メロン退緑黄化病はウリ類退緑黄化ウイルス、通称CCYV(Cucurbit chlorotic yellows virus)が原因となる深刻なウイルス病です。このウイルス病は2004年に熊本県で初めて確認され、その後九州を中心に全国へ拡大しています。2024年には兵庫県や千葉県でも新たに発生が確認されており、メロン産地で警戒が強まっています。
病原ウイルスを運ぶのはタバココナジラミというわずか1mm程度の小さな害虫です。特にバイオタイプQとバイオタイプBという2つの系統がCCYVを媒介することが明らかになっています。タバココナジラミは保毒虫として半永続的にウイルスを伝搬し、死ぬまで感染能力を持ち続けるという厄介な特性を持っています。
土壌伝染や種子伝染はしません。
ウイルスの感染経路は明確で、保毒したタバココナジラミがメロンの葉を吸汁することでウイルスが植物体内に侵入します。感染してから発病までの潜伏期間は14日から30日程度とされており、この間は症状が現れないため気づきにくいという問題があります。感染後は植物体内でウイルスが増殖し、維管束に局在しながら全身に広がっていきます。
CCYVの寄主範囲はウリ科作物が中心で、自然感染が確認されているのはメロン、キュウリ、スイカです。ただし接種試験では、ナス科やアカザ科など広範な植物への感染も確認されており、今後被害が拡大する可能性も指摘されています。メロン栽培地では周辺の雑草管理も重要な防除対策となります。
農研機構の退緑黄化病診断・防除マニュアル(PDF)では、病原体の詳細な特性やRT-PCR検査法について解説されています
メロン退緑黄化病の症状には「退緑型」と「黄斑型」という2つのタイプがあり、同一株に両方が発生するのが特徴的です。症状を正確に見分けることが早期発見と被害拡大防止につながります。
退緑型の症状は、まず葉の先端部分や葉柄に近い部分に緑色が薄くなった小斑点が現れることから始まります。この小斑点の周囲は滑らかでなく、ギザギザした形状をしているのが特徴です。小斑点は徐々に拡大しながら癒合していき、「まだら」状の黄化葉となります。裏面から観察すると多数の退緑小斑点が確認できるため、診断の決め手となります。さらに症状が進展すると、葉脈沿いに緑色部分を残して黄化し、全面が黄化した葉の裏面は粗剛な質感に変化します。
黄斑型の症状はどうでしょうか?
黄斑型では不規則で不鮮明な小黄斑が生じ、これが徐々に拡大して黄化葉となります。葉脈で黄化部分と緑色部分が明瞭に区切られる場合と、全面が黄化する場合の2パターンがあります。黄斑型病斑は主に下位葉に発生し、退緑型病斑はその上位葉に出現するという位置関係があるため、株全体を観察することで診断精度が高まります。
つまり両方の症状を確認することが重要です。
退緑黄化病の症状は、展葉後20日から30日後の成熟した葉だけに発症するという特徴があります。このため生長点付近の若い葉には症状が現れず、同一株内に黄化葉と健全葉が混在する独特の外観を示します。また退緑型病徴は初発生葉から上方向に黄化が進展し、下方向への進展や異なる葉位で同時に黄化することはありません。
肥料不足による黄化やタバココナジラミバイオタイプQによる異常症と混同されやすいので注意が必要です。タバココナジラミによる異常症の場合、退緑小斑点は円形または楕円形で周辺部が滑らかであり、また黄化は不鮮明で明瞭に黄色くなることがない点で識別できます。確実な診断にはRT-PCR検査が推奨されますが、まずは症状の特徴を理解して疑わしい株を早期に発見することが防除の第一歩となります。
メロン退緑黄化病の経済的損失は非常に大きく、特に感染時期が早いほど被害が深刻化します。着果するまで(定植後約40日頃)にCCYVに感染した場合、果実重量の減少と糖度の低下という2つの致命的な問題が同時に発生し、商品価値が著しく低下します。
果実への影響を具体的に見ていきましょう。発病株では葉が黄化することで光合成能力が大幅に低下し、草勢が弱まります。この結果、果実の肥大が十分に進まず、正常な株と比べて果実重量が減少します。さらに糖度も低下するため、本来であれば糖度15度から16度程度になるはずのアールス系メロンが基準に達しないケースが頻発します。ネットの形成も不良となり、外観品質も劣化するため、出荷規格を満たせず廃棄を余儀なくされることもあります。
