根本から草を刈るほど、カスミカメムシ類がかえって増えやすい畦畔になります。
水稲の斑点米被害を引き起こすカスミカメムシ類の主役は、アカヒゲホソミドリカスミカメとアカスジカスミカメの2種です。 体長はどちらも5〜6mm程度と小さく、爪の先ほどのサイズですが、その加害力は侮れません。syngenta+1
カスミカメムシ類は、稲の穂(籾)を口吻で刺して吸汁します。 吸われた米粒には黒い斑点が残り、これが「斑点米(着色粒)」と呼ばれる状態です。
つまり吸汁1回で1粒の商品価値が失われます。
参考)302 Found
被害の怖さはその連鎖にあります。農産物検査法の規格では、1等米の着色粒上限は0.1%(1000粒に1粒以下)と定められています。 茶碗一杯分(約3000粒)に換算すると、たった3粒の斑点米で等級が下がるイメージです。info-ikimono.sakuraweb+1
等級が下がれば、収穫した米の販売価格が直接落ちます。
これは死活問題ですね。
2種の主な生態の違いを整理すると以下のとおりです。
| 種名 | 体長 | 産卵場所 | 主な発生世代数 |
|---|---|---|---|
| アカヒゲホソミドリカスミカメ | 5〜6mm | 稲の穂・葉鞘 | 年3〜5世代 |
| アカスジカスミカメ | 5〜6mm | 水田内のイネ科雑草(ノビエ・イヌホタルイ等) | 年3〜5世代 |
アカヒゲホソミドリカスミカメは稲そのものに産卵するため、水田内の雑草管理だけでは防ぎきれない点が特徴です。 一方アカスジカスミカメは、ノビエやイヌホタルイが水田内に多いと幼虫が大量発生し、被害が甚大になります。
2種の違いを知ることが防除の入口です。
参考)https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20200401_01
参考:農林水産省「斑点米カメムシ類の被害に要注意」(PDF)
斑点米の発生種別の特徴・産卵部位・発生世代数について詳しく解説されています。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/attach/pdf/kamemusi-5.pdf
カスミカメムシ類は、稲の出穂前は主に水田周辺の畦畔や雑草地で生息・増殖しています。 出穂期になると一斉に水田に飛び込んでくるため、出穂前の「密度を下げる」管理が防除の要です。
草刈りのタイミングは重要です。出穂10〜15日前までに水田周辺の除草を終えることが推奨されています。 出穂後に草刈りを行うと、畦畔に潜んでいたカスミカメムシ類が一気に水田に追い出される形になるため逆効果になります。nounavi-aomori+1
草刈りの「高さ」も見逃せないポイントです。地際まで刈り込む方法は一見きれいに見えますが、刈り跡からイネ科雑草が再び繁茂しやすくなります。 新潟県農業総合研究所の試験では、高さ10cm程度の「高刈り」を続けることで、イネ科以外の雑草が優占してイネ科雑草の植被率が下がり、カスミカメムシ類の増殖に適さない畦畔を作れることが確認されています。
これは使えそうです。
参考)イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法 - 新潟県ホームペ…
草刈りの高さを変えるだけでカスミカメムシ対策になる、ということですね。
❌ 除草剤 + 地際刈り → イネ科雑草が優占 → カスミカメムシ増殖しやすい
✅ 高刈り(10cm程度)を継続 → イネ科以外の雑草が優占 → カスミカメムシが増えにくい
なお、出穂後に草刈りをどうしても行う場合は、薬剤散布後に実施するのが鉄則です。 残効性が高い薬剤なら散布から1週間以内、それ以外は速やかに草刈りを済ませます。
参考)なくそうカメムシ被害!水稲の高品質生産に向けて防除を徹底しま…
参考:新潟県農業総合研究所「イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法」
高刈りによるイネ科雑草抑制効果の試験結果と具体的な管理方法が掲載されています。
イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法 - 新潟県ホームペ…
農薬防除の基本は、「穂揃期」と「その7〜10日後」の2回散布です。 これは水稲の登熟初期に集中して吸汁被害が起きることから設定されている標準的なスケジュールです。
出穂10日前頃に畦畔へ薬剤散布を行うと、水田内へ侵入するカスミカメムシ類の密度をさらに抑制できます。 薬剤は残効性の高い茎葉散布剤を選ぶと、1回の散布で効果が継続するためコスト面でも有利です。
薬剤の選択でもう一点注意したいのが、クロチアニジン剤への抵抗性問題です。新潟県では、アカヒゲホソミドリカスミカメがクロチアニジン剤(ネオニコチノイド系)に対して抵抗性を示す個体群が確認されており、通常の農薬使用基準に相当する濃度でも死亡率が低下しています。 同一系統の薬剤を毎年使い続けると、抵抗性が拡大するリスクがあります。
