ナミハダニの学名と生態・農薬抵抗性と防除方法

ナミハダニの学名「Tetranychus urticae」の意味や分類から、生態・越冬方法・農薬抵抗性まで農業従事者が知っておくべき知識を解説。あなたの畑でナミハダニ被害が広がっている理由、本当に把握できていますか?

ナミハダニの学名と生態・防除を知る

ナミハダニに農薬を撒いても、すでに8割以上の個体が薬剤抵抗性を獲得しているケースがあり、同じ農薬を繰り返すと防除コストだけが膨らみ続けます。


🔬 この記事の3つのポイント
📌
学名の意味を知ると同定が正確になる

ナミハダニの学名「Tetranychus urticae」が示す分類上の特徴を理解すると、似た種との誤同定を防げます。

⚠️
農薬抵抗性は世界最多クラスで記録されている

ナミハダニは殺ダニ剤抵抗性が確認された農薬成分数が世界トップクラス。同一系統の農薬のローテーションだけでは防除が追いつきません。

物理防除・天敵利用が注目されている

UV-B照射やカブリダニ類の天敵利用など、化学農薬に依存しない防除体系が国内でも実用化されつつあります。

ナミハダニの学名「Tetranychus urticae」が示す分類上の位置


ナミハダニの学名は Tetranychus urticae です。節足動物門・クモ形綱・ダニ目・ハダニ科に属し、昆虫ではなくクモの仲間に近い生き物です。


これは意外に思われる方が多いポイントです。


Tetranychus はギリシャ語で「4本の爪」を意味し、ハダニ属全体の特徴を表しています。種小名 urticae はイラクサ(学名 Urtica)に由来しており、もともとイラクサから採集・記載されたことに由来します。英名は two-spotted spider mite(ツースポッテッド・スパイダーマイト)で、雌成虫の胴部両側にある黒い1対の斑紋がその名の由来です。
分類の正確な把握が基本です。


農業現場ではカンザワハダニTetranychus kanzawai)やニセナミハダニとの混同が起こりやすく、誤同定によって有効でない農薬を選んでしまうリスクがあります。学名まで確認する習慣をつけるだけで、農薬選択の精度が上がります。


  • 🔬 ナミハダニ:Tetranychus urticae(英名:two-spotted spider mite)
  • 🔬 カンザワハダニ:Tetranychus kanzawai(英名:Kanzawa spider mite)
  • 🔬 ニセナミハダニ:Tetranychus cinnabarinus

なお、農林水産省の病害虫同定技術情報でもハダニ科の形態と種の識別について詳細が公開されています。形態学的な同定に自信がない場合は参照する価値があります。


農林水産省 植物防疫所による病害虫の同定技術情報(Tetranychus属の形態解説)。
農林水産省 植物防疫所「病害虫の同定に係る技術情報」(Tetranychus属形態解説PDF)

ナミハダニの体の特徴と寄主植物の広さ

ナミハダニの雌成虫は体長約0.4mmほどで、はがきの横幅(約148mm)の約370分の1という極めて小さな生き物です。肉眼での発見が遅れやすいのは、このサイズ感が理由です。


夏型の雌は淡黄緑色の胴体の両側に暗緑色〜黒色の斑紋が1対あります。一方、越冬する休眠雌は橙色で黒い斑紋が消えるため、同じ種でも季節によって見た目が大きく変わります。これが「違う虫が出た」と勘違いされる原因の一つです。


意外ですね。


寄主植物の幅は非常に広く、リンゴ・ナシ・モモ・オウトウ・ブドウ・ダイズ・インゲン・ナス・キュウリ・クワ・ホップなど、多種多様な農作物に寄生します。


  • 🍎 果樹類:リンゴ、ナシ、モモ、オウトウ、ブドウ
  • 🥬 野菜類:ナス、キュウリ、インゲン
  • 🌱 その他:ダイズ、クワ、ホップ、多数の草花

寄主範囲が広いことは、農場内で別の作物に移動しながら密度が維持されることを意味します。つまり、一作物で防除しても隣接する別作物が「温床」になる危険があります。


圃場全体を視野に入れた管理が条件です。


ナミハダニの生活環と越冬・増殖スピードの実態

ナミハダニは卵・幼虫・第1若虫・第2若虫・成虫という発育段階を経ます。25℃の環境下では、卵から成虫になるまで約10日前後というスピードで、1雌が数十〜百個以上の卵を産みます。


