衛星リモートセンシング活用例を農業従事者が知る方法

衛星リモートセンシングの農業活用例を徹底解説。NDVI・植生指数を使った可変施肥で肥料費を約30%削減、病害虫の早期発見、収穫時期の予測など、圃場管理を劇的に効率化する方法とは?

衛星リモートセンシング活用例で農業の収益と効率を変える方法

衛星データを使った可変施肥では、定量施肥と同等以上の収量を保ちながら、追肥の窒素量を最大42%削減できた実証結果がある。あなたが今も圃場全体に同じ量の肥料を撒いているなら、毎年数万円単位で余分なコストを払い続けている可能性が高い。


衛星リモートセンシング 農業活用例 3つの要点
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NDVIで肥料コストを最大42%削減

衛星画像のNDVI値に基づく可変施肥では、収量を維持しながら追肥窒素量を大幅削減。ホクレン訓子府実証農場の3年間データで実証済み。

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センチネル2のデータは誰でも無料取得可能

ESA(欧州宇宙機関)が運用するセンチネル2の衛星データはインターネットで無償公開。解像度10m・5日に1回の頻度で日本全土をカバーしている。

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転作確認・収穫時期予測・病害虫管理に幅広く活用

行政手続きの転作確認では現地確認作業を約30%削減・コスト15%強削減の実績。収穫適期マップや病害虫リスク警報にも応用されている。

このページの目次
  1. 衛星リモートセンシング活用例で農業の収益と効率を変える方法
    1. 衛星リモートセンシングとは何か農業従事者が知っておくべき基本
    2. 衛星リモートセンシング活用例の核心NDVIと植生指数の仕組み
    3. 衛星リモートセンシング活用例①可変施肥で肥料費を最大42%削減する方法
    4. 衛星リモートセンシング活用例②水稲の食味品質を米タンパク質マップで管理する
    5. 衛星リモートセンシング活用例③転作確認業務を衛星で効率化した南相馬市の実証
    6. 衛星リモートセンシング活用例④病害虫の早期発見と発生予察マップへの応用
    7. 衛星リモートセンシング活用例⑤土壌診断と腐植含量マップで地力を「見える化」
    8. 衛星リモートセンシング活用例⑥水田の取水管理と作付面積の広域把握に使う方法
    9. 衛星リモートセンシング活用例⑦個人農家でも使えるサービスとスマートフォンアプリ
    10. 衛星リモートセンシング活用例⑧収穫適期マップで乾燥コストと収量ロスを同時に減らす
    11. 衛星リモートセンシング活用例で押さえておくべき独自視点:カーボンクレジットとの連携という新たな収益源
    12. 衛星リモートセンシング活用例を始めるための費用と補助金の実際
    13. 衛星リモートセンシング活用例の今後の展望と農業従事者が今すぐできること


衛星リモートセンシングとは何か農業従事者が知っておくべき基本


衛星リモートセンシングとは、人工衛星に搭載されたセンサーを使って、地上の農地や作物の状態を遠隔で観測・データ化する技術のことです。英語の「Remote Sensing(遠隔観測)」という言葉どおり、実際に圃場へ足を運ばなくても、宇宙の高度から作物の生育状況や土壌の状態を数値として把握できます。


センサーには大きく2種類があります。可視光や赤外線を捉える「光学センサー」と、マイクロ波を使う「レーダー(合成開口レーダー)」です。光学センサーは晴れた日に威力を発揮しますが、雲や霧がかかると観測精度が落ちるという弱点があります。一方のレーダーは天候に左右されないため、雨天時でも圃場の状態を把握できます。


つまり2種類の使い分けが基本です。


農業で使われる代表的な衛星には、ESA(欧州宇宙機関)の「センチネル2(Sentinel-2)」があります。センチネル2は2015年に打ち上げられ、現在2機がペアで運用中。日本の上空を5日に1回の頻度で観測し、観測幅は290kmと広く、1回の撮影で北海道と東日本の大部分をカバーできます。また、センチネル2のデータはインターネットで誰でも無料で閲覧・取得できます。


