アブラナ科根こぶ病の原因と防除対策

アブラナ科野菜を栽培する農業従事者にとって大きな脅威となる根こぶ病。土壌中に10年以上も生存する病原菌による被害は、一度発生すると防除が困難です。発病を防ぐための効果的な対策方法を知っていますか?

アブラナ科根こぶ病の原因と防除対策

周辺のナズナ1株で菌密度が100倍増える可能性がある


この記事の3つのポイント
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10年生存する脅威

根こぶ病菌は土壌中で10年以上も生存可能で、一度発生すると完全な除去が極めて困難。休眠胞子の密度管理が栽培成功の鍵となる

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雑草管理の重要性

ナズナやタネツケバナなどアブラナ科雑草が伝染源となり、放置すると土壌中の菌密度が急激に上昇。作付け前の徹底除去が必須

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pH矯正の効果

土壌pHを7.2以上に調整することで病原菌の感染を阻止できる。石灰資材による酸度矯正が最も基本的かつ効果的な防除法


アブラナ科根こぶ病とは何か



根こぶ病は、アブラナ科の野菜に特有の深刻な土壌病害です。病原菌は糸状菌(かび)の一種であるPlasmodiophora brassicae(プラスモディオフォラ ブラシカエ)と呼ばれる絶対寄生菌で、生きた植物細胞にのみ寄生して増殖します。


この病気はキャベツハクサイブロッコリーカブ、小松菜など、アブラナ科の野菜全般に発生します。ダイコンについては品種により抵抗性が異なり、宮重系青首ダイコンなど発病しにくい品種も存在しています。


つまり発病するかは作物次第です。


病原菌は土壌中で休眠胞子という形態で存在し、驚くべきことに宿主植物がなくても4年以上、場合によっては10年以上も生存可能です。この耐久性の高さが、根こぶ病を「難防除病害」と呼ばれる理由の一つとなっています。地温が18度以上になると休眠胞子が活性化し、遊走子を放出してアブラナ科植物の根に感染していきます。


感染した根は特徴的な大小のこぶを形成します。このこぶにより維管束が圧迫されて水分と養分の吸収が制限され、地上部は生育不良となり、最悪の場合は萎凋・枯死に至ります。定植後1か月頃から下葉が萎れ始め、晴天の日中に特に萎凋症状が顕著に現れるのが特徴です。


農研機構の根こぶ病診断マニュアル(PDF)では、発病ポテンシャルの診断方法が詳しく解説されています。


アブラナ科根こぶ病の発生条件と被害

根こぶ病の発生には、いくつかの環境条件が深く関係しています。


最も重要な要因は土壌のpH(酸度)です。


病原菌はpH4.5~6.5の酸性土壌を好み、pH6.5以上の中性からアルカリ性の土壌では発生が激減します。研究によれば、幼苗期の一次遊走子による根毛感染と二次遊走子による皮層感染は、pH7.2~7.4程度で阻止されることが明らかになっています。


温度条件も重要です。


根こぶ病は9~30℃で発生しますが、最適温度は20~24℃とされています。また、長日条件下で発生しやすいという特徴があり、1カ月間の平均日長が11.5時間を超えると病原菌の活動が活発になります。逆に日長が11.5時間以下になると発生は激減するため、根こぶ病は春から初秋にかけての病気といえます。


水分条件も見逃せません。根こぶ病菌の遊走子は水分がある環境で泳いで移動し、感染株を増やしていきます。雨期や秋雨の時期、排水不良の圃場では発生が助長されるため、水はけの良い土壌管理が防除の基本となります。


被害の程度は菌密度によって大きく変わります。土壌1gあたりの休眠胞子数が1万個以上で注意が必要、10万個以上では警戒レベルとされています。発病が激しい圃場では、生育初期に感染した場合、収穫に至らないケースもあります。専門機関の試算では、キャベツ栽培で全滅した場合、最大で16万円の被害を及ぼすとされており、経営への打撃は甚大です。


アブラナ科根こぶ病の雑草対策の重要性

根こぶ病対策において、多くの農業従事者が見落としがちなのが雑草管理の重要性です。圃場やその周辺に生育するアブラナ科雑草が、実は根こぶ病の重要な伝染源となっています。


ナズナ、タネツケバナ、イヌガラシ、スカシタゴボウなど、5種類のアブラナ科雑草が根こぶ病の宿主となることが確認されています。特にナズナに寄生する根こぶ病菌個体群は、同一圃場の野菜根こぶ病菌と同一であることが研究で明らかになっています。


これは何を意味するのでしょうか?


