すくい取り調査の方法と捕虫網の使い方・防除判断まで

すくい取り調査の正しい方法を知らないと、斑点米カメムシの発生密度を見誤り、1等米から格落ちするリスクがあります。捕虫網の規格・振り方・調査時期の選び方まで、農業現場で実践できる手順を解説します。どんな失敗が格落ちにつながるのでしょうか?

すくい取り調査の方法と捕虫網・防除判断の基本

たった2粒の斑点米が混じるだけで、あなたの1等米が2等米に格落ちします。


📋 この記事でわかること
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すくい取り調査とは何か

捕虫網を使って水田・畦畔の害虫発生密度を定量的に把握する調査方法。 防除の要否判断の根拠になります。

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調査のタイミングと失敗しない手順

雨・強風・早朝などの条件では捕獲効率が著しく低下します。 正確な調査に必要な条件と手順を解説します。

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防除判断の目安と要防除水準

20回振りで何頭捕れたら防除するかの基準を、害虫の種類別にわかりやすく整理して紹介します。


すくい取り調査の方法とは何か:目的と基本的な意味

すくい取り調査とは、捕虫網(ちゅうちゅうあみ)を水田や畦畔で振り、捕獲した虫の種類と数から害虫の発生密度を定量的に把握する調査方法です。目で見て「多い・少ない」と感じる漠然とした印象ではなく、数値として記録できるところに大きな意味があります。


農業現場では病害虫の発生状況を客観的に評価することが難しく、毎年の変動も大きいのが実態です。すくい取り調査を定期的に行うことで、「今年はいつもより多い」「防除が必要な水準を超えているか否か」を根拠ある数字で判断できるようになります。これは農薬の無駄な散布を減らし、コストと環境負荷の両方を下げることにも直結します。


農業現場でよく使われる病害虫調査には、「見取り(株上の虫を目視で数える)」「払い落とし(白いバットに虫を落として数える)」「すくい取り(捕虫網で虫を捕獲する)」の3種類があります。このうちすくい取りは、カメムシ類・ウンカ類・ヨコバイ類・イナゴ類など、飛び回ったり茎上を素早く移動する虫の発生密度を把握するのに適しています。つまり、斑点米の原因となる害虫群を対象にするなら、すくい取り調査が基本です。


  • 🎯 目視(見取り):株にとまっている虫を直接数える方法で、動きの遅い虫に向く
  • 🎯 払い落とし:白色バットで株元を叩き落とす方法で、ウンカ類など小さく落ちやすい虫向き
  • 🎯 すくい取り:捕虫網で稲穂をすくう方法で、カメムシ・イナゴ・ヨコバイなど広範囲に向く


水田の病害虫発生状況は、圃場によって大きく異なることも珍しくありません。県や農協が出す発生予察情報はあくまで地域全体の傾向なので、最終的には自分のほ場で調査して判断することが不可欠です。すくい取り調査はその自己判断を支える、最も現実的なツールといえます。


すくい取り調査の方法に必要な捕虫網の規格と準備

すくい取り調査に使う捕虫網には、全国的に規格が決まっています。


捕虫網は規格が原則です。


口径(ネットの直径)36cm、柄の長さ1mのものを使います。この規格が全国標準とされており、発生予察調査の要防除水準もこの規格を前提に定められています。


では、なぜ規格が重要なのでしょうか。口径が小さいとすくえる面積が減り、実際より少ない頭数になります。柄が短すぎると振る幅が制限され、捕獲効率が落ちます。逆にサイズが大きすぎると、振りにくくなって動作が不均一になり、結果が安定しません。要防除水準と照らし合わせて「防除する・しない」を判断するためには、規格通りの網を使うことが大前提です。


ネット素材はナイロン製が標準で、目が細かく小型の虫も逃がしにくいものを選びます。また、農業資材店やJAで購入できるほか、農研機構や各都道府県の病害虫防除所のウェブサイトに規格が明記されているので、購入時に参考にしてください。


捕虫した後の虫の処理にも、意外な注意点があります。捕獲した虫をネットの中で生かしたままにすると、素早い虫は逃げてしまい、計数に誤差が出ます。正確に数えるためにはネットごと毒壺(殺虫剤として酢酸エチルを入れたもの)に入れて素早く殺虫してから、バットに広げて種類・成虫/幼虫別・雌雄別に分類します。市販の殺虫スプレーは虫の表面が汚れて識別困難になるため、使いません。


