鉄肥料をいくら与えてもクロロシスが治らないことがあります。
クロロシスとは、植物の葉緑素(クロロフィル)が不足して葉が黄色〜黄白色に変色する生理障害です。 葉緑素は光合成に不可欠な成分のため、これが失われると糖の合成ができなくなり、作物全体の生育が著しく落ち込みます。tama5ya.co+1
症状が出る場所で、原因となる要素をある程度絞り込めます。鉄が欠乏すると新葉(上位葉)の葉脈間が黄白化し、マグネシウムが不足すると古い下位葉の葉脈間が退色するのが特徴です。 つまり「どこから黄化しているか」が診断の第一歩です。
クロロシスには大きく分けて、栄養不足・pH異常などによる「非感染性(機能性)クロロシス」と、ウイルスや細菌が原因となる「感染性クロロシス」の2種類があります。 感染性の場合は周囲の株にも広がるため、早期に罹患株を除去する必要があります。
参考)クロロシス:原因と治療、何をすべきか、どのように治療するか、…
農業現場で圧倒的に多いのは、非感染性のクロロシスです。
| 欠乏要素 | 症状が出る場所 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 鉄(Fe) | 新葉・上位葉 | 葉脈は緑色のまま、葉脈間が黄白化 |
| マンガン(Mn) | 新葉・葉脈間 | 葉脈に沿って緑が残り、間の部分が淡緑〜黄化 |
| マグネシウム(Mg) | 古い下位葉 | 葉脈間が退色、進行するとネクロシス(組織枯死) |
| 窒素(N) | 下位葉全体 | 葉全体が淡緑〜黄化、生育不良 |
「土壌に鉄やマンガンは十分あるのに、なぜクロロシスが出るのか」と疑問を持つ農業者は少なくありません。
結論はpHです。
参考)[397]クロロシス対策
土壌pHが7.0を超えてアルカリ性に傾くと、鉄・マンガン・亜鉛・銅といった微量要素が水に溶けにくい「不溶性」の状態になり、植物の根が吸収できなくなります。 いくら施肥しても、pH環境が整っていなければ効果はほぼゼロ。これが「肥料を与えても治らない」状況の正体です。
参考)クロロシス 回復
実際にイチゴの高設栽培では、培土のpHが7.0を超えると新葉に鉄・マンガン欠乏によるクロロシスが現れ、収量への影響が甚大だと報告されています。
pH管理が条件です。
逆に、土壌が酸性すぎる場合はマンガンが過剰に溶け出し、過剰症による新葉のクロロシスを引き起こすこともあります。 欠乏と過剰が同じ症状に見えるため、やみくもに施肥するのは危険です。
参考)マンガン過剰
対策として、アルカリ性の圃場には硫黄粉やピートモスを混和してpHを下げる方法が有効です。 まず土壌検査でpHと微量要素の含有量を確認する、という一手が、無駄な施肥コストを大幅に節約してくれます。
バラのクロロシス発生事例を調査した研究では、株元の土壌pH7.3・鉄含有率55ppmという状態で深刻な鉄欠乏性クロロシスが確認されました。 pH7.3という数値は、感覚的には「少し高め」程度ですが、鉄の吸収を完全に妨げるには十分な高さです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecb1963/22/2-3/22_2-3_47/_pdf
農家が現場で最も混同しやすいのが、鉄欠乏とマンガン欠乏のクロロシスです。
意外ですね。
どちらも新葉の葉脈間が黄化するため、見た目だけでは判断が難しいことがあります。
区別のポイントは「黄化の程度と進行速度」にあります。
参考)https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/aha/seiri/tetsu_ketsubou/
マンガン欠乏かどうかを土壌で確認する目安として、土壌の易還元性マンガンが50ppm以下、交換性マンガンが2ppm以下になると欠乏症が発生しやすい状態です。 これはA4用紙の紙粒を1枚の面積に換算したような極めて微量の世界です。
参考)島根県:マンガン欠乏症(Mn欠乏症)(トップ / 農業技術セ…
感染性クロロシスとの見分けも重要です。
感染性クロロシスは特定の株に集中して出るのではなく、有害昆虫が媒介することで隣接する株へと拡散していきます。 症状が一か所に固まっている場合は土壌・栄養由来、散点的に広がっている場合はウイルス・細菌由来を疑いましょう。
クロロシスが出たとき、最も迅速に改善効果を期待できるのがキレート鉄の葉面散布です。 鉄・マンガンは植物体内での移行性が低いため、土壌への施肥よりも葉から直接吸収させる方が速効性があります。gardening+1
キレート鉄とは、鉄イオンをキレート剤(EDTAやDTPAなど)で包み、水に溶けやすく安定した状態にした肥料のことです。 普通の鉄粉や錆びた鉄を土に混ぜても植物はほぼ吸収できず、効果は期待できません。植物はイオン化して水に溶けた鉄しか取り込めないからです。note+1
根腐れやpH異常で根が機能していない状況でも、葉面散布であれば葉の気孔やクチクラ層を通じて直接体内に鉄を送り込むことができます。
これは使えそうです。
葉面散布を行う際の注意点は以下のとおりです。
養液栽培においてはEDTA鉄(養液に直接溶かして使うキレート鉄)が広く使われていますが、タンクに微量要素を追加するだけでは最善策とは言えません。 根本的なpH管理が伴わないと、追加した鉄も不溶化してしまうためです。
農業試験場の研究では、植物が吸収しやすい「二価鉄」を葉面散布したところ、葉色が回復し、病原体の減少まで確認できたケースが報告されています。 鉄の「形態」を意識するのが、回復を早める鍵です。
参考:カンキツのクロロシス改善と鉄散布の効果についての事例報告
鉄の投与によるカンキツグリーニング病症状への改善効果 - WINEP
施肥やpH調整でクロロシスが一度治まっても、同じ圃場で繰り返し症状が出る場合があります。再発防止に最も見落とされているのが、根域(根が張る土壌環境)そのものへのアプローチです。
水はけの悪い圃場では、土壌が還元状態になりやすく、マンガンが過剰に溶け出してクロロシスを引き起こします。 逆に過乾燥や高温で根の活性が下がると、pHが適正でも養分を吸収できなくなります。 つまり、pHを整えるだけでは不十分なことがあります。shuminoengei+1
具体的な根域整備の手順は次のとおりです。
クロロシスが特定の作物でのみ急速に進む場合は、その作物の「耐性の低さ」が関係しています。 品種選択の時点でクロロシス耐性を考慮しておくことも、長期的な損失を防ぐ有効な手段です。
土壌の易還元性マンガンや交換性マンガンの数値は、年1回の土壌診断で確認できます。 診断コスト数千円の投資が、収量ロスや無駄な施肥費用の削減につながるという認識で取り組むと、費用対効果は非常に高くなります。
参考:島根県農業技術センターによるマンガン欠乏症の詳細データと散布・施肥の基準値
マンガン欠乏症(Mn欠乏症) - 島根県生理障害データベース
参考:タキイ種苗による鉄欠乏の症状と水耕栽培での再現実験データ
病害虫・生理障害 - 鉄欠乏 | タキイ種苗