発生盛期は7〜8月の高温乾燥期です。気温が上がるほど発育が加速し、たった1頭の雌から数週間で圃場全体に広がることもあります。気づいた時には手遅れ、というケースが起きやすいのはこのためです。


越冬は成虫態の休眠で行い、樹幹の粗皮下や地表の落葉などにコロニーを作って冬を越します。春先、リンゴなどの発芽期ごろから越冬成虫が活動を再開し、地表の下草や徒長枝に移動しながら密度を上げていきます。


  • 📅 発生盛期:7〜8月(高温乾燥で爆発的に増加)
  • ❄️ 越冬形態:休眠雌が橙色化し、樹幹粗皮下・落葉下で越冬
  • 🔄 世代数:年間10世代以上になることも

越冬場所を減らすことが、翌年の発生を抑える最初の一手です。落葉の除去や粗皮削りは、化学農薬を使わない物理的な密度抑制策として有効で、コスト面でも優れています。


ナミハダニの農薬抵抗性と現場で起きている防除失敗の理由

ナミハダニは世界中で最も多くの殺ダニ剤に対して抵抗性が確認されている害虫の一つです。抵抗性が記録された農薬成分は数十種類に上り、日本国内でもエトキサゾール抵抗性などが複数報告されています。


同じ系統の農薬を連用すると、抵抗性個体だけが生き残り、次世代でその性質が広まります。農薬代は出ていくのに、防除効果は下がる一方という最悪のパターンです。


痛いですね。


農薬抵抗性の管理には、作用機序(MOAコード)が異なる薬剤のローテーションが基本です。


作用機序の分類 代表的な薬剤例 注意点
成長調節剤系 エトキサゾール 抵抗性の報告が国内外で多数あり
METI剤系 フェナザキン、ピリダベン 系統内で交差抵抗性が生じやすい
アセキノシル系 アセキノシル 比較的抵抗性発達が遅いとされる
スピロメシフェン スピロメシフェン 成長段階に応じた使用タイミングが重要

抵抗性の現状把握には、京都大学農学研究科など研究機関が発表している農薬抵抗性に関する情報が参考になります。現場で防除が効きにくいと感じたら、農薬の系統を切り替えるタイミングのサインです。


京都大学大学院農学研究科 刑部研究室によるハダニの殺ダニ剤抵抗性と防除手法の総説。
京都大学農学研究科「ナミハダニの殺ダニ剤抵抗性の現状と有効な抵抗性管理手法」

ナミハダニの農薬に頼らない物理防除・天敵利用という独自視点

化学農薬のローテーションだけに頼る防除体系は、抵抗性問題と農薬コストの上昇というリスクを長期的に抱えます。近年注目されているのが、UV-B照射と天敵カブリダニ類を組み合わせた防除体系です。


UV-B照射防除は、紫外線ランプを施設内で照射することでナミハダニの繁殖を抑制する手法で、イチゴ栽培の施設内などで実用化事例があります。農薬ゼロで密度を下げられるため、有機農業や特別栽培への適合性が高い点が強みです。


これは使えそうです。


天敵利用では、ミヤコカブリダニやチリカブリダニなどがナミハダニを捕食します。ただし、天敵を放飼する場合は広域スペクトルの殺ダニ剤と併用すると天敵も死滅するため、農薬との整合性確認が必須です。


  • 🌟 UV-B照射:施設栽培(イチゴ・メロンなど)での実用事例あり
  • 🐛 天敵放飼:ミヤコカブリダニ、チリカブリダニなど市販品が入手可能
  • 🌿 物理的管理:落葉除去・粗皮削りで越冬密度を下げる

農薬コストや抵抗性リスクへの不安がある農家は、まず「天敵と農薬の適合性リスト」を手元に置くことが現実的な一歩です。JA・農業改良普及センターに問い合わせることで、地域ごとの天敵利用事例を確認できます。


協友アグリのハダニ類防除情報(農薬と天敵の活用ポイントをまとめた農業者向け情報)。
協友アグリ「ハダニ類の生態と防除のポイント」
いちごテックによるイチゴ栽培でのハダニ防除事例(UV-B・天敵・農薬を含む実践的な解説)。
株式会社イチゴテック「いちごのハダニとは?特徴・原因・対策・農薬」




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