうリスクもあります。 たとえば、ライムギやソルガム系統はこぼれ種による残存が問題になることがあり、すき込み時期や種子成熟前のローラークランプ(ロールによる倒伏)など、管理のタイミングが重要です。 また、強いアレロパシー(他感作用)を持つ種類は、後作の発芽を抑える可能性があるため、播種間隔を空ける、浅めにすき込むなどの配慮が必要です。
参考)https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/grass/grass_201307_04.pdf
近年注目されているのが、生き草マルチとしてのカバークロップ利用と、多種類の混播です。 7~12種類程度のカバークロップを混播して被覆層をつくり、刈り倒してマルチにしたり、羊などの家畜を放牧しながら管理する事例が紹介されています。 混播のねらいは、根の深さや太さ、生育速度の異なる種類を組み合わせることで、土壌の表層から下層まで立体的に根を張らせ、団粒構造と多様な微生物環境をつくることにあります。
混播では、マメ科を1~2割程度含め、イネ科・アブラナ科・キク科など生育の早い科を中心にする組み合わせがよく用いられています。 マメ科が供給する窒素を、イネ科がバイオマスとして受け止め、アブラナ科が下層土を割るといった役割分担が生まれるため、一種類のカバークロップよりもリスク分散と機能の両立がしやすくなります。 また、深根性品種を必ず一つ混ぜることで、いわゆるバイオドリル効果がセットで得られ、トラクターによるサブソイラー作業の回数を減らせる可能性もあります。
参考)2023年5月号(特集 : カバークロップ & 生き草マルチ…
生き草マルチとして利用する場合は、完全にすき込まず、ローラーや刈払機で倒して地表に残す「ノンディグ」的な土壌管理も有効です。 地表に残したマルチは、雨滴衝撃からの土壌保護や、夏場の地温上昇・乾燥の抑制に役立ち、特に露地野菜や果樹園での土壌安定化に貢献します。 ただし、生き草マルチは水分を消費するため、乾燥しやすい圃場ではマメ科の割合を抑える、刈り高を工夫するなど、土壌水分とのバランスを考えた管理が求められます。
参考)https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H14/to106.html
カバークロップの種類を選ぶうえで、意外と見落とされやすいのが「耐雪性」「越冬性」といった地域適応の視点です。 寒冷地では、冬越しに失敗すると春先の地表が裸地になり、むしろ雑草と浸食リスクが増えるため、雪の下でも葉が枯れにくい品種を選ぶことが重要になります。 具体例としては、耐雪性のある菜の花や「ヘアリーベッチしげまるくん」などが紹介されており、積雪地帯でも安定して越冬しやすいカバークロップとして推奨されています。
また、水田裏作としてカバークロップを導入する場合、排水性と湿害耐性の両方を見て品種を選ぶ必要があります。 緑肥シリーズでは「寒太郎」など越冬性と湿害耐性を兼ね備えた品種が提案されており、栽培期間に応じて「栽培期間が短い場合はまめ助・藤えもん、長い場合は寒太郎」といった選び方の目安も示されています。 こうした地域適応型の品種情報は、種苗メーカーの資料や県の緑肥栽培マニュアルに詳しく掲載されているため、自分の地域名で検索してみると、思った以上に細かい情報が得られます。
参考)https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/manual/ryokuhi-manual.pdf
果樹園や観光農園では、カバークロップの「景観性」も品種選びのポイントになります。 たとえば、観光リンゴ園向けには地表をマット状に覆うリシマキアやヒメイワダレソウなどが推奨されており、雑草管理と観光価値の向上を両立させる取り組みが報告されています。 花色や草姿を意識して選ぶことで、カバークロップが「ただの緑肥」ではなく、農園のブランド価値を高める資源にもなり得る点は、検索上位ではあまり強調されていない独自の視点といえます。
カバークロップの種類を戦略的に使い分けることは、近年注目されるリジェネラティブ農業(再生型農業)の実践にも直結します。 土壌を常に何らかの植物で覆い、多様な根系を持つカバークロップを輪作や混播に組み込むことで、土壌有機物の蓄積と炭素の土中固定を促進し、いわば「カーボンファーミング」としての役割も担わせることができます。 特に、バイオマス生産力に優れたイネ科カバークロップを組み合わせた場合、腐植の増加と浸食防止の面で明確な効果が示されています。
こうした取り組みでは、単に緑肥としてすき込むだけでなく、カバークロップを倒伏させて表層に残すことで、土壌表面の炭素を守りながら微生物の「住処」を安定的に確保する設計が重視されています。 深根性のアブラナ科やマメ科を混ぜたカバークロップの根が下層にドリルのように入り込み、枯死後に形成される空隙は、水と空気の通り道となり、化学肥料に依存しない持続的な養分循環を支える基盤になります。 その結果として、施肥量を抑えながらも収量や品質を維持する「少投入・多機能」な圃場に変えていくことが可能になります。
参考)https://icl-growingsolutions.com/ja-jp/agriculture/knowledge-hub/5-ways-cover-crops-and-fertilizers-can-work-together-to-improve-your-fields/
同時に、カバークロップ導入は作業体系にも影響を与えるため、「いつ播くか」「いつ倒すか」「どの機械で処理するか」といった農作業研究の観点も重要です。 作業ピークと重ならない播種・処理時期の種類を選ぶ、あるいは播種機やローラーの利用を前提に草丈や茎の硬さを考慮した選定を行うことで、現場の負担を増やさずにリジェネラティブな実践を進めやすくなります。 カバークロップの種類を「土壌改良資材」としてだけでなく、「作業システムの一部」として位置づけ直すことが、今後の日本型リジェネラティブ農業の鍵と言えるでしょう。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfwr1966/40/1/40_1_27/_pdf
カバークロップの代表的な種類や利用方法の整理に役立つ技術資料です(種類ごとの機能・播種時期の参考)。
緑肥作物・カバークロップの利用技術 | 農研機構 中日本農業研究センター