農薬を使うほど、マンガン過剰症で収量が10〜30%落ちる危険があります。
マンガン(Mn)は、植物の光合成・葉緑素生成・酵素反応に欠かせない微量必須元素です。土壌中には全含有率で1,000ppm以上存在するのが普通ですが、すべてが植物に吸収されるわけではありません。作物が健全に育つためには、乾物あたり20〜100ppm程度のマンガンが必要とされています。
問題はその「溶けやすさ」にあります。土壌中のマンガンは条件次第で急激に溶出量が変わり、多く吸収されすぎると過剰症を引き起こします。
これが「マンガン過剰症」です。
過剰症に弱い作物(スイカ・キュウリ・コマツナ・メロンなど)では、下位葉の葉脈に沿って黒褐色や赤紫色の斑点が現れます。茎や葉柄の毛の基部がチョコレート色になるのも特徴的な初期サインです。進行すると中位葉にも斑点が広がり、上位葉では鉄の吸収が阻害されて黄白化(クロロシス)が起きることもあります。
マンガンは「欠乏しても過剰でも障害が出る」グループに属するため、他の要素より管理が難しい栄養素です。土壌中の絶対量が多い分、溶解度の少しの変化が過剰症・欠乏症の両方に直結します。
管理が難しいということですね。
農業の現場では、欠乏症より過剰症を目にするケースの方が多いとも言われています。施設栽培や水田転換畑では特にリスクが高く、早期発見と土壌管理が収量を守るカギになります。
島根県農業技術センター:マンガン過剰症(Mn過剰症)の症状・発生要因・対策(メロンでの発生事例あり)
マンガン過剰症の最大の引き金は、土壌pHの低下です。pHが下がるほどマンガンの溶解性は急激に増し、作物の根が過剰に吸収してしまいます。pH5.5を下回ると注意が必要で、ミカン園ではpH4.5以下になるとはっきりした過剰症状が現れることが確認されています。
ただし、酸性土壌だけが原因とは限りません。
排水不良や過湿状態も大きなリスク要因です。
土壌が湿った還元状態になると、酸化されて不溶化していたマンガンが再び溶け出します。水田転換畑や、大雨後に冠水したほ場では急激に過剰害が出やすくなります。
また、未熟な有機物が残っている圃場も要注意です。未熟有機物が土壌中で分解される過程で還元性の有機酸が発生し、マンガンを溶出させます。特に施設栽培で有機物を多めに投入している圃場では、このリスクが見落とされがちです。
さらに注意が必要なのが、多窒素管理との組み合わせです。窒素を過剰に施用するほど、マンガン過剰害は激しくなることが知られています。pHがそれほど低くなくても、多窒素条件下ではマンガン過剰症が発生するケースがあります。
まとめると、以下の条件が重なるほどリスクは高まります。
- 土壌pH5.5以下の酸性圃場
- 排水不良・過湿になりやすいほ場(水田転換畑など)
- 未熟有機物が多い圃場
- 多窒素施肥をしている圃場
- 施設栽培で連作が続いている圃場
これらの条件が複数重なっているなら要注意です。
農林水産省:花きの土づくりと施肥対策(多窒素条件でのマンガン過剰害の発生メカニズムを解説)
農薬を使うと病気が防げる。それは正しいのですが、使い方次第でマンガン過剰症のリスクを高めてしまいます。
意外なことですね。
殺菌剤の一部には、マンガンを有効成分の一部として含むものがあります。代表例がマンゼブ水和剤(ジマンダイセン)とマンネブ水和剤です。これらを毎年継続して散布していると、葉からマンガンが直接吸収され、土壌のpHが中性〜弱アルカリ性であるにもかかわらず過剰症が発生するケースがあります。
熊本県農業研究センターの調査では、マンゼブ水和剤を連年多用したミカン園で、土壌が中性〜弱アルカリ性であるにもかかわらず2年目の1月にマンガン過剰症が発生し、約5%程度の落葉が確認されました。さらに、殺菌剤の散布回数と樹全体の落葉率の間には明確な正の相関があることも実証されています。
