スピロメシフェン農薬を「他の殺ダニ剤と同じ感覚」で使うと、1シーズンで使えなくなります。
スピロメシフェンは、環状ケトエノール系に分類される殺ダニ・殺虫剤です。 従来の有機リン剤やアバメクチン系とは全く異なる系統で、アセチルCoAカルボキシラーゼの阻害によって脂質の生合成をブロックします。
これにより、殺幼虫・殺卵活性を示します。
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IRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)の作用機構分類では「グループ23」に位置します。 この分類に属するのは現状スピロメシフェンを含む少数の成分のみで、他系統との交差抵抗性がないため、既存剤が効かなくなったハダニ類にも効果が期待できます。 つまり、抵抗性問題を解決できる貴重な選択肢です。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/danigetta_f.htm
製剤は30.0%水和剤(フロアブル)として販売されており、日本での初回農薬登録は2007年です。 代表的な商品名は「ダニゲッターフロアブル」で、バイエルクロップサイエンス社が製造・販売しています。mhlw+2
スピロメシフェンが防除できる害虫は、ハダニ類を中心に幅広い種類をカバーしています。 具体的には、ミカンサビダニ・ミカンハダニ・リンゴサビダニ・ナミハダニ・リンゴハダニ・ニセナシサビダニ・モモサビダニ・カンザワハダニ・チャノナガサビダニ・チャノホコリダニ・チャノキイロアザミウマなど、果樹・茶園で問題になる主要な種が対象です。
対象作物は果樹・野菜を中心に登録されています。
参考)https://www.env.go.jp/content/900541163.pdf
特筆すべき点は、ハダニの卵・幼虫に対して特に高い殺虫効果を発揮することです。 成虫に対しては殺虫速度が緩やかですが、雌成虫の産卵数を減少させたり、産下された卵の孵化を抑制したりすることで、長期間にわたってハダニ密度を抑制できます。
これは使える場面が絞られますね。
各種サビダニ(リンゴサビダニ・ニセナシサビダニ・チャノナガサビダニ)にも卓効を示す点は、他の汎用殺ダニ剤にはない強みです。
スピロメシフェン農薬は、1作期あたりの総使用回数が原則1回に設定されています。 ラベルには「本剤の使用回数」と「スピロメシフェンを含む農薬の総使用回数」が別欄で記載されており、両方を守らなければなりません。
これが原則です。
「本剤を1回使った後、別のスピロメシフェン含有剤を追加散布してもいいのでは?」と思う方もいるでしょうが、それは違反になります。 同一成分を含む農薬全体の合計回数が1回を超えた場合、農薬取締法第15条に抵触する可能性があり、出荷停止・ブランド失墜といった深刻なリスクにつながります。
厳しいところですね。
農薬ラベルを読む際は、以下の点を必ず確認してください。
なお、使用時期については作物ごとに異なります。 かんきつ・りんご・なし・もも・ネクタリン・おうとう・小粒核果類は「収穫前日まで」使用可能と登録されており、比較的柔軟に使えます。 一方、茶は「摘採7日前まで」という制限があります。 収穫直前まで使えるかどうかは、ラベルで毎回確認が必要です。
参考情報:農薬登録情報の確認方法について、農林水産省の農薬登録情報提供システムで作物別の登録農薬を調べることができます。
農林水産省 農薬登録情報提供システム|ダニゲッターフロアブルの登録内容詳細
スピロメシフェン農薬を正しく使えば高い安全性を持ちますが、特定の作物や散布条件下では薬害が発生することがわかっています。 知らずに散布してしまうと、商品価値が失われる可能性があります。
薬害が出やすい条件を整理すると、以下のとおりです。
また、近隣作物への飛散にも注意が必要です。 キャベツ・はくさい・こまつな・ねぎ・ばら・シンビジウム等のラン類・みょうがに対して薬害を生ずる恐れがあるため、これらが近くにある場合はドリフト(飛散)防止対策が欠かせません。
混用についても制限があります。ボルドー液との同時散布および前後14日以内の近接散布は効果が劣る恐れがあります。 さらに、新梢伸長期のなし(二十世紀を除く品種)では、有機リン剤との同時散布・10日以内の近接散布が新葉薬害の原因になります。
混用組み合わせの確認が条件です。
参考情報:農薬の混用適否については、農薬メーカーや農業普及センターへの問い合わせが確実です。ラベルに記載のない混用は原則として行わないことが推奨されます。
スピロメシフェンを使う上で、多くの農業従事者が見落としがちなのが「使用後の抵抗性モニタリング」です。 年1回の使用制限があるにもかかわらず、翌シーズンも同成分に頼り続けると、数年単位で抵抗性集団が圃場内に定着するリスクがあります。
これは長期的に大きな損失になります。
抵抗性管理を実践するための考え方は「ローテーション散布」です。 スピロメシフェン(IRAC23群)を使った年は、翌シーズンは作用機構が異なる殺ダニ剤(IRAC6群・10B群・25群など)を選ぶのが原則です。具体的には、アバメクチン系・ビフェナゼート系・アセキノシル系などと年単位でローテーションします。
| ローテーション例 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 推奨例 | スピロメシフェン(IRAC23群) | アバメクチン系(IRAC6群) | ビフェナゼート系(IRAC25群) |
| 避けたい例 | スピロメシフェン | スピロメシフェン(使用不可・回数超過) | スピロメシフェン |
さらに重要な視点が、天敵を活用したIPM(総合的病害虫管理)との組み合わせです。 スピロメシフェンはミツバチ・マメコバチ・アブラバチ・ショクガタマバエ・捕食性カメムシ・ヤマトクサカゲロウなど天敵・有用昆虫への影響が少ないと確認されています。
これは使えそうです。
つまり、スピロメシフェンを年1回の精密なタイミングで投入し、その前後は天敵温存型の管理体系を組み合わせることで、農薬コストを抑えながら安定した防除効果が維持できます。単純に「効く農薬」として毎年使うのではなく、圃場全体の抵抗性リスクと天敵バランスを見ながら計画的に組み込む視点が、現代の農業者に求められる使い方です。
参考情報:IRAMCの作用機構分類と抵抗性管理の考え方については、農林水産省の農薬抵抗性管理ガイドラインが参考になります。
環境省|スピロメシフェンの水産動植物への影響評価と安全性に関する資料