保毒虫率5%超えで収穫量が10%以上減少します。
ヒメトビウンカの学名は「Laodelphax striatellus」です。この学名表記は国際的に統一されており、文献検索や学術情報を調べる際に必須の知識となります。属名のLaodelphaxは大文字で始まり、種小名のstriatellusは小文字で記載するのが正式なルールです。イタリック体(斜体)で表記することも学名の慣例となっています。
学名の後には命名者としてFallénが付記されることもあります。これは1806年にスウェーデンの昆虫学者Carl Fredrik Fallénがこの種を初めて記載したことを示しています。農業現場では学名よりも和名を使うことが一般的ですが、海外の研究論文や防除マニュアルを参照する場合には学名での検索が不可欠です。
注意が必要なのは、類似した学名との混同です。例えば「Lodelphax」とAの文字を抜かして表記してしまうミスが時々見られます。正しくはLaodelphaxですので、文献を引用する際や報告書を作成する際には必ず確認しましょう。一文字違いで全く別の生物を指してしまう可能性があるため、学名の正確性は極めて重要です。
学名を知ることで何が得られるのでしょうか?
最新の研究成果や海外の防除事例にアクセスできるようになります。特に中国や韓国など東アジア地域での研究報告は、日本のイネ栽培にも直接応用できる知見が多く含まれています。学名で検索すれば言語の壁を超えて情報収集が可能になるのです。
香川県病害虫防除所によるヒメトビウンカの詳細情報と写真資料はこちら
ヒメトビウンカはカメムシ目(半翅目)ウンカ科ウンカ亜科に分類される昆虫です。カメムシ目という大きなグループには、セミやカメムシ、アブラムシなども含まれており、すべて口吻で植物の汁を吸う特徴を持っています。ウンカ科の仲間は世界で約2000種以上が知られており、そのうち日本には約200種が生息しています。
同じウンカ科の仲間には、農業害虫として知られるトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)やセジロウンカ(Sogatella furcifera)がいます。これらは体長や体色、飛来パターンが異なるため、正確な識別が防除の第一歩となります。トビイロウンカは体長約5mmで褐色から黒褐色、セジロウンカは約4mmで背面に白い縦筋があるのが特徴です。ヒメトビウンカは3.5~4mmと最も小型です。
分類学的には、ウンカ科は完全変態ではなく不完全変態をする昆虫群に属します。つまり、卵から孵化した幼虫は成虫に似た姿をしており、脱皮を繰り返しながら徐々に成虫へと成長します。この生態的特徴を理解することで、防除のタイミングを適切に判断できるようになります。
日本国内では北海道から沖縄まで全国に分布しており、東アジア全域の温帯地域に広く生息しています。トビイロウンカやセジロウンカは日本国内で越冬できず毎年海外から飛来してくるのに対し、ヒメトビウンカは日本で越冬できる点が大きく異なります。
この違いが防除戦略に影響を与えるのです。
ヒメトビウンカの成虫は体長が翅端まで3.5~4mm程度で、ウンカ類の中では最も小型の部類に入ります。体色は全体的に淡褐色で、雄の胸部背面は黒色、雌の胸部背面は淡黄色で両側に半月形の黄褐色斑紋があることが識別ポイントです。頭部は突出せず平坦なのも特徴の一つとなっています。
最も注目すべき特徴は、長翅型と短翅型という2つのタイプが存在することです。長翅型は翅が長く発達しており、遠距離への移動が可能です。一方、短翅型は翅が短く、移動能力は限定的ですが繁殖力が高い傾向があります。幼虫期の環境条件、特に密度や栄養状態によってどちらの型になるかが決まります。
どういうことでしょうか?