タキイ種苗の研究資料によると、もう一つの要因もあります。殺菌剤などの土壌消毒で微生物が死滅すると、菌体から還元性のある糖(還元糖)が溶け出します。その糖がマンガンを還元し、植物が吸収できる「二価マンガン」として急増します。周辺の作物がそれを一気に吸収することで、マンガン過剰症が起きるのです。
対策としては、防除体系にマンガンを含まない殺菌剤を組み込むことが有効です。黒点病などの防除でマンガン系農薬をよく使っている場合は、代替農薬の導入を検討しましょう。また、マンガンを含む葉面散布剤との重複使用も避けることが原則です。
熊本県農政部:葉面吸収によるカンキツのマンガン過剰症(殺菌剤連用との関連を実証した研究報告)
土壌消毒は病害虫対策として有効な手段ですが、消毒後にマンガン過剰症が発生しやすくなることはあまり知られていません。これは昔から農業現場で経験的に知られていた現象ですが、近年そのメカニズムが明らかになっています。
仕組みはこうです。熱水消毒・蒸気消毒・太陽熱消毒・薬剤消毒などによって土壌中の微生物が死滅すると、菌体から還元性のある有機酸や糖が溶け出します。それがマンガンを可溶化し、交換性マンガン濃度が急上昇します。作物の根がそれを一気に吸収することで、過剰症が現れます。
重要な点は、この現象は「土壌pHと微生物バイオマスがともに低い土壌」で特に起こりやすいということです。つまり、もともと酸性気味で微生物が少ない圃場で消毒すると、3週間以上にわたって交換性マンガンが高い状態が続くことが確認されています。逆に、pHと微生物バイオマスが適正な土壌では、3週間程度で元の水準に戻ることも示されています。
この知識を活かした対策は次の通りです。消毒前にpHを6.0〜6.5程度に調整しておくことが最重要です。土壌消毒後の定植は消毒から3〜4週間以上あけることも有効です。また、微生物活性の高い良質な堆肥を施用し、土壌生物性を高めておくことで、消毒後の回復を早めることができます。
施設栽培では定期的な土壌消毒が避けられない場面が多いため、消毒前後のpH管理を特に意識することが大切です。
タキイ種苗・タキイ最前線2010夏号:植物の生理障害〜マンガンによる障害(土壌消毒後のマンガン過剰メカニズムを詳細解説)
圃場で症状を見つけたとき、素早く判断できるかどうかが対策のスピードを左右します。マンガン過剰症の症状は作物によってやや異なるため、押さえておきましょう。
まず共通して見られるのが、下位葉から発生する黒褐色・赤紫色・チョコレート色の斑点です。葉脈の一部に壊死斑が現れ、進行すると葉脈沿いに広がります。茎・葉柄・葉裏の毛の基部がチョコレート色や黒っぽく変色するのも特徴的なサインです。
これが確認できたら要注意です。
作物別に見ると、以下の特徴があります。
- 🥒 キュウリ・スイカ:下位葉葉脈に黒褐色の壊死斑、茎の毛茸基部に黒褐色斑点
- 🍈 メロン:上位葉の萎縮・奇形化・葉脈褐変、下位葉のかさぶた状褐色斑点、茎・葉柄の褐色すじ
- 🌿 コマツナ:下葉の周辺が枯死、カッピング症状(葉の周辺が縁取るように枯死)
- 🍊 ミカン:葉先の赤褐色斑点、葉柄を残した落葉
- 🌾 ネギなど強耐性作物:上位葉の黄化(過剰症に強い植物に出やすい症状)
マンガン過剰症と鉄欠乏症は見た目が似ています。上位葉の黄白化はどちらにも現れますが、マンガン過剰が原因で鉄の吸収が阻害されていることが多いため、両方が同時に起きることもあります。下位葉の斑点と上位葉の黄化が同時にある場合は、マンガン過剰を疑う根拠になります。
葉の分析値では、マンガン濃度1,000ppm以上で過剰の可能性が高くなります。ただし、マンゼブなどマンガンを含む農薬を散布している場合は分析値が高く出るため、土壌由来の過剰との判断には注意が必要です。土壌の交換性マンガンが10ppmを超える場合は過剰症リスクが高い状態です。
