同じ系統の農薬を3回使うと効かなくなります。
カンザワハダニはイチゴ栽培において深刻な被害をもたらす害虫の一つです。体長は雌成虫で約0.5mm前後と極めて小さく、暗赤色から赤褐色の体色を持ち、脚部は白色を呈しています。この微小なサイズのため、肉眼での確認は非常に困難で、発生初期の発見が遅れやすいという特徴があります。
カンザワハダニは主にイチゴの葉裏に寄生し、口針を刺して植物の細胞内容物を吸汁します。
つまり養分を奪い取るということですね。
被害を受けた葉の表面には、白色から淡褐色のかすり状の小さな斑点が現れます。初期段階では数個程度の斑点ですが、密度が高まるにつれて斑点が拡大し、葉全体が白っぽく変色していきます。
多発すると葉裏は褐色に変色し、株全体の生育が著しく阻害されます。さらに個体数が増加すると、ハダニが糸を吐いて葉が糸で覆われる状態になります。この段階まで進行すると、光合成能力が大幅に低下し、最悪の場合は株が枯死することもあるのです。
厳しいところですね。
イチゴ栽培で主に問題となるハダニ類には、カンザワハダニとナミハダニの2種類がありますが、両種の見分けは専門家でも困難です。ナミハダニには黄緑色の系統と赤色の系統が存在し、赤色系統はカンザワハダニと外見上ほとんど区別がつきません。どういうことでしょうか?実際の防除においては、両種を厳密に区別せず、ハダニ類として総合的に対策することが実用的です。
被害の経済的影響も無視できません。カンザワハダニの寄生により光合成能力が低下すると、果実の肥大不良や糖度低下が発生し、収量と品質の両面で損失が生じます。商品価値の低下は農家の収益に直結するため、早期発見と適切な防除が極めて重要になります。
高知県のこうち農業ネットでは、カンザワハダニの詳細な症状写真と防除方法が掲載されています
カンザワハダニの発生原因を理解することは、効果的な防除戦略を立てる上で不可欠です。最も重要な侵入経路は、育苗期の苗からの持ち込みです。育苗ハウスで増殖したハダニが苗に付着したまま本圃に定植されることで、本圃全体への蔓延が始まります。
育苗期に数頭のハダニが寄生した苗でも、本圃の好適な環境下では爆発的に増殖します。カンザワハダニは卵から成虫になるまで約10日間で、一匹の雌が100個以上の卵を産むため、数週間で数百倍、数千倍に増加する計算になるのです。
結論は育苗段階での徹底防除です。
ビニールハウス外部からの侵入も重要な発生源です。カンザワハダニは徒歩で移動し、一時間に数メートル進むことができます。ハウス周辺の雑草や他の作物に寄生していたハダニが、開放された側窓や天窓から歩いて侵入してきます。風による飛来や、作業者の衣服や農機具への付着による持ち込みも発生します。
防虫ネットの設置は多くの害虫に有効ですが、カンザワハダニに対しては効果が限定的です。体長0.5mmという微小サイズのため、一般的な防虫ネットの網目を容易に通過してしまいます。防虫ネットだけに頼ると防除に失敗するリスクがあります。
ハウス周辺の雑草管理も重要な予防策です。雑草はハダニの重要な生息場所となり、そこから継続的にハウス内へ侵入します。特にハウス外周3メートル以内の雑草は徹底的に除草することが推奨されます。除草剤や防草シートの活用で、ハダニの温床を排除できます。
カンザワハダニは施設内で越冬することも知られています。内張りで保温したり暖房機で加温している促成栽培では、冬季でも活動を続けて繁殖します。
つまり一年中警戒が必要ということですね。
前作からハウス内に残存していたハダニが、次作の初期密度を高める原因になります。
発生しやすい環境条件として、高温乾燥が挙げられます。気温20〜30℃、湿度が低い条件下で繁殖が活発化します。春季と秋季に発生ピークが見られることが多く、特に春の収穫最盛期と重なると経済的被害が大きくなります。
薬剤防除はカンザワハダニ対策の中心的な手段ですが、正しい知識と戦略が必要です。最も重要なポイントは、同一系統の農薬を連続使用しないことです。ハダニ類は世代交代が非常に速く、薬剤抵抗性が発達しやすい特性があります。
農薬には作用機構によって分類されるIRACコード(殺虫剤抵抗性委員会コード)があります。同じIRACコードの薬剤を繰り返し使用すると、2〜3回の散布で抵抗性個体が出現し、効果が著しく低下します。効果が低い場合は異なる系統剤を用いることが原則です。
ローテーション散布が基本戦略になります。異なる系統の薬剤を順番に使用することで、特定の系統に対する抵抗性の発達を遅らせることができます。理想的には、一作期に同じ系統の薬剤は1回までの使用に留めるべきです。
それが条件です。