これは使用が禁止です。


  • 捕虫網の規格:口径36cm・柄の長さ1m・ナイロン製ネット
  • 殺虫方法:ネットごと毒壺(酢酸エチル入り)に入れて殺虫する
  • 計数方法:バットに広げ、種類別・成幼虫別に分けて数える
  • 市販殺虫スプレー:虫が汚れて識別困難になるため使用しない


すくい取り調査の方法:捕虫網の振り方と正しい動作

捕虫網の正しい振り方を覚えることが、すくい取り調査の精度を左右します。基本的な動き方は、体の前でネットを左右に180°ずつ半円形に振りながら、ゆっくり前へ進む動作です。柄の先端(根元側)をほぼ固定し、へその部分を支点として振ることが重要で、これにより一定のすくい取り面積(約1.5㎡/1回)が確保できます。


両手の持ち方も重要です。片方の手を柄の端(根元)に持ち、腰幅程度に両手を広げます。ネットの上縁が、イネの草冠(穂の一番上)の高さに合うよう位置を調整してから振り始めます。ネットを草冠の10cm程度下に維持し、開口面を垂直に保ったまま水平にすくい取ります。左右合わせて20回振る(往復10回)のが全国標準です。


進む速さにも基準があります。普通の歩行速度の約3分の1のペースが目安です。早く歩きすぎると、逃げ足の早いコバネイナゴなどはすくい取られにくくなります。一方、泥田でズボズボ沈みながら歩く場合など、速度を一定に保てない場面も現実にあります。そういった場合は調査記録にその旨を書き残しておくことで、データの比較精度が維持されます。


ここで注意が1点あります。イネの草丈が低い6月中下旬頃は、ネットが水面に触れないようにすくい取る高さを調整する必要があります。ネットが水面に濡れると虫が逃げられず詰まり、正確な計数が難しくなります。


田面が軟らかい時期は特に慎重に。


チェック項目 正しい方法 NG例
ネットの高さ 草冠の10cm程度下に合わせる 高すぎて穂をすくえない
振り幅 左右180°の半円形 小さく振って面積が不十分
歩行速度 通常の約1/3のペース 速く歩いて虫が逃げる
振る回数 左右合計20回(往復10回) 10回や30回で計数すると比較不能
進み方 前に進みながら振る 同じ場所で振り続けない


すくい取り調査の方法における調査位置の選び方:水田内か畦畔か

すくい取り調査をどの場所で行うかは、対象とする害虫の種類によって異なります。


場所の選択が原則です。


一般的には、水田内の中央部をほ場の長辺方向に進みながらすくい取りを行います。これはウンカ類・ヨコバイ類・コバネイナゴなど、水田内に均一に分布する虫を対象とした場合の標準位置です。


一方、斑点米カメムシ類については少し異なります。カメムシ類は畦畔から水田内へ侵入してくるため、畦畔際の密度が水田中央部より高くなる特徴があります。広島県や滋賀県などの調査マニュアルでは「畦畔から5条目を中心にまたいで進みながら調査する」と明記されています。水田中央部ではなく畦畔寄りで調査するほうが、カメムシの実際の侵入状況をより正確に反映できるというわけです。


畦畔自体のすくい取りも有効です。カメムシ類・ツマグロヨコバイ・イネカラバエなどは、水稲の出穂前に畦畔の雑草地に生息しています。そのため、水田に入ってくる前の「発生源」を把握する目的で、畦畔での調査も定期的に行います。


畦畔での調査方法は水田内と少し異なります。畦畔では180°振ることが難しいため、振り幅1.5m程度で一方向に直線的に20回振りながら前へ進む方法が暫定的に使われています。草刈り直後で刈草が残っている畦畔や、クローバーが優占している畦畔では捕獲効率が極端に落ちるため注意が必要です。


これらの場所は避けましょう。


調査位置の選択をミスすると、捕獲数が実態と大きくずれてしまいます。対象害虫が何かを確認してから調査場所を決める、これが正確な結果の第一歩です。


農林水産省の発生予察事業では、こうした調査場所・方法の標準化が詳しく定められています。


参考資料:水稲における病害虫の調査(新潟県農業のポータルサイト)
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nogyo-navi/pests-paddy-rice.html


