吸器を持つ害虫の生態と効果的な対策
この記事でわかること
🐛
害虫の見分け方
アブラムシやコナジラミなど、圃場に潜む代表的な吸汁性害虫の種類と、それらが引き起こす被害の具体的な特徴を解説します。
予防
効果的な予防策
害虫の活動が活発になる時期を把握し、物理的防除や環境管理など、農薬散布前に行うべき重要な予防策を紹介します。
💡
高度な防除技術
天敵を利用するバンカープランツや、薬剤抵抗性を管理するIRACコードの活用など、一歩進んだ総合的害虫管理を学びます。
吸器を持つ代表的な害虫の種類と被害の特徴
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作物の品質と収量を守る上で、吸器、すなわち植物の汁を吸う口器を持つ
害虫への対策は避けて通れません。これらの害虫は「吸汁性害虫」と総称され、針のような口を葉や茎、果実に突き刺して養分を奪うことで、植物の生育を直接的に阻害します 。被害は養分を吸われることだけにとどまりません。多くの吸汁性害虫は、ウイルス病を媒介したり、その排泄物が原因で「すす病」を誘発したりと、二次的な被害も甚大です 。ここでは、特に注意すべき代表的な吸汁性害虫の種類とその被害の特徴について詳しく解説します。
代表的な吸汁性害虫リスト
- アブラムシ類: 体長1〜3mm程度の小さな虫で、黄緑色や黒色など体色は様々です 。新芽や若葉に群生し、急速に増殖します。養分を吸われた植物は生育が阻害され、葉が縮れたり変形したりします。また、甘い排泄物(甘露)を出し、これが原因ですす病が発生し、葉が黒く覆われて光合成が妨げられます 。モザイク病などのウイルスを媒介することでも知られています 。
- コナジラミ類: 体長1mm前後で、白い粉をまとったような姿をしています 。葉を揺らすと白い小さな虫が一斉に飛び立つのが特徴です。主に葉の裏に寄生して吸汁し、被害を受けた葉は葉緑素が抜けて白っぽくカスリ状になります 。トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)をはじめとする深刻なウイルス病を媒介するため、特に施設栽培では大きな脅威となります 。
- アザミウマ類 (スリップス): 体長1〜2mmと非常に小さく、細長い体をしています 。花や新芽に潜り込んで吸汁することが多く、被害部分は銀白色に変色したり、奇形になったりします。トマト黄化えそウイルス(TOSV)など、治療法のないウイルス病を媒介する重要な害虫です 。
- ハダニ類: クモの仲間に分類され、成虫でも0.5mm程度と肉眼での確認が困難です 。高温乾燥を好み、葉裏に寄生して吸汁します。被害が進行すると、葉に白い小斑点が無数に現れ、やがて葉全体が白っぽくなり、光合成能力が著しく低下して最終的には落葉します。
- カイガラムシ類: 体が硬い殻や白い綿のような物質で覆われているのが特徴です。成虫になると脚が退化して移動せず、枝や幹に固着して吸汁します。吸汁量が多く、多発すると枝枯れや樹勢の著しい低下を引き起こします 。アブラムシ同様、すす病の原因にもなります。
これらの害虫は、種類によって被害の現れ方が微妙に異なります。日々の
圃場観察で「葉が縮れている」「白い斑点がある」「何かベタベタする」といった初期のサインを見逃さないことが、被害を最小限に抑えるための第一歩です。
アース製薬が提供する病害虫図鑑では、アブラムシをはじめとする様々な害虫の写真と生態が詳しく解説されており、害虫の特定に役立ちます。
https://www.earth.jp/earthgarden/zukan/gaichu/aburamushi.html
吸器害虫の発生時期と効果的な予防方法
吸汁性害虫による被害を最小限に抑えるには、治療(駆除)よりも予防が重要です。害虫の種類ごとに行動が活発になる時期や好む環境は異なります。その生態を理解し、先回りして対策を講じることで、
農薬の使用量を減らし、安定した生産につなげることが可能です 。
害虫別・発生時期の目安
害虫の発生時期は、地域の気候やその年の天候によって変動しますが、一般的な傾向は以下の通りです。
| 害虫名 |
主な発生時期 |
特徴 |
| アブラムシ類 |
3月~11月 (特に春と秋) |
気温が15~25℃程度の過ごしやすい時期に急激に増殖します。雨が少ない年に発生しやすい傾向があります 。 |
| コナジラミ類 |
4月~10月 (施設では通年) |
高温期に発生が多くなります。特に施設栽培では越冬して一年中発生する可能性があるため、注意が必要です 。 |
