葉当たり3頭以上で収量が3割減る
ミカンハダニの被害は、最初は気づきにくい小さな変化から始まります。葉の表面に針で刺したような白い小さな斑点が現れるのが初期症状です。この斑点は、ミカンハダニが口針を葉に突き刺して汁液を吸った痕跡で、被害を受けた細胞の葉緑素が抜けることで白く見えるようになります。
体長約0.5mmと非常に小さいミカンハダニは、肉眼ではほとんど見えません。雌成虫は暗い赤色をしており、葉をティッシュペーパーで挟んで手のひらで押すと、赤い斑点が付着するため発生確認の目安になります。つまり発生の有無は簡易的に確認できるということですね。
ミカンハダニは主に葉裏に寄生しているため、定期的に葉裏をチェックする習慣が重要です。発生初期では、被害部位が部分的に散らばって見られますが、密度が上がるにつれて白い斑点が融合し、葉全体が白っぽく見えるようになります。天気の良い日に棚下から葉を透かして見ると、被害部が黄色く見えるため早期発見に役立ちます。
発生時期は3月頃までは旧葉、5月以降は新葉、8月以降は果実に移行します。特に6~8月が発生の最盛期で、高温乾燥条件下で急激に増殖します。増殖に最も適した温度は26℃前後、湿度は60~70%です。通常、盛夏期の発生量は少なく、6~7月と10~11月に発生の山が見られる傾向があります。
高知県病害虫台帳のミカンハダニ情報には、詳しい発生条件と症状写真が掲載されており、実際の被害状況を確認できます。
ミカンハダニの寄生密度が高まると、葉の被害は急速に深刻化します。葉全体が白っぽく退色して黄変し、部分的に枯れることもあります。これは単なる見た目の問題ではなく、光合成能力の大幅な低下を意味しています。
被害を受けた葉では、気孔の閉塞と細胞の崩壊によって光合成量が低下します。研究によると、被害指数60以上の状態が続くと、樹の生育に悪影響が出始めます。被害指数とは、葉の被害程度を数値化したもので、60という数字は葉の表面積の約6割に被害痕が広がった状態を指します。これは東京ドームの広さで例えると、約3.6個分のエリアが機能停止した状態に相当します。
光合成能力が低下すると、樹体の生理機能全体が衰えていきます。具体的には、果実への養分供給が不十分になり、果実品質の低下や収量減少につながります。研究データでは、平均被害指数60以上の被害を3年間続けた結果、果実の収量と糖度が明確に低下したことが確認されています。
さらに深刻なのは、夏から秋期にかけて急激な落葉を起こすケースです。落葉すると翌年の結果母枝の確保が困難になり、隔年結果の原因にもなります。毎年多くの被害を受け続けると、樹勢そのものが弱体化し、回復に数年を要することもあります。
年間を通じてミカンハダニの寄生密度を3頭/葉以下に抑えると、収量や果実品質への影響はほとんど問題にならないことが明らかになっています。
この数値が管理の重要な指標です。
果実への被害は、葉の被害とはまた異なる経済的な損失をもたらします。着色期の果実が加害されると、本来の鮮やかな色が出ず着色が遅れる現象が発生します。果面が退色して黄色くなり、艶も消失して商品性が著しく低下します。
果実が緑色の時期に加害されると、葉と同様に白っぽくなりますが、実はこの時期の被害は着色には影響しないことが研究で分かっています。どういうことでしょうか?問題となるのは、果実が着色を始める9月以降に加害を受けた場合です。この時期の被害果は、表面の色つやが悪く、光沢のない見た目となり、正品として出荷できなくなります。
ぶんたんなど貯蔵性の高い柑橘類では、収穫果に寄生したミカンハダニが貯蔵中も果実を加害し続け、商品価値を低下させる特殊なケースもあります。貯蔵庫の中で被害が拡大するため、収穫時に問題なく見えても、出荷段階で大量の規格外品が発生する恐れがあります。
