ペルメトリンはピレスロイド系の殺虫剤で、昆虫の神経細胞膜にあるナトリウムチャネルに作用し、持続的な脱分極を起こして神経機能をかく乱することで殺虫作用を示すと整理されています。
この「神経に効く」タイプは、吸汁性害虫やチョウ目幼虫など、発生初期〜増殖期の“動きが活発な個体”に当てると効果が体感されやすい一方、密度が上がり切ってからの後追い散布では取りこぼしが出やすいのも現場あるあるです。
また、ペルメトリンにはcis体・trans体の異性体が含まれることが示されており、見かけの効き方や残り方が「環境条件」「剤型」「散布面の状態」に左右されます。
意外に見落とされがちなのが「水にほとんど溶けない」性質です。水溶解度は20℃で11.1 μg/Lとされ、混用タンク内での扱い(攪拌不足、希釈順序、残液)でロスが出ると、効かない原因が“害虫側”ではなく“調製側”にあるケースが起きます。
参考)アディオン水和剤
さらに、オクタノール/水分配係数 logPow=6.36 とされ、油になじみやすい性質が強いので、葉面のワックスや資材(展着剤・被覆資材)との相互作用で付着性が変わりやすい点も、経験則と合致しやすい性質です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000556592.pdf
農業現場でまず大事なのは、「ペルメトリン」という成分名ではなく、農林水産省の農薬登録情報にある“製剤ごとの適用表”で判断することです。
例として、農薬登録情報提供システムでは「アディオン水和剤(ペルメトリン水和剤、登録番号15966)」の基本情報と適用表(作物名、適用病害虫名、希釈倍数、使用時期、使用回数、総使用回数など)が掲載されています。
同じペルメトリンでも、作物によって「収穫前日数」や「回数上限」が違い、さらに“ペルメトリンを含む農薬の総使用回数”が別枠で設定されることがあるため、ローテーションのつもりが「総回数超過」になっていた、という事故が起きやすいです。
現場でのチェック項目は、次の4点に絞るとミスが減ります。
・📌 作物名:同じ“葉菜”でも分類が違う(非結球レタス等)ことがある。
・📌 適用害虫名:似た名前でも対象が違う(例:アブラムシ類、コナジラミ等)。
・📌 使用時期:収穫前日まで/収穫7日前まで等の差が大きい。
・📌 回数:本剤の使用回数と、有効成分(ペルメトリン)としての総使用回数が併記される。
参考リンク(適用表の読み方・希釈倍数・回数を確認する箇所の根拠)
農薬登録情報提供システム:アディオン水和剤(適用表・希釈倍数・使用回数)
ペルメトリンの水溶解度は20℃で11.1 μg/Lとされ、いわゆる「水に溶けにくい(疎水性が強い)」性格です。
加水分解については、pH4およびpH7では半減期1年以上、pH9では半減期43.5日(20℃)というデータが示されており、アルカリ寄り条件で分解が進みやすい傾向が読み取れます。
水中光分解は、滅菌蒸留水で約40日、自然水で約30日という半減期が示され、同じ水中でも条件で“残り方”が変わる点は、用水路やため池の管理と直結します。
ここが意外な落とし穴で、ペルメトリンは「水に溶けにくい=水系は安心」と短絡しがちですが、環境省資料では水産動植物の毒性評価が整理され、非水田使用での環境中予測濃度(PECTier1)が0.022 μg/L、登録保留基準値が0.17 μg/Lとして比較されています。
参考)https://www.env.go.jp/content/900544450.pdf
この数字だけを見ると“余裕がある”ように感じますが、実務では局所的に濃くなる場面(ドリフトが一点に落ちる、洗浄水がまとまって流れる、豪雨直前散布)が問題になりやすいので、「川に入れない運用」を作業標準に落とすのが安全側です。
現場で効く具体策は、次の通りです。
・🌦️ 散布後すぐに強雨が来る予報なら延期(流亡・再散布で総回数圧迫が起きる)。
・🌊 用水路沿いは風の向きでノズル角度・圧を調整(ドリフト管理)。
・🧴 噴霧器・タンクの洗浄水は“一気に排水しない”(点で濃くしない)。
環境省の資料では、魚類急性毒性としてコイの96hLC50=240 μg/Lが示されています。
同じ資料に、文献由来のデータとしてニジマスの96hLC50が0.69 μg/L(実測濃度ベース)とされ、魚種によって感受性が大きく異なる点が明確です。
甲殻類ではオオミジンコの48hEC50=2.7 μg/Lが示されており、「魚だけ守れば良い」ではなく、水域生態系全体への目配りが必要だと分かります。
また、同資料はリスク評価として、非水田使用でのPECTier1が0.022 μg/Lで、登録保留基準値0.17 μg/Lを下回ると整理しています。
ただし、これは“平均化された想定条件”の比較なので、現場では「散布場所のすぐ下に用水がある」「風が読みにくい」「排水が一点に集まる」など、モデル外の条件が重なると事故が起きます。
したがって、農薬散布計画では「適用害虫に効く」だけでなく、「圃場外に出さない工程(準備→散布→洗浄→廃液)」をセットで設計するのが、結果的に防除の安定化につながります。
参考リンク(水産動植物・PEC・登録保留基準値の根拠)
環境省:水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準(ペルメトリンの毒性・PEC)
検索上位の記事は「効果」「使い方」「危険性」など一般論に寄りがちですが、農業従事者の実害として多いのは、実は“害虫の抵抗性”より先に、タンク調製と散布品質で効果が落ちるパターンです。
ペルメトリンは水溶解度が20℃で11.1 μg/Lと低いので、「攪拌が弱い」「投入順が悪い」「タンクの残留物と相互作用する」といった条件で、有効成分が均一に当たらず、ムラ効きになりやすい素地があります。
さらに、環境省資料が示す通り製剤には水和剤・乳剤・フロアブル剤・マイクロカプセル剤などがあり、同じ成分名でも“付着・飛散・流出・効き残り”のプロファイルが変わるため、「前回効いた製品」と「今回買った製品」を同一視すると判断ミスが起きます。
現場で再現性を上げるための、チェックリスト(入れ子にしない)です。
・🧪 希釈:適用表の希釈倍数どおりに計量(目分量はムラの原因)。
・🌀 攪拌:散布中も攪拌を止めない(特に水和剤・フロアブル)。
・🚿 洗浄:散布前にノズルとフィルタを洗う(詰まりは散布ムラに直結)。
・📅 タイミング:発生初期に当てる(神経系薬剤は“当てて倒す”設計)。
・🌬️ 風:ドリフトが出る条件は回避(環境リスクと効率ロスを同時に生む)。
論文・公的資料の引用としては、作用機構(ナトリウムチャネル)や物性(水溶解度・分配係数)がまとまった資料を、現場教育の根拠に使いやすいです。
厚生労働省資料:ペルメトリン(用途・作用機構・水溶解度等)