北海道農業研究センター:微量要素の過剰症(スイカ・キュウリ・メロンでの症状写真と発生条件の詳細)
マンガン過剰症の根本対策はpH管理です。
これが基本です。
土壌pHが低いほどマンガンの溶解性が急激に高まるため、pHを適正範囲(6.0〜6.5)に保つことが最も効果的な予防・対策になります。目安として、pH5.5を下回ったら対策を検討し、pH5.0以下では早急な矯正が必要です。
すでに過剰症が出ている場合の緊急対応として、島根県農業技術センターは「水1リットルに生石灰2g(消石灰なら10g)の割合で懸濁させた液を、作物体にかからないよう株元にかん水する」という方法を紹介しています。症状が軽いうちなら、これで一時的に土壌pHを上げてマンガンの可溶化を抑えることができます。
次作に向けた本格的な対策としては、石灰質資材の施用が中心になります。
主な選択肢は以下の通りです。
| 資材 | 特徴 | 使用場面 |
|---|---|---|
| 消石灰 | 速効性が高い、強アルカリ | 緊急のpH矯正が必要な場合 |
| 苦土石灰 | マグネシウムも補給、穏やかな矯正 | 一般的なpH調整 |
| 炭酸カルシウム(炭カル) | 穏やかに作用、過剰矯正しにくい | 予防的施用 |
| ケイ酸カルシウム | pHを上げながらケイ素も補給 | 過剰症の軽減に特に効果的 |
石灰の施用量は、pH1単位上げるために10a(1,000㎡・約30m×33mの面積)あたり消石灰で60〜100kg程度が目安です。ただし、過剰な石灰施用は逆にマンガン・鉄・ホウ素などの欠乏を誘発するため、土壌診断に基づいた施用量の設定が原則です。
施用は作物の定植・播種の2〜3週間以上前に行い、よく耕うんして土壌と混和させましょう。
pH管理と並んで重要なのが排水管理です。
排水が悪いと対策の効果が半減します。
土壌が過湿な還元状態になると、酸化マンガン(水に溶けにくい形)が還元されて二価マンガン(水に溶けやすい形)として大量に溶け出します。
これがそのまま作物に吸収されてしまいます。
排水不良の水田転換畑でメロンのマンガン過剰症が多発する事例は、このメカニズムで説明されています。
また、冠水後や大雨が続いた後は特に注意が必要です。一時的に還元状態になった土壌では、マンガン溶出が急増するためです。
具体的な排水改善の方法としては、高畝(たかうね)の設置、明きょ(地表排水用の開放溝)、暗きょ(地下排水のためのパイプ)の整備が有効です。高畝は畑面の水はけをよくするだけでなく、作土を酸化状態に保つ効果もあります。
土壌を乾燥気味に管理するという観点も重要です。過湿にならないよう灌水管理を見直すだけで、マンガン溶出リスクを下げることができます。特に施設栽培では、灌水量を細かく調整しやすい環境が整っていますので、過湿にならないよう注意しましょう。
マルチ被覆によって土壌水分の急激な変動を防ぐことも、間接的な予防策として効果があります。土壌水分を安定させることで、還元状態への急変リスクを下げます。
これは使えそうです。
農研機構:排水改善処理によるメロンの水やけ症およびマンガン過剰症の軽減(排水改善の実証データ)
pH矯正と排水改善の次に注目したい対策が、ケイ素の施用です。ケイ素には、植物の細胞壁に取り込まれたマンガンを不溶化し、過剰害を軽減する働きがあります。
酸性土壌でマンガン過剰になっている圃場では、pH矯正と同時にケイ酸カルシウムやケイ酸加里を活用することが効果的です。ケイ酸カルシウムはpHを上げる効果とケイ素補給の両方の効果を持つため、一石二鳥の資材といえます。
ケイ素は水稲栽培では古くから使われてきた資材ですが、施設野菜や果樹への応用も近年広がっています。特に施設栽培で連作が続いている圃場では、ケイ素が不足しがちになるため、積極的な補給が病害虫耐性の向上にもつながります。