| アザミウマ類 |
春~秋 |
春に飛来が増加し、夏に個体数がピークに達することが多いです。花の中に潜むため、開花時期は特に注意が必要です。 |
| ハダニ類 |
5月~10月 (特に梅雨明け後) |
高温・乾燥条件で爆発的に増殖します。梅雨が短く、夏が暑い年は特に大発生しやすくなります 。 |
今日からできる予防方法
農薬散布の前に、または農薬と組み合わせて実施すべき効果的な予防策を紹介します。
- 物理的防除:
- 防虫ネット: 施設の開口部に0.4mm以下の細かい目の防虫ネットを設置することで、コナジラミやアザミウマなどの微小害虫の侵入を大幅に減らすことができます 。
- 反射マルチ: シルバーマルチなどを株元に敷くことで、アブラムシ類が光の反射を嫌って飛来しにくくなります。
- 粘着トラップ: 黄色や青色の粘着シートを圃内に設置し、害虫の発生を早期に察知(モニタリング)するとともに、一部を捕殺します 。
- 環境管理的防除:
- 雑草管理: 圃場やその周辺の雑草は、多くの害虫の隠れ家や繁殖場所になります。定期的に除草を行い、害虫の発生源を減らしましょう。
- 適切な肥培管理: 窒素過多の作物は軟弱に育ち、アブラムシなどの害虫の被害を受けやすくなります。適切な施肥を心がけ、健全な作物育成を目指しましょう。
- 残渣処理: 収穫後の作物残渣は、害虫や病原菌の越冬場所となります。速やかに圃場外に持ち出して適切に処理することが、次作の発生密度を抑える上で非常に重要です。
- 休眠期の防除:
- 冬期の薬剤散布: 果樹などでは、害虫が卵の状態で越冬していることが多いため、落葉後の冬期(1月~2月)に石灰硫黄合剤などを散布することが、春先の発生を抑えるのに極めて効果的です 。
吸器害虫に効果的な農薬の種類と正しい使い方
予防策を講じても害虫の発生が見られる場合、農薬による防除が必要になります。吸汁性害虫は作物の内部に口針を差し込んでいるため、薬剤が直接かかりにくいという特徴があります。そのため、効果的な農薬を選び、正しい使い方をすることが重要です。
吸汁性害虫に有効な殺虫剤の系統
吸汁性害虫に対しては、植物に吸収されてその体内を移行し、汁を吸った害虫を中毒させる「浸透移行性」を持つ殺虫剤が特に有効です 。
- ネオニコチノイド系: 高い浸透移行性を持ち、アブラムシ、コナジラミ、アザミウマなど幅広い吸汁性害虫に効果があります。株元に散布する粒剤タイプは、効果の持続期間が長いのが特徴です。
- ジアミド系: 害虫の筋肉を収縮させることで効果を発揮します。チョウ目害虫に加えて、一部の吸汁性害虫にも効果を示す剤があります。
- ピリジン系・スルホキシイミン系: アブラムシやコナジラミに高い効果を示し、速やかに吸汁を止めさせて餓死させるユニークな作用を持つ剤もあります 。
- 有機リン系・カーバメート系: 古くからある殺虫剤で、速効性がありますが、抵抗性が発達している場合も多いため注意が必要です。
農薬の剤形と使い方
農薬には様々な「剤形」があり、それぞれに合った使い方があります 。
- 水和剤・顆粒水和剤: 水に溶かしてスプレーで散布します。作物全体に均一に付着させることが重要です。展着剤を加えることで、薬液が葉に広がりやすくなり、効果が高まります。
- 乳剤・液剤: 水に溶かして使います。水和剤よりも薬液の調製が容易な場合があります。
- 粒剤: 株元に散布するだけで、根から有効成分が吸収され、植物全体に行き渡ります(浸透移行性)。効果の持続期間が長く、省力的な防除が可能です 。
- フロアブル剤: 有効成分を微細な粒子にして水に分散させた製剤です。水に混ぜやすく、散布時の粉立ちが少ないのがメリットです。
農薬を使用する際は、必ずラベルをよく読み、「対象作物」「対象害虫」「使用時期」「希釈倍数」「使用回数」などの規定を厳守してください。特に収穫前使用日数は、農薬残留基準に関わるため、絶対に守る必要があります。
日産アグロが提供するPDF資料では、フロアブル剤の具体的な使い方や注意点がまとめられており、実際の散布作業の参考になります。
https://www.nissan-agro.net/data/pictures/flyer_pdf/00159.pdf
天敵を利用した吸器害虫の有機的な防除対策
化学農薬だけに頼らない害虫管理として、天敵を積極的に利用する「生物的防除」が注目されています。特に施設栽培では、天敵を保護・活用する環境を整えることで、農薬の使用を大幅に削減できる可能性があります。その中心的な技術が「バンカープランツ」です。
バンカープランツとは?