参考)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/208478.pdf
薬剤抵抗性の拡大が最大のリスクです。
主な薬剤の特徴を整理します。
| 薬剤系統 | 代表例 | 残効性 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ネオニコチノイド系 | ダントツ水溶剤・モスピラン水溶剤 | 高い | 抵抗性リスクあり・連用注意 |
| 合成ピレスロイド系 | テルスター水和剤 | 高い | 土着天敵への影響大・ハダニ多発リスク |
| 有機リン系 | スミチオン乳剤 | やや短い | 残効性に注意、追加散布が必要な場合も |
合成ピレスロイド系は残効性が高い一方、土着天敵のカブリダニ類などにも大きなダメージを与えます。 結果としてハダニが多発するリスクがあるため、使用する際は他の害虫への影響を確認しておくと安心です。
参考)カメムシ防除農薬の残効性
多発年や飛来量が多い年は、追加散布の目安として水田内のすくいとり調査を活用します。 「ゆめぴりか」では20回振りあたり2頭以上、「ななつぼし」では1頭以上で追加防除の目安となっています。 品種によって閾値が違う点を押さえておけばOKです。
参考)【注意報】水稲にアカヒゲホソミドリカスミカメ 全道で多発のお…
参考:農林水産省「カメムシ類の防除」
発生予察情報の活用方法と防除実施の基本的な考え方が掲載されています。
カスミカメムシ類の中には、害虫を食べる「益虫」として活用できる種がいます。体長わずか3mmのタバコカスミカメは、コナジラミ類・アザミウマ類などの難防除害虫を捕食する天敵昆虫です。 2021年5月に農薬として正式登録されました。kaku-ichi+1
タバコカスミカメは他の天敵昆虫と大きく異なる特徴があります。害虫が少ない時期でも、天敵温存植物1種のみで生存・増殖できるため、設置の手間が少なくて済みます。 従来の天敵では害虫がいない時期に代替の餌となる昆虫と温存植物の両方が必要でしたが、タバコカスミカメはその問題を解決しています。
参考)天敵の力を活用しよう! 害虫を食べる天敵昆虫【タバコカスミカ…
実際の導入効果は顕著です。施設トマト栽培で導入した事例では、殺虫剤の散布回数が62.5%削減、使用成分数は75%削減を達成しています。 農薬使用量が60%減少したという実証データも報告されており、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現できます。kaku-ichi+1
これは大きなメリットですね。
ただし、タバコカスミカメを導入する場合は農薬との相性が重要です。岡山県の研究では、57剤を評価した結果、成虫・幼虫の両ステージへの影響が大きかった(補正死虫率99%以上)殺虫剤はペルメトリン・スルホキサフロル・アバメクチンなど6剤と判明しています。 タバコカスミカメを使う圃場では、これらの薬剤との同時使用を避けることが前提条件になります。
参考)岡山県における土着天敵タバコカスミカメに対する農薬の影響
天敵導入が目的なら、農薬との組み合わせ確認が条件です。
参考:農研機構「天敵昆虫タバコカスミカメの農薬登録完了」(プレスリリース)
タバコカスミカメの登録の経緯と適用害虫、販売情報が掲載されています。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nipp/142953.html
多くの農家が見落としがちな視点があります。カスミカメムシ対策として農薬を過剰に散布することが、水田生態系を壊し、別の害虫問題を招くリスクです。 1等米の基準を守るための散布強化が、かえって農業の持続性を損なう矛盾が生じています。
実際、生産者側からは「農産物検査規定が農薬の大量散布につながっている」として、検査制度の見直しを求める声が強く出ています。 秋田県では、平成15年度に2等米以下に格付けされた理由の46.7%が着色粒によるものでした。 この数字が示すのは、カスミカメムシ対策の失敗が収入に直結するという農家の切実なプレッシャーです。
プレッシャーが過剰散布を生む、ということですね。
では、防除を最適化するために何ができるか。都道府県が発表する発生予察情報を活用するのが第一歩です。 各都道府県の農業試験場が定期的に発生状況を更新しており、自分の地域のリスクレベルを事前に把握できます。
防除の最適化には以下の3ステップが有効です。
すくいとり調査の結果が閾値を下回っていれば、2回目の散布を省略できる場合もあります。 不必要な散布を減らすことで薬剤コストの削減と天敵温存が同時に実現できます。これが防除コストと生態系保全のバランスを取る現実的な方法です。
参考:シンジェンタジャパン「斑点米カメムシ発生を低減する、圃場周辺の雑草管理」
種別の産卵習性の違いと、水田内・畦畔それぞれの雑草管理方法が詳しく解説されています。
https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20200401_01