収量への影響も深刻です。
育苗期に感染した場合や定植直後に感染した場合は被害が最も大きくなり、約3割の減収となるケースも報告されています。感染から1カ月後から減収の被害が認められ始め、2カ月後には減収割合が2割から3割に達します。メロンは1株から1果または2果しか収穫できない作物のため、この減収率は経営に直結する重大な問題となります。
定植30日後の着果期を中心に発病が集中することも特徴的です。メロン退緑黄化病は定植直後から定植60日後に発病しますが、特に定植30日後の着果期に発病株が多く確認されています。これは感染から14日から30日で発病するというウイルスの潜伏期間と、育苗期から定植初期のタバココナジラミによる感染タイミングが重なるためです。つまり育苗期後半から定植40日後までの防除が極めて重要ということですね。
発病時期が早いほど果実への影響が大きくなるため、育苗期の健全苗育成が収益確保の鍵を握っています。一度発病すると治療する方法がないウイルス病であるため、予防的な防除対策を徹底することが唯一の対策となります。
タバココナジラミの侵入を防ぐことが、メロン退緑黄化病対策の最も重要なポイントとなります。施設栽培においては、開口部への防虫ネット展張が基本中の基本です。完全に侵入を防止するためには目合い0.4mm未満の防虫ネットが必要で、これより粗い目合いでは小さなタバココナジラミが通過してしまいます。
0.4mm防虫ネットは必須です。
側面開口部への展張は必須ですが、天井開口部にも展張することが望ましいとされています。ただし防虫ネットを展張するとハウス内が高温になるため、循環扇の設置や遮光ネット(遮光率50パーセント前後)の併用、熱線遮断フィルムの使用などの降温対策を組み合わせる必要があります。出入り口には目合い0.4mm未満の防虫ネットを組み合わせた前室を設置するか、前室設置が困難な場合は防虫ネットを2枚互い違いに設置することで開閉時の侵入を防止します。
ハウス周辺の環境整備も効果的な侵入防止策です。施設周辺に幅1m以上の光反射マルチを敷設することで、タバココナジラミの飛来を抑制できます。また近紫外線除去フィルムを展張することも侵入抑制に有効です。ハウス内外の雑草は完全に除草してタバココナジラミの生息場所をなくすことも重要で、特に花卉類(ポインセチアやホクシャなど)の鉢を施設に持ち込まないよう徹底します。
薬剤防除はどのタイミングが重要でしょうか?
育苗期後半の粒剤処理が最も効果的です。定植1日から2日前にジノテフラン粒剤またはニテンピラム粒剤を株元処理することで、定植後約30日間タバココナジラミの密度を抑制できます。規定の量・方法を遵守し、薬剤を根の周辺に確実に処理した後、灌水して有効成分の吸収を助けることがポイントです。
着果前(定植25日から30日後)には2回目の薬剤散布が必要で、ピリダベンフロアブルなどタバココナジラミに効果の高い薬剤を選択します。調合油乳剤である「サフオイル乳剤」は食用の植物油を有効成分とする物理的防除剤で、抵抗性が発達するおそれがほとんどないため、収穫前日まで散布可能です。殺虫剤との混用散布により、ウイルス感染を抑制できることが確認されています。
散布時は下位葉の葉裏を中心に寄生しているため、地際から上方向に向けて薬液を噴霧し、株の両側から散布むらが生じないよう散布します。不要な下葉は摘除して散布の死角を減らすことも効果を高めるコツです。
熊本県農業革新支援センターのメロン退緑黄化病対策ページでは、サフオイル乳剤を用いた防除体系の具体的なデータが紹介されています
健全苗の育成はメロン退緑黄化病防除の出発点であり、保毒タバココナジラミの侵入と感染苗の定植という2つの持ち込みルートを断つことが目的です。育苗施設は独立したハウスを使用し、栽培施設とは完全に分離することが理想的です。
育苗施設の装備を徹底しましょう。全ての開口部に目合い0.4mm未満の防虫ネットを展張し、近紫外線除去フィルムを使用します。出入り口は二重とし前室を設け、施設周辺には幅1m以上の光反射マルチを敷設します。これらの物理的防除を組み合わせることで、育苗期のタバココナジラミ侵入をほぼ完全に防止できます。