殺ダニ剤の散布では、葉裏への薬液到達が極めて重要です。カンザワハダニは主に葉の裏面に生息するため、葉表だけに薬液がかかっても十分な効果が得られません。散布時は葉裏を重点的に、薬液が滴るくらいまで丁寧に散布する必要があります。
発生初期の防除が最も効果的です。ハダニの密度が低い段階で防除すれば、少ない薬剤使用回数で抑制できます。しかし多発してからでは、複数回の散布が必要になり、薬剤コストも増大します。定期的な観察で早期発見に努めることが重要ですね。
気門封鎖型の薬剤は使用回数に制限がない場合が多く、抵抗性発達のリスクも低いという利点があります。マシン油乳剤などが該当し、有機栽培でも使用可能です。ただし高温時の散布では薬害が発生するリスクがあるため、気温25℃以下での使用が推奨されます。
育苗期の防除が本圃での被害を大きく左減します。定植前に育苗ハウスでハダニ密度をゼロにすることを目標に、計画的な薬剤散布を実施します。定植直前には必ず苗の状態を確認し、ハダニが確認された場合は追加防除を行ってから定植することが望ましいです。
茨城県のイチゴハダニ防除資料では、発生初期からの薬剤防除の重要性が詳しく解説されています
天敵資材の活用は、化学農薬に依存しない持続可能な防除体系の構築に有効です。カンザワハダニの天敵として、チリカブリダニとミヤコカブリダニの2種類が商業的に利用されています。
これは使えそうです。
チリカブリダニは捕食能力が高いのが特徴です。一日にハダニ成虫を5匹、幼虫を20匹、卵を20個捕食するとされ、ハダニ密度が高い状況での抑制効果が期待できます。発生初期に放飼することで、ハダニの増殖を短期間で抑え込むことが可能です。
ミヤコカブリダニは定着性に優れた天敵です。ハダニの捕食量はチリカブリダニよりやや少ないものの、イチゴの花粉を餌として利用できるため、ハダニが減少した後もハウス内に生き残ります。長期的な抑制効果が得られるということですね。
天敵の放飼タイミングが成功の鍵を握ります。最も効果的なのは、葉裏に数頭程度のハダニが見える初期発生時です。ハダニ密度が高くなってから放飼しても、天敵の増殖速度がハダニの増殖に追いつかず、防除に失敗するリスクが高まります。
放飼比率も重要な要素です。研究によれば、ミヤコカブリダニの場合、ハダニ対カブリダニの比率が5対1または10対1で放飼すると、3週間程度でハダニ密度を抑制できるとされています。チリカブリダニでは、1シーズンに2〜3回の放飼で長期的な抑制が可能です。
天敵利用時の農薬選択には注意が必要です。多くの化学農薬はカブリダニにも影響を与えるため、天敵放飼後は使用できる薬剤が限定されます。ビフェナゼート剤や気門封鎖剤など、天敵に影響の少ない薬剤を選択することが重要です。カブリダニに影響の少ない殺ダニ剤で補完防除を行うことが条件です。
育苗期からの天敵利用も効果的な戦略です。育苗ハウスでカブリダニを放飼することで、本圃へのハダニ持ち込みを防ぐとともに、定植時に苗と一緒に天敵も本圃に導入できます。栽培期間全体を通じた天敵利用の基盤が作れます。
コスト面では、天敵資材は化学農薬より高価な場合が多いです。しかし農薬散布の労力削減、収穫前日まで作業可能、残留農薬の心配がない、などの利点を総合的に評価すると、経済的メリットがある場合も少なくありません。
BASFのミノラスでは、イチゴのハダニ防除に使える天敵資材の詳細情報が掲載されています
育苗期の管理がイチゴ栽培全体のハダニ防除を左右します。本圃における発生の多くは育苗期の苗からの持ち込みが原因であり、この段階での徹底対策が最も費用対効果の高い防除となります。
親株の管理から注意が必要です。前作から持ち越した親株にハダニが寄生していると、そこから増殖して採苗した全ての苗に拡散します。親株定植前には必ず殺ダニ剤処理を行い、清浄な状態から育苗を開始することが基本です。ハダニ密度を徹底的に低く抑えることが原則です。
育苗ハウスの立地と構造も重要な要素です。周囲に雑草が多い場所や、他の作物ハウスに隣接した場所では、外部からのハダニ侵入リスクが高まります。可能であれば育苗専用ハウスを設置し、周辺環境を清潔に保つことが理想的です。
雨よけ栽培の実施も効果的な予防策です。雨よけにより湿度が低下するとハダニの発生が助長される面もありますが、病害の抑制効果と合わせて考えると総合的にメリットがあります。ただし寒冷紗の展張だけでは雨よけ効果は不十分で、ビニール被覆が必要です。
定期的な観察による早期発見が極めて重要です。週に1〜2回、育苗ハウス内を巡回し、特に日当たりの良い場所や入口付近の苗を重点的にチェックします。ルーペや小型顕微鏡を使用して葉裏を観察し、数頭でも発見したら即座に対応することが被害拡大を防ぐ鍵となります。