施用量の目安は10aあたりケイ酸カルシウムで200〜300kgが一般的ですが、土壌診断でケイ酸の含有量を確認したうえで判断することが大切です。石灰資材と同様、過剰施用はpH過上昇を招く可能性があるため注意が必要です。
ケイ酸カルシウムは農協や農業資材店で一般的に取り扱われており、土壌改良資材として広く普及しています。購入前に地元の農業改良普及センターや農業試験場に相談することで、圃場の状態に合った施用量の具体的なアドバイスが得られます。
サンビオティック:植物とマンガン(ケイ素によるマンガン過剰害の軽減メカニズムを詳しく解説)
堆肥を入れれば土が豊かになる。多くの農業者が持つ常識ですが、マンガンに関しては注意が必要です。
厳しいところですね。
有機質資材を適切に施用すると、土壌の緩衝作用が高まり、マンガン過剰症を抑える方向に働く面があります。これは、土壌微生物(マンガン酸化菌)の活性が高まることで、可溶性マンガンを酸化・不溶化するからです。
一方で、未熟な有機物(未熟堆肥・生わらなど)を大量に施用した場合は逆効果になります。未熟有機物の分解過程で発生する還元性の有機酸がマンガンを可溶化し、過剰症を引き起こすことがあります。有機物が多い圃場で透水性が悪い場合は、特にマンガン過剰害が発生しやすいと北海道農業研究本部でも報告されています。
つまり、堆肥の「熟度」が重要ということです。十分に腐熟した良質の堆肥を適量使えばプラスに働き、未熟な有機物を多投入するとマイナスになる場合があります。堆肥の品質を確認したうえで施用量を決めましょう。
さらに、堆肥を多用する場合は土壌中のマンガン動態が複雑になるため、定期的な土壌診断が不可欠です。ヤサキの調査では、カーネーション栽培でカヤ堆肥を毎作連用すると、10作(連作年数)程度まで交換性マンガンが増加し、17作以降から欠乏域に転じるという長期的な変動も確認されています。
マンガン過剰症の被害を最小限にするためには、症状が出てから対処するのではなく、土壌診断で先手を打つことが大切です。
これが原則です。
土壌診断で確認すべき主な項目とその目安値は以下の通りです。
| 診断項目 | 適正値・目安 | 過剰症リスクの基準 |
|---|---|---|
| 土壌pH | 6.0〜6.5 | 5.5以下で要注意、5.0以下で高リスク |
| 交換性マンガン | 5〜10ppm | 10ppm超で過剰症が出やすい |
| 易還元性マンガン | — | 300ppm超で高リスク |
年に1回以上の土壌診断を習慣にすることで、pHの低下傾向や交換性マンガンの上昇を早期につかめます。特に施設栽培や連作が続く圃場では、半年に1回程度の診断が理想的です。
土壌診断はJAや農業改良普及センター、都道府県の農業技術センターなどで受けることができます。費用は自治体によって異なりますが、無料〜数千円程度で実施しているケースが多いです。
重要な注意点として、土壌の交換性マンガン測定は「生土(採取後すぐの土)」で行う必要があります。タキイ種苗の研究によると、土壌を乾かして保存すると交換性マンガンが増加する性質があるため、風乾土で測定するとあたかもマンガンが十分あるように見えてしまいます。採取した土はなるべく早く分析に出しましょう。
水田を畑に転換したほ場(水田転換畑)は、マンガン過剰症が特に発生しやすい環境です。なぜかというと、水田の土壌は常に湿潤・還元状態が続いてきた歴史があり、大量の易還元性マンガンが蓄積していることが多いためです。
転換後に畑として使い始めると、まず土壌が酸化方向に転じ、一見問題なく見えます。しかし、透水性が悪いまま作物を栽培すると、降雨のたびに局所的な還元状態が生まれ、マンガンが急激に溶出します。北海道のメロン産地で水田転換畑でのマンガン過剰症が散発的に問題になっているのは、まさにこのメカニズムです。