これは使えそうです。


他にも、米国NASAの「ランドサット(Landsat)」シリーズや、民間企業プラネット・ラブズ社の「プラネットスコープ(Planet Scope)」もあります。プラネットスコープは重量約6kgの超小型衛星を100機以上連携させた「衛星コンステレーション」方式により、地球の陸地をほぼ毎日観測できます。


ドローンとの違いも整理しておきましょう。


| 比較項目 | 衛星 | ドローン |
|---|---|---|
| 撮影タイミング | 周期的(軌道に依存) | 随時(天候次第) |
| 対象スケール | 圃場〜全球 | 植物個体〜農場 |
| 運用主体 | 外部機関・企業 | 自前または業者委託 |
| 過去データ取得 | 容易 | 蓄積が必要 |
| 天候制約 | 雲・霧(光学の場合) | 風・雨・航空法 |


衛星は圃場単位の詳細観測よりも、広域を長期的・繰り返し観測するのが得意です。農林水産省では、衛星リモートセンシングのデータを「戦略的データ」、ドローンデータを「戦術的データ」と位置づけており、それぞれの長所を活かした使い分けが推奨されています。


農研機構・農林水産省が解説するスマート農業における衛星リモートセンシングの基礎知識はこちらで確認できます。


農林水産省スマート農業オンライン講座「衛星リモートセンシングとは」(農林水産省PDF)


衛星リモートセンシング活用例の核心NDVIと植生指数の仕組み

衛星リモートセンシングが農業で役立つ最大の理由は、「植生指数(植生指標)」を計算できるからです。植生指数とは、衛星が捉えた光の反射データをもとに、作物がどれだけ元気かを数値で表したものです。


中でも代表的なのが「NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)」です。


$$NDVI = \frac{近赤外 - 赤}{近赤外 + 赤}$$


植物は光合成のために赤い光を吸収し、近赤外線は多く反射します。


この差を利用するのがNDVIです。


値は−1〜+1の範囲に収まり、茂った植生では+1に近くなり、植生のない土壌では0.3以下になります。端的に言うと、数字が大きいほど作物が元気ということです。


他にも以下の植生指数が農業現場で活用されています。


- GNDVI(緑色光を使ったNDVIの改良版):稲のタンパク質含量と関係が深く、米の食味品質管理に使われる
- EVI / EVI2(拡張植生指数):NDVIが飽和して差が出にくくなる繁茂期でも、生育量の差を捉えやすい
- レッドエッジ指数:可視光と近赤外の間の波長域を使い、初期段階の生育ストレスや病害の兆候を早期に検出できる


センチネル2はこれらの波長帯をすべてカバーしており、解像度10mで観測できます。解像度10mとは、1マスが10m×10mのグリッドで圃場を見ることができるということです。一般的な農家の水田1枚が1,000〜3,000㎡(縦横30〜55m程度)であることを考えると、1枚の圃場の中でも場所による生育のムラを捉えるのに十分な精度です。


植生指数を可視化することで、同じ圃場の中でも「どこの作物が元気で、どこが生育不良か」が地図(生育マップ)として一目でわかります。これが可変施肥や収穫時期予測など、あらゆる活用例の基盤となっています。


NDVIの農業活用を分かりやすくまとめたコラムはこちらです。


NDVIの農業における主な使われ方(GeoPita コラム)


衛星リモートセンシング活用例①可変施肥で肥料費を最大42%削減する方法

可変施肥とは、圃場内の生育ムラに応じて、場所ごとに施肥量を変える施肥方法です。衛星リモートセンシングで取得したNDVI値を使って生育マップを作成し、生育が悪い場所には多く、良い場所には少なく肥料を施すことで、無駄な肥料コストを削減しながら品質を安定させます。


