日本では過去100年あまりで年平均気温が約1.3℃上昇し、気候変動現象が水稲をはじめ多くの作物に高温障害として現れています。
具体的には登熟期の高温による白未熟粒や腹白米の増加、果樹の日焼け・着色不良、野菜の生育遅延や奇形果の増加など、収量と品質の両面に負の影響が出ています。
また、短時間強雨や線状降水帯の頻発により、水田・畑地の冠水、斜面地の土砂災害、施設園芸ハウスの倒壊といった被害も増加傾向にあります。
参考)異常気象等に対する各種対策事例|農業者の皆さま|JA共済
一方で、積雪期間の短縮や一部地域での低温被害の減少など、作付期間の拡大や暖地向け品種の導入可能性といった「正の影響」も観測されており、地域によっては作目構成の見直しが新たなチャンスにもなり得ます。
参考)https://www.env.go.jp/content/000167604.pdf
病害虫の発生ステージにも変化が見られ、越冬数の増加や発生時期の前倒し・長期化により、従来の防除暦が通用しないケースが増えています。
参考)分野別影響&適応
その結果、防除回数の増加によるコスト・労力負担、薬剤抵抗性の問題、さらには有機農業や減農薬栽培の難易度上昇など、現場の意思決定が一段と複雑になっています。
参考)農業分野における気候変動への適応
地球温暖化に伴い、これまで冷涼地が主産地だった作物が中山間から平野部へ、あるいは南から北へと栽培適地をシフトさせる動きが報告されています。
例えば、従来はリンゴやブドウなどの落葉果樹に適した地域で、着色不良や休眠打破不良が増え、代わりに暖地性のカキやキウイフルーツなどへの品目転換が議論されるケースが出ています。
水稲では、高温登熟に強い品種への切り替えが各地で進められ、「コシヒカリ系一辺倒」から高温耐性を重視した複数品種の組み合わせ栽培に移行しつつあります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/kikohendo_tekio_all.pdf
さらに、登熟期をずらすための晩生品種の導入や作期移動(遅植え・早植え)、直播栽培の活用など、品種と栽培技術を組み合わせた適応策が研究機関の試験だけでなく現場レベルにも広がっています。
参考)【農林水産省に聞く】農業分野における気候変動の影響の実態と、…
野菜・花き分野では、耐暑性に優れた品種開発に加え、遮光ネットや反射シート、ミスト散水などとの組み合わせで、夏場の品質確保と作業者の熱中症リスク低減を両立させる取り組みが注目されています。
参考)みやぎの気候変動に適応した農業技術情報サイト+
これらの動きは「適地適作」という考え方を、固定されたものではなく、気候変動現象を前提に時間とともに変化していく動的な概念として捉え直す必要があることを示しています。
参考)地球温暖化による乾燥化の影響とは!?農作物への影響も解説|環…
農林水産省や地方自治体は、気候変動に適応した営農技術として、排水対策や用水管理の強化、防風林・防災施設の整備など、生産基盤の強靱化を重要な柱に位置づけています。
例えば、水田の雨水貯留機能を高める「田んぼダム」は、洪水調節だけでなく、渇水期の用水確保や田面水温の緩和にも寄与し、気候変動現象による水管理リスクを分散する手段として評価されています。
個々の農家レベルで実践しやすい技術としては、以下のようなものがあります。
参考)https://www.affrc.maff.go.jp/docs/report/pdf/no23.pdf
また、異常気象後の迅速な圃場見回りと応急措置(倒伏株の起こし、排水路の確保、病害の早期発見など)を「ルーチン」として仕組みに組み込むことで、被害の長期化や二次被害を防ぐことができます。
営農計画の段階で、複数作目によるリスク分散や収穫時期の分散を図っておけば、単一作物への気候ストレス集中を和らげ、天候不順年でも収益の底割れを防ぐことにつながります。
近年は、予測不能な気象変動に対応するため、AIやロボットを活用したスマート農業が急速に普及しつつあり、気候変動現象への適応を後押ししています。
例えば、収穫ロボットに生育センサーを搭載し、圃場の温度・湿度・日射量と生育状況を同時に記録することで、「どのような気象条件で品質が落ちるのか」を定量的に把握し、最適な収穫タイミングをAIが提案する仕組みが実用化されています。
衛星画像やドローン・IoTセンサーから得られるデータを組み合わせ、異常高温や干ばつ、豪雨リスクを事前に把握して灌水・追肥・防除のタイミングを調整する事例も増えています。
参考)農業・林業・水産業 | 気候変動適応とは | 気候変動適応情…
これにより、これまで経験と勘に頼っていた気象対応を「見える化」したうえで、数値に基づき対策を打つことができ、作業計画の平準化や労務管理の改善にも波及効果が出ています。
また、気候変動現象を踏まえた「リスクマップ」を地域単位で共有し、共同防除や共同利用施設(貯水池、枝条粉砕機、堆肥センターなど)の整備計画に活かす動きも見られます。
参考)気候変動と農林水産業:農林水産省
このようなデータと組織的な取り組みを組み合わせることで、小規模な個別経営であっても、地域ぐるみで適応力を底上げすることが可能になります。
気候変動現象はリスクだけでなく、地域によっては新しい作目・ブランドづくりのチャンスとして捉えられ始めています。
暖冬傾向を活かして亜熱帯・熱帯作物を導入し、観光・加工・直売を組み合わせた「新しい産地づくり」を模索する事例も生まれ、従来の水稲中心から多角化した農業経営へと舵を切る動きが見られます。
また、気候変動リスクへの適応策を積極的に打ち出すことで、環境配慮型ブランドとして都市住民や企業との連携・契約栽培を拡大する可能性もあります。
参考)農業が地球温暖化に与える影響とは?温室効果ガス排出量の現状と…
たとえば、温室効果ガス排出削減や土壌炭素貯留に配慮した営農を実践し、その取り組みを可視化することで、カーボンクレジットやESG投資、企業のサプライチェーン見直しの中で「選ばれる産地」となる道が開けつつあります。
さらに、地域として気候変動適応の計画づくりに農業者が主体的に関わることで、農地保全や治水、防災といった公共的な役割への理解が深まり、農業と地域社会の関係性が強化される効果も指摘されています。
このように、気候変動現象を前提とした農業経営は、単なる「守りの対策」だけでなく、新たな価値創造や地域づくりの核になり得るかどうかが問われ始めているといえるでしょう。
農林水産省「気候変動と農林水産業」のページには、全国的な影響の整理と緩和策・適応策の方向性が分かりやすくまとめられており、基本情報の確認に役立ちます。
気候変動と農林水産業|農林水産省
国立環境研究所の気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」では、農業を含む各分野の影響評価と地域別の適応策の事例が整理されており、地域計画づくりの参考になります。
分野別影響&適応|気候変動適応情報プラットフォーム
農研機構の解説ページでは、水稲や果樹の高温障害メカニズムと具体的な適応技術(品種・栽培技術)が詳しく紹介されており、現場での対策検討に有用です。