すくい取り調査の方法と天候・時間帯の関係:捕獲効率が変わる条件

すくい取り調査で見落とされやすいのが、天候と時間帯が結果に与える影響です。


捕獲効率は条件次第で大きく変動します。


正しい手順で行っても、天候が悪ければ捕獲数が実態より大幅に少なくなり、「虫がいない」という誤った判断につながるリスクがあります。


最も重要な条件は「風」です。北海道農業試験場の研究(捕虫網による水稲害虫のすくい取り効率に関する試験)では、アカヒゲホソミドリカスミカメとヒメトビウンカを対象に、気象条件の影響を検討した結果、気温や天気よりも「風の影響が最も大きい」と結論づけています。強風時は捕虫網の開口部が安定せず、虫が逃げやすくなるためです。


雨の日も調査を避ける必要があります。降雨時は虫が株の下部に潜り込む習性があり、捕獲効率が著しく低下します。さらに、濡れたネットに虫が絡まって計数が困難になるという実用上の問題もあります。早朝・夕方の露がある時間帯も同様で、雑草が濡れている状態での調査は避けてください。


最適な調査条件をまとめると、「晴れまたは曇り・日中・ほぼ無風」です。これが揃っている状況で調査した結果だけが、要防除水準と適切に比較できるデータになります。調査の際は天候を必ず記録しておく習慣をつけると、年次比較でのブレを把握しやすくなります。


  • ☀️ 最適条件:晴れ〜曇り・日中10〜15時頃・風が弱い
  • ⚠️ 注意条件:やや風あり → 向かい風に向かって進むと網の開口部が広がりやすい
  • 実施禁止:降雨中・早朝や夕方の露がある時間・強風時


ただし、「やむを得ない場合は天候・風速・時刻をしっかり記録して調査を実施する」という対応も現場では有効です。データが取れないよりも、条件付き記録として残す方が後の判断に役立ちます。


すくい取り調査の方法と調査時期:害虫の種類別スケジュール

すくい取り調査は、害虫の種類とその生育ステージに合わせて時期を設定する必要があります。


時期のズレが無効調査につながります。


主な対象害虫について、適切な調査時期を整理します。


斑点米カメムシ類(アカスジカスミカメ・アカヒゲホソミドリカスミカメ・クモヘリカメムシなど)を対象とする場合は、出穂期から穂ぞろい期にかけての7月下旬〜8月が主な調査時期です。広島県の調査マニュアルには「出穂期から穂ぞろい期防除の7〜10日後」が追加防除を判断する調査適期と明記されています。また畦畔の発生源モニタリングは6月後半〜7月後半を目安に行います。


セジロウンカ・ツマグロヨコバイは7月前半〜8月後半が対象時期で、コバネイナゴは6月後半〜8月前半です。これらは水田内でのすくい取り(20回振り)で発生程度を把握します。


新潟県の病害虫調査資料では、病害虫防除所が5月下旬〜9月上旬まで、各月の前半(5〜10日)と後半(20〜25日)に調査を実施していると紹介されています。これを参考に、自分のほ場でも月2回程度の調査スケジュールを組むと、発生の推移を把握しやすくなります。


対象害虫 主な調査時期 場所
斑点米カメムシ類 7月下旬〜8月(出穂後が重要) 水田内・畦畔
セジロウンカ 7月前半〜8月後半 水田内
ツマグロヨコバイ 7月前半〜8月後半(畦畔は4〜5月前半) 水田内・畦畔
コバネイナゴ 6月後半〜8月前半 水田内
イネカラバエ 6月後半(水田内)・6月前半(畦畔) 水田内・畦畔


「調査してみたが何も捕れなかった」という場合でも、捕れなかったという記録が「今年は発生が少ない」という判断の根拠になります。


結果ゼロも重要なデータです。


すくい取り調査の方法と防除判断:要防除水準の見方

すくい取り調査の最終目的は、防除が必要かどうかを判断することです。


その判断基準が「要防除水準」です。


要防除水準とは、経済的な被害を防ぐために防除を行う必要が生じる害虫の発生密度の目安です。すくい取り捕獲数がこの水準を超えたら、農薬散布などの防除を実施することになります。


斑点米カメムシ類については、広島県のマニュアルに具体的な数値が掲載されています。20回振りのすくい取り調査で、カスミカメムシ類(アカスジカスミカメなど)が4頭以上、またはホソハリカメムシ・クモヘリカメムシなどの「その他加害種」が2頭以上確認された場合は、1等米から2等米への格落ちリスクがあるとして防除が推奨されています。