ホクレン訓子府実証農場では、2018〜2020年の3年間にわたって秋まき小麦「きたほなみ」でセンチネル2による可変施肥の実証試験を実施しました。


その結果は以下のとおりです。


- 可変追肥の窒素量は定量区比 58〜77%(起生期を含む追肥合計では69〜81%)に削減
- 収量は2019・2020年でむしろ可変区が定量区を上回る(102.7〜101.4%)
- 子実タンパク含量は3年間すべて品質基準値(9.7〜11.3%)の範囲内で安定


つまり、肥料を減らしても収量は変わらないということです。


この実証データが示すのは、従来の「圃場全体に均一に肥料を撒く」方法では、生育が良いところに余分な肥料がかかっているということです。肥料代は年々高騰しており、2022年以降の肥料価格は前年比で30〜60%近く上昇した品目もあります。可変施肥による削減効果は、コスト高騰の時代にこそ大きな意味を持ちます。


圃場が30haあると仮定した場合、10a当たりの追肥窒素量を平均2kgN削減できると、年間で60kgNの肥料削減につながります。窒素肥料1kgあたり数百円のコストを考えると、数万円規模の節約になる計算です。


これは使えそうです。


可変施肥マップを作成するためのサービスとしては、クボタの「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」があります。2025年から衛星画像を活用した生育マップ作成機能が追加され、スマートフォンやタブレットで圃場の生育状況を確認しながら、可変施肥マップを自動生成できます。生育マップ作成アプリはKSASのリモセン機能から無料でダウンロードできます。


ホクレンによる衛星可変施肥の実証データ(PDF)はこちらで確認できます。


「衛星データを活用した可変施肥効果の実証」(ホクレン農業総合研究所)


衛星リモートセンシング活用例②水稲の食味品質を米タンパク質マップで管理する

米のおいしさを左右する要素の一つがタンパク質含量です。タンパク質が多すぎると米が硬くなり食味が落ちる一方、少なすぎると軟らかすぎて品質評価が下がります。日本めん用小麦の品質基準値と同様に、米のタンパク質にも適正範囲があり、精密な管理が求められます。


実は衛星リモートセンシングで米のタンパク質含量を圃場単位でマップ化できます。稲の葉のクロロフィル(葉緑素)含量はタンパク質含量と強い相関関係にあり、植生指数GNDVIを使って推定できるからです。この手法は今から20年以上前に北海道で生まれ、現在は全国各地で実用化されています。


青森県では2010年から衛星リモートセンシングのGNDVIを用いたタンパク質含量マップを使用しています。このマップによって、どの圃場・どの区画の米が品質基準をクリアしているかを収穫前に把握でき、精米・出荷先の仕分けや、翌年の施肥計画への反映が可能です。


タンパク質が品質基準を超えた米は等級が下がり、市場での買取価格が低下します。衛星データで品質を事前に把握しておくことで、高品質米として出荷できるロットを確保し、収益の安定化につながります。


品質が条件です。


北海道道東地域では、秋まき小麦の植生指数の変化から最適な収穫時期を決定するシステムが稼働しています。収穫の遅れは乾燥施設への依存を高め、乾燥コストが増大します。植生指数が示す成熟のピークを捉えることで、乾燥コストの低減にもつながっています。


JAめむろと農研機構が共同で開発した収穫時期支援システムの詳細は以下で紹介されています。


「日本における農業リモートセンシング研究の軌跡」(J-Stage:日本リモートセンシング学会誌)


衛星リモートセンシング活用例③転作確認業務を衛星で効率化した南相馬市の実証

転作確認とは、水田で主食用米以外の作物(大豆・麦・野菜など)を栽培した農家に国が補助金を支給するために行う現地確認業務です。50年以上の間、この確認は担当者が実際に圃場を回って目視で行うアナログな作業でした。結論は、この業務が衛星データで大きく変わっています。