バンカープランツとは、直訳すると「銀行家の植物」。作物に害を与えない特定の害虫(天敵の餌)が好む植物を圃場の一部で栽培し、そこで天敵をあらかじめ繁殖・維持しておく「天敵の銀行」のような役割を果たします 。主な目的は、標的の害虫が圃場に侵入してきた際に、すでに待機している天敵が迅速に攻撃を仕掛け、初期のうちに密度を抑制することです 。
- 仕組み:
- 天敵のエサとなる特定の昆虫(作物には寄生しない)を増やす植物(バンカープランツ)を植える。
- バンカープランツ上で天敵を放飼、または自然に集まる天敵を定着させて増殖させる。
- 作物に害虫が侵入すると、バンカープランツから天敵が移動して害虫を捕食・寄生する。
- 害虫を退治した後、天敵は再びバンカープランツに戻り、次回の侵入に備える 。
代表的なバンカープランツの組み合わせ
| バンカープランツ |
利用する天敵 |
標的害虫 |
| ムギ類 (イネ科) |
ムギクビレアブラムシを介して増える寄生蜂 (コレマンアブラバチなど) やテントウムシ類 |
各種アブラムシ類 |
| マリーゴールド (キク科) |
ヒメハナカメムシ類 |
アザミウマ類 |
| クリペア (ナス科) |
タバコカスミカメなど |
コナジラミ類 |
この方法の最大の利点は、害虫の発生前から天敵を圃場内に常駐させられるため、害虫の侵入初期に迅速な対応が可能になることです 。化学農薬の散布回数を減らせるため、生産コストの削減や、農薬が効きにくい薬剤抵抗性害虫への対策としても非常に有効です。
生物的防除は、化学農薬のように即効性があるわけではありません。天敵が活動しやすい環境を整え、長期的な視点で圃場全体の生態系を管理していくという考え方が不可欠です。
吸器害虫の薬剤抵抗性の発達とIRACコード活用術
「同じ薬を使っているのに、年々アブラムシが減らなくなった…」と感じたことはありませんか?それは「薬剤抵抗性」が発達した害虫が増えているサインかもしれません。薬剤抵抗性とは、特定の殺虫剤にさらされ続けた害虫の集団が、世代交代を繰り返すうちにその薬剤が効きにくい、あるいは全く効かない体質に変化することです。吸汁性害虫は世代交代が速く、薬剤抵抗性が発達しやすい厄介な性質を持っています。
薬剤抵抗性はなぜ発達するのか?
抵抗性が発達する主なメカニズムは以下の通りです 。
- 代謝・分解能力の向上: 害虫が体内に取り込んだ殺虫成分を、毒性の低い物質に分解する能力が高まる。
- 作用点の変異: 殺虫剤が結合するべき神経などの「作用点」の構造が変化し、殺虫剤が結合できなくなる。
- 感受性の低下: そもそも殺虫成分に対する感受性そのものが鈍くなる。
同じ系統(同じ作用を持つ)の農薬を連続して使用すると、その薬剤に耐性を持つごく一部の個体だけが生き残り、その子孫が圃場に広がってしまいます。これが薬剤抵抗性発達の正体です。
抵抗性対策の切り札「IRACコード」
この厄介な薬剤抵抗性問題を管理するために開発されたのがIRACコード(アイラックコード)です 。IRACコードは、殺虫剤をその「作用機構(どのように効くか)」に基づいてグループ分けした国際的な基準です。農薬のラベルに「IRACコード:4A」のように記載されています。
- IRACコードの活用法:
- 異なるコードの薬剤をローテーションする: 最も重要なのは、同じIRACコードの薬剤を連用しないことです。例えば、今回「4A」の薬剤を使ったら、次は「5」や「9B」など、全く異なる作用機構の薬剤を使用します。
- 作用点の異なる薬剤で体系を組む: 作用点が全く異なる複数の薬剤を計画的に散布(ローテーション散布)することで、それぞれの薬剤に対する抵抗性を持つ個体の出現を遅らせることができます 。
- ラベルの確認を習慣にする: 商品名や系統名(ネオニコチノイド系など)が異なっていても、IRACコードが同じ、つまり作用機構が同じ場合があります。必ずラベルでIRACコードを確認する習慣をつけましょう。
例えば、ネオニコチノイド系やブテノライド系は「4A」、ジアミド系は「28」のように分類されています。このコードを意識して農薬を選択することは、手持ちの薬剤の効果を未来にわたって維持するための、極めて重要な戦略なのです。
農薬工業会が提供するIRACの作用機構分類に関する資料は専門的ですが、抵抗性対策を本格的に考える上で非常に有用な情報源です。
https://irac-online.org/documents/irac-moa-classification-japan/
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