園芸ハウスや農業用パイプハウスを導入する際、または維持管理をする上で最も頭を悩ませるのが、被覆資材である「ビニール」の選び方です。ホームセンターや農業資材店に行くと、多種多様な製品が並んでおり、価格もピンからキリまであります。「とりあえず安いものを」と選んでしまうと、すぐに破れてしまったり、光線透過率が悪くて作物の育ちが悪くなったりと、結果的にコストが高くつくことも少なくありません。
まず、園芸ハウスに使われるビニールは、大きく分けて以下の2つの主要な種類に分類されます。それぞれの特性を理解することが、失敗しない選び方の第一歩です。
これらは見た目は似ていますが、化学的な性質や物理的な特徴、そして価格帯が大きく異なります。以下の比較表を参考に、ご自身の栽培スタイルや予算に合った資材を選定してください。
| 特徴 | 農ビ(塩化ビニル) | 農PO(ポリオレフィン) |
|---|---|---|
| 価格 | 比較的安価 | 農ビより2〜3割高い |
| 重量 | 重い(ズッシリしている) | 軽い(作業性が良い) |
| 保温性 | 非常に高い | 製品によるが農ビよりやや劣る場合も |
| べたつき | あり(汚れが付きやすい) | なし(サラサラしている) |
| 耐用年数 | 約1〜2年 | 約3〜5年(長期展張が可能) |
| 伸縮性 | あり(展張しやすい) | 少ない(硬め) |
農ビの特徴と選び方
昔ながらの農業用ビニールハウスで最も普及しているのが「農ビ」です。最大の特徴は、その「しなやかさ」と「保温性」です。素材自体に適度な伸びがあるため、ハウスのパイプ形状に馴染みやすく、初心者でも比較的きれいに張ることができます。また、夜間の放熱を抑える力が強いため、冬場の加温栽培や、無加温での越冬栽培には非常に適しています。
しかし、欠点として「汚れやすさ」と「寿命の短さ」が挙げられます。可塑剤が含まれているため表面が少しベタつき、土埃が付着しやすくなります。これにより、数ヶ月使用すると光線透過率が落ちてくることがあります。価格は最も安い部類に入りますが、毎年のように張り替える手間とコストを考慮する必要があります。
農POの特徴と選び方
近年、プロの農家を中心にシェアを伸ばしているのが「農PO」です。こちらは農ビに比べて価格は高くなりますが、耐候性が高く、一度張れば3年から5年は張り替え不要という「寿命の長さ」が魅力です。また、素材が軽く、ベタつきがないため、ホコリが付きにくく、長期間にわたって高い透明度を維持できます。
選び方のポイントとしては、張りっぱなしにする「長期展張」を考えるなら間違いなく農POがおすすめです。一方で、冬の間だけトンネル被覆として使いたい、あるいは初期投資を極限まで抑えたいという場合は、農ビが選択肢に入ります。最近の農POは、多層構造にすることで保温性を農ビ並みに高めた製品も増えており、予算が許すなら農POを選ぶのが現代のスタンダードと言えるでしょう。
耐用年数と特徴の違いについてさらに詳しく知る(イノチオアグリ)
上記のリンク先では、プロの視点から見た耐用年数の詳細な比較データが掲載されており、コストパフォーマンスの計算に役立ちます。
園芸ハウスのビニールは、ただ被せるだけでは風で簡単に飛ばされてしまいます。適切な「固定」と、効率的な「張り替え」の手順を知ることは、ハウスを守るために不可欠です。ここでは、プロが行っている張り替えのコツと、使用すべき専用資材について深掘りします。
固定に必要な必須資材
ビニールをパイプに固定するためには、専用の器具が必要です。洗濯バサミのような簡易的なものでは、強風に耐えられません。
張り替えの極意:温度とタイミング
ビニールの張り替え作業において、最も重要なのは「天気」と「気温」です。特に農ビを使用する場合、気温の影響を大きく受けます。
冬場の寒い時期に張り替えを行うと、ビニールが硬くなっており、十分に引っ張ることができません。その状態で春になり気温が上がると、ビニールが熱で伸びてしまい、ブカブカにたるんでしまいます。たるんだビニールは風でバタつき、パイプと擦れてすぐに穴が開いてしまいます。
逆に、夏の暑い盛りに強く張りすぎると、冬になって気温が下がった際にビニールが収縮し、過度なテンションがかかって破れる原因になります。理想的な張り替えのタイミングは、「風のない、晴れた日の午前中から昼にかけて」です。太陽の熱でビニールを少し温め、柔らかくなった状態で適度なテンションをかけて張るのがコツです。
一人でもできる張り替えのステップ
本来は複数人で行うのが安全ですが、小型の園芸ハウスなら一人でも可能です。以下の手順を守ることで、スムーズに作業が進みます。
写真付きでわかるビニールハウスの組み立てと張り方(コメリ)