福島県南相馬市では、約300人を動員して毎年夏の猛暑の中で転作確認を実施してきました。職員や農業関係者が市内の水田を車で回り、1人あたり200ha前後を3日間かけて確認するという過酷な作業です。70〜80代のシルバー人材センタースタッフも動員されており、熱中症リスクも深刻な課題でした。


衛星データ活用企業「LAND INSIGHT」と協力して実証に取り組んだ結果、以下の成果が得られました。


- 現地確認作業を約 30%削減
- コストを 15%強削減
- 3万圃場の過去3年分のデータをAI学習に活用し、作物判別精度を向上


令和6年には国がドローンや人工衛星を使った転作確認を正式に認める通知を発出し、各市町村の農政課予算でリモートセンシングデータを購入できるようになりました。これにより、全国の自治体でも同様の取り組みが加速しています。南相馬市を含む22自治体がこの取り組みに参加しています。


農業従事者にとっての直接的なメリットは「現地確認票」の設置作業の削減です。大規模農家では現地確認票の設置だけで何十時間もかかっていたケースもあります。衛星データを活用したDXが進めば、その時間を農業技術の向上や規模拡大の計画に充てられるようになります。


この転作確認業務のDX事例について詳しく取材されたレポートはこちらです。


「20年変わらなかった転作確認業務を衛星データで変える」(宙畑:宇宙ビジネスメディア)


衛星リモートセンシング活用例④病害虫の早期発見と発生予察マップへの応用

害虫による被害を防ぐためには、発生の早期発見と迅速な対応が不可欠です。衛星リモートセンシングは、肉眼では気づきにくい初期段階の病害・害虫ストレスを植生指数の変化として検出できるという強みを持っています。


植物が病害虫のストレスを受けると、クロロフィル量が低下し、細胞構造が変化します。この変化は「レッドエッジ」と呼ばれる波長域(700〜730nm付近)の反射率に特に明確に現れます。センチネル2はこのレッドエッジバンドを搭載しているため、病害虫被害の可能性がある区画を視覚的に把握できます。


農薬散布のコストと環境負荷を考えると、病害が拡大した後に全面散布するより、発生初期に局所対応する方が経済的です。例えば、稲の紋枯病や葉いもち病は発生が均一ではなく、圃場内の特定エリアから広がるケースが多いため、衛星データで発生箇所を特定してからピンポイントで防除する方法が有効です。


意外ですね。


現実の圃場では1haあたりの農薬散布コストが数千〜数万円になるケースもあります。生育マップを活用して不要な農薬散布を2〜3割削減できれば、規模が大きい農家ほど削減額は大きくなります。


農薬費が条件です。


週1回の頻度でドローンと衛星の組み合わせによる病害虫・生育状況モニタリングを行っているサービス事例も出てきています。農研機構でも衛星画像とAI解析を組み合わせた病害虫発生リスク診断の研究が進んでおり、実用化が近づいています。


農業現場でのリモートセンシングによる病害虫管理の応用事例を含むセンシング技術解説はこちらです。


「衛星とドローンを使ったリモートセンシング技術」(農研機構)


衛星リモートセンシング活用例⑤土壌診断と腐植含量マップで地力を「見える化」

土壌の状態は農作物の収量と品質に直結しますが、広大な農地の土壌を均一に管理することは容易ではありません。衛星リモートセンシングは、この難題に対して「腐植含量マップ」という形で答えを出しています。


腐植とは土壌中の有機物が分解されてできた成分で、保水性・保肥性・土壌構造に深く関わっています。腐植含量が高い土壌は黒みを帯びて見え、衛星の光学センサーが捉える可視光の反射率が低くなります。この反射率の違いを利用して、土壌の腐植含量分布を圃場全体でマップ化できます。この方法は30年以上前から知られており、現在は農業分野で実用化されています。