密度が高く、栄養条件が悪化すると長翅型が多く出現し、新しい生息地を求めて移動する傾向が強まります。逆に、餌が豊富で密度が低い環境では短翅型が多く発生し、その場で繁殖を続けます。この生態を理解すると、イネ科雑草の管理がいかに重要かが分かります。
幼虫は5齢を経て成虫になります。幼虫の特徴として、水面に落下した際に後脚を八の字形に伸ばす行動が観察されます。これはセジロウンカやトビイロウンカの幼虫が両後脚を体と直角に伸ばす行動とは異なるため、水田での観察時に識別の手がかりとなります。
体長が4mm以下という小ささは、肉眼での観察を難しくします。はがきの短辺が約10cmなので、その25分の1程度の大きさということになります。防除のために発生状況を確認する際は、ルーペや虫眼鏡を使用することが推奨されます。
ヒメトビウンカの最大の問題点は、吸汁による直接的な被害よりも、イネ縞葉枯病ウイルス(RSV)を媒介することにあります。このウイルス病は一度発病すると治療法がなく、感染した株は収量が大幅に低下するか、完全に枯死してしまいます。5月中旬から下旬に田植えしたイネで発生が多く、7月に入ると新葉が黄白色に変色し、弓状に徒長する「ゆうれい病」と呼ばれる症状を示します。
保毒虫率という指標が防除判断の重要な基準となります。保毒虫率とは、調査したヒメトビウンカのうち何%がウイルスを保有しているかを示す数値です。研究によれば、保毒虫率が5%以上になると、イネ縞葉枯病の発病株率が10%を超え、経済的な被害が発生する可能性が高まります。10%の発病は、10aあたり約500kgの収穫を想定した場合、50kgの減収に相当します。
2008年には西日本で大きな被害が発生しました。この年の6月に中国江蘇省から保毒虫率が20%を超える高保毒虫率のヒメトビウンカが大量に飛来したことが原因とされています。中国では2000年代から保毒虫率が20~30%という高い水準で推移しており、それが風に乗って日本に到達したのです。九州地方を中心に甚大な被害が報告され、一部地域では発病株率が50%を超える事例もありました。
ウイルスは経卵伝染します。
つまり、保毒虫が産んだ卵から孵化した幼虫も最初からウイルスを保有しており、生まれた時からイネに感染させる能力を持っているということです。このため、一度保毒虫率が高まった地域では、翌年以降も継続的に警戒が必要となります。越冬前の保毒虫率が翌年の発生量を予測する重要な指標となるのです。
埼玉県によるイネ縞葉枯病とヒメトビウンカの詳しい解説資料(PDF)
ヒメトビウンカは他のイネウンカ類とは明確に異なる生態を持っています。最も重要な違いは、日本国内で越冬できる点です。トビイロウンカやセジロウンカは日本の冬を越せず、毎年梅雨時期に中国大陸や東南アジアから風に乗って飛来してきます。一方、ヒメトビウンカは4齢幼虫の状態で、水田畦畔や果樹園などのイネ科雑草、レンゲなどで越冬します。
年間の発生サイクルは4~5世代です。越冬した幼虫は春に成虫となり、麦類やイネ科雑草に産卵します。ここで発育した第1世代の成虫が5月下旬から6月中旬にかけて水田に飛来し、イネに産卵します。この時期の飛来成虫が縞葉枯病の初期感染源となるため、防除上極めて重要なタイミングです。
成虫の寿命は約25日で、その間に4~20粒の卵塊を茎内に産み付けます。
総産卵数は約100粒に達します。
25℃の条件下では卵期間が6~7日、幼虫期間が約15日となり、約3週間で次世代が発生します。この繁殖速度の速さが、短期間での個体数増加につながります。
暖冬少雨の条件では第1世代が多発する傾向があります。冬季の気温が高いと越冬幼虫の生存率が向上し、春先の降雨が少ないと越冬場所となるイネ科雑草が繁茂しやすくなるためです。近年の気候変動により暖冬傾向が続いていることから、ヒメトビウンカの越冬個体数が増加傾向にあるという指摘もあります。
イネ科牧草や麦類の栽培地帯で発生が多いのも特徴です。これらの作物がヒメトビウンカの増殖場所となり、そこからイネに移動してくるためです。複合的な農業経営を行っている地域では、麦収穫後の圃場管理がヒメトビウンカ対策において特に重要となります。
近年、ヒメトビウンカの薬剤抵抗性が問題となっています。2008年に中国から飛来した個体群は、日本で広く使用されていたイミダクロプリド(商品名:アドマイヤー、フルサポート等)に対して感受性が低下していることが確認されました。これは中国の発生源地域で同じ系統の薬剤が多用された結果、抵抗性が発達したためと考えられています。
薬剤抵抗性とはどういうことでしょうか?