こちらのページでは、実際の作業風景が写真付きで解説されており、パッカーやスプリングの具体的な使い方が視覚的に理解できます。
家庭菜園や小規模な農業で使用される「小型」の園芸ハウスにおいて、意外と見落とされがちなのが「ビニールの厚み」と「寿命」の関係です。ホームセンターで安売りされているセット品のハウスには、非常に薄いビニールが使われていることが多く、これが「すぐに破れる」原因の筆頭です。
厚みは0.025mmの差が決定打になる
一般的な農業用ビニールの厚みは、主に以下の3種類が流通しています。
小型の園芸ハウスであっても、最低でも0.1mmの厚みを選ぶことを強くおすすめします。たった0.025mmの差ですが、対候性と引裂強度は段違いです。特に小型ハウスは、大型の鉄骨ハウスに比べて骨組みが華奢(きゃしゃ)であることが多く、風を受けた際の揺れが大きくなりがちです。ハウス自体が揺れると、ビニールとパイプの接点(擦れ)に大きな負荷がかかります。薄いビニールはこの「擦れ」に弱く、骨組みの揺れによって簡単に穴が開いてしまうのです。
小型ハウス特有の寿命リスク
大型の農業用ハウスは、屋根の勾配やパイプの太さが計算されており、風を効率よく逃がす構造になっています。しかし、DIYで作った小型ハウスや簡易キットの園芸ハウスは、風の抵抗をまともに受けやすい形状のものが多く存在します。
また、小型ハウスは住宅の庭や建物の隙間に設置されることが多く、ビル風のような局地的な突風に晒されるケースがあります。このため、農業の現場以上に「破れにくい厚み」が重要になるのです。
寿命を延ばすための裏技として、パイプがビニールに接触する部分に「遮熱テープ」や「保護クッション」を巻く方法があります。特に夏場、金属パイプは高温になり、接触しているビニール(特に農ビ)を熱で劣化させます(これを「焼け」と呼びます)。白い遮熱テープをアーチパイプの外側に貼っておくだけで、熱による劣化と摩擦による破れを同時に防ぎ、ビニールの寿命を1〜2年は延ばすことが可能です。
「農ビ」と「農PO」の違いについては、一般的に「重さ」や「ベタつき」、「耐用年数」ばかりが注目されがちです。しかし、実際に栽培を行う上で、作物の品質や病気の発生率に直結する、あまり知られていない重要な違いがあります。それは「水滴の付き方(流滴性)」と「光の質(分光特性)」です。
霧の発生と病気のリスク
ハウス栽培の大敵の一つに、過湿による病気(灰色かび病など)があります。実は、ビニールの種類によってハウス内の「湿度の感じ方」が変わります。
農ビは、素材自体が水と馴染みやすい性質(親水性)を持っています。そのため、ハウス内部で発生した結露は、フィルムの表面に薄い水の膜となって広がり、そのまま側面を伝って流れ落ちます。
一方、一般的な農PO(特に安価なものや古いタイプ)は、水滴を弾く性質が強いため、結露が大きな水玉となって天井に残ります。この水玉が作物の上にポタポタと落ちる(ボタ落ち)と、そこから病気が発生したり、葉焼けの原因になったりします。
さらに深刻なのが「霧(もや)」の発生です。朝方、気温が上がってきた時に、農POのハウス内では水滴が蒸発して「霧」が発生しやすい傾向があります。この霧が光を遮ったり、過度な湿潤状態を作り出したりします。これを防ぐために、最近の高性能な農POには「防霧(ぼうむ)加工」や特殊なコーティングが施されています。「農POなら何でもいい」ではなく、「流滴性が持続するコーティングタイプ」を選ぶことが、作物を病気から守る隠れたポイントです。
見えない光のコントロール
もう一つの意外な違いは、「紫外線(UV)」の通し方です。
一般的な農ビは、紫外線をある程度カットする性質を持っています。一方、農POの中には紫外線をよく通すものもあれば、完全にカットするものもあります。
例えば、ナスの果実が鮮やかな紫色になるには紫外線が必要です。紫外線をカットするタイプのビニールを使ってしまうと、ナスの色がボケて(首が白くなるなど)商品価値が下がってしまいます。逆に、トマトやキュウリなどの一部の作物では、紫外線をカットすることで害虫の活動を抑える効果が期待できます。
「園芸ハウスのビニール」を選ぶ際は、単に「丈夫かどうか」だけでなく、自分が育てたい野菜が「紫外線を必要とするかどうか」を確認し、それに対応したフィルム(UVカット有り無し)を選ぶという視点を持つと、ワンランク上の栽培が可能になります。
ハウス栽培における被覆資材の特性と光線透過率の関係(農業屋)
こちらでは、作物の種類に応じたフィルムの選び方や、光の透過率が与える影響について詳しく解説されています。

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