センチネル2でホクレン訓子府実証農場を観測した実証では、腐植含量マップとEVI2(拡張植生指数)の生育マップを重ね合わせた結果、腐植含量が高い区画ほど生育が良いという明確な相関が確認されました。この相関関係から、腐植含量が低い(茶色い)エリアを特定し、そこに集中して窒素肥料を増量する可変施肥設計が可能になります。圃場全体に均一に撒くのではなく、「必要な場所に必要な分だけ」が原則です。


腐植含量マップは、圃場の地力差を客観的に把握する上で非常に有用なツールです。特に農地を新たに借り受けた際、その圃場の特性を短期間で把握するための手段として活用できます。これまで何年もかけて経験で学んでいた「この田んぼのクセ」を、衛星データで初年度から把握できる可能性があります。


これは使えそうです。


土壌有機物管理の観点から衛星活用に取り組む農業法人は増えています。土壌管理の改善と施肥最適化の両方を目的に、年に数回のタイミングで衛星データを取得し、長期的な土壌変化をトラッキングするケースも出てきています。


衛星リモートセンシング活用例⑥水田の取水管理と作付面積の広域把握に使う方法

水管理は水稲栽培における重要な作業の一つですが、広域の水田の取水状況を効率的に把握するのは難しい課題です。衛星リモートセンシングはこの課題にも解決策を提供しています。


農研機構では、センチネル2の短波長赤外(SWIR)バンドデータを活用した「水田取水開始時期の把握手法」を開発しています。水田に水が張られると、短波長赤外の反射率が大きく変化するため、衛星画像から圃場単位で取水のタイミングを広域にわたって自動的に把握できます。この手法のマニュアルは農研機構ウェブサイトで公開されています。


作付面積の推定でも衛星リモートセンシングは活躍しています。農林水産省では、水稲の作付面積調査に衛星データを活用する取り組みを進めており、従来の現地調査に比べて調査コストと人的負担を大幅に削減できます。特に山間部の農地は現地確認が難しく、衛星観測の価値が高まります。


つまり衛星観測が基本です。


広域の作付状況を把握することは、農協や行政だけでなく、農業法人や大規模農家にとっても意義があります。例えば、地域内の転作状況を把握しながら自分の作付け計画を最適化したり、近隣圃場の作物の生育状況との比較から自分の農地の位置づけを客観的に評価したりすることが可能です。


収穫量調査への衛星データ活用については、北里大学のコラムでわかりやすく解説されています。


「離れて測る『リモートセンシング』が米不足を救う?」(北里大学)


衛星リモートセンシング活用例⑦個人農家でも使えるサービスとスマートフォンアプリ

「衛星データというと大規模な農業法人や行政が使うものでは?」と思っている農家も多いかもしれません。しかし現在、個人農家でもスマートフォンひとつで衛星リモートセンシングのデータを活用できる時代になっています。


代表的なサービスが、クボタの「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」です。2025年3月から衛星画像を活用した生育マップ作成機能が正式提供となり、センチネル2の衛星データをもとに圃場単位の生育状況を可視化できます。スマートフォンのアプリから生育マップを確認し、可変施肥マップを自動生成して対応する農機に送信する、という一連の流れをシステム上で完結させられます。クボタ製農機だけでなく他社製品との連携も可能です。


有機農業分野では、土壌管理や施肥の最適化ニーズが特に高く、衛星データを活用した土壌診断・生育モニタリングへの注目が集まっています。xarvio(ザルビオ)などのプラットフォームもあり、衛星データをもとにした施肥・防除アドバイスを提供しています。福島県の大規模農家では5年前にドローンリモートセンシングで60haを撮影し60万円近いコストがかかっていたところ、衛星データサービスへの移行でコストを大幅に抑えた事例も出てきています。