水田転換畑での特有の対策としては、まず暗きょ排水や高畝栽培の導入で排水性を徹底的に改善することが最優先です。次に石灰質資材(消石灰・炭酸カルシウム)でpHを6.0以上に矯正し、土壌を酸化的な状態に維持します。転換初年度は特にリスクが高いため、土壌診断を事前に実施して易還元性マンガン量を確認しておくことが推奨されます。
また、転換畑では鉄欠乏(老朽化水田の特徴)とマンガン過剰が同時に問題になるケースもあります。上位葉の黄白化(鉄欠乏)と下位葉の斑点(マンガン過剰)が同時にある場合は、転換畑特有の複合障害である可能性が高いです。
こうち農業ネット:オクラのマンガン過剰症(高畝・排水改善による対策と酸性土壌矯正の具体的方法)
圃場でマンガン過剰症の症状を発見した場合、できるだけ早く応急処置を行いましょう。
早いほど被害が少なくて済みます。
まず土壌を乾燥気味に管理することが即効性のある対処です。過湿状態が続いているなら灌水を一時停止し、土壌の還元状態を緩和することを優先します。マルチを外して通気を確保するのも効果的な場面があります。
次に石灰液のかん水です。水1リットルに対して生石灰2g(または消石灰10g)を懸濁させ、作物にかからないよう株元に流し込みます。これで土壌pHを一時的に上げ、マンガンの溶出を抑えます。症状が軽いうちに行うほど効果が高く、病状の進行を止めることができます。
作物側へのアプローチとして、鉄欠乏の誘発に備えてキレート鉄の葉面散布も検討できます。マンガン過剰は鉄の吸収を阻害するため、鉄欠乏症が二次的に出ている場合は合わせて対処することが有効です。硫酸第一鉄や硫酸第二鉄の溶液を葉面散布することで回復を助けます。
根本的な対策は次作以降の土壌改良になりますが、当作での被害軽減には上記の応急処置を組み合わせることが現実的です。農業改良普及センターに相談しながら対応方針を決めることも、迷ったときの有効な選択肢です。
群馬県農業情報センター:要素欠乏・過剰症の見分け方と対策(各要素の緊急対処法を一覧で確認できる)
実はすべての作物がマンガン過剰症に同じように反応するわけではありません。品種や種類によって耐性に大きな差があります。
過剰症が出やすい(感受性が高い)作物としては、スイカ・キュウリ・メロン・コマツナ・カーネーションなどが挙げられます。これらは低濃度のマンガン過剰でも下位葉の斑点症状が比較的早く現れます。
一方で、過剰症に対して比較的強い(耐性が高い)作物には、ネギが挙げられます。ネギはマンガン過剰でも下位葉の黒褐色斑点は出にくく、代わりに上位葉の黄化として現れるため、症状が出ていても気づきにくい場合があります。
作物が違うということですね。
また同じ作物でも、品種間で耐性に差があることが知られています。特に施設栽培では、品種選択が栽培リスクの軽減に直結します。種苗メーカーのカタログや農業試験場の品種特性一覧で、耐病性・耐環境ストレス性の情報を確認することをお勧めします。
マンガン過剰症が発生しやすいほ場では、感受性の高い作物を避けるか、輪作体系を工夫することも現実的な選択肢です。同じほ場に毎年同じ感受性の高い作物を連作することは、マンガン過剰症リスクだけでなく土壌健全性全体の低下にもつながります。
マンガン過剰症の現場でよく起きるのが、鉄欠乏症との混同です。どちらも葉の黄化を引き起こすため、症状だけで判断するのは難しい場面があります。誤診すると適切な対処が遅れるため、見分け方を押さえておきましょう。
鉄欠乏症は「新葉(上位葉)から黄白化が始まる」のが特徴です。葉緑素の生成に鉄が必要なため、新しく出てきた葉ほど影響を受けます。葉脈は緑のままで、葉脈間だけが黄化するクロロシス症状が典型です。
