ウンカ類の歯車構造が稲作被害を左右する驚きの仕組み

ウンカ類が持つ歯車状の脚の仕組みを知っていますか?この構造が稲作の被害拡大と深く関わっています。防除タイミングや薬剤選択にも影響する意外な生態を詳しく解説します。

ウンカ類の歯車構造と稲作被害の関係

ウンカ類の後脚には、本物の機械歯車と同じ形の突起が並んでいます。これは昆虫界で唯一確認された「生体歯車」であり、知らないと防除戦略を根本的に誤る可能性があります。


🌾 ウンカ類の歯車構造:農業従事者が知るべき3つのポイント
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生体歯車の構造

ウンカ類の後脚には10〜12個の歯状突起が並び、両脚が0.0003秒以下で同期して動く。これにより直進ジャンプ精度が飛躍的に高まる。

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稲への影響

高い移動精度が株から株への素早い移動を可能にし、1頭あたり1日で複数の稲株に被害を与えることも。ほ場全体への拡散スピードが通常害虫の3倍以上という調査もある。

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防除への示唆

移動速度が速いため、初期発生時の対応が遅れると薬剤散布1回分(コスト数万円規模)では追いつかないケースがある。 早期発見が最大の節約策。

ウンカ類の歯車構造とは何か:昆虫界唯一の生体メカニズム


ウンカ類の後脚には、10〜12個の歯状突起がびっしりと並んでいます。この突起が相手の脚の突起と噛み合い、両脚が完全に同期して動く仕組みです。


2013年にケンブリッジ大学のマルコム・バロウズ博士が発表した研究で、この構造は昆虫界で唯一の「生体歯車(biological gear)」として確認されました。時計の内部を想像してもらえれば、あの小さな金属歯車が脚に刻まれているイメージです。


同期のスピードは0.0003秒以下。これは人間の反射神経の限界をはるかに超えています。つまり、神経制御ではなく「物理的な噛み合わせ」によって同期を実現しているわけです。


意外ですね。虫の脚に機械部品と同じ歯車があるとは思わないのが普通です。


注目すべきは、この歯車構造が幼虫期にのみ存在する点です。成虫になると歯車の突起は消え、神経による制御に切り替わります。幼虫の脱皮時に突起が磨耗・破損してもすぐに作り直せるため、幼虫期に限定されていると考えられています。


NHK解説:昆虫の生体歯車に関する解説(バロウズ博士の研究報告)

ウンカ類の歯車が稲作被害を広げる移動メカニズム

歯車構造によって得られる最大のメリットは、「ブレのない直線ジャンプ」です。両脚が完全に同期することで、体が横回転せず真っ直ぐに跳躍できます。


これが稲作にとって問題になります。


ウンカ類(特にトビイロウンカ・セジロウンカ・ヒメトビウンカ)は、水田の稲株の間を短距離で素早く移動しながら吸汁します。ブレのない跳躍は「次の稲株への的確な着地」を可能にし、1頭が1日で5〜10株以上に接触するケースも報告されています。


稲株間の距離は一般的に20〜30cm程度です。ウンカの体長は3〜5mm程度(5mm=親指の爪の幅くらい)なので、体長の40〜60倍を飛ぶ計算になります。この跳躍を安定して繰り返せる点が、拡散スピードを大きく押し上げています。


つまり「歯車がある→正確に跳べる→拡散が速い→被害が広がる」という連鎖です。


農林水産省の資料によれば、トビイロウンカが大発生した場合、適切な防除をしなければ10アール(1,000㎡)あたりの収量が50〜80%減少することもあります。東京ドームのグラウンド面積(約1.3万㎡)に換算すると、13倍以上の面積の稲がほぼ全滅するほどのインパクトです。


農林水産省:イネウンカ類の防除対策(発生状況・被害事例)

ウンカ類の歯車構造から学ぶ:効果的な発生初期の見つけ方

歯車による高速移動を知ると、「早期発見こそが最大の防御」と理解できます。


これが原則です。


ウンカ類は株元の茎に集まって吸汁する習性があります。水田を歩くとき、遠目に「稲が一部だけ黄色くなっている」「円形に萎れている場所がある」といった兆候が初期サインです。


これを「坪枯れ(つぼがれ)」と呼びます。


発見のコツは3点あります。


  • 🌅 早朝または夕方に水田に入る(ウンカ類は気温が高い日中は株元深くに潜る)
  • 👁️ 株元を直接かき分けて虫体を確認する(1株あたり20頭以上で要注意)
  • 📋 白い紙または白いトレーを株元の水面に当てて揺らすと、落下した虫を数えやすい

1株あたりの虫体数で防除要否の判断ができます。農研機構の防除指針では、分げつ期に1株あたり15〜20頭以上で薬剤防除の目安としています。


これが条件です。


発見が10日遅れると、歯車による高速移動で被害面積が倍以上に広がるとも言われます。早めの確認が数万円規模の薬剤コスト削減に直結します。


農研機構:ウンカ類の発生予察と防除指針(PDF)