衛星データを活用したサービスを選ぶ際に押さえておきたいポイントは以下の3点です。


- 📌 対応する衛星と観測頻度:センチネル2(5日に1回)かプラネットスコープ(毎日)かで、生育の変化を捉えるタイミングが変わります
- 📌 解析の自動化レベル:生データを自分で加工するか、分析済みの生育マップ・施肥マップを受け取るだけかを確認しましょう
- 📌 農機との連動性:使用している農機やアプリと連携できるかを事前にチェックすることが重要です


個人農家でも衛星データが活用できる実例を紹介したnoteのコラムはこちらです。


「個人農家でも衛星データが使える時代がキタ!AIで実現した圃場管理」(note)


衛星リモートセンシング活用例⑧収穫適期マップで乾燥コストと収量ロスを同時に減らす

収穫のタイミングは、収量・品質・コストの三つすべてに影響する重要な判断です。早すぎると未熟粒が増えて品質が下がり、遅すぎると胴割れや発芽が起こり、乾燥コストも増大します。衛星リモートセンシングは、この「最適な収穫タイミング」を圃場ごとに精密に予測する「収穫適期マップ」の作成に活用されています。


北海道道東地域の取り組みが代表的です。秋まき小麦の植生指数(EVI2)の時系列変化をモニタリングし、NDVI・EVI2が収穫成熟期を示すパターンになった圃場から順に収穫機械を優先投入するシステムです。JA方式では複数の農家が共同利用する収穫コンバインの稼働効率が課題でしたが、衛星データで各圃場の熟度を客観的に把握することで、乾燥施設への依存を減らしコスト削減につなげています。


稲作における収穫適期マップについては、岩手県スマート農業事例集でも具体的な活用事例が紹介されています。RESTECが提供する「水稲生育広域モニタリング」サービスを活用することで、収穫期・収量予測を実現した農業法人の事例が報告されています。


収穫タイミングの1日のズレが収量や食味に影響するのは、農業経験者なら体感している事実です。しかし広大な農地を毎日見回ることは、人手不足の時代に難しくなっています。衛星リモートセンシングによる収穫適期マップは、その「見回り」の代替手段として機能します。


結論は省力化と品質向上の両立です。


農林水産省スマート農業技術カタログでは、各種収穫支援サービスの詳細が確認できます。


スマート農業技術カタログ(水稲・畑作)(農林水産省)


衛星リモートセンシング活用例で押さえておくべき独自視点:カーボンクレジットとの連携という新たな収益源

ここからは、あまり知られていない衛星リモートセンシングの農業活用の最前線を紹介します。農業従事者が衛星データを活用することで、「カーボンクレジット」という新たな収益源を生み出せる可能性が出てきています。


カーボンクレジットとは、農地での土壌炭素の蓄積量や温室効果ガスの削減量を数値化し、それを市場で売買する仕組みです。農地は有機物管理や不耕起栽培などによって、CO₂を長期間土壌に固定できます。衛星リモートセンシングと土壌データを組み合わせることで、農地の炭素蓄積量を広域・継続的にモニタリングし、クレジットの定量化に使えます。


JICAが調査したペルーでの衛星スマート農業プロジェクト報告書によると、衛星データと土壌測定を組み合わせて農地の炭素蓄積を可視化・定量化し、農家がカーボンクレジットを生成・取引できるプラットフォームの開発が進んでいます。日本国内でも農林水産省が「農業J-クレジット」制度を整備しており、今後は衛星データによる炭素蓄積モニタリングとの連携が強化されると見込まれています。


農業従事者にとってのメリットは明確です。「農薬・肥料の削減→環境負荷低減→削減量のクレジット化→市場での売却」という流れで、生産コスト削減と収益創出を同時に実現できます。


これはいいことですね。


衛星データによる炭素モニタリングの精度は年々向上しており、現在は10〜30haクラスの中規模農地でもクレジット生成に対応できるサービスが登場し始めています。衛星リモートセンシングを生育管理だけでなく環境価値創出のツールとして活用する視点は、今後の農業経営において重要な選択肢となるでしょう。