マンガン過剰症は「下位葉(古い葉)から黒褐色・赤紫色の斑点が現れる」のが特徴です。ただし、マンガン過剰が進行すると鉄の吸収が阻害され、上位葉の黄白化(鉄欠乏症状)が二次的に出ることがあります。つまり、「下位葉に黒褐色斑点+上位葉の黄白化」が同時に起きている場合は、マンガン過剰由来の複合症状である可能性が高いです。
判断に迷ったときは、鉄欠乏であれば硫酸第一鉄などのキレート鉄を葉面散布することで数日で症状が改善します。改善しなければマンガン過剰由来の可能性を再検討します。また、土壌分析で交換性マンガンとpHを確認することが確定診断への近道です。
見分けが難しい場合は、農業改良普及センターや農業試験場の専門家に相談することが確実です。症状の写真と土壌情報(pH・施用履歴など)を準備して相談すると、より正確なアドバイスが得られます。
これまでの対策をバラバラに行うのではなく、年間の土壌管理スケジュールに組み込むことで、継続的にマンガン過剰症を予防できます。
これが条件です。
以下は施設栽培を例にした年間管理の考え方です。
作付け前(定植・播種の1〜2ヶ月前)
- 土壌診断の実施(pH・交換性マンガン・易還元性マンガン)
- pH5.5以下なら石灰質資材を施用してpH6.0〜6.5に矯正
- ケイ酸カルシウムの施用(酸性圃場・マンガン過剰圃場)
- 腐熟堆肥の施用(未熟堆肥は避ける)
作付け中
- 土壌が過湿にならないよう灌水管理
- マンゼブ・マンネブなどマンガン含有農薬の散布頻度を記録し、マンガンを含まない代替農薬と組み合わせる
- 症状が現れたら早期に土壌乾燥管理と石灰液かん水を実施
作付け後・土壌消毒前後
- 土壌消毒前にpHを6.0以上に調整しておく
- 消毒後3〜4週間は定植を避け、微生物による回復を待つ
- 次作に向けた排水改善工事(高畝・暗きょ)の見直し
冬季・休閑期
- 土壌診断の再確認(翌作に向けた改良計画立案)
- 排水改善工事の実施
- 輪作計画の見直し(感受性の高い作物の連作回避)
年間を通じてこのサイクルを回すことで、マンガン過剰症の発生リスクを大幅に下げることができます。
これまで紹介してきた対策はいずれも「pH管理・排水改善・資材施用」という物理・化学的アプローチです。しかし近年、より根本的な観点から注目を集めているのが、土壌中の「マンガン酸化菌」を活用するアプローチです。
マンガン酸化菌とは、土壌中の可溶性マンガン(二価マンガン)を酸化し、水に溶けにくい酸化マンガンに変換する微生物群です。土壌の生物性が豊かな圃場では、これらの菌が自然にマンガンの溶出を抑制し、過剰症を防いでいます。
土壌消毒や農薬の多用、有機物の枯渇によってこれらの微生物が減少すると、マンガンの溶出抑制能が失われ、過剰症リスクが高まります。逆に言えば、腐熟堆肥の施用・緑肥の活用・土壌消毒後の早期微生物回復(バイオスティミュラントの活用など)によってマンガン酸化菌を増やすことが、長期的なマンガン過剰症予防になるわけです。
土壌生物性の指標として「微生物バイオマス量」を測定する土壌診断サービスも登場してきており、物理・化学的な指標だけでなく生物的な観点から土壌健全性を評価する時代が来ています。農業改良普及センターや農業試験場でこのような診断メニューが増えていますので、一度相談してみると新しい発見があるかもしれません。
化学的な管理だけでなく、土壌微生物との共生という視点を加えることで、マンガン過剰症対策をより安定したものにできます。これは今後の農業において非常に重要な考え方です。
植物のミカタ(saitodev):意外なところからのマンガン過剰(土壌微生物とマンガン可溶化の関係を詳しく解説)
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