発見時の対応スピードが勝負を分けます。数頭の発見段階であれば、その株だけを除去するか、部分的な薬剤散布で対応できます。しかし数日放置すると育苗ハウス全体に拡散し、全面的な防除が必要になります。
時間的にも経済的にも早期対応が有利です。
育苗ハウス周辺の雑草管理は必須です。ハウス周囲3メートル以内の雑草はハダニの発生源となるため、除草を徹底します。また、使用済みの育苗資材や除去した下葉をハウス周辺に放置すると、そこでハダニが増殖するため、適切に処分することが重要ですね。
定植前の最終確認が本圃への持ち込みを防ぐ最後の砦です。定植の3〜5日前に育苗ハウス全体を点検し、少しでもハダニの発生が確認された場合は、定植を延期してでも防除を完了させるべきです。本圃に持ち込むと、その後の防除コストが何倍にも膨らみます。
炭酸ガスくん蒸処理という新しい技術も注目されています。専用装置で苗を高濃度の炭酸ガス雰囲気下に24時間置くことで、ハダニの成虫と幼虫を殺虫できます。化学農薬を使わずに定植前の苗を清浄化できる方法として、有機栽培を目指す生産者に特に有効です。
📊 育苗期のハダニ発見チェックリスト
- 親株定植時の殺ダニ剤処理を実施したか
- 週1〜2回の定期観察を実施しているか
- ハウス周辺3m以内の雑草を除去したか
- 日当たりの良い場所の苗を重点チェックしているか
- 発見後24時間以内に対応したか
- 定植3〜5日前の最終確認を実施したか
総合的病害虫管理(IPM)の考え方に基づき、複数の防除手段を組み合わせることで、持続可能で効果的なハダニ対策が実現します。単一の方法に依存せず、状況に応じて最適な組み合わせを選択することが現代のイチゴ栽培には求められています。
紫外線照射技術が近年注目を集めています。UV-Bと呼ばれる特定波長の紫外線をイチゴの葉裏に照射することで、ハダニの産卵数と孵化率を抑制する効果が実証されています。夜間に自動点灯する紫外線ランプをハウス内に設置し、継続的に照射することで予防的効果が得られます。
光反射シートとの併用でさらに効果が高まります。畝間に銀色の光反射シートを敷設すると、太陽光が反射してイチゴの葉裏にも紫外線が届きやすくなります。
葉裏にUV-Bが当たることが重要です。
この方法はうどんこ病の抑制効果もあり、一石二鳥の技術として普及が進んでいます。
湿度管理も重要な要素です。ハダニは乾燥を好むため、適度な湿度維持は発生抑制につながります。ただしイチゴの病害防除の観点からは過度な高湿度は避けるべきで、バランスが重要になります。晴天日の午前中に葉水を行うなど、工夫次第で両立が可能です。
施設環境の最適化も基本的な対策です。ハウス内の温度が30℃を超えるとハダニの増殖が加速するため、換気や遮光による温度管理が有効です。しかし換気によってハウス外からの侵入リスクも高まるため、発生状況を見ながら判断します。
耕種的防除として、古い葉の除去が効果的です。下位の古い葉はハダニの好適な生息場所となりやすく、これを定期的に除去することで密度を下げられます。除去した葉は必ずハウス外に持ち出し、適切に処分することで、ハウス内での再増殖を防ぎます。
抵抗性品種の利用も将来的な選択肢です。現在のところイチゴではハダニに対する完全な抵抗性品種は実用化されていませんが、品種による感受性の差は存在します。地域の試験研究機関の情報を参考に、比較的被害を受けにくい品種を選択することも一つの戦略となります。
記録管理が防除戦略の改善につながります。発生状況、防除実施日、使用薬剤、効果などを記録することで、自分のハウスにおける発生パターンや効果的な防除方法が見えてきます。データに基づいた防除計画は、勘に頼るよりも確実に成果を上げられます。
地域全体での取り組みも効果を高めます。隣接するハウスからのハダニ侵入は防ぎきれないため、地域の生産者グループで情報共有し、一斉防除日を設定するなどの協力体制が理想的です。地域全体でハダニ密度を下げることで、個々の農家の防除負担も軽減されます。
🔧 総合防除プログラムの構成例
- 育苗期:薬剤による徹底防除+天敵放飼
- 定植時:清浄苗の確認+光反射シート設置
- 栽培前期:紫外線照射+定期観察+予防的薬剤散布
- 栽培中期:天敵追加放飼+選択的薬剤使用
- 栽培後期:古葉除去+必要に応じた補完防除
- 全期間:記録管理+地域情報共有
カンザワハダニとの戦いは決して簡単ではありませんが、科学的知識に基づいた計画的な対策を実施することで、被害を最小限に抑えることが可能です。育苗期からの予防、早期発見と迅速な対応、多様な防除手段の組み合わせ、これらを実践することで、高品質なイチゴの安定生産が実現します。