この数字のリアルさを実感するために、1等米・2等米の違いを確認してみましょう。農産物検査法の等級基準では、着色粒(斑点米)の混入最高限度は1等米で0.1%、つまり1,000粒に1粒以下という非常に厳しい基準です。1,000粒がどのくらいかというと、ちょうど握り寿司2貫分の米粒です。その2貫分に斑点米が2粒混じるだけで2等米に格下げになります。価格への影響は1俵あたり数百〜数千円の差になることもあります。


セジロウンカは20回振りで1〜100頭が「少」、101〜300頭が「中」、301頭以上が「多」とされます。ツマグロヨコバイは同じく1〜50頭が「少」、51〜250頭が「中」です。カメムシ類は20回振りで1〜3頭が「少」、4〜10頭が「中」で、4頭以上で防除目安となる場合が多くの都道府県で共通しています。


要防除水準は都道府県によって多少異なります。自分の地域の基準は地元の農業改良普及センターや農協、都道府県の病害虫防除所に確認する、これが確実です。


参考資料:斑点米カメムシ類の発生状況と防除対策(宮城県公式ウェブサイト)
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/byogai/lib-kamemusi-top.html


すくい取り調査の方法と斑点米被害:カメムシ類の侵入経路を知る

すくい取り調査で捕まえる害虫の中でも、農家にとって特に脅威なのが斑点米カメムシ類です。斑点米被害が大きい理由は、前述のとおり1,000粒にたった2粒の混入で格落ちするという厳しい等級基準にあります。


カメムシ類の侵入経路を把握しておくことで、すくい取り調査の意味がより深く理解できます。アカスジカスミカメ(宮城県では最重要種)を例にとると、この虫は卵で越冬し、春に畦畔や牧草地のイネ科雑草(メヒシバ・イタリアンライグラスなど)で増殖します。水稲が出穂すると、第1〜2世代成虫が水田内に大量侵入して穂を加害します。


水田内の雑草も重大な問題です。水田内にイヌホタルイノビエ(ヒエ)が残草していると、カメムシはイネの出穂前からそれらの穂で産卵・繁殖して水田内で増殖するため、被害が拡大します。宮城県の試験データでは、イヌホタルイの残草がアカスジカスミカメの水田内増殖を著しく助長することが明らかにされています。


つまり、すくい取り調査の結果が「少ない」と出ていても、水田内に雑草が多ければ後から急増するリスクがあります。すくい取り調査の数字だけを信頼しすぎず、圃場全体の状況(残草の有無、周辺の牧草地の管理状況)と合わせて判断することが大切です。


近年は大型のクモヘリカメムシの分布拡大も確認されています。クモヘリカメムシは体長15〜17mmで、カスミカメムシ類(5〜8mm)の2〜3倍の大きさがあります。加害力が強く、収穫直前まで穂を吸汁するため被害が広範囲になりやすいという特徴があります。宮城県の調査では、令和3年以降に本田でのクモヘリカメムシの割合が増加傾向にあると報告されています。


すくい取り調査の方法と防除体系:調査結果を防除スケジュールに活かす

すくい取り調査は1回行うだけでなく、防除スケジュールと組み合わせて複数回行うことで真価を発揮します。


調査→判断→防除→再調査の流れが基本です。


斑点米カメムシ類の防除の基本は、「穂揃期」と「その7〜10日後」の2回散布です。北海道・東北・近畿など多くの地域でこの2回防除が推奨されています。1回目の防除後にすくい取り調査を再び行い、捕獲数が要防除水準を超えていれば追加防除を判断するという流れになります。


薬剤選択にも注意が必要です。近年研究成果として報告されているのが、ジノテフラン液剤・スルホキサフロル水和剤・エチプロール水和剤のアカスジカスミカメに対する高い効果です。宮城県の試験では、これらの薬剤は茎葉散布処理でアカスジカスミカメ多発条件下でも高い抑制効果を示したとされています。薬剤については農薬登録内容を確認したうえで、農協や農業改良普及センターに相談することをおすすめします。


一方、薬剤散布だけに頼らない耕種的防除(文化的防除)も重要です。


  • 🌿 水田内雑草の除草:7月上旬までにイヌホタルイ・ノビエを除去し、カメムシの水田内繁殖を防ぐ
  • ✂️ 畦畔の草刈り:出穂10日前までに畦畔を刈り取ることで、カメムシの水田侵入を軽減できる
  • 🌾 牧草地の刈り取り:7月中旬までに刈ることで、幼虫期の繁殖密度を抑制できる