ウンカ類の歯車構造と農薬抵抗性:薬剤が効かなくなるメカニズム

ウンカ類の高い移動能力は、農薬抵抗性の問題とも深く結びついています。


意外なつながりです。


歯車による高い移動・拡散能力を持つウンカ類は、海外(中国・ベトナムなど)から毎年飛来します。日本で越冬する個体は少なく、飛来個体群が主体です。このため、海外で農薬抵抗性を持った個体群が育つと、それがそのまま日本の水田に持ち込まれます。


実際に問題になっているのがネオニコチノイド系農薬への抵抗性です。2010年代以降、トビイロウンカの一部の個体群でイミダクロプリドチアメトキサムへの抵抗性が確認されています。「去年効いた薬が今年は効かない」という事例は、この飛来抵抗性個体群が原因である可能性があります。


痛いですね。同じ薬剤を毎年使い続けることがリスクになります。


対策として、作用機構(MOAコード)の異なる農薬をローテーション使用することが推奨されています。農薬ラベルに記載されているMOAコードを確認し、同じコードの薬剤を連続使用しない管理が重要です。


  • 🔄 MOA 4A群(ネオニコチノイド系):イミダクロプリド、チアメトキサムなど
  • 🔄 MOA 14群(ネレイストキシン類):カルタップ、チオシクラムなど
  • 🔄 MOA 6群(アベルメクチン系):エマメクチン、ミルベメクチンなど

地域の農業改良普及センターに今年の飛来個体の抵抗性情報を問い合わせるだけで、農薬選択の精度が大きく上がります。


これは無料でできる対策です。


農研機構:トビイロウンカの農薬抵抗性モニタリング結果(最新)

ウンカ類の歯車構造を逆用した「物理的防除」という新視点

ここからは、検索上位にはあまり登場しない独自視点の話です。


ウンカ類の歯車は「精密な移動を可能にする構造」です。裏を返せば、この移動の前提条件を崩せば被害拡散を抑えられる可能性があります。


具体的には「田面水の深さ管理」です。ウンカ類は水面に直接触れることを嫌う習性があります。分げつ期に水深を3〜5cmに保つ「深水管理」を行うと、株元への侵入を物理的に妨げ、吸汁できる位置が制限されます。


これは使えそうです。


島根県農業技術センターの試験では、深水管理によってウンカ類の株元密度が通常管理区に比べて約30〜40%減少したとするデータがあります。農薬を一切使わずにこれだけの差が出る点は注目です。


また、歯車による跳躍は「乾いた茎の表面」での摩擦を前提としています。稲の茎が水で濡れていたり、表面に泥が付着していたりすると、突起が滑りやすくなり跳躍精度が落ちる可能性があります。深水管理はこの点でも間接的な効果が期待できます。


ただし深水管理には注意点もあります。


  • ⚠️ 高温期に水深を深くしすぎると根腐れのリスクがある(水温管理が必要)
  • ⚠️ 地域の水利状況によっては深水維持が難しい場合がある
  • ✅ 夜間に深水にして昼間に水位を下げる「間断深水」でもある程度の効果が期待できる

農薬コストを抑えながらウンカ対策をしたい場合、深水管理の導入は費用対効果の高い選択肢になります。地域の農業普及員に相談しながら試してみる価値があります。


島根県農業技術センター:水管理によるウンカ類の密度抑制に関する研究成果

ウンカ類の歯車構造と飛来予測:農業従事者が活用すべき情報ツール

ウンカ類(特にトビイロウンカ)の多くは中国・東南アジアから偏西風に乗って飛来します。飛来量はその年の気象条件に大きく左右されるため、事前に飛来予測情報を得ることが重要です。


農林水産省と気象庁は毎年6〜8月にかけて「ウンカ類飛来予察情報」を発表しています。


これは無料で閲覧できる情報です。


活用できる主な情報源は以下のとおりです。


  • 🌐 農林水産省「病害虫発生予報」:月2回更新、ウンカ類の発生見通しを地域別に掲載
  • 📱 各都道府県農業試験場の発生予察情報:都道府県ごとのほ場調査データをもとにした細かい予察
  • 🌦️ 気象庁の季節予報:雨の早さや夏の気温が飛来量と相関するため間接的な指標になる

飛来が多い年とそうでない年で、防除回数を変えることが農薬コストの最適化につながります。飛来量が少ない年に過剰な防除をすると、1回あたり数千〜1万円以上の薬剤コストが無駄になる可能性があります。


これは時間と費用の両方の節約です。


飛来予察情報を毎年チェックする習慣をつけるだけで、防除計画の精度が大きく上がります。作業前に農林水産省のウェブサイトをブックマークしておくだけで始められます。


農林水産省:病害虫発生予報(ウンカ類を含む最新の発生情報)




日本原色カメムシ図鑑: 陸生カメムシ類