同じ殺虫剤を繰り返し使用すると、その薬剤で死なない個体が生き残り、その子孫が増えることで、徐々に効果が低下していく現象です。トビイロウンカでも一部のネオニコチノイド系殺虫剤に、セジロウンカではフェニピラゾール系殺虫剤に抵抗性が報告されています。
抵抗性発達を防ぐための基本戦略は、異なる系統(作用機構)の薬剤をローテーション使用することです。農薬のラベルにはIRACコード(殺虫剤抵抗性対策委員会が定めた分類番号)が記載されており、このコードが異なる薬剤を交互に使用することが推奨されます。例えば、ネオニコチノイド系(IRACコード4A)を使用した次の世代には、ピレスロイド系(IRACコード3A)やカーバメート系(IRACコード1A)を使用するといった方法です。
育苗箱施用剤による初期防除が基本となります。播種時または移植当日に育苗箱に薬剤を処理することで、田植え後約1ヶ月間ヒメトビウンカからイネを守ることができます。この方法は本田での散布作業を省力化できる利点もあります。ただし、育苗箱施用剤の効果が切れた後や、大発生が予想される場合には本田での追加防除が必要となります。
本田防除を実施する場合は、ヒメトビウンカの発生消長を確認してから実施することが重要です。各都道府県の病害虫防除所では、定期的にヒメトビウンカの発生状況や保毒虫率を調査し、注意報や警報を発表しています。これらの情報を参考にして、適切なタイミングで防除を行いましょう。
ヒメトビウンカ対策で最も効果的なのは、越冬場所を減らすことです。秋から冬にかけての管理が翌年の発生量を大きく左右します。イネ収穫後の再生株(ひこばえ)は速やかに耕起して鋤き込むことが基本です。再生株は栄養価が高く、ヒメトビウンカの格好の越冬場所となるため、収穫後2週間以内の耕起が推奨されます。
水田畦畔や土手、休耕田に生えるイネ科雑草の除草も重要な対策です。ヒメトビウンカが越冬するイネ科雑草には、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、オオスズメノカタビラなどがあります。これらの雑草は冬季でも枯れずに残るため、ヒメトビウンカの越冬を助けてしまいます。秋から冬にかけて除草することで、越冬個体数を大幅に減少させることができます。
除草のタイミングが成否を分けます。
水稲収穫直後の畦畔除草は、まだ成虫や幼虫が水田周辺に多く残っている時期のため、越冬場所への移動を阻止する効果が高いことが研究で示されています。11月までに実施することで、翌春の発生量を30~50%削減できたという報告もあります。除草剤を使用する場合は、イネ科雑草に効果のある選択性除草剤を選びましょう。
育苗場所周辺の雑草管理も見落とせません。育苗期間中に周辺のイネ科雑草から苗箱にヒメトビウンカが飛び込むことがあります。この時期にウイルスを保毒した成虫が苗に産卵すると、田植え後すぐにイネ縞葉枯病が発生してしまいます。育苗ハウス周辺は半径50m以内のイネ科雑草を除草し、苗箱は寒冷紗などでトンネル状に被覆して侵入を防ぐ対策が有効です。
複数の防除手段を組み合わせることで効果が高まります。耕種的防除(雑草管理、耕起)、物理的防除(被覆)、化学的防除(薬剤処理)、そして後述する抵抗性品種の利用を総合的に実施することで、持続可能なヒメトビウンカ管理が実現します。単一の方法に頼ると、環境変化や抵抗性発達により効果が低下するリスクがあるためです。
イネ縞葉枯病に対する抵抗性品種の利用は、薬剤防除と並んで重要な対策手段です。代表的な抵抗性品種には、むさしこがね、朝の光、彩のかがやき、彩のきずな、ゆめまつり、にじのきらめきなどがあります。これらの品種はウイルスに感染しても発病しにくい遺伝的特性を持っており、収量への影響を最小限に抑えることができます。
抵抗性品種を広く作付することには、個々の圃場を守るだけでなく、地域全体の保毒虫率を低減する効果があります。抵抗性品種ではウイルスの増殖が抑えられるため、そこで吸汁したヒメトビウンカがウイルスを獲得する確率が下がるのです。茨城県の研究では、抵抗性品種「にじのきらめき」を広域で作付した地域で、保毒虫率が有意に低下したという報告があります。
ただし注意点もあります。
抵抗性品種でもヒメトビウンカ自体の発生は抑制できません。つまり、抵抗性品種の圃場もヒメトビウンカの繁殖場所となり、周辺の罹病性品種の圃場への供給源になる可能性があります。このため、抵抗性品種を作付する場合でも、育苗箱施用などの基本的な防除対策は実施することが推奨されています。
品種選択の際には、抵抗性だけでなく、食味や収量、栽培地域の気候適性も考慮する必要があります。例えば「むさしこがね」は縞葉枯病抵抗性が高い一方で、食味がやや劣るという評価もあり、主に加工用米として利用されています。「朝の光」や「彩のかがやき」は食味と抵抗性のバランスが取れた品種として、関東地方で普及が進んでいます。
遅植え(6月植え)も間接的な抵抗性対策となります。イネ縞葉枯病の主要な感染時期は6月上旬から中旬の第1世代成虫の飛来期です。この時期を避けて6月下旬以降に田植えを行うことで、感染リスクを大幅に低減できます。ただし、遅植えは登熟期が高温期にずれ込むため、品質低下のリスクとのバランスを考慮する必要があります。
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