すくい取り調査と耕種的防除・薬剤防除を組み合わせることで、農薬コストを抑えながら1等米の品質を守ることができます。


防除は調査データが基点です。


すくい取り調査の方法と記録管理:データを毎年活かす野帳の使い方

すくい取り調査を1年限りで終わらせず、翌年以降の防除判断に活かすには、記録の管理が鍵になります。


継続データこそが最大の武器です。


現場で使われる調査記録用紙は「調査野帳(のちょう)」と呼ばれます。1ほ場の結果を1枚に記録し、集計もできる様式が一般的で、雨の日でも鉛筆で書き込める耐水強化紙を使うと現場での使い勝手が格段に上がります。


記録すべき項目は次の通りです。


  • 📅 調査日・調査時刻:同じ時期に同じ条件で調べることで年次比較が可能
  • 🌤 天候・風の強さ:捕獲効率に影響するため必須記録
  • 📍 調査場所:水田内中央部か畦畔か、条番目も明記
  • 🪲 捕獲虫数:種類別・成虫/幼虫別に記録。20回振り当たりの頭数で統一
  • 📝 特記事項:残草の状況、周辺牧草地の刈取状況など


何年か記録を続けると、「自分のほ場では7月下旬にカメムシが急増しやすい」「今年は例年より10日早く侵入が始まった」といったほ場固有のパターンが見えてきます。これは市販のアプリよりも実用的なデータになり得ます。


農薬費や防除労力を記録に加えておくと、「防除1回省けたかどうか」の経済的な判断にも使えます。調査野帳は農業経営の意思決定ツールと考えると、記録する意味がさらに明確になります。


農研機構や各都道府県の病害虫防除所では、病害虫調査野帳のひな形(PDF)を公開しているところもあります。まずは自分の地域の防除所ウェブサイトを確認してみましょう。


参考資料:農林水産省・農作物有害動植物発生予察事業調査実施要領(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/02020116chap15.pdf


すくい取り調査の方法と他の調査法との組み合わせ:独自視点・フェロモントラップとの併用

すくい取り調査は万能ではありません。状況次第で精度が落ちるという限界があります。特に、捕獲効率が個人の動作や天候で変わりやすいという点は農業試験場でも繰り返し指摘されています。そこで近年注目されているのが、すくい取り調査と他の手法を組み合わせるアプローチです。


フェロモントラップは、カメムシの性フェロモンを使ったトラップで、虫の飛来状況を継続的に数値化できます。捕虫網が不要で、調査者の技術差が出にくいという特徴があります。農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の研究では、イネカメムシ成虫の発生把握に白色粘着トラップが有効だと報告されています。これはアカスジカスミカメ等のフェロモンには反応しないため、それぞれのカメムシを個別にモニタリングできるという点でも実用性があります。


すくい取り調査とフェロモントラップを組み合わせた場合の使い方としては、「フェロモントラップで飛来量の増加を早期に検知→すくい取り調査で水田内の実際の発生密度を確認→要防除水準と照合して防除の要否を判断」という流れが合理的です。フェロモントラップを「早期警戒装置」、すくい取り調査を「確認手段」として役割分担する発想です。


また、北海道の試験研究では40回振りのすくい取り調査(20回振りの倍)が低密度発生時の検出精度を高めるのに有効だとする知見もあります。捕獲数が少ない年や調査初期には、回数を増やした調査も選択肢になります。


これは意外ですね。


  • 🪤 フェロモントラップ:成虫の飛来動向を定点観測。すくい取りと役割が異なる
  • 🔬 粘着板(粘着トラップ)法:ウンカ・ヨコバイの幼虫密度把握に有効(四株叩き式)
  • 🪣 払い落とし法:白色バットを使った方法で、ウンカ類の幼虫調査に向く


すくい取り調査一本に頼るのではなく、複数の調査手法を使い分けることで、より確かな防除判断ができるようになります。農業技術の進化に合わせて調査方法も柔軟にアップデートする姿勢が、品質向上と農薬コスト削減の両立につながります。


参考資料:農研機構「白色粘着トラップによるイネカメムシ成虫のモニタリング」
https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/carc/2020/carc20_s21.html