果実の外観品質が損なわれると、市場価格は大きく下落します。一般的に、光沢のない果実は正品の半額以下の評価になることが多く、着色不良が著しい場合は加工用としての扱いになり、さらに価格が下がります。1樹あたりの収量が仮に50kgあったとしても、被害果が3割混入すれば、実質的な収入は半減する計算になります。
FMCのミカンハダニ解説ページでは、果実被害の詳細な写真と防除方法が紹介されており、被害レベルの判断材料として活用できます。
ミカンハダニの防除で最も重要なのは、適切なタイミングで対策を開始することです。葉当たりの雌成虫数が0.5~1頭に達した時点が、防除を検討すべき目安とされています。寄生葉率で表すと30~40%以上が要防除水準です。
葉当たり雌成虫3頭という数字は、多発樹として認識すべき重要な基準です。この密度に達すると、被害が急速に拡大し始め、経済的な損失が避けられなくなります。園内の1割の樹がこの状態になった時点で、園全体の防除を実施する必要があります。
発生密度の調査方法は、園内の代表的な樹を選び、1樹あたり30葉程度を無作為に採取して、葉裏のミカンハダニ雌成虫を計数する方法が一般的です。新梢の中位葉を中心に調査すると、発生状況を正確に把握できます。密度が増加傾向にある場合は、基準値に達する前でも防除を開始した方が安全です。
冬期(12~1月)のマシン油乳剤散布は、越冬密度を下げるための基本的な防除です。ただし、1~2月の厳寒期の散布は落葉を助長し樹体への影響が強いため避けるべきです。梅雨明け後の多発を予防するため、6月中下旬の高度精製マシン油乳剤散布も効果的ですが、6月末を過ぎると糖度低下や着色不良を招くため時期厳守が求められます。
夏季の防除は、土着天敵の発生状況も考慮に入れます。天敵が活動している場合、葉当たり3~4頭程度であれば、この時期の防除を省くことで天敵を保護し、長期的な密度抑制効果が期待できます。
天敵がいるか確認するのが先決ですね。
ミカンハダニの持続的な管理には、天敵の活用が欠かせません。主な天敵として、カブリダニ類、キアシクロヒメテントウ、ハダニケシハネカクシ、ハダニアザミウマ、クサカゲロウなどが確認されています。これらの天敵は、ミカンハダニの密度が高まると自然に増加し、密度を抑制する働きを持っています。
特にカブリダニ類は、ハダニ類の重要な天敵として知られています。ミヤコカブリダニやケナガカブリダニなどの土着種は、ミカンハダニの卵や幼虫を捕食し、密度上昇を抑える役割を果たします。天敵が豊富な園では、殺ダニ剤の使用回数を大幅に削減できることが実証されています。
ハウスミカン栽培では、1月中旬に天敵保護資材を用いて天敵を放飼することで、5月下旬までミカンハダニを抑制でき、殺ダニ剤の散布を削減できる技術も開発されています。天敵製剤としてスワルスキーカブリダニなども利用可能で、早期に定着させることで安定した防除効果が得られます。
薬剤抵抗性の発達は、ミカンハダニ防除における最大の課題の一つです。同一薬剤や同系統の薬剤を連用すると、わずか数世代で抵抗性を獲得してしまいます。年1回の使用にとどめ、異なる系統の薬剤をローテーションで使用することが抵抗性発達を遅らせる基本です。
合成ピレスロイド剤の使用には特に注意が必要です。これらの薬剤は天敵への影響が大きく、天敵が死滅するとミカンハダニが爆発的に増殖するリサージェンス現象を引き起こします。リサージェンスが発生すると、防除前よりもさらに高密度になってしまうため、使用を控えることが推奨されています。
薬剤選択は慎重に行うべきですね。
シンジェンタの天敵保護と薬剤選択に関する記事では、天敵への影響が少ない薬剤のリストと散布タイミングが詳しく解説されており、実践的な情報源として役立ちます。
化学的防除だけに頼らず、生物的防除と組み合わせた総合的な管理体系(IPM)を構築することが、長期的に安定した生産を維持する鍵となります。園内の天敵相を定期的に観察し、天敵が活動しやすい環境を維持することで、ミカンハダニの密度を経済的被害レベル以下に保つことが可能です。