農地の炭素クレジット化と衛星データ活用の最新動向はこちらで確認できます。


「農林水産分野における衛星リモートセンシング技術の活用状況」(内閣府 宇宙開発戦略推進事務局)


衛星リモートセンシング活用例を始めるための費用と補助金の実際

「衛星リモートセンシングを農業に活用したいが、費用がかかるのでは」という疑問は多くの農業従事者が持っています。実際のコスト感と、活用可能な補助金について整理します。


まず、センチネル2の衛星データそのものは無料で取得できます。ただし生データを自分で解析する技術が必要になるため、個人農家がすぐに活用するのはハードルがあります。その点で、すでに解析済みのサービスを利用することが現実的な選択肢です。


主なコスト感の目安は以下のとおりです。


- 🛰️ 衛星データ閲覧・生育マップサービス:月額数千円〜数万円程度のサブスクリプション型が多い
- 📊 可変施肥マップ付きサービス:年間契約で10a当たり数百円〜数千円が一般的
- 🚜 農機との連動システム:KSAS等の農機メーカー系は農機購入と合わせた価格設定


スマート農業に関する補助金としては、農林水産省の「強い農業づくり総合支援交付金」や「農業支援サービス事業育成対策」が活用できます。2024年度以降は農業支援サービス事業の緊急拡大支援策として、衛星データを活用した生育管理サービスが補助対象に含まれるケースが増えています。


補助金には期限があります。


補助金の活用を検討するにあたっては、地域の農業改良普及センターや農協の担当者に相談することが最短の近道です。農業従事者向けの補助金情報は農林水産省のウェブサイトで最新情報を定期的に確認することが重要です。


スマート農業補助金の種類と申請方法を詳しく解説したページはこちらです。


「スマート農業補助金の対象と申請方法」(赤坂テック ブログ)


衛星リモートセンシング活用例の今後の展望と農業従事者が今すぐできること

衛星リモートセンシングの農業活用は、技術面・コスト面・制度面のすべてで急速に整備が進んでいます。農業従事者が今後どのように向き合えばよいかをまとめます。


技術面では、衛星コンステレーションの拡充により観測頻度が飛躍的に向上しています。プラネットスコープは現在100機以上の衛星で毎日地球を観測しており、天候に左右されにくい合成開口レーダー(SAR)衛星の活用も広がっています。AI・機械学習との組み合わせにより、生育診断・病害虫予測・収穫時期判定の自動化精度は年々向上しています。


制度面では、令和6年に農林水産省が転作確認へのリモートセンシング活用を正式に認め、農政課の予算でリモートセンシングデータを購入できる制度が整いました。農地利用状況調査(農地法第30条)への衛星データ活用も検討が進んでいます。


制度整備が基本です。


農業従事者が今すぐできることは3つあります。


- ✅ センチネル2の無料データで自分の圃場を確認する:ESA提供のCopernicus Browserや農研機構のガイドを参考に、自分の圃場のNDVI値を実際に見てみることからスタートできます
- ✅ KSAS等の農機メーカー系サービスを試してみる:既存の農機と連携できるサービスであれば、新たな機器投資なしに始められる場合があります
- ✅ 地域の農業改良普及センターで情報を取得する:各都道府県の農業改良普及センターでは、スマート農業・衛星データ活用の相談窓口や実証事例の情報提供を行っています


農業従事者向けにリモートセンシングの実践的な学習コンテンツを提供するプラットフォームも登場しています。自分の圃場規模・作物に合わせた最適な活用方法を見つけることが、まず第一歩です。


スマート農業・衛星リモートセンシングの技術動向と実践事例については、農研機構が公開するリソースが最も体系的にまとまっています。


「スマート農業技術導入手引き書」(農研機構)




農業と環境調査のためのリモートセンシング・GIS・GPS活用ガイド