育苗時の管理作業にも細心の注意が必要です。施設内に苗以外の植物を一切持ち込まず、雑草は完全に除草します。種子以外の育苗資材は施設使用開始の5日以上前に搬入し、搬入後は密閉処理(晴天で2日から3日)を行ってハウス内の病害虫を死滅させます。ポットへの土入れや播種などの育苗作業は全て施設内で完結させ、外部からの汚染を防ぎます。
黄色粘着板を設置して定期的にタバココナジラミの発生を調査し、早期発見に努めます。原則として粒剤の育苗期後半処理以外の農薬は使用しませんが、黄色粘着板に捕殺された場合は直ちに防除します。栽培施設への搬入時には、苗を防虫ネット(目合い0.4mm未満)で覆い、育苗施設内から栽培施設内まで密閉状態で移動させることで、搬送中の感染を防止します。
栽培終了時の対策も次作への持ち込み防止に不可欠です。
栽培終了後、施設内のタバココナジラミを放置すると次作の発生源となるため、必ず密閉処理で死滅させてから残渣を処分します。晴天時に施設を密閉し60度以上を数日続ける蒸し込み処理を行うことで、タバココナジラミを完全に死滅させることができます。発病株は見つけ次第抜き取り、ビニール袋に入れた状態で施設外に持ち出し、袋ごと密閉して枯死させてから適切に処分します。発病株の果実は糖度が低下して出荷できないため、伝染源除去の観点からも早期抜き取りが重要です。
摘除した側枝や摘葉などの作物残さも野外に放置せず、ビニール袋で密閉処理して適切に処分することで、施設周辺での越冬や次作への持ち込みを防ぎます。これらの栽培終了時対策を徹底することで、次作での発病を大幅に減らすことができます。
2024年に農研機構と株式会社萩原農場生産研究所が共同で育成した「アールスアポロン」シリーズは、世界で初めて退緑黄化病抵抗性を有するメロン新品種として注目されています。夏系、春秋系、早春晩秋系、秋冬系の4品種がラインナップされ、周年栽培に対応できる体制が整いました。
品種の最大の特徴は、CCYVに感染しても症状が軽く、果実重や糖度が低下しにくいという抵抗性です。従来の罹病性品種では感染により葉全体が黄化し商品価値が著しく低下していましたが、アールスアポロンでは感染しても葉の黄化が軽度にとどまり、光合成能力が維持されます。このため果実の肥大や糖度の上昇が抑制されにくく、高品質なアールス系メロン果実の安定生産が期待できます。
果肉は緑色で果皮にネットがあるアールス系メロンの特徴を維持しており、既存のアールス系品種と同等の品質を実現しています。ネット発現は安定して均一に盛り上がり、果形は正球系で稜角等の乱れが少ない優良な外観を持ちます。果肉は黄緑色で厚く、糖度は15度から16度と安定し、食味に優れるため市場での評価も高くなっています。
これで安心というわけではありません。
抵抗性品種を導入した圃場においても、引き続きコナジラミ類の防除対策を徹底して行うことが重要です。抵抗性品種は感染しても症状が軽いという特性であり、ウイルス感染自体を完全に防ぐものではありません。また抵抗性品種でも保毒虫となったタバココナジラミを介して周辺の罹病性品種への伝染源となる可能性があるため、地域全体での防除対策の継続が求められています。
熊本県など主要メロン産地では、2023年度から「アールスアポロン」の栽培が本格化しており、今後も栽培面積が増加すると予想されています。抵抗性品種の導入により薬剤散布回数を削減できる可能性があり、環境負荷の低減と労力削減につながる技術として期待されています。ただし抵抗性の持続性や他のウイルス病への対応など、長期的なモニタリングも必要とされています。
品種名の由来は、ギリシャ神話の太陽の神・豊穣の神・病を払う治療神として知られる「アポロン」から名付けられており、退緑黄化病という病に抵抗性を持つアールス系メロンであることを象徴しています。種苗の入手については、萩原農場生産研究所や種苗販売店を通じて入手可能となっています。
農研機構の研究成果プレスリリースでは、アールスアポロンシリーズの詳細な品種特性や栽培適期について解説されています