雑草が感染すると、その根で病原菌が増殖し、大量の休眠胞子が土壌中に放出されます。たとえアブラナ科作物を作付けしていない期間でも、雑草を介して菌密度が上昇し続けるのです。早春から開花するナズナは特に注意が必要で、作付け前の時期に既に感染源として機能している可能性があります。


防除の基本は徹底した除草です。圃場内だけでなく、周辺の畦畔や農道沿いのアブラナ科雑草も見逃さずに抜き取り、圃場外へ持ち出して処分します。特に作付け前後の時期における雑草での発生には注意が必要です。雑草による増殖と感染を防ぐことで、土壌中の菌密度の上昇を抑制できます。


収穫後のアブラナ科作物の根も、こぶが付いている場合は土壌にすき込まず、必ず圃場外へ持ち出して処分することが重要です。これらの徹底した衛生管理が、長期的な根こぶ病対策の基礎となります。


アブラナ科根こぶ病のpH矯正による防除

土壌のpH矯正は、根こぶ病対策の中で最も基本的かつ効果的な方法の一つです。根こぶ病菌は酸性環境を好むため、石灰資材を使用して土壌を中性~弱アルカリ性に調整することで、病原菌の活動を大幅に抑制できます。


具体的な目標値としては、pH6.5以上が基本ですが、より確実な防除効果を得るにはpH7.0~7.5への矯正が推奨されます。研究データによれば、pH7.2~7.4以上で一次遊走子による根毛感染と二次遊走子による皮層感染が阻止されることが明らかになっています。


使用できる石灰資材には、消石灰苦土石灰、転炉スラグ、牡蠣殻石灰などがあります。転炉スラグは特にアルカリ性が強く、pH矯正効果が10年程度持続するという報告があり、長期的な対策として有効です。ただし、アルカリ性が強すぎると微量要素欠乏のリスクがあるため、一度に大量施用せず、土壌診断結果に基づいた適切な量を使用することが重要です。


石灰窒素も効果的な資材の一つです。


石灰窒素は、ハクサイとキャベツの根こぶ病に農薬登録されており、基肥として100kg/10a施用することで根こぶ病の発生を抑制する効果が確認されています。さらに、センチュウ類の防除効果も期待できるため、総合的な土壌病害対策として利用価値が高い資材です。


pH矯正の効果を最大限に引き出すには、作付け前の適切なタイミングでの施用が必要です。播種または定植後20日程度までの期間の土壌pHが発病に深く関係するため、定植前に十分な期間をとって土壌改良を行い、pHを安定させておくことが成功の鍵となります。


福井県の試験結果(PDF)では、消石灰でpH7.5以上に矯正してもキャベツは順調に生育し、むしろ収量が上がることが示されています。


アブラナ科根こぶ病の薬剤と総合防除

根こぶ病の薬剤防除には、いくつかの効果的な殺菌剤が登録されています。主要な薬剤としては、フロンサイド粉剤、オラクル顆粒水和剤、ランマンフロアブル、ネビジン粉剤などがあります。それぞれ作用機作や処理方法が異なるため、圃場の菌密度や栽培体系に応じて選択します。


フロンサイド粉剤は、根こぶ病菌の休眠胞子に殺菌的に作用し、残効性に優れる特徴があります。土壌混和で使用し、根こぶ病防除のほか、苗立枯病菌核病にも副次的な効果が期待できます。


オラクル顆粒水和剤は、土壌中の休眠胞子から発生する遊走子を殺菌する効果があります。連作によって増加した休眠胞子に対しても効果を発揮し、従来の薬剤が休眠胞子を眠らせたまま(静菌作用)にするのに対し、直接殺菌する点が大きな特長です。


ランマンフロアブルは、セル苗への灌注処理で使用できます。


処理濃度は2000倍(50ppm)で、株元灌注により根こぶ病を防除します。疫病やべと病などの卵菌類病害にも効果があるため、総合的な病害管理に活用できる薬剤です。


薬剤防除を効果的に行うには、土壌中の菌密度を把握することが重要です。休眠胞子密度が1,000~9,999個/g土壌の場合は薬剤のセル苗灌注処理を、10,000個以上の場合は土壌混和処理と苗灌注の併用が推奨されます。100,000個以上の高密度汚染圃場では、薬剤防除だけでは効果が不十分なため、おとり作物の栽培や抵抗性品種の導入など、複合的な対策が必要となります。


総合防除では、薬剤だけに頼らない多面的なアプローチが重要です。pH矯正、排水改善、輪作、おとり作物の栽培、抵抗性品種の利用、衛生管理を組み合わせることで、より確実な防除効果が得られます。前作の発病レベルに応じて対策を段階的に選択し、費用対効果を考慮しながら効率的な防除体系を構築することが、持続可能な栽培の実現につながります。


千葉県のレベル別防除マニュアルでは、発病程度に応じた具体的な対策が紹介されており、実践的な参考になります。




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